ソードアート・オンライン-Phantom pain 作:轟th
前書きって本当に書く事が思いつかないのは、どうしたものか。
休みの日、あなたは何をする?
朝から買物に出掛ける? 友達と何処かに遊びに?
どれも悪くないだろう。寧ろ家から出て健康的だと云える。
しかし、私は朝からパソコンの前に張り付いている………フッ。
では、本編をどうぞ。
草木のさざめきに混じり、エールの嗚咽が耳を打つ。
普段の苛烈に戦う勇ましい姿や誰に対しても柔らかな物腰とは打って変わり、まるで子供のように座り込んで泣きじゃくっている。誰も何も言えない中、アスナだけが優しくエールの頭をあやす様に撫でている。
これからどうしたものかと考えていると、ガサガサと雑草をかき分けながら遅れていたクラインが姿を現した。ようやくたどり着いたと云った様子だが、状況が理解できないのか頭を掻きながらキリトの方を見た。
「えーと、何がどうなってるんだ?」
「あー、その、一先ず解決したのかな?」
何とも言えず、頬を掻く。
暫くしてエールも泣き止んだので、ようやく話が出来るようになった。
「よう、もう自殺する気は失せたか?」
「…………」
キリトの問いに、エールは返答に困った表情を浮かべる。
本人としては自殺を望むが、妹がそんなことを望んでないことを知った。
「……私はどうすれば良いのですか?」
自分は罪を犯している。
自殺という安易な贖罪は許されず、かといって黒鉄宮に投獄されても意味はない。ならば何をどうして償いをしていけばいいのか解らない。いやそれ以前に、何を目的にしてこれから生きていけばいいのか解らないのだ。
「普通に生きれば良いじゃないか」
「私は罪を犯したのですよ! こんな人殺しを野放しにして何の意味がありますか!?」
「ないかもしれない。けど、お前のお陰で助かった奴が少なくとも二人はいる」
「―――え?」
何を、と思っていると。
様子を伺っていたサチが前に出てきた。
「このペンダントに見覚えはない?」
「……確か『奇跡の残照』ですよね。S級のレアアイテムの」
「うん、そうだよ。エールは前にこれを持ってたよね?」
「え、ええ。以前助けていただいたギルドの方々に差し上げましたが……」
それが? と小首を傾げる。
意外と察しの悪いエールにため息をこぼし、キリトが口を開いた。
「分からないか? お前がそれを譲ったギルドってのが、サチがいたギルドなんだよ」
「っ!?」
驚きに目を見開き、エールはサチを見た。
かつてPKに襲われた際に見ず知らずのギルドに助けられたことは覚えている。ただその時は妹を失ったことによる失意から何を話したかも覚えてはおらず、二日後ぐらいには彼らのホームにしている宿から出て行った。助けてもらったお礼にとペンダントを置いていったが、今思えばろくにお礼も云えてなかった。
「サチさん、あの時はありがとうございます」
「ううん。お礼を言うのはこっちの方だよ。これのおかげで私は命を救われたんだから」
「俺からも礼を言わせてくれ。サチが生きていてくれたお陰で、俺は戦う意味を失わずに済んだ」
キリトとサチ、両名はそう言って頭を下げた。
思わぬ形で二人から感謝を言われ、エールはいつになく戸惑った。
「えっ、あの、その、お二人共顔を上げてください」
「ああ。けど判ってくれ。お前に生きていて欲しいって願う奴がいるってことを」
「そんな……言い方は卑怯です。益々私、死ねないじゃないですか」
少し拗ねたように、エールは頬を膨らませる。
そんな彼の頭をポンポンと、エギルが叩いた。
「いいじゃねぇか。少なくとも、お前は責任を感じている。だったら今直ぐじゃなく、これから時間を掛けて償いをしていけばいいんだ。お前はまだ若い、焦らずとも時間はまだたっぷりあるんだからな」
大人らしく、エギルが言葉をかける。
それに便乗するように、クラインが叫ぶ。
「そう、そう! 人間、誰だって間違いを犯すんだ。大切なのはそのことを悪いって自覚することなんだぜ、エール! それによ、エールみたいな美人が世界から失われちまうなんてすんげー損失なんだぞ!」
「クライン、お前なぁ……」
「俺さ、最近思ったんだ……“別に女の子じゃなくてもいいや”ってさ!」
満面の笑みを浮かべながら、サムズアップする。
うわっ、とは誰が呟いたのか定かではないが、誰もが同じ気持ちだったのかクラインから若干距離を取っている。アスナに至ってはクラインの視線から守るように、エールのことを抱きしめている程にドン引きのようだ。
「あーっ、話がそれたな。エール、それでどうする?」
「私の負けです。けど、私はこれから何を理由に生きれば良いのですか?」
「だったら、私のために生きなさい」
そう口にしたのは、アスナだった。
思わぬ人物からの提案に、思わずキリトも目をパチクリとさせた。
「貴方の、為に?」
「そうよ。私の為に生きるの。その代わりに、私が君のことを守ってあげる」
この世界で生きる上で、誰にだって戦う理由がいる。
一般プレイヤーを解放する為と豪語する奴は偽善者か余程の馬鹿であり、殆どのプレイヤーは現実に残してきた家族や恋人の為、あるいは共に肩を並べる戦友の為に闘っている。生憎とエールは世界なんて曖昧な物に命など賭けられず、かといって現実にいる肉親は自分を引き取ってくれた叔母ぐらいなものだ。
「どうかしら? 悪くはないと思うのだけど」
「えっ、まぁ悪くないんじゃないか?」
妙案とは決して云えないが。
「アスナさんは、迷惑ではないのですか?」
「迷惑じゃないよ。それに私の為に戦うってことは、血盟騎士団に入団してもらうから。こちらとしてもエール君みたいな強いプレイヤーが一緒に戦ってくれれば心強いし、何よりギルド全体の戦力アップになるもの」
「そっちが本音かよ!」
「あら? 私にとっても彼にとっても良い案だと思うけど?」
「はぁ……で、どうする?」
「その話、お受けします。アスナさん、今日から私の命は貴方のものです。貴方の剣となり盾となりて行く手を阻む全てのものからお守ります。この命が尽きる最後の瞬間まで、貴方と共にあることを誓います」
まるで中世の騎士のように、アスナの前に膝をつく。
二人の容姿も相まって正に絵画のような光景だが、何はともあれ一安心である。
「あっ、そういや……エール」
「はい、何ですか?」
街へと戻る道すがら、ふとキリトはあることが気になった。
「お前って、男なんだよな?」
「はい。生物学上、男性で間違いありませんが?」
「みんなもそのことは知ってたのか?」
全員を見回せば、キリト以外が頷いて応えた。
「えっ、サチも知ってたのか?」
「うん。ここに向かっている途中でエギルから聞いたんだ」
「ってことはアレか? 知らなかったのは俺だけなのか」
「エール君、キリト君には教えてなかったの?」
「少し事情がありまして……その、アルゴさんに止められていまして」
気まずそうなエールの様子に、キリトは逆に納得した。
アルゴは前々から「オネーサン」ぶっているが、会う度にキリトのことをからかって楽しんでいる節が前からあった。おそらく今回も、エールを女性と勘違いしているキリトのことを影から見て笑っていたに違いない。
「黙っていてすみません」
「いいよ、別に………あー、腹減った」
「お詫びに昼食は私が用意しますよ。良かったら皆さんもどうぞ」
「マジで? うっひょー! 美少女の手料理だ!」
「クライン、エールは男だからな」
「解ってるよ。夢ぐらい見させやがれ」
わいわいと騒ぎながら、一行は道を進んでいく。
ふと、エールは誰かに呼ばれた気がして、立ち止まって振り返った。
「―――――」
それは目の錯覚だったのか。
小さな墓石の傍に、小柄な少女が立っているのが見えた。肩に触れる程度の亜麻色のセミロングに淡い暗紫色の瞳をした、エールとよく似た風貌の女の子。忘れたくても決して忘れられない大切な人。
少女は柔らかな笑みを浮かべながら、エールに向かって手を振っていた。
「はつ、ね――」
「おーい! 何してんだ、置いてくぞー!」
「あっ、はい! 直ぐに行きます」
再び振り返った時には、少女の姿は何処にもなかった。
もしかしたらエールの見た都合の良い白昼夢だったのかもしれないが、それでも彼女が笑っていてくれるのなら構わなかった。
「もう少しだけ、頑張ってみるよ」
先をゆく仲間の後を追い、エールは歩き始めた。
「ねぇ、本当にいいの?」
心配そうな様子で、アスナがそう訊ねてくる。
あれから場所の都合上、エギルの店の二階にてエールの手料理をご馳走になってから解散の流れとなった。アスナはそのまま本部に戻ろうとしたのだが、エールがどうしてもヒースクリフに会って話がしたいと付いて来たのだ。
因みにエールの手料理を口にしたクラインは狂喜乱舞し、何をトチ狂ったのかエールに対して結婚を申し込もうとまでしていた。これは流石にアカンとのことで、エギルがアイテムスロットから取り出した麻痺薬をキリトが気付かれないようにクラインに飲ませた。身体が痺れて動けない内に風林火山の面々がやってきて長を引き取っていくという珍事があったが、別段気に掛けておく必要はないだろう。
「血盟騎士団に入団すること。あの時はああ言ったけど、嫌なら別にかまわないのよ?」
「それについては問題ありませんよ。ギルドに所属しなかったのは、死神として一緒にいては迷惑を掛けてしまうと思ったからなので。もう仮面を外した今なら関係ありませんので」
「だったらどうして? 入団の手続きなら私がしておくけど?」
「そのことでヒースクリフさんにお願いがありますので」
「お願い?」
しかしエールは内容を答えようとはしなかった。
アスナに道案内されながら、エールは巨大な螺旋階段を登っていく。これがリアルだったなら確実に目的の階まで登りきる前に、へばってしまうだろうなと思える程の高さだった。幾つかの扉を過ぎた頃、アスナは鋼鉄の扉の前で立ち止まった。
「一応、団長には前もって連絡してあるから居る筈よ」
「解りました。彼とは私が話をしますので」
アスナは頷くと、重厚な扉音高くノックすると返事を待たずに開け放った。内部は塔の一フロアを丸ごと使った円形の部屋で、壁は全面透明なガラス張りとなっていて、差し込む灰色の光が室内をモノトーンに染め上げている。
中央には半円形の巨大な机が置かれており、その向こうに並んだ五つの椅子にはそれぞれ男が腰掛けている。左右の四人には見覚えがなかったが、中央の椅子に座っている人物だけは見間違える筈がなかった。
血盟騎士団の長――聖騎士ヒースクリフ。
彼は二人のことを見ると、柔和な笑みを浮かべた。
「話はアスナ君から聞いているよ。私の提案を受け入れてくれるそうだね?」
「はい。私は血盟騎士団への入団を希望します」
「それは素晴らしい! 君ほどの戦力が入れば我がギルドも磐石だ」
「付きましては一つ、お願いしたいことがあります」
「言ってみたまえ。前にも言ったが、ある程度なら要求も呑もう」
「はい。では私を彼女――アスナさんの護衛にして下さい」
「えっ!?」
「ほう?」
エールの申し出に声を出したのはアスナとヒースクリフだが、他の四人も驚いている。
そんな彼らに構わず、エールは話を続けた。
「お聞きした話では、新しい護衛はまだ決まっていないそうですね?」
「確かに。クラディールは自宅で軟禁させている。彼女のレベルに見合うだけの実力を持ったプレイヤーを見つけるのは難しく、ハッキリ言って後任も決まっていない。我々としても君が彼女の護衛役を買って出てくれるのならば嬉しいが」
「問題ありません。後は長であるヒースクリフさんとアスナさんの意思次第です」
「私としては願ってもないが、アスナ君はどうかね?」
「わ、わたしも構いません」
それから話はトントン拍子で決まっていった。
話を聞いていた四人の幹部たちも、同性エールならと特に反対しなかった。ここでエールが男性であると訂正すれば話が面倒になるので、アスナもエールも口を挟まなかった。これで晴れてエールは血盟騎士団に入団したことになるが、流石に今日から任務では急過ぎるとのことで二日間の準備期間が与えられた。
用事を済ませて本部を後にした所で、不意にアスナが口を開いた。
「ねぇ、本当に良かったの? 私の護衛なんて買って出て」
「その方が貴方を護りやすかったので。こちらこそ、急ですみませんでした」
「ううん。私は別にかまわないけど……これからどうするの?」
「そうですね。特に用はありませんが、一度制服に袖を通しておきましょうか」
「流石にここだと目立つから、エギルのお店で借りましょう」
早速二人は、エギルの店へと戻っていった。
幸いなことにキリトは二階に居なかったので、問題なく部屋を借りることが出来た。幾らエールが女性らしいとは云え流石に男性の裸を見る気はなく、アスナは部屋の外で着替えが済むまで少しの間待つこととなった。
「………あれ?」
血盟騎士団の制服に袖を通したエールは、ふと違和感を覚えた。
この世界に服のサイズというものは存在していない。例えば長身のプレイヤーが着ていた装備を他のプレイヤーが付けたとしても、大きすぎたり小さすぎるという事はない。どんなプレイヤーでもサイズはピッタリになる。
だから上着の袖が短いことも、ズボンの丈が長いこともない。
しかし、エールは確かに違和感を覚えた。
「エール君、着替えは済んだ?」
「あっ、はい。もう大丈夫です」
入ってきたアスナが見た感想は、よく似合っているだった。
アスナのものとよく似ているが、やはり男性と女性のとでは若干異なっている。
「……アスナさん、ヒースクリフさんには何と説明しましたか?」
「え? 説明って何のこと?」
「私のことを、どう伝えましたか?」
「普通にエール君がKoBに入りたいって伝えただけよ?」
「そう、ですか……」
アスナの言葉に、エールは納得いかないと云った表情だ。
しかし自分が抱いた違和感の正体を、エールはまだ口にはしなかった。
初音の幽霊のシーン、ちょっと悩みました。
最初は「頑張れ、お兄ちゃん」という声だけが聞こえるのを考えました。しかしそれだとなんだか物足りない感じがしましたので、姿だけ見える方にしました。まぁ、両方使うでも良かったのですが……上手く表現できず。
クリック? クラック! また来週!