梨子誕生日おめでとう!
まだ少し暑さの残る9月の後半。数人を除いた俺達はスクールアイドル部の部室に集合していた。
「さて、準備はいいかな?」
「オールオッケー!」
「大丈夫だよー!」
今日は9月19日。Aqoursのメンバーの1人で俺の大切な人である梨子の誕生日なのだ。それで他のメンバーにも梨子の誕生日を一緒に祝ってほしいと頼んだのだ。
「みんなありがとな。俺のわがままに付き合って貰っちゃってさ」
「龍吾は千歌とは違って普段からわがままなんて言わないからたまにはこういうのも新鮮だよ。それに梨子の誕生日を祝いたいっていう気持ちはみんな同じだからね」
その言葉を聞いただけで俺は本当にいい仲間に巡り会えたのだなと思う。
「今梨子はどうしているんだ?夕方には来てくれるように言ってあるけど」
「千歌と曜が連れ回してるよ。絶対に勘づかれないようにしてくれって念を入れといたから多分大丈夫だよ!」
「そっか。了解した」
「よし、こっちも早く終わらせちゃおうよ!」
「そうだな!」
そのまま俺達は準備を続行する。少しでも彼女を喜ばせたい。その一心で俺達は黙々と作業を続けるのであった。
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「…はぁ」
「梨子ちゃん?どうしたの?」
私と曜ちゃんは龍ちゃんに頼まれて学校へ行く時間まで梨子ちゃんを連れ回すことにしていた。でも梨子ちゃんはせっかくの誕生日だっていうのにずっと浮かない顔をしていた。
「彼だって忙しいし私のこともしっかり考えてくれてるってことはわかっているつもり。それでも最近はなかなか2人でゆっくりすることが出来ないから寂しいの」
「そっか…」
確かに最近は龍ちゃんと梨子ちゃんが2人で過ごしている姿を見ることが少なくなっていたような気がした。凌ちゃんは未だに梨子ちゃんにベタ惚れだってことは知ってるからあまり心配はしてなかったんだけどね。
「私って地味だから飽きられちゃったのかな…」
「そんなことないよ!」
「曜ちゃん?」
私の隣で黙って話を聞いていた曜ちゃんが声を上げた。そしてこう続ける。
「梨子ちゃんはいつも自分のことを地味だって言ってるけどそんなことはないと思うよ。それに龍くんは絶対に梨子ちゃんに飽きたりなんかしてない!それは私が保証するよ!」
曜ちゃんは私が思ってたことを全部言ってくれた。梨子ちゃんはこれでもう大丈夫。あとは龍ちゃんのことを信じよう。
「はい。ちょっと暗い話はここまでにしよう。今日は梨子ちゃんの誕生日なんだから楽しく過ごさなきゃね!」
「千歌ちゃんの言う通りだよ!夕方には学校に行かなくちゃならないけどそれまでは3人で遊ぼ!」
「千歌ちゃん…曜ちゃん…うん!」
それから私達3人は学校へ行く時間になるまで楽しい時間を過ごしたのでした。
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「結構リフレッシュ出来たでしょ?」
「うん、楽しかったよ」
「それじゃそろそろ学校へ行こうか。遅れたら怒られちゃうしね」
「そうだね」
千歌ちゃんと曜ちゃんと1日楽しく過ごした私は海藤くん達に言われた通りの時間にスクールアイドル部の部室に向かっている途中でした。
「梨子ちゃんも元気になってよかったよ!」
「これも2人のおかげだよ。ありがと♪」
「えへへ、どういたしまして」
その後も3人で色々な話をしている間に部室に到着していました。しかし…
「あれ?部屋の明かりついてないね」
「先に屋上にでも行っているんじゃないかな」
そう言いながら私がドアノブに手をかけた瞬間
「「誕生日おめでとう!」」
突然の海藤くん達の登場で私は頭の中が混乱していました。私は部屋の明かりがついてなかったからみんなは先に屋上にでも行っているのかと思ってました。
「え?あ、ありがとう…」
「あちゃーやっぱり混乱しちゃってるか。」
「少し説明してくれるとありがたいかな…」
私は海藤くん達から今日のことについて説明を受けました。千歌ちゃんと曜ちゃんがみんなとグルだったことも…2人ってどちらかと言えば考えがわかりやすい方だから気づけなくて結構悔しいかも。
「そういうことだったのね…」
「騙すつもりじゃなかったんだ。ごめんな」
「ううん。大丈夫だよ。むしろ嬉しい!」
みんなが私のことをとても大切に思っていてくれたことがわかってとても嬉しかった。やっぱり私はとても良い仲間に巡り会えたんだなぁ。
「改めて梨子。誕生日おめでとう」
「海藤くん…ありがとう!」
「チョットー!私達のことも忘れちゃダメよ!」
「今日は梨子さんにとって特別な日なのですからね。私達にもお祝いさせてくださいな」
それから私達は時間を忘れ、空に菫色の星が輝き始めるまで楽しい時間を過ごしていたのでした。
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「みんな、今日は本当にありがとう。気を付けて帰ってください!」
「龍ちゃんも梨子ちゃんのこと頼んだよ!」
「ああ!任せろ!」
楽しかった時間はあっという間に過ぎ、満天の星空が広がり始めた頃。俺達は学校を後にし、それぞれの帰路についていた。俺の隣には梨子も一緒にいる。
「海藤くん、今日は本当にありがとう」
「気にすんな。大好きな梨子のためならあんなのお安い御用だよ」
大好き。その言葉を伝えるだけで梨子の顔は真っ赤になってしまっている。俺達が付き合ってから結構経つが、彼女は未だにこういうのは苦手なようだ。
「これからどうすんだ?俺は帰るけどさ」
「お父さんとお母さんは今日はもう帰ってこないの。だから海藤くんの家に泊まってもいい?」
「ああ、大丈夫だよ」
今日は梨子と一緒に家に帰ることになった。だが、俺にはまだやらなきゃならないことがある。
「なぁ梨子、ちょっと寄り道してもいいか?」
「うん、大丈夫だよ」
俺達はそれからしばらく手を繋いだまま歩き、海の見える砂浜までやってきた。
ここは俺達にとって思い出の場所だ。
この場所で俺達は出会い、この場所で俺達は恋人同士になった。今となっては本当に懐かしい場所だ。
「やっぱりここは綺麗な場所ね」
「さて、君へのプレゼントをまだ渡してなかったね。少し待たせてしまったけど俺はどうしてもここで渡したかったんだ…」
俺は梨子に小さな箱を手渡す。中身はペアの指輪だ。鞠莉さんは梨子への贈り物に最適な物を紹介してくれると言ってくれたけど俺はどうしても自分で選びたかった。鞠莉さんには少し申し訳ないことをしてしまったな。
安物だけどこれで俺の所持金のほとんどが消えたことは彼女には内緒だ。
「綺麗…」
「今は安物の指輪しか渡すことは出来ないけどいつかもっと立派な物を君に渡す。約束するよ」
「海藤くん…嬉しい!」
「梨子、こんな俺と一緒にいてくれて…生まれてきてくれてありがとう。愛してるよ…」
「海藤くん…私も愛してる…」
2人の影は少しずつ近づいていき、そしてゆっくりと重なった。2人の手元には月と星の光を浴びて輝きを放つ指輪が見える。空に永遠と輝く星のように俺達の輝きが消えることは無い。いつまでも。ずっと。
To be continued…
ありがとうございました。
それではまた。