善子ちゃん誕生日おめでとう!
「リュウ!早く来なさい!」
「ちょっ!早いって!」
7月某日、俺は堕天使ヨハネこと津島善子に呼び出され、どこかに連れていかれる途中だった。
「休みの日に呼び出すのは別にいいけどさ、少しはこっちの都合も考えてもほしかったよ。俺はさっきまで部活だったんだからなー」
「あら、それは悪いことをしたわね」
「まぁ気にしなくていいぞ。久しぶりに善子と遊ぶのも楽しみだったからさ」
そう言って善子の頭を撫でると善子は少し恥ずかしそうな表情をしているのが見えた。
「か、勝手に頭撫でるの辞めなさいよ!貴方は他の女の子にもそういうことをしているの?」
「まぁな、千歌とか曜とか…あ、俺も果南姉さんに撫でてもらったこととかもあるぞ」
「幼馴染みだからまだ良かったけど貴方のそういうところは少しずつでも直さなきゃダメよ。じゃないと貴方は将来女たらしの称号を得ることになるわよ」
「それは嫌だなぁ…気をつけるわ」
そう言いながらも俺の手は善子の頭を撫でることを辞めていなかった。
「だから!それを辞めなさいって言ってるのよ!」
「おっと、すまんすまん」
女たらしか、それは嫌だなぁ…
「ところで今日はどこに行くんだ?」
「今日は沼津から少し離れた場所でアニメのイベントがあるから一緒に行ってほしいの。貴方の好きなアニメでもあるから楽しめるはずよ」
「なるほど。それは楽しそうだな」
「あとは時間があればだけど私の家でゲームでもやりましょ。1人よりも2人の方が早く終わりそうなのよ」
「りょーかい。まだ早いけど来てよかったかもな。最初は断ろうとも思ってたし」
「まぁ断られても文句は言えないわね。距離もかなりあるしそもそも私が少し強引に誘ったからなんだし」
俺と善子が行く会場は沼津から電車で1時間ほどかかる場所だ。静岡は横に長いから県内を電車で移動するのも結構大変だ。
「ふぅ…今日の練習も大変だったよ。居眠りしないようにはするわ」
「女性とのデートで居眠りするとか非常識すぎるから気をつけなさいよ。移動中の電車で寝ちゃうのはまだ仕方ないとは思えるけど」
「りょーかい」
そんな他愛のない会話を続けているうちに電車がやってきた。乗ってる人はあまり多くなかったから少しは楽になったかな。
「それにしても善子もあのアニメが好きだったとは思わなかったな。俺は原作派だからアニメはそこまでがっつり見てないけど」
「あのアニメは原作がすごく人気じゃない。主人公達が成長して強大な敵に立ち向かうってのが王道だけどとても面白いのよ。布線もまだ沢山あるし、あの作者は天才だと思うわ」
「それはわかるわ。続きが気になって眠れなかったりするんだよなぁ…」
一時間も電車に乗るのは大変だと思っていたが、気づいたら目的地の最寄り駅に着いていた。善子との会話が途切れなかったおかげで退屈せずに過ごすことが出来た。
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一時間後、俺達はようやくイベントの会場にたどり着くことが出来た。
「移動だけでもかなり疲れるな」
「貴方は練習後だから仕方ないわよ。先に言っとくけど無理はしないでね」
「お気遣い感謝するよ」
会場の中に入ると大きなオブジェクトが沢山並んでいるのが見えた。主人公と強大な敵というシンプルなものであったが、クオリティがとても高かった。
「すげぇな…」
「でしょ?来てよかったわ」
その他にも様々なブースや露店があってとても楽しかった。イベントの中には原作のこれからを感じられるような部分もあり大盛況だった。
「やっぱ団長はカッコイイな。俺はあの人が死んだらショックでしばらく何も手につかなくなると思うわ」
「私はヒロインの子が好きね。主人公をどうにかして助けたい。守りたいっていう気持ちに憧れるわ」
「俺も大切な人を守れるような強い人間になりたいなぁ…」
「貴方ならきっとなれるわよ。現に私達は貴方に守ってもらってるようなものじゃない」
「そう言ってくれるのはありがたいよ。でも俺はそんな大層なことはできないと思うぞ。なぜなら昔に間違いを犯しちまったんだからな」
善子達を守ってやりたい。助けてやりたいと心の底から思っているのは本心だ。でも俺にそんな大きな力はない。俺が持っているのは他人ではなく自分を守れる力だけだ。それだけじゃ何の意味もない。
「貴方の過去は千歌さん達に少し聞いたわ。大変だったらしいね」
「全然大変じゃなかったさ。あれは俺が勝手にグレてただけだし。自分勝手に行動していただけさ。色々やらかしちゃったし千歌達にもこっぴどく怒られたり心配かけさせてしまったからなぁ…」
「過去は過去。悔やんだところで過去が変わるわけじゃないし今の貴方は私たちにとってかけがえのない存在になってるんだからそれで充分じゃない」
「けどさ、やっぱ完全にやり直すってのはなかなか厳しいものもあるよ。一度道を踏み外したらそのレールに沿って生きるしかないのかもな」
「それは違うと思うわ」
「善子…」
「貴方は昔のことなんか引きずる必要はないのよ。私はその頃のリュウのことなんて全然知らないわ。でも今ではこんなに立派になってるんだからね。絶対に成長はしてるわよ」
「お前は俺の母親かよ」
「うるさいわよ。このヨハネがせっかくいいことを言ってあげてるんだから感謝しなさいよ」
「お前達が俺に感謝してくれてるのと同じくらい…いやそれ以上に俺もお前達には感謝しているよ。本当にありがとな」
無意識のうちに俺と善子の手が繋がれていたことに気がついた。多分善子が俺を安心させるために握っていてくれたのだろう。
「あら、貴方が感謝の気持ちを伝えるなんて珍しいわね…明日は内浦に雪が降るのかしら…」
「うっせぇ」
俺と違って彼女達は決して道を間違えたりはしないだろう。いや、仮に間違いを犯したとしても俺が止める。それがやり直すことが出来た人間のやるべき事なのだと俺は思っているから。
To be continued…
それではまた。