ソードアート・オンライン-Phantom pain 作:轟th
新年早々から職場で過ごすことになり、おかげで年末年始は友達と遊ぶことすらままならなかったのが大変苦痛でした。今月で退職することにはなっているが、正直言って年内で辞めておけば良かったと心の底から後悔しております。
閑話休題。
前回言い忘れましたが、キリトとアスナはくっつきません。
ですが(?)、ご安心下さい! ユイはキリトの娘となりますので。
では、本編をどうぞ。
エギルの話を聞いてから数日後。
キリトはアルゲードの路地裏の奥の奥にある行きつけの喫茶店にいた。いつものように妙な匂いのする茶を啜りながら、時おり時間を確認していた。と云うのも今日は別に朝からしけこんでいる訳ではなく、ある人物とここで会う約束をしていたからだ。
「そろそろか……」
二杯目のお茶を半分ほど飲み干した頃。
カランと音を立てて、閑散とした喫茶店に誰かが入ってきた。
「やぁ、遅くなったネ。キー坊」
キリトの向かいの席に座ったのは、女性プレイヤーだった。
フード付きのローブを身に纏っており、目深く被ったフードの下から覗く金褐色の髪に両頬に描かれた三本の線が特徴だ。独特のイントネーションで喋るのは、素なのかキャラ作りによるものかは定かではない。
彼女の名前はアルゴ、通称は『鼠のアルゴ』。胡散臭く思われてしまうが、これでもSAOでも屈指の情報を有している情報屋だ。五分雑談すると知らないうちに100コル分のネタを抜かれるとまで噂されている。だが決して適当な訳ではなく、真偽の怪しい情報はきっちりと裏をとり、価値があると判断した情報には相応の情報料を払う。少女にしか見えないが、「オネーサン」を自称していて実年齢は不明である。
「それで、今度は何が知りたいんだイ? オネーサンに聞いてみなさい」
「ああ………アルゴ、『死神』について知っているか?」
「……キー坊、どこでその話を?」
スっと真面目な表情を浮かべる。
いつもヘラヘラしている彼女にしては珍しく、キリトも内心驚いていた。
「少し前にエギルから聞いたんだ」
「成程ね……で、何でオレっちに聞いてきたんダ?」
「いや、PKだけを狙ってるのは知ってるんだ。けど、いつそれが他のグリーンプレイヤーに矛先を向けるか判ったものじゃないからな。一応、頭の片隅にでも入れておこうと思ったんだ。知っておいても損はないだろう?」
「その心配なら杞憂サ。大丈夫、『死神』がグリーンを襲うことはないヨ」
アルゴはそう断言した。
つまり、彼女は『死神』と接触したことがあるのか。
「アルゴ、良かったら教えてくれないか。もちろん、代金は払う」
「んー………そうだなぁ」
腕を組み、天井を見上げる。
二年前のある出来事からβ版をプレイしたテスターは他プレイヤーから毛嫌いされており、自分がβテスターだと公言しているのは事情のあるキリトぐらいなものだ。なのでアルゴもその手の情報を取り扱うことはない。
「まぁ、キー坊になら特別に教えてあげよう」
「本当か?」
「ああ。けど、残念ながらオレっちの口からは教えることは出来なイヨ。代わりに『死神』についてオレっちよりも詳しく知っている人に会わせてやル。ただ一筋縄じゃいかないことだけは保証しておくカラ」
呆気からんにそう告げる。
それ程に口の堅いプレイヤーなのか、それとも別の理由があるのか。
「それで構わない。教えてくれ」
「ならキー坊、明日の朝八時頃に黒鉄宮に行ってみナ」
「黒鉄宮? まさか、PKに話を聞こうってのか?」
「違うサ。同じところに『蘇生者の間』ってあるダロ? そこの『生命の碑』の前にいるノサ」
そこは本来、死亡したプレイヤーが蘇生して1からスタートする筈だった。
デスゲーム化した現在では誰も復活する場所ではなくなり、金属製の巨大な碑『生命の碑』が設置されるようになった。そこにはログインしている一万のプレイヤー名が刻まれ、死亡すると名前の上によこせんが引かれて死亡原因が表示される。
「その情報を持っている奴は、そこで何をしているんだ?」
「……行けば分かるヨ。情報も売ったし、そろそろお暇させてもらうカ」
「アルゴ、まだ代金を支払ってないぞ?」
「ごちそうさまでした」
そう言って、アルゴは店を後にした。
どういうことかと思ったが、すぐに彼女がお茶の代金を支払っていないことに気付く。
「ここに来るのも久しぶりだ」
翌朝、キリトは言われた通りにはじまりの街を訪れていた。
かつて一万ものプレイヤーで犇めき合っていた場所も、今となっては酷く閑散として裏通りなど人通りは少ない。ただしキリトが今向かっている街の中心地にある黒鉄宮には、大勢のプレイヤーが屯している。といっても監獄エリアに監禁されている犯罪者プレイヤーのことではなく、『軍』により建物が占拠されたからだ。
正式名称は『
元々は『ギルドMTD』という互助ギルドであり、所属すれば食事が支給されるので千人を超えるプレイヤーが加入している。かつては獲得したアイテムを共同管理し、分配することで全員での迷宮攻略を目指していた。しかし25層の攻略時に大きな被害を出してしまい、以降は方針を変更して下層の治安維持と組織強化を重視するようになった。ところが実際には効率のいいフィールドを人数を活かして独占するようになり、更には調子に乗ったプレイヤーが徴税と称した恐喝を行うようになってしまい、一般プレイヤーは『軍には極力関わるな』という共通の認識が生まれることとなってしまう。
「………」
暫くすると、前方に黒光りする建物が見えてきた。
はじまりの街最大の施設、『黒鉄宮』。奥へと続く敷地の大部分が軍の占領地であるが、キリトの目指す『生命の碑』は正門を入って直ぐの所にある。そこまでは誰でも自由に出入り出来るので問題なく入って行く。
「あれだ……」
そこには静かに祈りを捧げる乙女の姿があった。
建物の隙間から差し込む日差しを受けて輝く亜麻色の長い髪をした女性が、石碑の前で膝をつき両手を組んで祈りを捧げていた。正に完成された一枚の絵のような光景に思わず声を掛けるのを躊躇っていると、無粋な連中がやってきた。
「おっ! マジで祈ってる奴がいるぜ!」
現れたのは灰緑と黒鉄色で統一された装備を纏った数人の男。
見るからに柄の悪そうな連中が、軍の人間だとキリトは気付いて思わず内心で舌打ちした。
「話を聞いた時はまさかと思ったが、信じてみるもんだな!」
「……………」
「テメェに話しかけてんだよ、無視してんじゃねぇ!」
心底面倒そうに、女性は静かに立ち上がった。
このSAOにおいて肉体は兎も角、顔の造形は現実のものをほぼ完璧に再現している。キリトの女顔然りエギルの厳つい顔然り、そんな数少ない女性プレイヤーの中で美人というのは超S級に匹敵する程レアな存在だ。キリトの知る限り、彼女と同等な女性と云えば『KOB』の『閃光のアスナ』ぐらいなものだ。
つまり、物凄く美人であった。
「ひゅーっ! マジで超マブイんですけど!」
「こんな時化た場所でお祈りなんかしてないで、俺たちと一緒に遊ぼうぜ!」
「そうそう! こんな石塊なんに祈っても意味ないって!」
ぺっと唾を吐き捨て、下品に笑う彼ら。
品性も何も感じられないナンパに思わず呆れていたキリトは、ふと女性と目が合った。いや彼女の方はキリトの方を見てはおらず、一瞬だけ視線が合っただけだ。だが、ゾクッと背筋に悪寒が走るのをキリトは確かに感じた。攻略組として鍛え上げられた直感が、このままでは拙いと即座に判断したのだ。
「おーい! 悪い、待たせちまって!」
思わず声を掛けながら駆け寄った。
軍の連中は振り返ると「何だコイツは」と言いたげな目をし、女性は目をパチクリとさせた。
「タイマーセットしておいたんだけど、思わず二度寝しちゃったよ!」
「え、あの……」
「んじゃ行くか! 確か欲しい素材があったんだよな!」
「……って、待てよ!」
女性の手を掴み立ち去ろうとするが、そうは簡単にはいかない。
我に返った軍の一人がキリトの肩を掴んできた。
「テメェ、後から割り込んでおいて何様のつもりだ? あぁん!」
「割り込むも何も、俺はこの人と一緒に狩りに行く約束をしてたんだ」
「お前みたいな奴一人で何ができるってんだ!」
「ふーん……なら試してみるか?」
「上等だ!」
SAOにはプレイヤー同士による『デュエル』という決着システムが存在する。
理由は様々あれどプレイヤー同士による衝突はよくある。それを円満に解決すべく『完全決着ノーマルモード』、『半減決着モード』、『初撃決着モード』の三つの決闘法が存在する。だがデスゲーム宣言されてからは上記の二つが使われることはなくなり、基本的には一番最後を用いるようになっている。云うまでもなく、
「……おいっ、ちょっと待て!」
デュエルを申し込もうとした男を、仲間が腕を掴んで止めた。
「何だよ?」
「コイツ……『黒の剣士』だ」
「黒の……ビーターか!」
そこで彼らはキリトの正体に気付いた。
こんな場所で弱いプレイヤー相手に威張り散らしていた自分たちとは異なり、単騎でありながら最前線で攻略に望んでいる本物のプレイヤー。そんな相手に勝負を挑んだところで負けるのは目に見えている。
「ちっ! 覚えてろよ!」
負け犬のような捨て台詞を残し彼らは去っていく。
面倒事が帰ってくれたことにホッとすると、女性がスっと頭を下げてきた。
「助けていただき、ありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ」
改めて見ても思う、美少女である。
よく美人を称する際に『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』とあるが、彼女は正にそれと言って良いだろう。特に力強さを感じさせる大きな紫紺色の瞳は、見るものを惹きつける何かがあった。
「……もしかしてキリトさん、ですか?」
「俺のことを知ってるのか?」
「ええ。アルゴさんからお話は聞いてましたので……『死神』について知りたいと」
「ああ。教えてくれ死神について知っていることを」
女性は視線を外すと、空を見上げた。
雲一つない青空を、何処を見てるとも解らぬ瞳で見つめる。
「彼は悪鬼。罪の孔より生まれし者、死を体現せし者。心に宿った復讐の火を絶やす日を夢見ながら彷徨う幽鬼」
復讐――PKに対する憎悪か。
考えられるのは、PKに大切な仲間を殺されたのか。
「それは、止められないのか?」
「もう彼は止まれません。坂道を転げる岩をどうやって止めると?」
「だが、そんなことをしても意味なんてない。死んだ奴は……帰ってこないんだ」
「そうかもしれまんせん。けど、そうしないと彼は生きられない」
人が生きるには何らかの理由が必要である。
死神も当初は復讐する為に戦っていたのだろうが、いつしか生きる為に復讐するようになってしまったのだろう。おそらく本人も本末転倒だと気付いているのに、もはや引き返せない場所まで来てしまったに違いない。
「さて、では私もそろそろ用事がありますので」
「えっ、あ、ちょっと待ってくれ!」
どこかに行こうとする彼女を慌てて引き止める。
他にも色々と聞きたいことはあるが、何より大事なことを聞いてない。
「まだ、何か?」
「ソイツの……死神の名前を教えてくれ!」
プレイヤー名が解らなければ、警戒することも出来ない。
しかしそんなキリトの望みに対し、彼女は静かに首を横に振った。
「それは出来ません。私は貴方のことをよく知りません。幾らアルゴさんの紹介とは云え、貴方がPKではないという保証は何処にもないのですから」
言われてみれば、当然のことだ。
死神はPKを標的としているのだから、それを恨んで逆に命を狙ってくるPKだって居ない訳ではないのだ。もしプレイヤー名を知ったキリトが情報をPKに売りでもすれば、死神は四六時中命を狙われることになる。
「判った。なら一緒に迷宮に挑戦してくれ」
「………は?」
「俺のことをよく知らないから教えられないんだろう? だったら話は簡単だ。俺とパーティを組んで一緒に冒険すればいいんだ。俺はこれでもレベル70を超えている。一人ぐらいだったら守ってでも進むことはできる。因みにレベルは?」
「え、っと……58です」
「そんだけあれば十分だな!」
「……本気、ですか?」
「おうよ!」
キリトの返事に、女性は呆れたようにため息をこぼす。
「……分かりました。パーティを組ませて頂きます」
「宜しくな!」
そう言ってキリトは手を差し出し、彼女は握り返した。
「あっ、そういや名前聞いてなかったな」
「……言ってませんでしたね。エールです。宜しくお願いします」
こうして二人はパーティを組むこととなった。
この出会いがどのような結末を生むのか、それは誰も知らない。
念の為に伝えておきますが、オリ主xキリトではありません。
いえ、だからとてキリトが攻めだとか、そういう話ではありませんので。
またオリ主の戦闘能力はキリトよりも上です。
理由としましては、サチが生存したことにより彼が無茶なレベル上げを行わなかったので。背教者ニコラスのイベントは他の方が攻略いたしました。