「相手の布陣が、スパルトイにコピーした円卓ってルールなら手が読めて来るな」
「そうね。真正面に一番強い個体にコピーしたガウェイン卿を置くでしょうし、他も大体想像が付くわ」
「どうして? 円卓最強の騎士はランスロットなんだから、その方が効率良くない?」
慎二と凛が頷き合った時、イリヤは唇に指を当てて考え込んだ。
技量や戦闘力のバランスはランスロットが最も高い。
憑依に近い投影だから裏切る可能性もあるかもしれない、その意味でも最短ルートに配置して遣い潰すのが適切だろう。
「普通ならそうなんだけどね。今回は儀式が終わるまでの時間稼ぎが重要なの」
「ランスロットの技をコピーすれば確かに強くはなるだろうけど、ベースがスパルトイじゃ、数や宝具で力押しされると不安が残るからな」
「あ…。どっちみち夜に成ると英雄王が出て来るものね」
その点に置いて、昼間の間は三倍の能力を持つと言うガウェインは最適だった。
皮肉にも時間稼ぎに寄って倒されたガウェインが、時間稼ぎに使われるわけだ。
逆にランスロットを強い個体にコピーした場合は、対城宝具や大魔術などの力押しで倒せる可能性も出るので中途半端なのかもしれない。
そして彼を最強の駒として置く以上は、最も早く大聖杯に辿りつける正面ルートの陽があたる場所だろう。
誰も来なければ地表部を掃討に向かわせるのが良いが、接戦ならば能力の劣化を気にせず大聖杯への援軍というのも良い。
そういう意味では…。
「向こうに居るかもしれない強くなったスパルトイって、後はスナイパーと、居ても軍師だったわね?」
「まあ軍師の方は、指示出来るくらいに頭が回り始めたってのが正しいけどな」
「なら軍師は普通に後方で、スナイパーは山の上だな。定番だけど余計な事するよりは時間が確保できる」
凛が確認すると獅子劫が頷き、慎二はや円蔵山の地図を描く。
そして大聖杯の手前・入口・山頂へとV字を刻みつけた。
軍師役が手元の戦力派遣を睨みつつ、こちらの動き次第で表側に指示。
ガウェイン役に見立てたスパルトイを正面に、スナイパーを高台に置いて援護射撃を各方面に行う算段だろう。
「モードレッド、相手のメンバーは読める?」
「そうだなー。スナイパーはトリ野郎で決まりだな。あいつは音を矢として撃ち込める」
「トリスタン卿か…。軍師がペリノア王かケイ卿かは置いといて、大体把握出来て来たな」
苦笑しながら相手の布陣を地面に書きこんで行く。
モードレッドは後発の騎士である為、全盛時代を全て知っている訳ではないが、まあ十分だろう。
「でも劣化するとはいえ、円卓の騎士をコピーするのってズルイわ。サーヴァントを増やせるようなもんじゃない」
「いや。円卓時代に予備戦力を投入する戦術は無ってのが大きいと思う。技術ってのは後の時代の方が洗練されてるんだ」
「向こうは籠城してる有利さがあるけど、こっちは後番でどう攻めても良いってのが助かるわよね」
イリヤがズルイと苦笑すると、慎二と凛は何とかなるだろうと知識の差をありがたく感じた。
現に敵の大半は山の表側に居り、持久戦の構えを見せている。
だが、向こうに積極性があるならば、こちらが分散した所を打って出る事も出来るはずなのだ。
やはり元がスパルトイでは限界がある為、籠城して結界を活かすしかないことと古い時代の知識に縛られているのが大きい。
「じゃあ陽のあたる側からガウェイン役を迂回するように結界のコアへ向かうと見せて、陰から隠れて精鋭を送り込みましょ。悪いけど、あんた達は囮ね」
「まーなんとかなるだろうよ。トリ野郎を黙らせておかないと後がうるさいしな」
凛とギルガメッシュを中心に、隠れて数名が陰を伝って。
その間にモードレッド・慎二・イリヤを含む大半が、陽のあたる側の数名を担当する構えだ。
実際にはガウェイン役には向かう可能性を見せるだけで、援護に回ると面倒なトリスタン役を潰すのがこちらの役目だろうか?
「いえ、それならば私が一人で潰してきます。あなた達は通路を塞ぐメンバーをお願いします」
「ちょっとバセット大丈夫なの? 幾ら封印指定の実行者とはいえ…」
この脳筋女、少しは考えなさいよと凛が忠告すると、判っていたように首を振った。
彼女とて、身動きできない間に少しは学んだのである。
「思考が固定されていると言ったのはあなた達ですよ。傷など我慢すれば耐えられます。ならば、膠着した状態を破るのに必ず宝具を使用して来るでしょう」
「ああ、君の一族は神代の業を現代まで伝えたんだっけ。怖い怖い」
「ふう…。そういうことなら、コレを持って行って。防御魔術が使えるから、向こう計算を調整できるはずよ」
バセットがフラガラックを仄めかすと、原典を所持しているであろう子ギルが妖しく笑った。
どんな宝具・大魔術か知らないが、なんとか出来るのだろうと判断して、凛は十年級の宝石を渡す。
宝石魔術はインスタントとして使うと、傾向が固定されてしまうが、インスタント礼装としては破格の強さを持つのが特徴だ。
おそらくは、かなりの強度でバセットの体を保護してくれるだろう。
「感謝します。これでトリスタン卿の役をこなすスパルトイは確実に潰せるでしょう。他を何とか出来ますよね?」
「あったりまえだろ! そこまでされちゃ、二体や三体は潰して見せねえとな」
「表にそんなに居ますかね? ガウェイン卿やランスロット卿も混ぜないと厳しそうですけど」
「桜、せっかくモードレッドがやる気に成ってるんだし脅かすなよ。偽者くらい、きっと全部退治してくれるさ」
そんな風に笑い合い、他愛なく緊張を解すと一同は作戦を実行に移した。
だが、目論見と言うのはあっけなく潰える場合もある。
世の中にはフラグという言葉もあるが、過剰と思える戦力を山の表側に置いて居たのだ。
ある種、時間稼ぎに全力を置いた形であったかもしれないし、我先に行動するの円卓のマイナス面が、運悪くプラス面に成ってしまたという事かも知れない。
『この戦いはどちらに取っても、生き伸びる為の戦いである』
「炎と…巨人!? これってケイ卿を表に置いてた訳ね。ちょっとした誤算だわ」
陰を隠れて進んで居た凛は、いきなり炎による強襲を受けた。
それを防いだと思ったら、山の上から巨大な腕が迫って来る。
「まったく、生きる為って判ってるなら、手加減くらいして欲しいものね」
『なら…ちょっとくらいやる気を示してみせたまえよ』
凛は隠行がバレて居たことで焦りつつも、後方にサインを出して戦力を隠す事に専念した。
ここで精鋭が来ていると判っては、こちらに援軍を出されてしまう。
仕方無くケイ役のスパルトイが放つ軽口相手に愚痴をこぼしながら、どこで逆転してやろうかと、相手の手の内を調べつつ、陽の当たる側の戦況変化を待った。
『共に戦うのも、相手するのも勇者たち。なんと心躍ることだろうか』
『だが善良なる者を相手する事になる。なんと悲しい事でしょうか』
音の刃が地面を切り裂き、掃射攻撃の隙をついて、スパルトイ達が切りかかって来た。
それを銀の刃でモードレッドが、ハルバードでリズがかろうじて防いだ。
『あなた達が強大であることを望みます。おそらくは…』
「良い子ちゃんがいつまでも、うるせーんだよ! ちっ! 連中はバラけてるんじゃねえのかよったくよー!」
『そんな理屈に従う必要はあるまい? だが勇士との戦いか…これが一騎討ちではないのが残念だな』
モードレッドは笑いながら、銀剣とプリトヴェンをクロスする。
そして一気に魔力を炸裂させると、駒の様に回転して迫るスパルトイを引きはがしに掛った。
竜巻きのような蒼き旋風が、たちまちのうちに二体を撃破するが、反撃を食らって少なくない怪我を負ってしまう。
咄嗟に防御幕でも張ったのか、思ったよりも自傷は少ないが…。
「こら、そんなの自爆だろ! まともに戦えないのか!」
「まともに戦ってたら押されるだけだろ! あと悪い、オレはちょっと私心に走るわ」
「待って、待ってってば!? ここで貴女に抜けられたら、計算狂っちゃうじゃない!」
慎二が自制を求めるが、狂乱するかのようにモードレッドは走り出た。
かろうじて支えている戦線で、前衛が一人減れば大惨事だ。
オルガマリーの悲鳴が聞こえたが、それすら置いてひた走る。
「ガァレェェース! 引導を渡してやるよ。てめえは眠ってな!」
『ああ、待って居ました。王をよろしく…』
解放できる最大の魔力を、全て疾走に費やす特攻ぎみのチャージアタック。
それは相手の防御すら振り切り、モードレッドは友人の魂を宿すスパルトイを粉砕した。
だが、それは体勢を崩す事、戦線を崩すことに他ならない。
『あれほど私欲で戦うなと…。だが、これは鮮やかな私欲だ。悪くない』
「けっ。言ってろ…しかし、無茶し過ぎたな…」
満を持してトドメを刺す為に、一体のスパルトイが迫って来る。
自滅と言えるほどの突撃で、計算を上回って次々に撃破して来たモードレッドも、流石に防御が追いつかない。
これまでか? 何と無謀だったと思った時の事だ。
「勘弁してくれよ王様。あれだけのサインで全員が判るわけじゃ無いだろうよ」
「ははっ、一人でも気が付きゃ良いんだよ。それに誰かさんも言ってたろ? オレは囮だって」
ピンチを救ったのは、獅子劫の放った魔弾の一種だ。
剣を竜の義手で反らしつつ、至近距離から弾丸をぶち込むガンフー・アクション。
倒せこそしなかったが、攻撃を中断させるには、十分であった。
ひやりとしつつも何とか間に合った彼に対し、慎二は少しだけ悔しそうだった。
「そんな事…。ボクにだって判ってたさ…。咄嗟に動けなかっただけで」
マスターとして絆を結んでいたから会話だけは合わせられたが、フォローになる一撃を与えられる手段を持ってなかったのが、たまらなく悔しい。
モードレッドが無謀な突撃の割りに傷が少ないのも、慎二の治癒ではなく、凛の宝石をこちらで使ったからだ。
勿論、せっかくの十年宝石をそこで使えば、どこかにしわ寄せがやって来る。
『やれやれ、こちらはあっという間に半減ですか。制限されているからとはいえ情けない。せめて貴女だけでも…』
「この程度の…攻撃では…倒されるわけには行きませんね」
バセットは音の太刀を、拳に刻んだルーンで撃墜して行く。
そして少しずつ、歩みを進めるのだが、徐々に勝手が違って来た。
次第に反射攻撃が増え、パリィしきれないモノが出て来たのだ。流石に円卓の騎士相手に有利に戦えると言うのは無理が過ぎたのだろう。
『ふっ。音の太刀が放てるからと言って、全てをそうする必要も無く。モードレッドに聞いて居たのでしょうが、仇に成った様ですね』
「そうとも言えません。コレの対処を考えておくのは私の役目。暗殺まがいの相手と想像しなかっただけです」
バセットは挑発しつつ次に来るであろう音波攻撃を待った。
おそらく宝具の発動をする前に、もう一手か二手踏まえるはずだ。
音の反射を使って来る以上、その次は音波をゆっくり、波のように当てて来る…。
封印指定実行者としての経験が、バセットにその兆候を理解させた。
『音に本来、一定の形などありません。御理解下さい』
「っ! 薙げ、そして凪を生み出せ!」
重低音のサラウンドが鳴り響いた瞬間、それに紛れて人には聞こえないレベルの高音が生み出される。
バセットはその来襲を予測しているがゆえに、大岩を殴りつけて死なない程度に相殺しに掛った。
だが、そこまでの攻防はトリスタンの予測範囲でもある。
煙幕と化した土煙と爆音の中で、ゆっくりと死に向かう七音を奏で始めた。
『痛みを歌い嘆きを奏でる。これが私の矢です…
人に死を与える七音オクターバー。
次々に放ったあと、収束させて生命を撃ちぬく為に解き放たれる。
「ソレを待って居ました。
いかなる攻防かをバセットは考慮しない。
ただ切り札たる宝具を待っていたのだ。
十年宝石が無いと、宝具無しの持久戦で来られると危険だっただけ。
ゆえに、モードレッドの無謀な突撃を支える為に宝石を使ってしまっても、問題は無かったのだ。
「どうやら向こうは決着付いて一度引くみたいだけど、どうする凛?」
「大体手の内は読めたし、こっちも片付けるわ」
せかす子ギルは特に何もしようとしておらず、凛は苦笑を浮かべると走り出した。
何故、ケイ卿役のスパルトイは山の陰を守っていたのか?
何故、炎と巨人の手は同時に来ないのか?
それは…。
『おや? 読んだみたいだね? じゃあ、答え合わせだ』
「そりゃ、これだけヒントを貰えばね! ブロッケンの魔女なんて、今の時代じゃ古臭いのよ!」
暗闇の中に浮かび上がる炎は、陰の中に影を生み出すモノだ。
影法師が延びて巨大化したように見え、影の中に隠された魔剣を覆い隠す。
凛が放った宝石は、数カ月から数年ほどの小さな物ではあるけれど、力に力で対抗しない以上はソレで十分であった。
『ぬ、影が逆方向に…』
「影に仕込んでるのが災いしたわね。大盤振る舞い…釣る瓶打ちよ!」
小さな宝石群を無数に浮かべ、凛は一気に解き放った。
五種類の属性を現す宝石たちは、それぞれが小さい年月であるものの、連携して力の奔流を為す。
もし単発で有れば、ケイ役の放った罠に掛ったのであろうが、絶対的な力の行使により、罠ごと噛み砕いたのである。
「…せっかく組んだやつなんだけどな。まあ十年級連発よりはコスト安いから良いけど」
残弾の数を騙されてくれるかしら?
凛はそう呟きながら、兄弟子である言峰綺礼のもとを目指した。
今回の黒幕の一人であろう彼を倒す為に。
と言う訳で時間稼ぎする敵を叩き潰し、戦力分散を戦力集中で叩き潰した感じになります。
実際には読まれてというか、相手の悪い面が逆転して、向こうも戦力集中して来たというオチですが、後攻の利点やら相手が英霊では無くスパルトイというのが勝利の要因になります。
ひとまず次回で言峰戦と、卑王戦の序盤の予定です。