Fate/promotion【完結】   作:ノイラーテム

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運命の五月雨編
敗北からの脱却


 士郎を連れ去られた一同は、足取り重くノロノロと柳堂寺の境内から離れる。

 そして山中の一角、直接的に狙えない位置まで移動した。

 だが、そこで彼らの動きは止まる。思い思いの場所に座り込み、一様に項垂れて居るではないか。。

「あいつら何やってんの? 時間も無いのにへたり込んじゃって」

 遠坂・凛は首を傾げると言うよりは、怒りに震えたように一同を眺めて、右往左往。

 ハデスの隠れ兜を紐状化しているので姿は見えないが、まるで箒で掃き掃除をしているかのようだった。

 

「凛が考えている以上に、衛宮士郎という男は彼らの支柱だったようだね」

 ギルガメッシュはクスクスと笑いながら、肩をすくめた。

 姿こそ無邪気そうな子供であるが、彼がその辺の子供であるはずもない。

「バラバラな目的を束ねる…。君達の国では『(かすがい)』とか言ったっけ? ソレが無くなれば…ね」

 その目は冷徹な観察者の者だ。

 事態の急変にもかかわらず、変わることなく世界を見据えて居る。

 

「だったら取り戻す相談でもするのが当然でしょうに。黙っていては戦力の確認も出来ないわよ。そりゃチャンスがゼロっていうなら判らなくもないけど」

 凛は胡散臭い物を見る目でギルガメッシュを眺めた。

 彼が落ち付いて居るのは当然だろう。

 召喚によって招かれた客人だから…という意味ではない。

 

 こうなることを未来予知に近い予想を立てて居た様だし、最初から最後まで、口を挟む気が無いのだ。

 何故ならば、彼こそが裁定者であり断罪者。

 世界のありようを良しとして放置するか、あるいは不要として処分するか眺めて居るのだ。

 もし呆けている一同が本当に諦めるなら、皆殺しにして、世界を救うなり滅ぼすなりやってしまうだろう。

 

「そう思うなら君が忠告に行けば良いと思うけどね」

 ギルガメッシュの方は、にこやかに笑うのだが…。

 不機嫌な顔を一変させ、凛はめっさ良い笑顔を浮かべた。

「冗談っ! なんで私が頼まれても無いのに苦労しないと行けないわけ? 頭を下げて相応の礼を約束するなら仕方無い、報酬の範囲でなんとかしてあげても良いけどね」

 彼女はギルガメッシュの行動や話を知ることで、本来は知るはずの無い事を知ってしまっている。

 昔から言うではないか、『答えを知る者は、回答者である資格が無い』と。

 あの場に凛が居て即座に行動を決めたならばともかく、今からやったら…間違いなく一緒に処分する気だろう。

 

 召喚時にギルガメッシュが若返って適当に戦おうとした時。

 彼の負担の半分を強引に引き受けることで、常には無いことながら一時のパートナーとして認め、少なからぬ恩恵を与えている。

 だが、それは無条件に凛を許容する事には成らない。

 少なくとも、ギルガメッシュが自制している事の半分もやってみせねば許さないだろう。

 その意味で凛は、半分ほど裁定者の側に組み込まれたと言っても良い。

 

 そして、イライラしながら凛が見つめて居た時…。

 滅びに向かうはずだった世界が、一歩だけ動いた。

 そう、同じ様な思いをする人物が、ここにはもう一人だけ居たのだ。

 

 

「いい加減にしなさい!」

 激しい叱責が沈黙を切り割いた。

 声も無く顔を上げる一同に、続けざまに怒声を浴びせる。

「貴女たちはいつまでそうやっているつもりですか!?」

「バセット…フラガ…マクミレッツ」

「封印指定の…」

 真っ先に反応したのは、追われる立場のオルガマリーだ。

 治癒を施したのがバセット達だと判っていても、任務に忠実な彼女の性格を知れば知るほど、怯えてしまう。

 

「このままランサーに託された未来を、キャスターから勝ち取った未来を。座して放棄する気なのですか!」

 どこかで監視していたのか、それともアインツベルンのイリヤ達が同行していることで想像したのか?

 今までの経緯を踏まえて説得して来るが、だからと言って納得出来る訳でも無い。

 むしろ、聖杯戦争が生き残りを賭けたサバイバルだからと言って、平然と共闘を納得し、わだかまりを捨てれる士郎やクーフーリンの方が異常なのである。

 

「敵陣営だったあんたが言うなよ! それに、どうしろって言うんだよ! あのバーサーカーだって、あっけなくやられちゃったんだぞ!」

 先ほどまでは追っている立場であったし、追われる者が即座に信用出来るはずもないだろう。

 ゆえに言葉を返したのは最も自己主張の強い間桐・慎二であった。

 一同が苦戦したサーヴァントをあっけなく屠る相手である、諦めそうになるのも当然ではないか。

「あのアーサー王が敵なんだぞアーサー王が!」

「……っ」

 慎二の叫びにモードレッドが僅かに反応するが、暗い顔のままだ。

 普段の彼女を知る者ならば信じられないだろう。

 いや、伝説を良く知る者であれば、反乱を起こして破れたモードレッドが、立つ瀬ないという事には同意したかもしれない。

 

「足りなければ他所から持ってくるのが魔術師でしょう! 対抗手段の一つや二つ、状況から導き出して考え付いて見せなさい!」

 バセットは重傷だなと思いつつも、対処法の話題になったことで安堵する。

 こう言ってはなんだが、メンタルな面よりも、タクテクスの方が得意分野だからだ。

 自分よりも強いクーフーリンと出逢い、自分よりも弱いアトラムに敗北してから、色々と学びはしたが…。

 一朝一夕に、過去の自分を変えられるはずもない。

「対城宝具を豊富な魔力で運用する。…確かに恐ろしい相手ですが、知っていればどうという事はありません。容易くバーサーカーを倒せたのは、アーサー王もまた対策を立てていたからでしょう」

「言うだけなら簡単だけどな…」

 なおも抗弁しようとする慎二にバセットは思いついた対策を口にした。

 所詮は練りもしてない案だ、穴を突くのは簡単だろう。

 

 だが、一理ある考えを示されたことで、ほのかに希望が見受けられた。

 何しろ今までは考えそのものを放棄していたのだ。

 一歩でも前進すれば、そこから活路を見出す事が出来るかもしれない。

「独りで勝てねば複数で、力で押せなければ智恵で引いてみる。それが魔術師というものではありませんか」

「判っちゃ居ない…。アーサー王の恐ろしさを何も判っちゃ居ない…」

 必死で説得しようとするバセットを、自信過剰なはずのモードレッドが力なく否定した。

 もしかしたら勝てるかもしれないと言う希望を、仲間である彼女自らが否定したのだ。

 

「ある時、勝てないと判った軍勢が迫った時。王は躊躇なく村を干上がらせ、トリ野郎は『王は人の心が判らない』と言い後に野に下った。だが、結果としてみれば、それが最良の策だった」

 何かを思い出すようにモードレッドは過去の光景を語った。

 それは伝説の中で詠われた一幕だ。

 容赦ない策であるが、それゆえに実効性がある。

 そして相手の初動から、どこにその策を施せば良いのか、結果を見抜いていたということだ。

「遠征に際して留守居役…いや、宰相と呼べるほどに政務と剣技を高め、周囲を唆して勝てるだけの軍勢を整えた。だが結果として相討ちにまで持ち込まれた。半端な策で勝てる相手じゃないんだ!」

 それほどの相手が、世界を滅ぼす為に聖杯を奪おうと言うのだ。

 いや、小聖杯であれば既に奪って、儀式の準備に入っているはずだ。

 先手を取られ、目下のところ、取られっ放しである。これでどうやって勝てと言うのだろうか?

 

 流石に押し黙るしかないバセットだが、意外なことに、異を唱えたのは慎二である。

「なあ、もう一回挑んでみないか? もしかしたら、やりようがあるかもしれないからさ」

「ハア!? 何聞いてたんだよマスター! まともにやっても勝てないって言っただろ!」

 慎二は不機嫌な顔をしたまま溜息をつき、激昂して顔を赤らめるモードレッドの顔を見詰めた。

 自信過剰の彼女が、こうも落ち込んで居るのは…おそらくは、円卓の騎士として補欠扱いされたせいだろう。

 それだけが彼女に残った唯一の誇りであり、それを傷付けられればこうもなろう。

 いや、それだけに言葉の一撃は、的確に急所を抉っていると言える。

 

「だってさ、あいつお前の事を弱いなんて言いやがったんだぜ? 僕が契約したサーヴァントが最強でないはずがないだろ? 見返してやりたいとは思わないのか?」

「…ぐっ」

 だから地雷を真正面から踏み抜くことにした。

 どうせ説得できなければ死ぬだけだ、ならば激昂して斬りかかられようとしったことか!

 急所に刺さった棘を引き抜いて、舐めるどころか唐辛子を塗り込んでやらなければ意味もあるまい。

「さっきの話だけど、僕がその場に居たらもっと上手く切り抜けるね。確か騎士は予備の馬を連れて行くんだろ? それで財産の一つも運んでやって、無理な奴には財宝で顔をひっぱたけば良いじゃん」

「無茶を言うなよ…。騎士にそんな事を言ったら決闘を挑まれても仕方無いぞ? …まあ言いたいことは判ったけどな」

 できもしない話だ。

 騎士は戦闘を継続する為に、あるいは機動力を活かした戦術で、相手の歩兵を無力化せねばならない。

 騎士の誇りを奪って、それを民衆を助けるなど愚の骨頂。ましてブリテンの財政に余裕などあるはずもない。

 

 …もしその案を検討して、前後策を練って居たらどうだろう?

 却下は間違いないが、参加する騎士の心理は随分と違った物になっていたはずだ。

 あるいは却下する事で、新たな不満が出る事もあるし、協力を申し出る者同士で、交流が生まれる事もあるだろう。

「ようするにオレ達は、正し過ぎる王の神託に頼りっぱなしだった。お互いに判り合う事も、真の意味で協力うことも無かった。そりゃ円卓も割れるよな」

 我の強い者同士が喧嘩し合い、牽制し合うばかりでお互いを理解しなかった。

 勿論、譲り合った挙げ句に、中途半端な国が出来上がった可能性も多いだろう。

 だが本当に判り合うことを諦めていたから、その成果を得る事も出来なかったのだ。

 

 そして解決ですらない議論は、意味こそなかったが、気分を変えることには成功した。

 先ほど慎二がバセットの案で意識を変えたように、沈みこんだモードレッドの心を切り替えさせた。

 もしアルトリアとしっかり話し合って居れば別の可能性が…とようやく思う事が出来たのだ。

 

「でも、本当にシロウを取り戻せるの? 貴女より強い…こう言っては悪いけど、上位互換と言える相手よ?」

「それを言われちゃ立つ瀬はねえな。だがよ、誰かさんも言ったがやり方次第さ。それに…騎士王が全力を出せてるとは限らねえ」

「全力じゃない?」

 イリヤが見抜いたパラメーターを幻覚で表示するが、モードレッドは苦笑して頷いた。

 あれほどまでの強さで、全力で無いとはとうてい信じられない。

 

「サーヴァントとして召喚されたからか、汚染されたからかは判らねえ。だがエクスカリバーの絞りが随分と甘かった。大将さえ討ちとれるなら、雑魚なんかほっときゃいいんだ」

 気力を取り戻したモードレッドは、頭脳をフル回転させる。

 自分が知っている騎士王と、今の卑王を比べて勝機を見出す為に思考を巡らせた。

「カン処が鈍ってるのと、魔力の操作。あとは令呪。…受肉してマスターが居ないのか、居るけど同意させるのに使ってるはずだ。でなきゃ騎士王があんなに汚れている訳がない」

「なるほど。主人替えや、卑劣な手段を許容させているってことか」

 モードレッドはアーサー王らしくない行動に、令呪の存在…または中途半端な受肉による汚染の悪化を理由として見出した。

 だとしたら納得できるというだけだが、アーサー王に良く似た別の英霊と化しているのならば、対処する方としても気分が楽だ。

 

「ねえ、貴女の持ってるクラレントを握って、拒絶されてたわよね? ということは、聖剣とかも全力出せて無いんじゃない?」

「そうかもな。前はもっと威力があったが、魔力の通りが悪かった。抜いてる間に掛る能力が使えなかったんだけど、それが今では逆だし…」

 現金なもので、自分が狙われない、そして勝ち目があると判ったらオルガマリーも会話に参加してきた。

 その様子に苦笑しつつもモードレッドは頷いて魔剣の能力と、経過を説明した。

「この剣は元々、人の絆を力に替える儀礼剣なんだ。託された思いを束ねる剣ってやつ。エクスカリバーは人が夢見た願いの結晶とか言ってたけど」

 今の騎士王は神造兵装である聖剣を託されるに相応しくないのかもしれない。

 だから、かつてのモードレッドがそうであったように、剣の全力が引き出せず、魔力の絞りや効率が悪いのだろう。

 

「もちろん高範囲に撃つならメリットにもなるけど、正面から打撃戦を行うならばデメリットと言えるわよね。セイバーみたいだし、魔力で遠距離戦なんか挑む意味は無いから…」

「そういうこったな。最初から消耗戦を挑めば良いって寸法だ」

「キャスターにトドメ刺す時に令呪を使っちゃったけど、逆に奇襲として使えるんじゃないか? 一回残すってセオリーを無視すれば…」

 話しているうちに、気分だけではなく、光明が見えて来た様な気がする。

 諦めて話しもしなかった時には、カケラも無かった希望だ。

 無論、検討すれば穴はあるだろう。だが、今までには無かった希望が、ここに生まれた。

 

「はっ! 令呪を全部使い切るとはオレも信用されたもんだな。ならオレも聖杯が要らねえ。アーチャー達に譲るって事で共闘を持ちかけるのも良いかもな」

「いいなソレ。ギルガメッシュほどの大英雄ならアーサー王にも引けを取らないどころか、得意分野では圧倒してるはずだろ」

 モードレッドと慎二が聖杯を諦めたことで、逆に希望が出て来た。

 これで押し切ることが出来る可能性が発生し、加えて共闘の目も出て来る。聖杯ほどの報酬で有れば頷く可能性は高い。

 

「どうやら形になってきたようですね。…でしたら、私にも提供出来る物があります」

「いずれにせよ、どこかに潜伏してるはずだから、見付けなきゃだめだけどね」

「さっき見かけたけど…。探し出すのが大変よね。色んな宝具持ってるみたいだから、一苦労…」

 バセットは取っておいた切り札の提供を申し出、オルガマリーとイリヤは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

 さっきまで啼いて居たカラスが、もう笑ったと言うほかない。

 

 そして…。

 一同の様子を見て居たアーチャー陣営が合流し、最終決戦を挑む事と成る。

 ただし、ギルガメッシュ抜きで卑王に勝利すれば、報酬として聖杯の暴走を抑えるという裁定が下ったのであるが…。




と言う訳で後編、『運命の五月雨編』の始まりです。
今回で失意から醒め、何とかできる可能性があることを確認。ギルガメッシュを倒す必要が無いと理解した処で終了。
我様は我様なので、味方する事無く裁定を下すだけです。
卑王を討ち取れえば、幸せなエヌマ・エリシュをして終了。出来なければ人類にエヌマ・エリシュがブッパされる感じ。

 士郎? 彼ならイリヤの変わりにヒロインしてますね。
次回の最初に全ての陣営が揃い、士郎の状態が確認され、何をする必要があるか具体的に把握する感じです。
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