ソードアート・オンライン-Phantom pain   作:轟th

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また少しストック出来たので、投稿を再開します。
ただ五話ほどしか書けておらず、それが尽きたらまた暫く停止します。
果たして、こんな調子でマザーズ・ロザリオまで書けるのだろうか。
不安です。

では、本編をどうぞ。


第漆幕-ユニークスキル

 ボスまでの通路を、キリトたちは駆け抜ける。

 あれからリザードマン以外にもナイトウルフの群れに襲われてしまい、気が付けば軍の連中と別れてから三十分も経過していた。その道中、軍に追いつくことも引き返してきた彼らと遭遇することもなかった。『転移結晶』により直接迷宮から脱出した可能性もあったが、あのコーバッツという男を見た後ではそれも低い。

 となれば――。

 

「くそっ、悲鳴だ!」

 

 ボスのいる最上階の回廊に最悪の知らせが反響する。

 それらにキリトたちは頷き合うと、全速力でマップを駆け始めた。敏捷力パラメーターの優れるキリトとアスナ、エールの三人がクラインたちを置き去りにする形で前に出る。幸いなことにこの道はボスまで一本なので、道に迷う心配はない。つい小一時間前に全力疾走した通路を、今度は逆方向に走り抜ける。

 やがて前方にボス部屋の大扉が見えてきたが、既に左右に開放されていた。その奥の暗闇からは燃え盛る青白い炎と、それに照らされて蠢く巨大な影。断続的に響いてくる金属音と悲鳴が最悪な状況を教えてくれる。

 

「馬鹿っ!」

 

 エールとアスナが更に速度を上げる。

 キリトも追従する形で翔ぶように駆け抜け、そしてボス部屋手前で急激な減速をかける。靴の本底に打ち込まれた鋲が床との摩擦で火花を散らし、三人は何とか入口手前にて停止する。不用意に飛び込むことは出来ない。

 

「大丈夫か!?」

 

 覗き込んだボス部屋は――地獄と化していた。

 床一面からは格子状に青白い炎が噴き出し、その中央でこちらに背を向けて屹立するは金属質に輝く巨体をした山羊頭の悪魔――ザ・グリームアイズ。口の端から炎の揺らめきのような呼気を噴き出しながら、悪魔は右手に持った斬馬刀のような巨剣を縦横無尽に振り回す。四つあるHPバーは三割も減ってはいない。

 その巨体の向こうで逃げ惑う小さな影――軍の部隊だ。だが統率など取れてはおらず、人数も先程確認した時よりも二人足りない。脱出したのかと考えている間にも、斬馬刀の薙払いで床に叩きつけられた一人のHPが危険域の赤へと突入する。ボス部屋に入ってから何があったのか、軍の部隊は入口とは反対側の逃げ場のない壁際へと追い込まれていた。あれでは横をすり抜けて逃げるなど不可能だ。

 

「何を――早く転移結晶を!」

 

 キリトの叫びに、一人が絶望に満ちた表情で叫ぶ。

 

「ダメだ! く、クリスタルが……使えないんだ!」

「なっ!?」

 

 『結晶無効化空間』。

 この迷宮において希に出現する、クリスタルの機能を阻害する罠の部屋が存在する。キリトも経験があるが、ボス部屋でそういうことがあったのは今回が初めてだった。これでは迂闊に助けに入る事も出来ない。

 

「逃げるな臆病者! 我ら解放軍に撤退の二文字はない! 戦え、戦うのだ!!」

 

 だが、状況を理解できない莫迦が一人いた。

 ヘルメットが吹き飛んだのか、素顔を晒しているコーバッツだ。

 ゲームの敗北がリアルの死と直結するデスゲームと化したこの世界において、ボスの討伐は単純にレベルを上げれば良いというものではなくなった。如何に味方の被害を出さずに勝利するかが重要視されるようになり、そういった意味で部下を二人も死なせてしまったユーバッツは既に指揮官としては失格だ。いや、ここにきて撤退することすらしないなど、このゲームを理解していない愚か者の所業でしかない。

 

「なん、だよ……どうなってんだ!」

 

 そこへクラインたちが追いついてくる。

 キリトが彼らに状況を説明している間に、エールは静かにアイテムを選択する。

 

「どうにか何ねぇのかよ……!」

 

 どうすべきかと、キリトたちは手を出せずにいた。

 そうしている間にも軍の部隊は隊列を整えると残っている十人中、HPが限界となり倒れている二人を除いた八名を二列ずつ並べ、その中央にコーバッツが立って剣を抜いている。明らかにこれから突っ込む陣形だ。

 

「全員、とつげ―――ぎっ!?」

 

 号令する直前、ボスの横をすり抜けた何かがコーバッツの顔面に命中する。HPバーは殆ど減ってはいないが、無防備な即頭部に強い衝撃を受けたからか、そのまま転がるように倒れると動かなくなった。

 コーバッツを気絶させたアイテム――湯のみ茶碗はパキンと音を立てて砕け散る。

 

「――な、何をしてるんだ。エール?」

 

 思わず、キリトは訊ねていた。

 そう、湯のみ茶碗を投擲スキルをもって投げたのはエールだ。

 突然の行為に呆然とする中、エールは長剣を引き抜きながら前へと進み出る。

 

「盾を構えたままその無能を連れて後退! 死にたくなかったら!!」

 

 エールの大声で軍へと叫ぶ。

 指揮官を失って動きの止まっていた部隊は、エールに言われた通りに退がる。

 

「では皆さん、彼らの救助を頼みます」

「お前はどうする気だ?」

「私が――ボスを引き付けます」

「無茶よ!」

 

 アスナの叫びも無視し、ボス部屋に侵入する。

 そしてもう一つ持っていたアイテム――クリスタルを上に放り投げりと、落ちてきたそれを剣で叩き割ってみせた。思いがけない行動にキリトたちが困惑する中、砕け散ったクリスタルの欠片が剣へと吸収されていく。

 

「エンチャント――焔月」

 

 突如と、エールの長剣が燃え上がった。

 明らかにソードスキルのエフェクトではない、熱波を感じさせる炎。

 

「ありえない――」

 

 それは誰の呟きだったのか。

 しかしエールはそれらの疑問に答えることはなく。

 

「行きます!」

 

 ボスへと目掛け、疾走する。

 そして背後へと肉薄すると、炎を纏った長剣で下から斬り上げる。背中を斬り付けられたグリームアイズは怒りの叫びと共に向き直り、猛烈なスピードで斬馬刀を振り下ろした。何とか紙一重のところで躱せば、床に叩き付けられた巨剣は爆発音と共に深い孔を穿つ。こんなものを受けては一溜まりもないだろう。

 

「直ぐに援護を――!」

「アスナさん! 私のことより、早く、彼らを!」

 

 斬馬刀の斬撃を避け、躱し、逃げ延びる。

 エールの戦い方が時間を稼ぐものだと気付き、キリトとアスナはクラインたちを連れて軍の部隊を安全な場所まで避難させるべく行動を開始する。幸いにも動ける者が多かったのもあり、退避するには三分と掛からなかった。

 だが、その間にも戦況は大きく変化していた。

 グリームアイズのHPバーは半分まで減っていたが、エールも無傷とはいかなかった。斬馬刀の直撃こそないものの、何度か掠めているのかHPの三分の一が減っている。これならばキリトたちがスイッチしていけば勝機はある。

 

「―――?」

 

 不意に、悪魔が動きを止めた。

 傍からすれば絶好の攻撃のタイミングであったが、エールは何かを感じ取ったのか前を向いたまま距離を取ろうと後ろに跳ぶ。次の瞬間、地響きを伴う雄叫びと共に、ボスの口から紫色に輝く噴気ブレスを撒き散らした。一瞬とは云え視界が眩むほどの閃光に視界は塞がれ、回復した時にはエールは床に倒れていた。先程まで安全圏にあったHPバーは朱く染まっており、意識を失ったのか倒れたまま動く気配はない。

 

「エール!」

「くそったれ!」

 

 アスナとクラインが飛び出す。

 しかしキリトは直ぐには動こうとはせず、メニューウィンドウを呼び出した。所持アイテムリストをスクロールして目的のものを選択し、装備フィギアの空白の欄にそれを設定する。そして次にスキルウィンドウに移り、選択している武器スキルを別のものに変更する。OKボタンを押せば背中には新たな重みが加わる。

 

「スイッチ!!」

 

 キリトの叫びを受け、アスナとクラインは同時に下がった。

 そして前へと飛び出したキリトはグリームアイズの斬撃を右の愛剣で受け止め、すかさず左手で背中にある新たな剣を抜きざまに悪魔の胴体へと叩き込んだ。

 

「グオオオオオッ!!」

 

 憤怒の叫びをあげ、再び頭上から斬馬刀を振り降ろす。

 今度は両手の剣を交差させて受け止めると、気合を込めて弾き返す。思わぬ反撃にグリームアイズは体勢を崩し、その隙を逃すことなくキリトは『二刀流』スキルの上位剣技を叩き込まんとラッシュを開始した。

 

「スターバスト……ストリームゥッ!」

 

 そこから放たれるは必殺の十六連撃。

 その幾つかは悪魔の巨剣に阻まれたが、絶え間なく繰り出される左右からの斬撃は確実にグリームアイズの巨体を捉えていた。時折りボスの攻撃も当たっていたが、キリトは構うことなく剣を振り続けた。

 

「―――ああああっ!!」

 

 そして最後の一撃が、グリームアイズの胸を貫いた。

 巨体の悪魔は初めて膝をつくと、そのまま膨大な青い欠片となり爆散した。

 

「やっ、たのか……」

 

 そこでキリトの意識は途絶えた。

 

 

 

 エールが意識を取り戻した時には、全てが終わった後だった。

 見覚えのある天井には青い光の残滓が舞っており、自分がまだゲームの世界にとらわれていることを理解する。死に損なったのかと、ぼんやりとした考えていると視界を遮るように頭上からアスナが顔を覗かせてきた。

 

「あっ、目が覚めた?」

「アスナさん、ボスは?」

「君とキリト君のおかげで倒せたわ。誰も死んでないわよ」

 

 あの光はボスのものだったのかと把握する。

 首だけを動かして見回してみれば、周囲には軍の部隊や風林火山のメンバーがいる。

 

「おっ、そっちも目が覚めたみたいだな」

 

 そこへクラインとキリトが近付いて来た。

 エールはアスナの膝枕から頭を上げ、上半身を起こした。

 

「軍の連中も回復が済んだ。ただ、俺たちが突入する前に二人死んだそうだ」

「けど、エールがあの馬鹿を気絶させてくれたお陰で他は無事だ」

「そうですか……」

 

 素直に喜ぶことは出来なかった。

 もっと早く自分たちが駆け付けていれば、他の二人も助けられたのではないかと考えずにはいられなかったからだ。それはキリトたちも同じなのか、場には重い空気が立ち込める。とクラインが気分を変えるように訊ねてきた。

 

「ところでよ、お前たちのアレは何なんだ?」

 

 アレとは、エールとキリトの剣技のことだ。

 エールはキリトのを見てはいないが、クラインの口ぶりから察していた。

 

「……俺はエクストラスキル『二刀流』だ」

「私のは『魔法剣』です」

 

 おおっ、と周囲にどよめきが走る。

 様々ある武器スキルは系統だった修行によって段階的に習得することが出来る。例えば剣ならば基本の片手直剣スキルをある程度まで成長させて条件を満たすことで、『細剣』や『両手剣』などが新たな選択可能スキルとしてリストに出現する。

 

「しゅ、出現方法は!?」

「分かってたらとっくに公開してるよ」

 

 キリトの返答に、クラインも納得した様子で頷く。

 ただ出現条件がはっきりと判明していない武器スキルなどはランダム条件なのではないかと云われており、これらを総じて『エクストラスキル』と呼ばれている。しかしクラインの『カタナ』もエクストラスキルの一つではあるが、こちらは曲刀をしつこいぐらいずっと修行していれば出現するのでレア度としては高くはない。

 

「所謂、『ユニークスキル』ってところだろうな」

 

 正にその通りだった。

 出現条件もなければ熟練度達成でも解放されることのない武器スキルだが、「出現条件が分からない」という点ではエクストラスキルと変わりはない。もしかしたらキリトもエールも片手剣の熟練度を上げた上で、本人も気付かない内に「何かの条件を満たした」という可能性もある。

 

「キリトよぉ、俺にぐらい教えてくれても良かったんじゃねぇか?」

「俺だって一年くらい前に急に現れたんだ。エールも同じだろ?」

「……そうですね。私も似た感じです」

 

 二人共、これが公開されれば面倒なことになると予感したのだ。

 十中八九、自分もユニークスキルを手に入れんとしてプレイヤーや情報屋などが二人の所に大挙してお仕掛けてくることだろう。そんな何人も一々相手になどやっていられず、説明したところで納得しないプレイヤーも少なくはない。それならばいっそ、隠し通してしまった方が色々と楽だと考えていたのだ。

 

「――うっ、うぅ……」

 

 そのタイミングで、コーバッツが目を覚ました。

 こちらに意識を向けていた軍のプレイヤーはそちらへと近寄った。

 

「お目覚めですか、コーバッツ中佐」

「一体私は……何があったのだ?」

 

 上司に問われ、部下の一人が説明をした。

 キリトたちにより助けられ、そしてボスが討伐されたことを。

 事情を聞かされたコーバッツはキリトたちの方を向き――。

 

「何てことをしてくれたのだ、貴様らは!!」

 

 あろうことか叫んだ。

 別に感謝して欲しかった訳ではないが、そんなことを言われるとは思ってもみなかった一行は驚いた表情を浮かべていた。いや、コーバッツの部下たちもまた同じような表情をして自分たちの上司を見つめている。

 

「ちゅ、中佐何を……」

「この戦いは我々で成し遂げなければならなかったのだ! 例え如何なる犠牲を払うことになったとしても、これは軍の名誉を回復するためのものだったのだぞ! それを、貴様らのような身勝手な者たちが――」

「――ふざけるな!」

 

 コーバッツの叫びを遮り、エールが立ち上がる。

 そして徐ろにコーバッツの方へと歩み寄ると、その胸ぐらを掴んで持ち上げた。

 

「名誉? そんなものの為に、あんな無謀な戦いを挑んだのか!」

「これは必要なことだったんだ!」

「戦死することに何の意味がある! ボスという強敵を前に事前準備を行っておきながら、あんな力任せの我武者羅に突っ込んだだけで勝てると思い込んでいるのか!? 気持ちだけで何とかならるなら、私たちだって二年間もこんなところに閉じ込められてりなんかしていない!」

 

 それは誰もが胸に秘めていることだった。

 もし本当に気合だけでクリアが出来たのなら、おそらくは一年と掛からずにプレイヤーの誰かが頂上まで到達できていた筈なのだ。それが叶わず二年経っても七十層の真ん中に居るのは、迷宮に潜むモンスターが強敵だからだ。

 

「仲間を二人も死なせたことを後悔するのなら、それを無駄にするような真似はするな」

「わ、私は……」

 

 何かを言おうとするが、コーバッツは何も言えなかった。

 そんな彼の胸ぐらから手を離すと、エールは近くにいた彼の部下へと視線を移した。

 

「貴方たち、この男を連れて本部に戻れる?」

「あ……はい、大丈夫です」

「なら今回のことを全て上に伝えなさい。そして、二度とこんな無茶な真似はしないで」

「分かりました、女神さま」

「………ん?」

 

 今何か、変な言葉が混じっていた気が……。

 エールが首を傾げている間に、軍のプレイヤーたちはキリトたちに頭を下げてからコーバッツを連れて部屋から出ていった。そして大部屋から出ると、次々に転移結晶を使って迷宮区から脱出していった。

 

 

 




スニークスキル『魔法剣』。
クリスタルを消費して、武器に特定の魔法効果を付与するスキル。
属性は炎・氷・雷の三つであり、それぞれに攻撃・防御・敏捷に一定の補正が掛かる。
ただし他のスキルのように専用の剣技は存在せず、元々のソードスキルしか使えない。
また属性付与は五分と制限時間が設けられ、効果が切れないと他の属性は使えない。
因みに無手の状態でも使えるそうだ――。

クリック? クラック! また来週!
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