ソードアート・オンライン-Phantom pain 作:轟th
聞けば本が全品割引されてたとか……寝てたよ。寝て過ごしたよ。
いや、言い訳をさせて欲しい。
疲れていたんだ。だから午後から寝て起きたら夜になってたんだ。
では、本編をどうぞ。
あれから一ヶ月が過ぎた。
迷宮区から撤退した二人は予定通りに情報を公開し、それにより編成された斥候部隊がボスの情報を集めたことで二日後には大規模なボス討伐が行われた。エールは参戦しなかったので詳しくは知らないが、何とか脱落者を一人も出すことなく無事に突破したとの報告を後から風の噂で聞くこととなった。そして現在では七十四層まで無事にクリアすることができ、近々七十五層のボス討伐の参加者募集が行われる。
しかし元の日常へと戻ったエールは、今日もまた石碑に祈りを捧げていた。
「……………」
「おぉ、相も変わらず献身的だねぇ」
そんな姿を皮肉るような言葉が届く。
しかし周囲には人影はなかったが、エールは静かに目を開けた。
「……ブラック」
「クックク、親しみを込めてジョニーって呼んでくれよ」
愉快そうに、喉を震わせて笑った。
姿なき声の主に、エールは動じることなく言葉を返す。
「ブラック、こんな場所に何の用だ? 貴様には縁のない場所だ」
「んー? 俺が捕まれば黒鉄宮送りになるが?」
「それはない。その時はお前は死ぬだけだ」
「やっぱり……お前は最高だな!」
高笑いするジョニー・ブラック。
命を狙われていると云うのに、何とも嬉しそうである。
「だが、ヘッドからは禁止されてる。今日はただお知らせに来たんだ」
「知らせ?」
「近々、俺たちはまた動く。『ラフコフ』にプレイヤーたちは恐怖する!」
ラフコフ――
ゲームオーバーが現実の死に直結するSAOにおいて、最も猛威を振るったPK――PoHにより結成された最凶最悪の快楽殺人集団である。2024年の元旦に結成されてから今日に至るまで、100名以上ものプレイヤーを殺害してきた。最近では警戒が強まったからか鳴りを潜めていたが、再び活動するつもりのようだ。
「その時は、お前たちは私の名に畏怖するだろう」
「ああ、楽しみだ。お前の綺麗な喉をカッ捌き、血の花を咲かせてやる」
「やってみろ」
「クックク……そう言えば、この間は随分と楽しそうだったなぁ? どういう心境の変化だ。あのビーターと一緒に迷宮に挑むなんて、お陰でザザの奴が気が気じゃなかったぜ? お前もアイツを狙ってるんじゃないかってな」
「お前たちと一緒にするな」
「ザザにはそう伝えておくよ」
そう言い残し、気配は去っていく。
残されたエールはただ、冷たい表情を浮かべていた。
「それで、どうだったんだ?」
「あー、まぁ……何ともなぁ」
十月のある日のこと。
いつものようにエギルの店に来ていたキリトだが、特に物品の売買もすることなくカウンターに寄りかかってエギルと駄弁っていた。いや、売るものがない訳ではないのだが、ちょっと愚痴に付き合ってもらっているのだ。
「結局、『死神』の名前は教えてもらえなかったのか?」
「流石に一回、一緒に冒険しただけじゃダメだった」
エールとの冒険を終え、キリトは当初の目的を果たそうとした。
しかし自分を知ってもらうには時間が足らず、結局は
「まぁ、俺が忠告しておいて何だが……無茶はするなよ?」
「解ってるよ。ところで……それは買い取ってもらえるのか?」
「あ? ああ、これか」
エギルの意識は目の前のトレードウィンドウにもどる。
そこにはキリトが売ろうとした――S級食材『ラグー・ラビットの肉』が表示されていた。この
「いいのか? 二度と手に入らないかもしれないぞ?」
「そうだけどさ……サチも俺もそこまで料理スキル上がってないんだ」
食材を調理するには、料理スキルが必須となる。
普通に暮らしていくだけなら、そこまで上げておく必要はない。キリトのように攻略組ともなれば尚更であり、最近になって料理するようになったサチもS級食材を調理するほどの
「そうだ。だったらアイツに頼んでみたらどうだ?」
「アイツ? それって……」
「エールのことだよ。確か料理スキルがカンスト間近だったはずだ」
そこへ、タイミングを見計らったように店の戸が開かれる。
二人が振り返ってみれば入口にいたのは話題の人物――ではなく、華麗な容姿をした細剣使いの女性プレイヤーだった。それが誰か知っているキリトは、彼女が何かを言う前にその手を取って呟いた。
「シェフ、確保」
「な、なによ急に」
訝しげに女性は返す。
彼女の名はアスナ、このSAOにおいて数少ない女性プレイヤーの一人だ。その美貌は中でも群を抜いており、ゲームに例えるのならS級に匹敵する程のレアだ。おまけに『
「アスナ、たしか前に料理スキルを上げてるって言ったよな? 幾つだ?」
「フッフフ、聞いて驚きなさい。先日、『
聞いておいて何だが、馬鹿だろうと思った。
しかしコンプリートしているのなら、話は早かった。
「その腕を見込んで、これを調理してくれ」
「なに? ………ってこれ! S級食材じゃない!」
「ああ。引き受けてくれるなら味見させてやる」
といった所で、アスナはキリトの胸ぐらを掴んだ。
グイッ、と自分の方へと引き寄せると静かに要求する。
「は・ん・ぶ・ん」
「……せめて三分の一でお願いします」
一瞬、頷きかけたが何とか堪る。
ここで頷いてしまえば、ホームで待っているサチの分がない。
「いいわ。交渉成立ね」
「……分かったよ」
「な、なぁキリト。俺たち、親友だよな?」
「悪いな。後で感想を聞かせてやるから」
「そりゃないだろう!」
うぅっ、とエギルが男泣きする。
とそこへ再びベルが鳴り、今度こそ入ってきたのはエールだった。
「あれ? エギルさん、どうかなさったんですか?」
「あー、気にしないでやってくれ。それよりエール、運がなかったな。もう少し早く来ていたらお前に頼んでいたところだったんだが……まぁ今回ばかりは諦めてくれ」
「はい?」
「いや、昨日なS級食材をゲットしたんだ。んで、それの調理をそこにいるアスナに頼んだ」
「S級食材……キリトさんも手に入れたんですか?」
「ん? もって、どういうことだ?」
返事の代わりに、エールはウィンドウを可視モードにする。
そこには数ある食材の欄の中に、同じく『セジール・セリオラの切り身』と表示が出ていた。キリトの持っていた物とは別物なれど、それもまた立派なS級食材の一つであった。こちらは釣りでのみゲットできる食材。
「なっ!?」
「エール、もしご馳走してくれるなら店にある食材好きに持って行ってくれて構わない」
「? 別に構いませんけど……」
「よっしゃぁっ!」
復活したエギルがガッツポーズを決める。
状況が今一理解できず首を傾げていると、エールの肩をアスナが叩いた。
「ねぇ、折角だから一緒に食べない?」
「おっ! それいいな。エギルも構わないだろう?」
「もちろんだとも!」
「サチもたぶん、大丈夫だし……エールはどうする?」
「私も別に構いませんが……」
こうして小さいながら食事会が決定した。
場所は61層にあるアスナの家で行なうこととなった。
「わぁ、素敵なお家ですね!」
家に入るなり、サチは感嘆の声を上げた。
アスナのホームは美しい造りのメゾネットの三階にあった。広いリビング兼ダイニングはキリトたち五人がいても十分な広さがあり、ハッキリ言ってキリトのホームが豚小屋に見えてしまうのは仕方がないのかもしれない。
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
「これだけ揃えるのは相当かかるのでは?」
「うーん、大体四千Kくらいだったかな? ちょっと着替えてくるわ」
そう言ってアスナは奥の部屋へと入って行く。
Kとはコルの略ではなく、千を意味する単位である。つまりアスナの言う四千Kとは、四百万コルということになる。キリトとて最前線で戦っているのでお金自体は持っているが、良さそうな武器や怪しげな装備品を見付けると買ってしまうので貯金は殆どない。彼に養ってもらっているサチも何も言ってこないので、ついつい衝動買いしてしまうのだ。ただ目の前の現実に思わず自省しなければと柄にもなく考えてしまう。
「そういやエールは何処に暮らしてるんだ?」
「私ですか? 私は八層のフリーベンで暮らしてます」
「随分と下だな。レベルを鑑みれば、この階層でも暮らせるんじゃないのか?」
「お金自体には余裕がありますが……あそこには思い出があるので」
それ以上は何も言わなかった。
キリトもそれ以上は聞かず、暫くすると簡素な短衣と膝上丈のスカートに着替えたアスナが戻ってきた。やはり美少女なだけあって、どんな格好をしていても似合う。エールと並んで立つとアイドルにすら見えてしまう。
(いや、もちろんサチも似合ってるが……って、何を考えてるんだ?)
「キリト君も、いつまでそんな無骨な格好でいるの?」
「え? ああ、そうだな」
キリトも慌ててコートや剣帯などの装備を解除していく。
幾らこの世界が現実と酷似しているとは云え、着替えの際には実際に服を脱いだり着たりする訳ではない。ステータスウィンドウの装備欄をチェックするだけだが、着替える時に数秒間だけ下着姿になってしまうのだ。人目を気にしない野郎ならいざ知らず、女性はそうはいかない。例え今の肉体が仮初のデータでないとしても、流石に二年間も付き合っていれば認識は薄れて現実との差異を感じなくなってくる。
「っと、これが例のS級食材だ」
キリトはアイテムをテーブルの上に実体化させる。
オブジェクトとして姿を現したそれは、どうみても一本の骨を覆う巨大な肉塊だった。しかも実際のラグー・ラビットのサイズを鑑みると、どう見ても肉塊の方が大きく感じられる。いや深くは考えてはいけないのだろう、きっと。
「ではこちらも」
続いてエールも食材を出現させる。
とは云え元のサイズが相当なので、切り身でもそれなりのサイズである。
「それで、どんな料理にする?」
「やっぱりシチューがいいんじゃないかな?
「ならこちらは、
アスナとエールはそれぞれ食材を手にキッチンに向かう。と流石に同じ女性として何も手伝わない訳にはいかないと、サチもキッチンへと向かっていく。残ったキリトとエギルの男性二名は大人しくソファに腰掛けて料理を待つことにした。
「前から思っていたが、キリトの周りには女性が多いな。今だってこの状況は傍から見れば所謂ハーレムってことになるだろうしな」
「何言ってるんだよ。エギルだっているだろう?」
「俺はほかの女性には靡かない。何しろ妻がいるからな」
「妻って……エギル既婚者だったのか!?」
思わぬ発言にキリトは驚愕した。
前々から随分と落ち着いていると思ったが、年長者なのが理由ではないらしい。
「言わなかったか?」
「聞いてないっての。クラインが知ったら号泣してるぜ」
「その前に、キリトの環境を見たら血涙してるな」
違いない、と他愛のない話を続ける。
五分ほどするとリビングのテールには所狭しと食器が並べられ、食欲を刺激する料理の香りが室内を満たしていた。ラグー・ラビットのシチューをメインにセリオラのマリネ、サラダにフランスパンという献立だ。
「それじゃあ、頂きます!」
「「「「いただきます」」」」
それから数分間、五人は黙々と料理を食べ続けた。
五人は実際には料理を食べている訳ではなく、ナーヴギアに組み込まれた『味覚再現エンジン』というシステムにより脳が刺激されているに過ぎない。現実世界ではきっと食事などまともにしてはおらず、ただ点滴から流し込まれる栄養素を取り込んでいるだけだろう。しかし五人は久しぶりのご馳走を堪能し続けた。
「あーっ、美味かった。ごちそうさん!」
「こんなに旨いもんは久しぶりだ」
腹を満たした五人は、アスナの用意したお茶を飲む。
ハーブティーのようだが、透明な容器の中には華のようなものが浮いている。
「不思議ね。何だかこの世界で生まれて育ったような……そんな感じがする」
「私も……現実の世界が、夢だったように思えます」
「そうだな。本気でクリアを目指そうとしている連中も減ってきている」
「中層ゾーンの中にも、より良い生活をする為に冒険している奴もいる」
「みんな、この世界に馴染んできている」
五人は思い思いに感じたことを口にする。
二年、一万ものプレイヤーがこの世界に閉じ込められて二年が過ぎた。最初はこんなデスゲームから直ぐに脱出してやると生き込んでいた連中でさえ、少しずつではあるが仮想世界に慣れてきてしまっている。確かに無理に攻略さえしようとしなければ、この世界は現実に比べたら圧倒的に暮らしやすい場所である。学校もなければ会社もなく、ちゃんと食事さえとっていれば楽に生きていくことが出来る。
「けど、私はなんとしても現実に戻るわ」
「俺もだ。何しろ向こうに大切な人を待たせているからな」
アスナとエギルは力強く答えた。
それにキリトとサチは口にしないながらも気持ちは同じであった。
「それでねキリト君、エールさん。一緒にパーティを組まない?」
そう言ってアスナは笑いかけてきた。
ジョニー・ブラックの喋り方については突っ込まんで下さい。
私の彼に対するイメージ……ちゃらいキャラとなっております。
アニメでの口振りからしても、間違ってはいないと思っている。
因みにエールは職業系のスキルも幾つか習得しています。
料理スキルはカンスト済み、釣りも700越えとなっております。
クリック? クラック! また来週!