ソードアート・オンライン-Phantom pain 作:轟th
やはり何ら代わり映えのない日常が続いている現在。
平穏は何よりも大切だけれど、やはり刺激を求めてしまうのが人間。
そして毎日、ニコ動を見ている私。
何やってるんだろうなぁ、としみじみ思う。
↑書く事が何も思いつきませんでした。
では、本編をどうぞ。
「……遅いな」
「……遅いですね」
食事会の翌日、七十四層主街区カームデット。
その転移門の前にて、キリトとエールは待ち人が来るのをまっていた。
「約束の時間、九時だったよな?」
「ええ、それで間違いありません」
「……とっくに過ぎてるよな?」
「十分ほど前に」
次々と攻略組の面々がゲートから現れては迷宮に入って行く。
しかし約束のある二人は、迷宮区に入れずに転移門の傍に立っている。
「誘った本人が遅刻ってどうなんだ?」
「女性は総じて準備に時間が掛かるものですよ」
二人がここにいるのは、全ては昨夜のアスナの一言からだった。
第七十層を越えた辺りからモンスターのアルゴリズムにイレギュラー性が増して来ていた。これまでだったならば一度でもパターンを覚えれば倒すのは楽だったが、最近ではCPUの行動パターンが読みづらくなってきた。これが単に最初からの設定によるものか、あるいはシステムが学習した結果なのか。後者だった場合には、雑魚でさえボス並に厄介なモンスターが出てくる可能性も出てきてしまう。
そこでアスナは三人での迷宮区に潜ることを提案してきた。ソロの場合だと緊急時の出来事に対処できない状況があり、いつでも緊急脱出できるわけではない。なのでコンビないしトリオを組むことで死亡するリスクを減らそうと考えたのこと。
付け加えると、ボス攻略編成パーティーの責任者としてソロの実力も把握しておきたい。
拒否しようとしたキリトの眼前にナイフを突き付けたりもしたが、気にしないでおこう。
「どうする? まだ待つか?」
「そうですね……十五分までまって来なかったら、アスナさんのホームに行きましょう。もしかしたら何かしらのトラブルに巻き込まれているのかもしれません」
「おいおい仮にも閃光様だぜ? 大概のことなら自力で何とかするだろう」
「それでも、アスナさんは女性なんですから」
「はぁ、分かったよ。あと五分な」
渋々、キリトも了承する。
早く来ないかと思いながら本日三回目の準備の確認をしていると、再び転移門が光り輝き始めて誰かが転移してきた。特に期待もせずキリトがぼんやりと視線を向ければ。
「きゃああああ! 避けてぇぇぇっ!」
「ぬぁあああああっ!?」
転移者はどうやら転移門に飛び込む形で移動してきたらしく、慣性の勢いをそのままに近くにいたキリトに体当りしてしまう。そのまま二人はゴロゴロと地面を転がり、栗色のロングヘアをした女性に下敷きにされたキリトは起き上がろうとした拍子に相手の胸に触ってしまい、強烈なビンタを受けて後頭部を再び石畳に打ち付ける。
まるで一昔前のコントのようなやり取りに、エールも対処に困る。
「えーと、お二人共大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう……まずい!」
助け起こされるなり、アスナはエールの背後に隠れた。
そこへアスナを追ってきたと思しき相手が、転移門から姿を現した。そのプレイヤーはアスナと同じ仰々しい純白のマントに赤い紋章の入った血盟騎士団のユニフォームを着込み、見るからに実用的ではない装飾華美な鎧と両手剣を装備した長髪の男だった。歳は二十代前半といった所のように思えるが、顔の皺のせいで老けて見える。
「……アスナ様」
どうやら彼はアスナを追ってきたらしい。
状況から見て、彼女はこのプレイヤーから逃げてきたようだ。
「副団長ともあろう方が、勝手な行動は慎みください!」
ヒステリック気味に男は叫ぶ。
アスナはエールの背後に隠れながら叫ぶ。
「か、勝手なことって……今日は活動日じゃないでしょう! 大体、アンタなんで朝から私の家の前で待ち構えていたのよ! まさか昨日の晩から立ってたんじゃないでしょうね?」
「何をバカなことを……一か月前から早朝より監視の任についておりました」
「……ストーカーじゃん」
誰がどうみてもストーカーだ。
しかも粘着質タイプと、一番質の悪い輩に誰もが呆れる。
「私はストーカーなどではない!」
「そ、それ……団長の指示じゃないわよね?」
「私は貴方の護衛です。であれば朝から晩まで警護するのは当然!」
「じゃないわよバカ!」
アスナも大分、感情的になっている。
それに護衛はより苛立ちの表情を浮かべ、エールたちの方へと近付いて来る。
「聞き分けのないことを言わないで下さい。さあ、本部に戻りますよ」
「嫌よ!」
アスナの腕を掴もうとする男の手を、エールが弾いた。
そこでようやく、護衛の目が自分の前にいるエールへと向けられた。
「何だ、貴様は」
「嫌がっている女性を力尽くで連れて行くのは感心しないな」
「部外者は黙っていてもらおう!」
「んー、そうもいかないかな。今日、貴方のところの副団長様は私とそこにいるキリトと一緒に冒険する約束をしているんだ。聞けばKoBの活動予定はないんだろう? だったら先約を優先するべきじゃないか?」
正論を並べる。
しかし、この護衛に通じるとは思っていない。
だから――。
「男なら、黙って剣でケリを付けたらどうだ?」
エールは腰の長剣を引き抜くと、もう片方の手で素早くウィンドウを操作する。
すると護衛の目の前に、半透明なシステムメッセージが出現する。内容はエールから護衛に対してのone-on-oneによる決闘の申し込みだ。それに男は目を見開いたが、直ぐに下にあるYESボタンを選択して決着方式を選択する。どうやら『初撃決着モード』を選択したらしく、頭上に六十秒のカウントが表示される。これがゼロになると同時に、二人は勝敗が決するまで剣を打ち合うこととなる。
護衛が準備している間に、エールはアスナへと振り返った。
「今更だけど、ギルドの問題になりませんよね?」
「え、うん。団長には私の方から報告しておくわ」
「なら良かった。離れていて下さい」
二人は五メートルの間を距離をとり向かい合う。
カウントを待つ間にも、騒ぎを聞きつけた他プレイヤーたちがエールたちを囲うようにしてギャラリーとして集まってくる。例えエールの名が知られてないとしても、相手がKoBのメンバーともなれば誰もが気になるのは当然のこと。そんな中に心配そうに自分を見守るアスナとキリトに微笑みかけてから、エールは意識を切り替えた。
護衛の手にしているのは両手剣。構えや前傾姿勢なことから突進系の上段攻撃を仕掛けてくるのは明白だ。とは云っても上位の実力者ともなればフェイントをし、攻撃の瞬間に別のスキルを発動してくることもある。とは云え相手の行動をバカ正直に信じていては、エールとてここまで生き延びてはいない。
対してエールは左足を下げて右足を前にだし、腕を左に下ろして切っ先を正面下に下げた構えを取ってみせた。これにはギャラリーたちもざわついた。何しろどうぞ斬ってください、と云っているようなノーガードにしか見えなかったからだ。これには護衛も訝しげに眉をひそめたが、関係ないと顔を引き締めた。
やがてカウントは一桁となり。
『DUEL!』
頭上で紫色の閃光が弾けた。
それと同時に護衛はソードスキルを発動させた。彼が選択したのは両手用大剣の最初に解放される上段ダッシュ技『アバランシュ』、前方向に走り込んでから振り降ろす斬撃。下手に受け止めようとすれば、ガードの上から押し潰されてしまう。例え上手く受けられても硬直が入り、その間に使用者は突進力により体勢を立て直す程の距離を稼げる。序盤に使える技としては使い勝手がとてもいいので重宝できる。
だが、エールの選択は防御でも回避でもなかった。
右手を軸に左手で柄尻を押し下げ、テコの応用で切っ先を素早く持ち上げた。先端が護衛へと定まるのと同時に、片手剣突進技『ヴォーパル・ストライク』を放った。二メートルはあった互いの距離は急激に縮まり、衝突は不可避となった。
これには護衛の男も焦った。てっきり自分の攻撃を誘発してからのカウンター狙い、それも下からの斬り上げとばかり思い込んでいた。しかも向こうが突っ込んできたことにより、こちらの攻撃するタイミングは外されている。
(だが……)
エールも焦ったのか、距離がまだある。
この間合いでならスキルを放てば十分に必殺の間合いであり、護衛はオレンジ色のエフェクトを纏った大剣を撃ち出した。眼前へと迫る大剣にアスナもキリトも肝を冷やす中、エールは静かに笑って――剣を手放した。
仕手を失っても尚システムの補正によりスキルの軌道をとり続ける長剣は、プレイヤーという重しを外したことにより更なる加速でもって飛翔する。そして大剣がエールの額を割るより早く長剣が護衛の腹を貫く。
「がはっ――!」
凄まじい勢いでHPゲージが削られる。
攻撃が当たった衝撃で手元が狂ったのか、護衛が放った一撃はエールを逸れて隣の石畳を砕くのみとなった。誰もが何も言葉を発せない中、エールは護衛に突き刺さった長剣を引き抜くと腰の鞘へと収めた。そこでDUELの決着と勝者を告げる紫色の文字列がフラッシュし、ワッという歓声が観客から上がった。
護衛はフラフラと立ち上がると、ギャラリーの列へと向かって喚く。
「見せもんじゃねぇぞ! 散れ、散れ!」
それからエールの方へと振り返った。
その目は血走っており、屈辱だと云わんばかりの表情だ。
「貴様……必ず、殺す。殺してやる」
エールはその目を、よく知っていた。
これまで幾人も同じ目をしたプレイヤーを見てきたからだ。
そして、その手の輩がどのような結末を迎えたかも。
「お前のような女が、調子に乗るなよ!」
「クラディール、血盟騎士団副団長として命じます。本日を以て私の護衛の任を解きます。別命があるまで本部で待機していなさい。以上」
「なっ……!」
冷たく、有無言わせぬアスナの声が響く。
護衛の男クラディールはわなわなと唇を震わせたが、マントを翻すと懐から転移結晶を取り出して「転移、グランザム」と呟く。青白い光に包まれて消えると、広場には何とも云えない沈痛の静けさが広がった。
「さてと……キリトさん、アスナさん。移動しましょうか」
「そうだな。落ち着ける場所に行こう」
「……ええ」
三人はそそくさと広場から離れていった。
「二人共、ごめんなさい」
移動するなり、アスナは頭を下げた。
まさか謝られるとは思ってもみず、エールとキリトは顔を見合わせた。
「気にすんなよ、アスナ」
「そうですよ。むしろ私の方こそ申し訳ありません」
今度はエールが謝る。
あの時、アスナを連れて行かせない為に決闘を申し込んだが、おそらくはもっと利口なやり方も他にあっただろう。そうではなく性急な行動に走ったのは、エールの落ち度も云われても仕方のないことだ。このことが原因で、もしかしたら彼女は血盟騎士団から何らかの罰則を受ける可能性すらあるのだ。
「いいの。クラディールには私も困っていたから」
「ですが……」
「エールもその辺にしておけって。それより、早く迷宮に行こうぜ」
キリトの一声で、一行は迷宮区へと続く道を歩く。
迷宮区へと至る森の小道は、この先に死と隣り合わせのエリアがあるとは信じられない程に落ち着いた場所だった。木々の隙間から差し込む木漏れ日が、逆に不気味に感じれてしまう現実にエールは陰鬱な気分になった。
「ねぇ、エールくん」
「アスナさん、どうかしましたか?」
「ちょっと聞きたいんだけど、私たちって昔会ったことあるよね?」
「え……?」
思いがけない言葉に、目をパチクリさせる。
アスナには覚えがあるようだが、エールにはそんな記憶はなかった。彼女ほどの美少女に会っていれば覚えているものだが、それともゲームの中ではなく現実での話だろうか。必死に思い出そうと頭を悩ませていると。
「覚えてないのも無理ないかな。あの時の君、それどころじゃなかったし」
「……すみません、いつのことですか?」
「二年前……二層目が解放されたばっかりの頃かな」
ああ、とエールは納得した。
その頃なら毎日が激動で、たった一つ以外には何も見えていなかった時期だ。
「攻略から戻ってきて街中を歩いていたら、一人で立ち尽くしている女の子を見かけたの。気になって声をかけてみたら、連れと逸れたってその子は答えたの。正直に云えば直ぐにでも宿のベッドに飛び込みたかったけれど、流石に小さい子を置いて帰るのは気が引けたから一緒に探してあげることにしたの」
「え……」
「十分くらい一緒にいたら、通りの向こうから相手の人が来たの。女の子はお礼を言うと嬉しそうにその人の方へと駆けて行ったわ。相手の人は少し怒っていたけど、凄くホッとした表情を浮かべていたの。それから私の方にお辞儀をしてから、仲良く手を繋いで帰っていった」
「それが、私だと……?」
「うん。覚えてないかな?」
「いえ……」
それなら覚えている。
確かに二年前、迷子になってしまった連れを探していたことがあった。買い物の為にちょっと目を離した隙に何処かへと行ってしまい、街中を慌てて駆け回った記憶もある。散々探し回ってようやく見付けた時には、少女は見知らぬ人物と一緒にいた。
「あの時のフードの方が、アスナさん……?」
「そっか。そう言えばフードを被ったままだったわね」
えへへ、と頬を掻く。
ちょっぴり頬が朱くなっているのは気のせいではないだろう。
「あの子は……元気?」
「……彼女は、もう――」
それ以上は続けられなかった。
けれども、返答の意味をアスナは正しく理解していた。
あれ程、大切にしていた少女が一緒にいない理由など一つしかなかった。
今更ではありますが、ソードスキルに関して独自解釈が含まれます。
今回の話でエールが剣を手放しても、ヴォーパル・ストライクが解除されなかった件についてですが、システム補正による軌道を取るのは直線系のみとなります。なので水平に四角形を描く「ホリゾンタル・スクエア」や素早く剣を薙ぐ「シャープネイル」では同じことは出来ません。しようものなら剣はあさっての方向にすっ飛んでしまいます。
クリック? クラック! また来週!