ソードアート・オンライン-Phantom pain 作:轟th
本当に久しぶりの投稿だというのに、ありがとうございます。
現在執筆中の第七話も、無事に書き終えられそうです。
連続投稿など初めての試みですが、問題はその後なんですよね。
では、本編をどうぞ。
キリトとエールがパーティを組んだ翌日。
二人は迷宮を攻略すべく七十ニ層……ではなく、それより二十四階も下にある四十八層にある主街区リンダースを訪れていた。というのも迷宮攻略を前に、エールがそろそろ防具をメンテしておきたいと口にしたからだ。
この世界がゲームである以上、武器や防具には耐久値が設けられている。基本的に数値がゼロになると壊れてしまうのだが、鍛冶屋などに持っていけばコルや素材を消費する代わりに耐久値を回復してもらえる。因みにボスドロップなどで他に入るレア武器などは耐久値の設定がされてないので壊れる心配はない。
「ここだ!」
そう言ってキリトが案内したのは、川の畔にある水車小屋だった。
扉の上には大きく、「リズベット武具店」と書かれた看板が掲げられている。
「幾つか鍛冶屋は知ってますが、ここは始めです」
「ここの店主のリズ……リズベットは鍛冶屋であると同時に熟練のメイス使いでもあるんだ。俺も結構世話になっているし、攻略組の中にも常連になっているプレイヤーもいるから鍛冶屋としての腕は保証するよ」
行こうぜ、と言ってキリトは店内に入って行く。
エールも続いていくと、建物の中は武具店と云うだけあって多種多様な武具が陳列している。
「いらっしゃいませ! あら……キリトじゃない!」
「おーっ、今日も精が出るな。リズ」
キリトは店主と思しき少女と会話する。
二人の様子を黙っていたエールだが、実のところ驚いていたのだ。予想ではもう少し厳つい人物を予想していたが、それとは正反対の気さくな感じの少女である。常連ファンがついているのも彼女の人格故かも知れない。
「あれ? もしかしてお客さん?」
「初めまして。エールと言います」
「……………」
「リズ?」
「えっ、あっ、店主のリズベットです」
呆然としていたリズベットは、慌てて挨拶を返す。
友人と同じくらいの美貌を持った人物を前に、思わず惚けてしまったのだ。
「ちょっとキリト、こんな別嬪さんを何処で引っ掛けてきたのよ」
「そんなんじゃねぇよ」
「はぁ、これじゃあサチも苦労するわ。この女たらし」
「誤解だ! エールとは昨日出会ったばっかりだ!」
「昨日の今日で手を出すなんて……幾ら何でも手が早すぎない?」
「ちげぇっ!」
店内にキリトの絶叫が響き渡る。
そこへ二人のやり取りを静観していたエールが、リズベットの肩を叩いた。
「リズベットさん、私とキリトさんは本当に男女の関係ではありません。例えどちらかにその気があったとしても、物理的に・・・・不可能ですので。そういった心配は無用ですのでご安心ください」
「へ? どういうこと……?」
「さぁ? 俺にも分からん」
「んー……リズベットさん、ちょっとこちらに」
エールはリズベットの手を掴むと、部屋の片隅に移動する。
そして何やらキリトに聞こえないように、リズベットに耳打ちする。
「えっ? 嘘!?」
リズベットは目を限界まで見開く。
信じられないと云いたげな表情を浮かべ、エールをマジマジと見つめる。それからリズベットが何かを呟くと、それを肯定するように頷いてみせる。すると話は終わったのか、ショックを受けた様子でリズベッドが戻ってくる。
「おい、大丈夫か?」
「……キリト、神様って不公平だよね」
一体何を話していたのやら。
しかしこのままでは話が進まないので、キリトは咳払いを一つした。
「えーとな、リズ。今回はエールの防具をメンテして欲しいんだ」
「……いいわ。見せてみて」
エールは防具一式を外し、それをリズベットに渡す。
胸部を守る三日月状の銀色の防具『クレセント・アーマー』、布と薄い金属で作られた防刃性能の高い布鎧『メタル・ジャケット』、上太股まである急所に硬い素材を配置したブーツ『フェザー・ブーツ』、片方だけ装備された幸運度を上昇させる『フェアリー・イヤリング』。どれも一級品だと一目で解るが、製作者の銘が入っていないのはこれらが迷宮内にて手に入ったレアアイテムということだ。
「これだと直ぐに修理できるわね」
「おっ、良かったじゃないか」
「ただ……使う素材が一部高騰しちゃってね、少し値が張るのよ」
「構いません。それに素材でしたら私が提供できますので」
そう言うなり、アイテムウィンドウを他人にも見えるように可視モードにして示した。キリトたちが訝しげに覗き込んでみると、修理や鍛冶に用いるアイテム――中でも重要度の高いインゴッドが相当数ストックされている。
これには思わず、二人共言葉を失った。
何しろ、インゴットの中にはキリトとリズベットが命懸けで手に入れた『クリスタライト・インゴット』までも含まれていたのだ。エールがソロで挑んだのかは定かではないが、自分たちの苦労が馬鹿馬鹿しく思えてしまう。
「これで修理して頂けませんか?」
「……コルは要らないわ。代わりに、私と専属契約をして!」
「……はい?」
聞き覚えのある台詞だと、キリトは苦笑いした。
かつてキリトが彼女に鍛冶の依頼をした時も、リズベットは代金を受け取らず代わりに自分を専属スミスにして欲しいと言ってきたのだ。以降、キリトは迷宮を一つ攻略する度に装備のメンテをしに店へと足を運んでいる。
「つまり、定期的に素材を持ってきて欲しいの。相応の値段で買い取らせてもらうわ」
鍛冶に必要なインゴット。
リズベットもまた棍使いであるので自分で素材を取りに行くが、急な仕事などで時間がなければ近場で購入してくることもある。確かに後者の方が安全ではあるものの、その分それなりの費用が掛かってしまう。未だ借金が残っているリズベットとしては、出来るだけ必要経費は抑えたいと思うのは当然ということだ。エールから購入しても同じではとも考えられるが、普通に商人を通すと場合によっては三倍近くもの値段で吹っかけられることもある。プレイヤーから直接ならその分安上がりで済むのだ。
「んー……いいですよ」
「本当! だったらフレンド登録しましょう」
そうしてリズベットとエールはフレンドとなる。
それから装備のメンテナンスをしている間、キリトは気になったことを訊ねた。
「なぁ、どうしてあんなに素材を持ち歩いているんだ? 鍛冶屋スキルを持っているなら話は別だけど、そうでないなら普通は直ぐに売り払うだろう。それとも毎回、修理の依頼する時に提供してるのか?」
「そういう訳じゃないですけど……ちょっと、理由がありまして」
言いにくそうに頬を掻く。
キリトに人に言えない秘密があるように、エールにもあるのだろう。
「よし、行くか!」
「はい!」
準備を整え、キリトたちは七十二層の迷宮区へと突入した。
全ての迷宮に共通していることだが、最上部に次層へと続く階段が用意されている。しかし迷宮を突破すれば誰もが登れる訳ではなく、その前にはボスエネミーが陣取っている。これを撃破して階段の先にある主街区に到達し、そこの転移門を解放することで始めてワンフロアをクリアしたことになる。
この第七十二層の攻略が始まってから既に五日目。迷宮区の大部分が攻略済みであり、残すはボスのいる大部屋を発見して討伐するのみ。とは云ってもボスを発見してからが本番で、偵察に偵察を重ねてからボスに挑むのが定番だ。回りくどいと思われるかもしれないが、これまで地道な作業を繰り返してきたからこそプレイヤーたちは生き残ってこれたのだ。
「初めに言っておくけど、今回はボスを発見するまでだ。できれば弱点なんかも調べておきたいところだが、危険だと判断したら無理せずに撤退する。街に戻ったらマッピングした地図やボスの情報を公開する。構わないな?」
「ええ。別に今回でこのフロアを攻略しようとは思ってはいません。今回の同伴も、キリトさんの為人を私が知るためのものですから、手に入れた情報をキリトさんがどう扱ったとしても貴方の自由ですので」
方針も確認し、奥へと進んでいく。
道中、何体ものモンスターが襲いかかって来たが、何ら問題はなかった。今も二人が相手にしているのは『シルバーウルフ』の名を冠する真っ白な毛並みをした狼だ。このモンスターは個の強さは階層の割に高くはないが、代わりに群れで襲いかかってくる。“一頭見かけたら周りには必ず二十頭はいる”という言葉が生まれたほどだ。
しかし如何に数が多かろうと、所詮は雑魚に過ぎない。
「はぁっ!」
二人は慣れた様子で狼を倒していく。
しかしその最中、キリトはエールの戦い方を見て唖然としてしまった。
「せやっ!」
飛び掛ってきた狼の顎へ、エールは思いっきり足を蹴り上げる。
この世界にはソードスキル以外にエクストラスキル『体術』が存在していて、それをエールが習得していたとしても別に何ら不思議はない。しかし、今のエールの放ったのはスキルによる攻撃ではなかった。つまり純粋な足技だ。
だがスキルによるものならいざ知らず、攻撃として設定されていない蹴りでは相手にダメージを与えることは出来ない。しかしエールは構わずバランスを崩した狼の首を空いている方の手で鷲掴みすると、残ったもう一頭の方へとぶん投げた。基本的にモンスターは最初に設定されたAIに従って行動し、戦いを繰り返すことで学習していく。
無論、狼の中に仲間がぶん投げられるという状況など想定されていない。なので突然の出来事に対して硬直し、飛んできた同胞を避けられずにぶつかってしまう。そして縺れて体勢を崩したところへ、エールの『ヴォーパル・ストライク』が二頭まとめて貫く。
「終わりましたよ、キリトさん」
消え去るポリゴン郡を背に、エールはそう告げる。
片手剣使いの割に盾を装備していないことが不思議だったが、成る程確かにあんな風に手を使うのなら盾は寧ろ邪魔だ。てっきりエールは華麗に戦うとばかり思い込んでいたが、実際には苛烈としか言いようがないものだった。
「……随分と、足癖が悪いんだな」
「ええ。使えるものは使いませんと」
生き残る為に。
キリトにはエールがそう言ったように聞こえた。
「さぁ、進みましょう」
「……ああ」
再び二人は奥へと進んでいく。
途中、小休止を取りながら確実に前へと進んでいく。焦ったところでゲームが直ぐにでもクリアされる訳ではなく、おまけに一歩間違えれば命を落としかねない罠もあるので慎重に迷宮区を踏破していく。
やがて二人は奇妙な回廊へと到達する。先程までの通路とは材質が異なり、まるで洞窟を掘り進んで作ったような通路が送まで続いている。横道はない一本道の両側には等間隔で台座が設置されていて二人が台座の傍を通るたびに、ボッと赤い炎が燃え上がり通路を怪しく照らす。そして最奥には巨大な二枚扉が立ち塞がり、扉の前に立つ者を威圧する。とよく見れば扉の上部に何か文字が彫り込まれている。
「何だ? 英語……じゃなさそうだ」
「Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate.」
エールが流暢な発音で言葉を読む。
「『汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ』……ラテン語ですね」
「……お前、ラテン語何て読めるのか?」
「いえ、これは『神曲』の地獄編に登場する地獄門の門の頂に記された銘文の一節なんです」
神曲は、イギリスの詩人ダンテの代表作。
地獄篇、煉獄篇、天国篇の三部から成る全14233行の韻文による長編叙事詩であり、宗教的体系のなかで特別な意味を持つ聖数の3を基調とした極めて均等のとれた構成となっている。内容としては主人公のダンテが三界を巡って旅をし、最後には神の坐す至高天へと至る物語だ。ただし非常に難しいので高い読解力が求められる。
「にしても地獄ねぇ……この先に何が待ってるんだ?」
「あるいは最初の設定が残っているだけか」
「鬼が出るか蛇が出るか……試してみようじゃないか」
二人はいつでも逃げられるよう、『転移結晶』を片手に持ちながら目の前にそびえ立つ扉を押し開けた。重厚な分厚い扉は、二人が慌てるほどに滑らかに開いていく。そこには十数本の燭台に囲まれた円形の大ホールがあり、ボスらしきモンスターの姿は見受けられなかった。何処にいるのかとキリトが目を凝らしていると、何やらモンスターらしき影があった。
しかし、それにしては余りにしょっぱい見た目をしている。これまでキリトは幾度かボスモンスターを目にしてきたが、これまで貧相なボスは今までに見たことがない。はっきり言ってここまでの道中に出た雑魚の方が百倍は歯ごたえがあるだろう。これが本当にボスモンスターなのかと疑っていると、それは降ってきた・・・・・。
「な……っ!」
其れは正に、騎士そのものだった。
中世の騎士のよう形をした、ワインのように朱く染まった甲冑を身に纏っている。その体躯はボスモンスターとしては中型に位置する大きさだが、キリトたちが何よりも目を奪われたのは騎士が手にする巨大な剣だった。
それは剣と云うには、余りにも大きすぎた。
大きく、分厚く、重く、そして何よりも大雑把すぎた。
それは正に鉄塊としか呼べない代物を、騎士は軽々と片手で担ぐ。
「………」
キリトは、恐る恐る目を凝らしてみた。
『
「……逃げることを提案する」
「……それには全面肯定します」
ダッ、と騎士がその巨体に見合わぬ速さで迫ってくる。
しかし同時に、キリトたちもまた部屋に背を向けて全速力で逃げ出した。
私も昔、一度だけ神曲に目を通したことがあります。
中学生ぐらいの頃でしたが、はじめの数ページで挫折したのを覚えています。もちろん日本語訳されていましたが、正直言ってわけわかめという状態でした。たぶん今読んでも難しいと思います。
エールの装備するイヤリングが片方だけなのは訳ありです。
本来は二個一対の代物ですが、ある理由から片方しかありません。
その理由もまた、いずれ。
クリック? クラック! また来週!