ソードアート・オンライン-Phantom pain 作:轟th
こんな私の作品に七十名以上の方が閲覧して頂き、ありがとうございます。
一先ずストック分を一日一話として投稿することに致しました。
一話で言い忘れましたが、誤字脱字等が御座いましたらお知らせください。
投稿する前に確認はしておりますが、抜けていることが多々有ります。
では、本編をどうぞ。
「あ、『死神』?」
少年、キリトがその噂を聞いたのは三月のある日のこと。
第五十層にある主街区アルゲードの一角にあるお店、顔なじみである商人エギルの経営する故買屋にて不要なアイテムをまとめて売り払った後のことだった。特に予定のなかったキリトは閑古鳥の鳴いている店内にて、エギルト話していると彼が思い出したようにそのワードを口にして訊ねてきたのだ。
「何だ? 限定エネミーの名前か?」
「違うさ。最近噂になってきているプレイヤーの通り名だ」
「んー……最前線にいるけど、聞いたことないな」
顎に手を当てて思い返してみる。
この世界『ソード・アート・オンライン』において、通り名があるということは評判に関わらず知名度があることを意味している。キリトであれば、『黒の剣士』の名は知らぬ者は居ない程に有名となっている。つまり名が与えられるのは本人の意思とは別に、人々の間に浸透していることとを表している。
しかし、そのような恐ろしい名で呼ばれていた人間に覚えがなかった。
「まぁ、お前は知らないかもしれないな」
「どうしてだ?」
「そいつはPKKとして通ってるんだ」
PKKが何を意味するのかキリトも知っていた。
そこでようやく、凄腕のPKがいることを思い出した。
「あー、確か滅茶苦茶強いプレイヤーらしいな」
「名前はおろか性別も不明、狙った標的は決して逃さない」
「ふーん……それで? そいつがどうしたんだ?」
「いや、キリトは大丈夫だと思うが……一応、気をつけておいてくれ」
エギルの言葉に、キリトは思わず笑みをこぼした。
彼は風貌こそかなりの巨躯に日本人離れした顔、浅黒い肌にスキンヘッドに髭というかなりの強面なので初対面の相手に恐れられるが、実際には人情に厚く人間関係を大事にする人物だ。こうして曰く付きのキリトとまともに接してくれる数少ない大人だ。
彼とてキリトの剣の腕前は重々承知している。女性のような顔立ちと線の細い体躯だが、純粋な戦闘能力は『SAO』でも最強クラスの剣士だ。
しかし、友人を心配するのは話が別だ。
「忠告、ありがとうよ」
そこへカランと店の戸が開かれた。
何気なく視線を向けてみると、そこには頭からすっぽりとローブを身に纏った見るからに怪しい風貌の人物が立っていた。腰には片手剣を吊るしており、装備の方は白と青を基調としたものを着ている。誰だと警戒するキリトを尻目に、エギルは知り合いなのか特に変な反応を見せることなく対応した。
「いらっしゃい。今日も来たんだな」
「………これを」
言葉少なく、トレードウィンドウを表示する。
チラッとキリトも覗いてみると、それなりの数の素材が表示されていた。中には武器や防具といったものも混じっていたが、特別すごいアイテムは含まれてはいなかった。寧ろ価値の低いものもチラホラと見受けられる。
「んー、この数なら……全部で千コルだな」
エギルにしては、随分と色をつけた値段だった。
普段ならば全てで五百コルほどを提示するのに、お得意様なのだろうか。
「それでお願いします。あと、コレとコレをください」
片手剣使いは、幾つかの食材を指で示す。
エギルはそれらをトレードして差額の分のコルを渡した。
「ありがとうございます………」
「ん? 俺に何かあるのか?」
しかしトレードを終えても片手剣使いは出ていこうとせず、何やらキリトの方をジッと無言で見つめている。いや、厳密にはキリトが持っているクッキーを見ているようだ。もしかして欲しいのかと考えていると。
「そのクッキー……美味しいですか?」
「あ? ああ。手作り品だけど、結構な美味しいぜ」
「そうですか……」
それだけ聞いて、店から出ていく。
何なのかとキリトが首を傾げていると、エギルが声をかけてきた。
「キリト、お前さんが食べているクッキー……実は今の奴が作ったんだ」
「は? そうなのか?」
「ああ。何でも料理が趣味らしいんだが、偶に持ってくるんだ。御裾分けに」
個人が作ったとは思えない味と見た目だ。
デスゲームと化した現在では酔狂かもしれないが、戦闘とは無縁な職人系のスキルを上げている者も少なからずいる。もしかしたら、あのプレイヤーもキリトの知り合いのように料理系スキルを戦闘の合間に上げているのかもしれない。
「……エギル。確か俺、これを買った気がするんだが?」
「そうだな」
「……貰い物なんだろう?」
「安く仕入れて安く売るのがモットーだからな」
どうやら仕入れ値タダの物を売っていたようだ。
流石は阿漕な商売をしているだけある、いい根性をしている。
「そういや、アイツの名前は?」
「確かエールって言ってたな」
それがキリトが始めてエールの名を知った瞬間だった。
「ただいまー」
あれからキリトはエギルに別れを告げ、同じ階層にあるホームへと戻ってきた。
この街は中華系の下町のように猥雑としており、高い建物はないものの代わりに広大な敷地に無数の隘路が重層的に張り巡らされていて土地勘を持たぬ者が踏み入れようものなら二度と出てくることは出来ないだろう。半年以上暮らしているキリトですら半分も覚えておらず、帰ってこないプレイヤーも少なからずいるという噂だ。
そんな怪しげな街に居を構えているのは、キリトがこの街の雰囲気を気に入ったからだ。
それからもう一つ。
「おかえりなさい」
部屋の奥から一人の女性が現れた。
彼女の名前はサチ、縁あってキリトが保護して一緒に暮らしているプレイヤーだ。女性と一緒に暮らしているのなら治安の良い六十一層の『セルムブルグ』の方が良いのだろうが、別に効率よく稼いでいないキリトのお財布状況では厳しかった。しかし彼女も気に入っているのか、そういった不満を漏らしたことはない。
「今日は随分と早かったね」
「まぁな……それより夕飯にしよう」
「もうすぐ出来るから待ってって」
そう言って彼女はキッチンへと戻っていく。
それほど広くはないリビングの大半を占拠するテーブルの一角に腰掛け、手持ち無沙汰になったキリトは席から見えるサチの後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
サチは元々は『月夜の黒猫団』というギルドに所属する紅一点の槍使いだった。自分達のギルドホームを買う為、中層ゾーンで金を溜めとレベル上げを行っていた彼らとキリトが出会ったのは半年程前のことだった。縁あって彼らを手助けしたところ、リーダーのケイタからギルドに入らないかと誘われた。
最初こそ戸惑いがあった。攻略組の最前線で戦う自分のようなビーターが、仲良くやっているチームに入ってもいいのかと。それでも了承をしたのは、醜い虚栄心を満たそうとするくだらない気持ちからだ。そんなこと露ほども考えてはいない人の良かった彼らを騙し、キリトはギルドのメンバーとして協力した。
キリトの協力もあり、ギルドメンバーのレベルは快進撃の如く順調に上がっていった。黒猫団が戦場にしていたエリアは既にキリトが攻略済みであり、危険なスポットも稼ぎのいいスポットも全て把握していた。あとは彼らをさり気なく誘導することで、最大限の効率を持ってレベルも貯金額も上がっていった。
これによりキリトがギルドに入ってから僅か二ヶ月あまりで、予定していた自分たちのホームを購入する目標の予算に到達することができた。ケイタはその全財産をもって不動産仲介プレイヤーの元へと興奮した様子で出掛けて行った。残りの面子は宿で彼の帰りを待っていたが、メンバーの一人が新しい家の家具を一式揃える為に一狩り行こうと提案してきた。それも最前線から僅か三つ下のエリアだった。
そして順調にお金を集め、帰ろうとした矢先にシーフが宝箱を見つけてしまった。
この時、キリトは例えギルドに居られなくなったとしても彼の行動を止めるべきだった。何故ならこの層からトラップの難易度が一つ跳ね上がり、慣れていないプレイヤーが下手に手を出せば痛い目どころか命を落としかねないからだ。しかし『ビーター』である事実を知られたくなかったキリトは強く言えなかった。
その結果、黒猫団はキリトを残して壊滅してしまった。
その知らせを聞いたケイタもまた、仲間の後を追って外周から投身自殺をした。
「お待たせー。さあ、ご飯にしましょう」
「………ああ」
物思いに耽っていると、サチが料理を運んできた。
気持ちを切り替え、キリトは彼女との食事に集中することにした。
「そういえば、今日買い物の途中で懐かしい人を見かけたの」
「へぇ、誰なんだ?」
「このペンダントをくれた人」
そう言って、サチは胸元にあるペンダントに触れた。
あの日、確かにサチはキリトの目の前で押し寄せるモンスターの波に飲まれ、HPの全てを失って死んだはずだった。しかしこうして今も生きているのは、彼女が装備しているレアアイテム『奇跡の残照』の恩恵によるものだ。このアイテムはは一度だけ、瀕死になった時にランダムでアクティベートした『転移門』の近くにプレイヤーを飛ばすという緊急回避のアイテムだ。使ってしまえば最早何の効果もない唯のペンダントでしかなく、デスゲームと化した現在のSAOでは無用の長物でしかないが、サチは今もお守りとして装備している。
「このお守りのお礼も言えてないのに……」
「どういった経緯から貰ったか聞いてなかったな。よかったら聞かせてくれるか?」
「うん。あれはゲーム開始から三ヶ月後ぐらいだったかな」
話は今から一年ほど前に遡る。
キリトが黒猫団と出会うよりも二ヶ月ほど前、その日もサチたちは念願のマイホームの為に資金集めとレベル上げに勤しんでいた。ところが、その最中にメンバーの一人が悲鳴らしきものを聞きつけたので全員で声のした方へと向かった。すると、そこでは一人のプレイヤーが複数のPKたちに襲われている場面だった。PKたちはこちらが自分たちよりも数が多いと判断すると、潔く諦めて森の奥の方へと逃げていった。
黒猫団としてはその女性プレイヤーを未然に守れたのだが、どうやら駆け付けるのが遅かったらしく一緒にいた仲間が殺されてしまったらしい。余程大切な人だったのか、女性は呆然としたまま動けなくなっていた。サチたちは女性を暫く保護していたのだが、ある日彼女は何も言わずに黒猫団の前から姿を消してしまった。ただ助けてもらったお礼のつもりなのか、例のペンダントだけは置いていったのだ。
「一応、探してはみたけど何処にも見付からなかった。もしかしたら自殺を図ったんじゃないかとも考えたけど、名前も知らなかったから確認する術はなかったの」
「そっか……」
キリトは、それしか言えなかった。
あの日、もしサチが戻ってきてくれていなかったら自分はどうしていただろうか。ケイタと同じように後を追って自殺しただろうか? それとも彼女たちのことを忘れて何事もなかったように生きていただろうか。
いや、自分にはそのどちらも無理だ。
たぶん自己嫌悪に陥って、人との関わりを拒んでいたことだろう。
「俺も、会ってみたいな」
もし会えたのなら、お礼が言いたい。
貴女のおかげで自分は今、こうして生きていられると。
「………キリト」
「ん? どうかしたのか?」
「もしかして、邪なこと考えてたでしょ?」
「は? 何でそうなるんだ」
「確かに、その人はすっごく綺麗だったよ。髪も長くてさ、そんじょそこらのアイドルやモデルさんなんかよりも断然美人だったし。けどあれだけの美人だもの、きっと彼氏とかいるからキリトは諦めた方がいいよ」
「何でそうなる!?」
「えー、だって……ねぇ?」
自分がからかわれているのに気付くのは、もう少し後のこと。
騒がしくも楽しい食事を続けながら、キリトは何気ない日常に感謝した。
という訳で、サチ生存です。
原作では死亡した彼女をレアアイテムにより生存してますが、以前のように迷宮区に潜ることはなく専業主婦のようにキリトのホームにて暮らしております。ただし結婚システムを使っているかと問われると、そうではありません。
簡単に云えば、友人以上恋人未満のような関係です。
クリック? クラック! また来週!