ソードアート・オンライン-Phantom pain   作:轟th

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なんでか、前話の投稿時間がズレてた。
ちゃんと十二時に指定していた筈なのだが……はて?
まぁ、今更悩んだところで訂正は出来ないのだが。

では、本編をどうぞ。


第捌幕-動き出す歯車

 

 七十四層攻略から翌日。

 キリトとエールの二人はエギルの雑貨屋の二階に避難していた。キリトは揺り椅子にふんぞり返りながら店の在庫である奇妙な味のするお茶を不機嫌に啜り、エールは部屋の隅っこで膝を抱えて体育座りをしながら絶望している。

 人の口に戸は立てられぬ、とはよく言うが噂の広まりは早い。

 あれからクラインたち風林火山は七十五層の転移門をアクティベートしに向かい、キリトたちは疲れきっていたのでその転移門でホームへと戻ることにした。アスナは二人とのパーティーを継続する為の休暇届けを提出すべく、血盟騎士団の本部へと向かっていった。キリトもエールもそのまま真っ直ぐにホームに戻って眠りに付いたのだが、翌朝には既にボスを討伐した話はアインクラッド中に広まっていた。

 フロア攻略と新しい街へのゲート開放、それだけでも十分に話題になると云うのに今回はそれだけでは済まなかった。曰く『軍の大部隊を壊滅させた悪魔』、曰く『それを単独撃破した二刀流使いの五十連撃』、曰く『軍の窮地を救った魔法剣使いの女神さま』などと尾ひれが付くにしても弩が過ぎている。

 キリトにしろエールにしろ、朝から何処からか住居の情報を入手したプレイヤーや情報屋が押しかけてきたのだ。家から脱出するのに転移結晶まで使用する羽目になったが、ある意味でそれ以上に大変だったのはエールだった。何故なら押し掛けてきた殆どのプレイヤーが情報よりも、何故か求婚してきたらしい。

 

「女神って、女神って……何でさ」

 

 ふふふっ、と何処か虚ろな目をずっとしている。

 アスナに匹敵する美貌の持ち主なのだから、当然と云えば当然だが。

 

「引っ越してやる。何処か、すっげぇ田舎フロアの……絶対に見つからない場所に」

 

 夜逃げ計画を立てるほど、キリトも苛立っていた。

 そんなキリトに対し、商品を手にしたエギルが声をかける。彼は今、キリトたちが昨日の迷宮にて手に入れたお宝の鑑定をしているのだ。因みに、この売上げは三人で山分けする手はずになっている。

 

「まぁ、注目されるのも経験の一つと思っておけばいいさ。今はそうは思わずとも、その経験が後に役立つ時がきっと来る。おっ、コイツもいいな!」

「ご教授どうも」

「おうよ。しっかし……遅いな」

 

 チラッと壁掛け時計に視線をやる。

 キリトたちも約束があってここに来ているが、どうやらエギルも同じらしい。

 

「何だ、誰か来るのか?」

「最近ウチを利用している中層プレイヤーが来る筈なんだ。何でも昨日、迷宮でいいものが見付かったから鑑定して欲しいって、フレンドメッセージがあったんだよ。約束を破るような連中じゃないから気になってな」

 

 ふーん、と適当に返しつつ茶を啜る。

 とそのタイミングで、キリトにフレンドメッセージが届く。差出人はキリトたちが会う約束をしているアスナであったが、余程急いでいたのか用向きは書いておらず、今すぐにKoBの本部がある五十五層のグランザムに来て欲しいという旨だけが書かれていた。

 エールも同じ文面のメッセージを受け取ったのか、訝しげにこちらを見ていた。

 

「悪い、エギル。ちょっと用事ができた」

「ん? ああ、お宝の鑑定ならやっておくから安心しとけ」

 

 そうして二人はエギルの店を後にした。

 

 

 

 第五十五層、主街区グランザム。

 そこは別名「鉄の都」と呼ばれ、他の街が大抵煉瓦造りなのに対して、こちらは街を形作る無数の巨大な尖塔が全て黒光りする鋼鉄で作られているからだ。鍛冶や彫金が盛んということもあってプレイヤー人口は多いが、街路樹などの緑が全くないので殺風景な場所ではある。

 そんな街の一角に、血盟騎士団の本部は存在している。

 他プレイヤーに見付からないように注意してグランザムへと飛んだ二人は、転移門の直ぐ前にて待ち構えていたアスナと合流した。しかし彼女はいつになく厳しい表情を浮かべながら、口数少なく「付いて来て」とだけ言うと前を歩き始めた。事情は分からないが、もしかしたら彼女が申請しようとしていた休暇について問題が生じたのかもしれない。

 

「アスナさん、何かあったのですか?」

「もしかして休暇申請が却下されたのか?」

 

 二人の問いに、アスナは首を振って否定する。

 ならばと考えていると、口重く沈黙していたアスナがようやく口を開いた。

 

「あれから、本部に戻ってあったことを全て報告したの。それで、ギルドの活動を暫くお休みしたいって言って昨日は家に戻ったの。けど、そしたら今朝……ギルド用のメッセージで本部に来るように書かれてたの。来てみたら中は酷く慌ただしくて、何かと思ったら団長から信じられないことを言われたわ」

「……何て、言われたんだ?」

「―――ラフコフが、また動き出したって」

 

 その一言に、キリトもエールも固まった。

 殺人ギルドが動いたと云うことは、つまりは――誰かが犠牲になったのだ。

 

「襲われたのは中層ギルドみたい。これを受けて団長は正式にラフィン・コフィンを討伐することを決定したわ。これに伴い『聖竜連合』とも協力を仰ぐことになったけど、実力があって信頼における他ギルドにも声をかけているの。それから――」

「私たちのような、ソロプレイヤーにも声を掛けることになったと」

「……ええ」

 

 話は団長から、と言ってアスナは血盟騎士団の本部へと入って行く。

 本部はさながら城を思わせ、開け放たれた大扉の両脇には恐ろしく長い槍を装備した重装甲の衛兵が配備されている。これでは本当に城塞だと感じながらアスナに続いて入り、彼女に案内されたのは天井の高い大広間だった。

 そこにはキリトたち以外にも、大勢のプレイヤーにより埋め尽くされていた。少なく見積もっても三十人は大広間におり、彼らもまた自分たちと同様にラフコフを討伐すべく声を掛けられた実力者たちだろう。

 また後で、とアスナは二人に伝えると人垣を避けて壇上へと向かう。

 邪魔にならないように壁際へと退避して暫く待つと、壇上に一人のプレイヤーが立ったことでざわついていた会場内が静まり返った。二十代半ばといったところか、削いだように尖った顔立ちをしている。長身だが痩せ気味な体躯をゆったりとした真紅のローブで包み、その姿は騎士というよりも魔術師と云われた方が納得する。

 

「あれが……ヒースクリフ」

「最強の剣士にして、私たちと同じユニークスキルの使い手」

 

 ヒースクリフは会場を見回してから、徐ろに口を開いた。

 

「諸君、この度の招集によくぞ応えてくれた。聞いての通り、今回はボスの攻略ではなくあるギルドについての対策である。この中には既に知っている者も居るだろうが、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)による襲撃事件が昨日あった」

 

 殺人ギルドの名に、大広間の至るところでざわめきが起こる。

 おそらく大切な話がある、などの理由で呼び出された連中も少なからずいるだろう。

 

「我々は奴らが活動を始めた当初より、ラフィン・コフィンの拠点を探し続けた。しかし残念なことに見付かるのは全て、末端のものばかり。だが、一人の勇気ある若者により我々は奴らの根城を発見することに成功した!」

 

 おおっ、と再びざわつく。

 罪悪感から逃げ出してきた者でも居たのだろうか。

 

「ついては、諸君らに依頼したいのはラフィン・コフィンの討伐である! 討伐とは云え命を奪えという訳ではない。あくまで向こうのHPを赤くさせて降参させれば良いのだ。降伏した相手は第一層の黒鉄宮に送りさえすれば問題ない。しかし諸君らに報酬がある訳ではなく、例えこの場で辞退を申し出たとしても責めることはしない。だが、この戦いが平穏を望む一般プレイヤーを守る為の闘いであることも理解して欲しい」

 

 そこまで言われて、引き下がれる奴はいない。

 元より犯罪ならいざ知らず、人殺しなど容認できる筈がないのだ。それでもPKプレイヤーが増えていったのは、『殺しているのは茅場晶彦だ』という大義名分により罪の意識が軽く、ゲームだという安易な感覚からだ。だが、それは都合の良い責任転嫁でしかなく、そのプレイヤーが人を殺したという事実には変わりない。

 誰も出て行かないのを確認し、ヒースクリフは満足げに頷く。

 

「諸君らの貢献に感謝する。ではこれから詳しい作戦概要に移るが、ここからは実際に部隊を率いる聖竜連合の幹部の口から直接説明してもらう」

 

 ヒースクリフが下がり、代わりに聖竜連合の幹部が前に出る。

 幹部からの説明に耳を傾けていると、不意にエールがキリトに声をかけた。

 

「キリトさん、貴方は……自分自身を恨んだことはありますか?」

「え……?」

「殺してしまいたいと思う程に、狂おしく憎んだことはありますか?」

「――ある」

 

 戸惑いを覚えながらも、キリトはハッキリと告げる。

 守ると誓ったサチを助けられなかった時の後悔と罪悪感は、一生忘れることはないだろう。

 

「エールは、その……あるのか?」

「ありますよ。今もずっと……私は私を赦さない」

 

 そう語るエールの瞳に、キリトはゾッとした。

 あの慰霊碑の前で見た時と同じ、瞳から光沢が消えて焦点が合わずに虚ろ目。

 

(俺は、この目をよく知っている)

 

 黒猫団が壊滅した日。

 リーダーのケイタが目の前で投身自殺するのを止められなかった直後、誰も居なくなったホームで一人佇んでいた自分と同じ目だ。だが、その深度はキリトのものとは比べ物にならない程に深刻なものだった。

 何処までも暗く、昏く、冥い闇の中。

 呑み込まれたら最後、二度と出てこれなくなる深淵の底。

 

「っと、話が終わったようですよ」

「あ、ああ……そうみたいだな」

 

 気付けば、会議は終わっていた。

 作戦は明日、一度このグランザムに集合してからの出発だ。今日中に仕度をするとのことで一時解散となり、集まっていたプレイヤーたちは次々に大広間から出ていく。エールとキリトもまた大広間の外へと出ると、邪魔にならないように壁際に寄った。

 やがて殆どのプレイヤーが本部を後にした頃、アスナが姿を現した。

 

「ごめんなさい、二人共。待たせちゃって」

「気にすんなって。それよりこれからどうする? エギルの店に戻るか?」

「えーと、その……ちょっと会って欲しい人がいるんだけど」

「誰だ? 会わせたい奴ってのは」

「私のことだよ」

 

 そう言って姿を現したのは、ヒースクリフであった。

 思わぬ人物にキリトもエールも驚き、アスナは気不味そうに頬を掻いた。

 

「驚かせてすまない。個人的に、是非君たちと一度会って話したいと思っていたんだ」

「血盟騎士団の団長ともあろうお方が、俺たちにどんな用事で?」

「そんなに構えないでくれたまえ。私はただ、二人に提案をしに来ただけなんだ」

「提案?」

「君たちの腕を見込んで、是非とも我が血盟騎士団に入団って欲しい。もちろん、入ってくれるのなら直ぐにでも幹部の席を用意しよう。望むのであればある程度の要求も通そう。私から見てもかなりの好条件だと思うのだが」

 

 団長直々のご指名。

 条件も破格と云って間違いなく、一般プレイヤーなら二つ返事で頷くが。

 

「俺は遠慮しておくよ。ソロの方が気が楽だし、何より命令されるのは好きじゃない」

「私も、そういうことには興味がないので」

「ふむ。残念だが、無理強いは出来ないな。もし気が変わったら申して出てくれ」

 

 では、と言ってヒースクリフは立ち去る。

 彼の後ろ姿が通路の角を曲がって見えなくなると、アスナが口を開いた。

 

「団長、諦めたのかしら?」

「どうでしょう? 勧誘できれば御の字、程度じゃないですか?」

「何度来られても、答えは同じだけどな。それより、飯でも食いに行こうぜ」

 

 時間を確認すれば、もうお昼近い。

 朝から他プレイヤーに追い回されていたキリトとしては、美味しいものでも食べて気分を変えたかった。

 

「そうですね。少し早いですが、お昼にしましょうか」

「だったら良い店知ってるわよ。付いて来て」

「おっ、そりゃあ楽しみだ!」

 

 三人はアスナを先頭にし、本部を後にする。

 

 

 




この物語は基本的に原則の時系列に同期しています。
なので七十四層を突破した2024年の十月にはラフコフは壊滅した後になりますが、この物語においては未だ存続しています。話の都合上、討伐が遅れています。まあ次回で消えてもらいますが。

クリック? クラック! また来週!

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