てきとー試し書き   作:十八

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ペルセウス腕に根拠があるバルマーに対し、共和連合は版図の記述が見つからなかった為、地球と同じくオリオン腕を主な版図とする勢力と言う事にしてあります。
 後、ゼルルゼは出番があまり多くないし台詞も少ないんで、ほぼオリジナル。
 同時に何かしゃべってるイメージが無いのと、いつも相方とべたべたしているイメージがあるんで、そう言う感じにキャラになりました。


伝承族(ry 一章二話 アマニとゼルルゼと船

 間髪入れず空間転移。現れた同じ(うつほ)の中、手製の頭蓋と納めた巨大な脳髄との狭間で、周は愕然、眼下の物体を見下ろした。

 地平線成す肉の大地に、全長四百を超える巨大な楔型が突き立ち、その左右には、双子の女天使が組みついている。

 

「……随分と過保護らしいな、アンノウンさんは」

 

 そう、呟いた。

 目の前にある自ら(アマニ)備品(オプション)部下(なかま)――対ブゥアー用クラッキングツール“アマニの爪”と、接続された“ゼルルゼ・リップ”の姿に、強くその歯を噛み締める。

 ブゥアーが内に存在した事はまぁいい。そも件の最終決戦において、彼は掌握したブゥアーの一部が一定量になるごとに切り離し、その力を用いて生み出した亜空間に幽閉隔離していたのだから。彼を移動した際にそれが付いてきたと言うのも、理解できない話では無かった。

 けれども、その時確実に彼の外側にあったアマニの爪とゼルルゼまでもが、何故切り離した細胞と同じ空間(ばしょ)に取り込まれていたのか?

 

「単なる御役所仕事。捕まったタイミングで俺に繋がってたの全部、備品と判断して雑に突っ込んだとかなら楽なんだが」

 

 突入当時、アマニはブゥアーの逆ハックを警戒し、頭脳体(いし)と惑星規模艦“アマニ・オーダック”との接続を切っていた。

 その為、記憶途絶時点でアマニの一部(オプション)と看做せるものは、アマニの爪、接続状態のゼルルゼ、そして、掌握済みのブゥアー細胞の三つ。だからもし、アンノウンが技術力程高い思慮を持たないか、そもそもこちらを歯牙にかけていないのであれば、雑な処理で意図せずこうなる可能性も無くはないと考えられた。

 勿論、それはそれで様々な疑問が発生するのだが、足枷に付けたブゥアー細胞(リソース占有攻撃)消化時間(タイムリミット)調整や、第九軍持ち込みは規模的に不可だが、“神帝ブゥアーの後継者”級の力が無ければ太刀打ちできぬ敵がいると言った理由より気楽なのは間違いない。

 尤も、その答えがどれであったとしても、現状は油断が許されるものではなく、また、アマニの記憶が文字通り総身に沁み込んでいる彼には、こういった状況下で手を緩める判断はとても下せないのだが……。

 

『アマニの爪もゼルルゼも、停止状態』

 

 ……と、そんな算段を巡らせながらも、意識の一部を目の前の船に飛ばしていた彼の脳裏に、その内側の情報が浮かんだ。延ばされた念の触指は、気休めではあれ対伝承族用ESP防護壁が施されていた筈の船を容易く貫通、その構造の洗いざらいを浚いあげ、そうして構成された頭の中の二隻を、アマニは矯めつ眇めつ。取り敢えず、仕掛けられた装置の類は見当たらない。流石に中のデータに手が加えられているか迄は、停止状態では分からないが、とりあえずは安全とみていいだろう。だが……。

 

『直接お目にかかるのは初めてだが、これが時間停滞場(ステイシスフィールド)ってやつか』

 

 繋がる三艦と中の一人とを停止させているモノの正体に、重い息を吐く。ステイシスフィールド――範囲内の時流を停滞させる力場。保存、防御、拘束と、単純な使い道だけでもその効果は多岐にわたる、古めのSFではおなじみのガジェットだ。先にも少し触れたが、宇宙を蒐集記録し、不滅のブゥアーの中で久遠の物とする至上命題を掲げる伝承族にとって、歴史改変を招く時間移動関連技術は禁忌。それらが低いレベルで抑え込まれたその干渉区域において、この種の技術を目にする事は希だ。

 所謂、ウラシマ効果を防止する時滑り装置、特定の物体に対する時間の流れを高速化する加速時粒子砲……伝承族の影響下でお目にかかれる時間操作技術と言えばその程度が限度。大規模な時間停止技術が使える者等、ブゥアーその人を除けば、伝承族評議会の極一部位なものだろう。

 それは、反乱者達にとっても同じ事、自身その研究を試みた事でも判る通り、それらの技術は伝承族にとっての盲点(セキュリティホール)足り得るものであり、それはあの時あの戦い、ブゥアーのクラッキングと言う最大級の難事に掛かりきりになっていたあの瞬間であれば尚の事、アマニを捕まえた技術がこれだと言うのは、それなりに納得のいく話ではあった。

 

『停滞場を維持している物は見当たらない……と言うより、場そのものが、自律してるのか』

 

 そして面白い事に、どうやらこの時間停止の“場”は、それ自体がある種の恒常性を持ち、時間を停止させる事で自らの存在を維持しているらしい。流石に、外部からエネルギーを取り込む機構迄は持っていなかったが、この機能により停滞場は、外部に何らかの装置を据える必要なく、内在するエネルギーを使い尽くすまでの間はその存在を維持できるようになっていた。

 

「単に必要が無かったのか、自分達に繋がる物を残したくなかったのか――それとも、教材のつもりなのか?」

 

 スパロボOG世界には、クロスゲートや時流エンジン、ラースエレイムと言った、伝承族であるアマニの死角となり得る世界移動や時間に関わるテクノロジー、それに関連する存在がかなりの数存在する。そう言った前提と“アンノウン”が今迄にこちらに対して行ったアプローチの痕跡とを考えると、それらの内のどれが答えでも、あるいはどれの複合でも有り得そうだった。

 

「………」

 

 そうして周は、そこにある“場”と、それが与える影響、そこから推察される自分の知識を越えた時空の相互作用について、記憶し、考察を深めつつ、目の前の場に念動の糸を伸ばした。時空を停滞させるその構造とエネルギーの流路を知覚し、それに念の糸を絡みつかせる。そうして、その構造に更なる力を注ぎこみながら、内側に囚われた一部を場の外へと動かした。そうしてその中に転移する。アマニの爪の艦橋部、自分の席へと滑り込み、動きを取り戻したシステムへと接続。

 やはり、“アンノウン”の干渉を受けたその瞬間からずっと止められたままだったのか?

 

「接続ポート融解! 思念波に載せたたいりょ……ッ、アマニッ!」

「接続ポート融解! 思念波に載せたたいりょ……っ、アマニッ!」

 

伝わる警報に、驚きの余りか?珍しく二つの筐体が同時に声を上げたゼルルゼを、

 

《話はあとだ!まずは直近のログの整理と解析を行う》

 

 まずはそう、投げかけた思念で黙らせた。

 それと同時に機体を掌握――すると、まず分かったのは先の彼女の叫びの通り、ブゥアー側へのアクセスポートとそれに繋がる回線が物理破損している事実だった。アマニとそのオプション艦が備える強化改造された伝承族の脳組織ですら、処理しきれないほどの情報の奔流が、物理現象を起こすほど強い思念に乗ってこの船に叩き込まれていたのだ。それは情報の流路を物理的に融解させながら内部に侵入していき、システム直結でクラッキングを行っていたアマニの所で止まっていた。

 

『巨大な思念波に載せられた、物理破損を起こすほどのデータのオーバーフロー?

 ……ッ! ブゥアーが最後に使ったアレか!?』

 

 マップスの最終回、万策潰えたブゥアーの意志が、主人公(ゲン)その船(リプミラ)を排除する最終手段として用いたのが、自己に内在するデータを思念波に載せて直に叩きつけると言う捨て身の戦法だった。ブゥアーにとって何を措いても守るべき、もはや存在しない宇宙の全てと言って良い情報(モノ)を、内包する全てが失われるよりはと外部に放出、叩きつけたのだ。

 しかしどういった理由でか、本来主人公(ゲン)に対し用いられるはずのそれは、直結回線を通じてアマニの爪へと雪崩込む。そしてアマニは、想定をはるかに超えた情報の暴流を、直接その精神に叩きつけられた。

 

『……けれど、本体側にバックアップがあったアマニがそこで食い止めた為、サポートをしていたゼルルゼは無事生存。

 それとほぼ同時にアンノウンが干渉――アマニは大滝周の部屋で、何故か周として目覚めた?』

 

 或は、アンノウンの工作がその想定外を発生させたのかもしれない。兎も角その衝撃で、アマニの自我は甚大なダメージを受けたわけだが、譬えそれで主体となる自我が死を迎えても、体を構成する伝承族の細胞が死に絶えるわけではない。一旦は脳組織が破損しても、すぐに自己修復して機能を取り戻す。けれどもそれで、破壊された自我が回復するわけではないから、アマニ中枢体は本体側にリブートされるまでは、精神死した生ける屍か、あるいはそれに近い状態に陥る筈だった。

 

『それをアンノウンが、周としてリブート――いや、それとも、アマニは初めから(・・・・・・・・)周だった(・・・・)、のか?』

 

 アマニの記憶を辿っても、決して答えの出てこない謎がある。何故彼は、原作のそれと分岐したのか? 記憶を奪われ、伝承族になった直ぐ後に、自分が改造された事を認識し、行動できた理由は? ギツァートやブゥアーの後継者達の、知る筈もない情報を持っていたのは?

 それらの謎は、アマニが初めから周であったと考えれば、ある程度納得は着く。単体では再起動されない筈のアマニが、今周として目覚めたように、この体の何処かに、通常の記憶情報とは別に周のそれが蓄積されており、有事にはそれが起動すると考えれば。

 伝承族にされたその時も、何処かに保存されていたそれが、空白となった伝承族の幼生体の頭に上書きされたのではないのか? ギツァートやブゥアーの後継者の情報がアマニの記憶の中に見つからないのも、通常の記憶とは別枠で存在するそれを、読み込んでいるからではないのか?

 ではそもそも、周とはだれなのか? 初めからアンノウンに作られたものではないのだろうか? あの部屋は、大滝周の生きた世界とは、本当に実在するモノだったのか?

 重く脳裏に降り積もる、証明できない問いと答えとを、彼は吐息と共に吐き出して、己が額に右手を置いた。

 

「セルルゼ……とりあえず、現状を説明する」

 

 そして、己が席の左右前方、二つに別れて座る一人に、そう声をかける。

 ゼルルゼ・リップ――リープタイプ唯一の双子船と言う触れ込みの、彼女。

 周の言葉に、色素の薄い真直ぐな長髪が、二つ同時に振り返り、

 

「ああ、アマニ、お前なんでそんな姿してるんだ?」

 

「それって確か、前に仮想空間内で使ってた(・・・・・・・・・・・・)化身(アバター)だろ?」

 

 二つは僅かな時間差を付け、こちらに一つの疑問を投げかける。

 椅子に逆向きに正座し、その背凭れに両手を掛けた、小柄で薄い白人少女。全く同じ二つの白皙、同じ服装、同じ声。表情と仕草だけを微妙にずらして、双子の様な一人の四つの瞳が、周のそれを見据えた。

 ゼル・リップとルゼ・リップ――双子の美少女と言った態のこの二体だが、その実態は、二つの体を操る一つの意志、ゼルルゼ・リップである。船体が自爆兵器と化してしまったが為に、一人が二つに分化し片方をバックアップに出来る様に進化した、リープタイプの中でも、最も特異な個体の一隻だ。アマニが原作改変を行う中で、正史において艦船コレクターであった彼が保有している時期の有る“リップタイプ”“キャプテン・ヒィ”と言った物語の主要人物とは、物語の陰で協議を重ね、裏では概ね友好関係を結ぶに至っていた……のだが、その中で、どういう訳かアマニと一番馬があったのが、彼女、ゼルルゼであった。

小物同士のシンパシーか? 最終的にはアマニの秘書か副官じみた立ち位置をせ占めていた彼女のそれぞれを、周は僅かな安堵と強い罪悪感を抱えて交互に真直ぐ見返す。

 

「データで見たとおり、頭を焼き切られて再起動したみたいなんだが、その時何かの干渉を受けたらしくてな。

 気付いたらこの姿だし、ハードとのマッチングも巧く行ってない」

 

 尤も、確かに言葉通りの記憶もアマニの中にあり、周こそが原作と分岐した理由であった可能性も高まっているわけではあるが。

 

「それから、どうやら俺達は、ブゥアーの逆撃を受けた瞬間に、なにものかに捕獲されたらしい」

 

 その後、ついでの様にそう付け加えて、ゼルルゼに先に取得したこの世界のデータを転送した。

 二つの口が全く同時、うげぇ…と些か品の無いハモりを上げる。

 

「現状は見ての通り、今現在我々のいるこの惑星は、ブゥアー級の能力を備えた存在が創り上げた仮想空間、或は、平行世界移動技術を持つ文明圏に接する、別の世界の地球であると思われる」

 

 さもなくば、かつて周がネットでSRWを検索した際に、幾つか目にした二次創作の類だろうか?

 

「……前者であった場合、正直どうしようもないので、今後は、とりあえず後者であると仮定して行動する事になる」

 

 尤も、流石に書き手に普通の神経があれば、スパロボOGに伝承族を持ち込むような暴挙は働かないだろう。また、仮にそうであったとしても、その登場人物である彼の現在が、何か変わると言う訳でもないから、そう言った可能性は取り敢えずは考えない事にしておく。

 

「並行世界?」

 

「……何を言っている? そんなものあるわけないだろう?」

 

 そんな周の説明に、彼女が疑問の声を上げた。作者自らが描いた準公式同人により、並行世界の存在する世界観である事が確定的なマップス世界だが、伝承族の情報操作により、その住人は並行世界の存在しない宇宙モデルを真実だと考えている。

 搬種船として作られ、エージェントとして銀河の住人に直接接する立場であったリープタイプもそれは同じで、当然と言った風にそう反論するゼルルゼに、彼はいいやとその首を振った。

 

「世界の記録を至上目的としていた伝承族は、歴史の書き換えをタブーとし、その影響下にある宇宙に徹底的な情報操作を施して、時間移動技術を排除していた。だから、あの宇宙で一般的に知られていた宇宙モデルは間違ったものなんだよ」

 

 いうなれば、観測結果を弄られ星迄の距離を誤魔化された結果、天動説の周転円宇宙モデルが科学的常識になってしまった様なモノ、と言って分かるだろうか?

 

「……う、」

 

「宇宙全体って」

 

 流石に、そこまでの情報操作は想像の埒外だったのだろう。少女が並んだ細面をげんなりとさせると、周も嫌な顔で吐き捨てた。

 

「あの宇宙で止めるまで、それを幾百幾千の宇宙で繰り返してきたんだぜ? 笑えるだろ?笑えよ?

 宇宙のありのままを記憶するって、情報操作してる時点でありのままじゃねーっての」

 

 そもそも“最適解の世界”みたいなとこに行きついたらどうするつもりだったんだろな――そう、件の物語で混交(クロスオーバー)した、時間及び平行世界移動アリアリの宇宙を思い出し、内心溜息を吐く。そんな青年を変な目で見る彼女に気付き、アマニらしくなかったかとその頬に手を当てた。

 

「なんか、再起動してから人格変わってないか?」

 

「まぁ、いつも通りと言えばいつも通りだけどさ」

 

 それ程自信は無かったのだが、どうやら一番親しかった彼女が見ても、彼と狂気を装っていない素のアマニは似通っているらしい。

 それで僅かに認められたような、胸の内がほんの少し軽くなった様な気分で、周は安堵の吐息を溜息の如くに吐き出した。

 

「……ふむん。正直な所を言えば、かなりの量の記憶が記録になってしまったからな。

 確かに、精神年齢と言う意味では大分若返っているだろうが、基本のアーキテクチャはそれほど変わってはいない……はずだ」

 

 尤も、それはアマニが周であったと仮定した場合の話ではあるが……。

 その頼りない答えに、セルルゼは仕方ないとばかりに溜息を吐いた。

 

「ま、船は、船長の指し示す方に飛ぶだけさ」

 

「……いつも通り、舵はアマニに任せるよ」

 

 しかし、続いて、彼女の二つの口から紡ぎ出されたその言葉は、予想とは異なる、アマ二への信頼を示すもの。

 それは――元々アマニは自分だったのかもしれない――抱きかけていたその安堵で緩んでいた周の心を、ハンマーの如くに打ち据えた。

 口元から、ひゅうとか細い息を吐きだし、右手で己が心臓の上を押さえる。シートに片手を突いて、揺らぐ上体を支えた。

 

「……なんだよその反応は」

 

 信頼の表明にこれ程の驚きを返されては、流石に気分も良くないのだろう。口を尖らせる彼女に、周はなんとか苦笑を返した。

 

「いや、ちょっと前までリープタイプに混じってた()にそんな事言われたら、流石に驚くさ」

 

 そうして捻りだしたその言葉に、姦しい姉妹たちを思い出したゼルルゼの、頬が真っ赤に染まった。

 搬種と進化を目的に、単独行動を前提として作られた為か、どうにもリープタイプには道具として課せられた制約が緩く、彼女らが自らの意志で船長を選んだ場合、それは概ね、性愛的な意味での好意を意味したり、後にそう発展したりする場合が多い。

 勿論それは、そう言った風潮があると言うだけの話なのだが、虜囚の身から解放された盛り上がりもあり、私もカッコいい船長が欲しい等と騒いでいる姉妹達に、ごく最近まで混じって居た彼女にそう言われると、もしかしてとか考えてしまうのも一抹の真実であった。

 

「ちょ、アマニ、別にこれはそう言う意味じゃ!」

「ちょ、アマニ、別にこれはそう言う意味じゃ!」

 

 概ねの誤魔化しに微妙な本音が混じり、奇妙な説得力を帯びるそんな言葉に、少女は流石に慌てたか、二つの動きを重ねて言い訳がましい叫びを上げる。

 

「ああ解ってる、解っているとも」

 

 そして、そんな彼女を愛でる様に、青年はくつくつとその形だけ笑って見せた。

 酷く胸が痛む。他人の席を掠め取っているようなその罪悪感は、その相手が好きな物語のそこそこ気に入っている登場人物だけに、ただの小市民でしかない青年の胸に強く突き立った。

 この痛みは、元々アマニが周だったと知ったら、消えてくれるのだろうか?――そんな事を思いつつ、彼女を宥めて言葉を連ねる。

 

「まあ、それはさておいて、当面やらなければならない事が幾つかある。

 まずはブゥアー関連――コイツは予てからの計画通りに事を進める。前準備は消えてなくなったが、伝承族のいないこの宇宙なら、都合するのはそう難しくはないし、それさえ整えば、ある程度は自動で進められる。これがまず、最初の仕事だな」

 

 オリジナルのブゥアーは、宇宙をエネルギーに還元して食わねば自己を維持出来ない程に肥大化していたが、それはあくまで、情報化宇宙の維持やその未来の演算の為であり、ただ記録し読み出すだけを目的に整理・圧縮するのであれば、あれ程の規模やエネルギーは全く必要ではなかった。エネルギー問題だけではなく、今後の情報保全や、失われた知識、ブゥアーのみが保持していた技術等の回収等を考えても、これは直ぐにでも始め無ければならない、必要不可欠な作業である。

 

「次に、時間及び、並行正解移動技術の確立。これは、俺達をここに移動させた者達に対抗し、故郷に帰る為には必要不可欠だ。

 先に言った通り、この世界には他世界の干渉や時間操作の痕跡が散見される為、まずはそれらの調査と、研究から始める事になる」

 

 これもまた必要な作業だが、ブゥアー解析の準備とは異なり、制限時間が切られていない為、その優先度は若干低下する。勿論今後の干渉に備え、出来るだけ早く防備を整えなければならないのではあるが……。

 

「最後に、今後この世界はかなりの期間にわたって、外宇宙や並行世界の武装勢力の襲来に起因する戦禍に晒される。

 ……正直言って無視しようと思えばできる案件なんだが、時期的に考えて、俺達をこの世界に放り出した“だれかさん(アンノウン)”の目的がこれ絡みである可能性は低くない。なので、その様子見もかねて、この戦いに干渉しようと思う」

 

 そうして最後に、これは反対されるかと覚悟しながら続けると、ゼルルゼは見透かしたようにその肩を竦めて見せた。

 

「ま、いいんじゃない。アンタが小心者なのは今に始まった事じゃなし」

 

「それに助けられた側としては、何か言うつもりはないわ。それで、どうするつもり?」

 

 そんな彼女の姿に、周はその口元に苦笑を浮かべた。“優しい”や“お人よし”ではなく“小心”と評する辺り、アマニ(わたし)は理解されていたのだろうと。それが少し妬ましく、そう思う自分が疎ましく、青年は一つ、溜息を落とした。

 

「単純な戦力なら俺達だけでお釣りがくるが、所詮骨を埋める気の無い外様だ。それに、“だれかさん(アンノウン)”の事を考えると、変に甘やかして現地戦力を弱体化させるのも考え物でな、そこで、主に現地人の戦力を主体とした組織を立ち上げたいと考えている」

 

「ふむ、装備はアマニがでっち上げれば、どうとでもなるとして」

 

「面子はその戦乱が始まってから集めるのか?」

 

 その問いかけに、いやと首を横に振る。スクールのドロップアウト組の保護に先行して、まず彼らを受け入れる人材を探さねばならない。

 それに……。

 

「……初期の人員は幾らかだが当てがある。それに、向うと違ってこっちじゃ時間移動を控える理由はないからな。

 追加人員は、そっちから探す方向で考えてる」

 

 過去この世界の地球で起きた戦い――バラルと百邪の戦いや機人大戦、OGシリーズの前史である竜虎王伝奇とその外伝で描かれた暗闘の中で、死んでいった者達や兵器等を回収・説得する。場合によっては戦いになるかもしれないが、少なくとも、その中の一大勢力であるバラルに属する妖機人や地機仙は、思想や信仰、カリスマで忠節を誓ったとは到底思えない者達だった。こちらの強さや払う対価によっては充分に引き入れられると感じられたし、正直なところを言えば、妖機人や超機人たちの構造などにも興味があった。

 

「……とは言え厄介な奴らがいなくなった以上、その辺りは全部こっちの領分だからね。

 取り敢えずは、俺の補助をしながらこっちが作ったカバーに合わせて生活してくれればいい」

 

 当面、周はその“脳力”の大半を、研究やら分析やらに費やす事になる。彼女はその補助に加え、何かあった時の対処や護衛をしてもらわなければならない。彼がそう告げるとゼルルゼは、大げさな仕草で肩を竦めて見せた。

 

「……って事は、暫くの間は四六時中アンタの傍に侍ってなきゃならないってわけだ」

 

「こりゃまた、随分と熱烈なカップルらしいね。その三人は……」

 

 先の言葉の仕返しか、そんな言葉を吐く少女達の姿に、青年はその顎に手を当て考え込むような、仕草。

 

「嫌なら、陰からスニーキングしてくれてても構わないが?」

 

 効率は落るが、周が裏で行う作業に裂く処理能力を下げて、彼女とリンクする端末(センサー)を持ち歩くようにするだけで事は足りる問題だ。地球人としての感性を残す彼にはあまり好ましい事ではないが、なんなら、警護・介助用に新しい人造人間(ビメイダー)を作ったっていい。こう、情報収集に向いた古の時代のギャルゲーめいたお助けキャラ系のネアカな奴を。尤も、性能充分に作ったとしても経験が足りない者に丸投げするのは難しい。暫くの間は、ゼルルゼにバックアップを頼む事になるが。

 

「物陰からこそこそとか」

 

「それこそ願い下げだよ」

 

 うんざりした表情でそう答える彼女に対し、重い溜息を吐いた。

 

「……それと、お前らの戸籍は一つしか都合しないから、どっちにしろ片割れは、物陰からこそこそしてもらうことになるぞ?

 双子設定より、二人一役の方が色々都合がいいしな」

 

 記憶から何から改竄できる為にバレる心配こそなかったが、地球連邦が成立しているこの世界にあっても、日本国内に双子の白人美少女がいたら相当目立つ。ただでさえ能力下限で過ごさなければならないと言うのに、自らトラブルを引き込むような真似は御免だった。

 ゼルルゼからのブーイングには等閑に手を振る事で答え、周は捏造した来歴データを船体を通じて二人に投げ渡す。

 

「ふぅん、ネットで知り合って、サークル結成、ねぇ」

 

「……ゲームの同人サークルから起業って、コレ本気で言ってるの?」

 

 斜め読みしたデータに顔を顰める彼女に、青年は軽く、本業だろと答えた。

 

「人員を受け入れるにもカバーは必要だし、現状、問題なく切り売りできる技術はプログラミングしかないんだ。

 それに、ブゥアーのサルベージデータを元にゲームでも創れば、自然に滅ぼされた宇宙の情報を広められるだろ?」

 

 生体コンピュータとして究極的な存在である伝承族の肉体を持つ周に加え、元特攻機とは言え電子戦仕様のゼルルゼは、そちらの方面には相応に詳しい。単純な質で言うなら、目的に対して究極的なシロモノを、機材無しで幾らでも量産可能な面子が揃っていた。

 加えて、かつて存在した宇宙を何らかの形で伝え残すと言う大目的にも合致し、地球側の重要人物にはゲーム好きが多いと言うオマケ迄ついている。実際、そっち方面から何故かロボット開発にスカウトされた人物迄存在する位で、プログラミングや設計のセンスがあるとみられれば、彼等とのコネクションを繋げる可能性すらあるとのだから、これを利用しない手はなかった。

 

「それに、使えそうなデータもプログラムも億年分揃っているからな。今こそ(アマニ)の宇宙船アーカイブが火を噴く時だ」

 

 なにしろ、滅びた文明のデータを使用するのが前提なのだから、宇宙を駆けるゲームを作るのは最早義務である。そして、唯一無二の自分の船ほど心を震わすモノは有り得ないのだから、やはりオリジナル宇宙船作成プログラムは凝るべきだと、アマニ……もとい、周はその口元を緩めて含み笑いを漏らした。

 

「ところで、VR体験版第一号はやはり、宇宙船設計システムのさわりと創った船を乗り回すのにすべきだと思うんだが、どう思う?」

 

「……好きにしてくれよ、旦那」

 

 最早、諦めの境地と言った風情で投げやりな返事をよこす自分の船(ゼルルゼ)に、彼はうんうんと満足そうな頷きを返す。

 

「んじゃ、とりあえずHP作って、いきなり本編ブッパはあれだから、とりあえずは体験版とムービーと、他に幾つか便利そうな自作フリーソフト載せて、タイムテーブルとかいじくって、適当なとこに情報投げてと……」

 

「って、もう始めてるのかい?」

 

 驚く相棒を他所に、書き込みに気付いた数十人の興味をほんの少しだけ煽り、ダウンロードさせるところまでは持ち込んだ。ゲームとしての質(おもしろさ)は兎も角、VRの質は他より上げてある為、後は放っておいても情報が拡散するだろう――周はそうほくそ笑む。

 

「そうだよね、幾ら若返ったってアマニだもんね」

 

 そうして勝手に驚き、納得するゼルルゼに首をひねりつつ、今できる一通りの改竄と処理とを終えた。これで暫くは、画面写真や舞台となる宇宙の情勢などを小出しにして場を持たせられるだろう。他にも、今後長期的に用いるモノ、種が芽吹くのに時間が必要なモノ等は、今のうちに士魂で置いて研究の腰を折られる事は避けたいが……。

 

「……仕事に入る前にやっておいてほしい事はあるか? 何か装備が欲しいとか?」

 

 周はそう尋ねるが、そもそも、基礎となる技術レベルが、この地球や周辺の宇宙文明圏より高い彼女達だ。しかもリープタイプは、頭脳体単独で自己の船体の改良再建が可能に創られている事もある。中でも暗殺機として運用されていた彼女は、船体と資源さえそろっていれば、よほど特殊な物を除いて大抵は自作が出来た。

 

「基地、ぐらいか?」

 

「それから船体は、早めに出しておいてほしいな」

 

 如何に人の形をした頭脳を持っていても、彼女たちの本質は宇宙船である。船体を閉鎖空間に繋ぎっぱなしで宇宙(そら)も飛べないのではストレスも溜まると言うもの。また、リープタイプは基本的に単独での長期運行が可能な仕様だが、使える港湾施設があるに越したことはないのも確かだ。

 

「銀河外縁方向に創るのと、地球圏内に創るのとどっちがいい?

 圏内なら動かすのは最小限、圏外なら、行き来は小型高速艇になるが、向うで動かす分には多少派手にやってもかまわない」

 

 地球圏に接するこの宇宙の星間勢力は、オリオン腕を主な版図とし、ゲスト(ゾガル)インスペクター(ウォルガ)と言った勢力が属する共和連合と、ペルセウス腕を主な版図とし、「それも私だ」で有名なユーゼス・ゴッツォを派遣したゼ・バルマリィ帝国が存在するが、どちらも地球を最辺境とし、主に銀河中心方面に勢力が分布すると言う点で共通している。

 なので、大っぴらに動ける拠点を作るのであれば銀河外縁方向、中心方向に作るのであれば、地球圏内であろうがなかろうが隠密航行が基本となるだろう。

 

「その条件なら圏内だね」

 

「ああ、船体から離れるのはやはり落ち着かない」

 

 そんな周の問いかけに、ゼルルゼは迷いなくそう答えた。とすると、現地人構成員の受け入れ施設も共同で、地球上に作るのが一番手間が無い。そう思案を巡らせて、青年は口元に笑みを浮かべた。

 

「……なら、海底に都市艦でも作るか」

 

 宇宙船にするであれば、何億年もの間にアマニが設計し、多くの場合は歴史との乖離を恐れて涙を飲む事になった多量の船のデータが活用できるし、地球連邦を本格的に敵に回したり、地球人類が敗北したりと言った、恒星間移民船が必要になるケースも考えられる。大前提として、表向きの本拠地には、銀河間移民船としての能力は必要だろうと一人頷く彼に、その船は、ウンソウダネと、生返事を返した。そうだろうそうだろうとそれに頷きを返し、周は必要な要素をリストアップする。

 大前提として必要なのが、銀河間航行機能と、中型艦――ここでいう中型は、数百m級の宇宙船を言う――複数の製造・整備が可能な桟橋、或は、ドック。それから、最低限万人を超える人類が生活可能な都市機能と、それ以上の人間を収容可能な運搬能力、地球及びその歴史、技術情報のアーカイブは必要だ。また、これが移民星の首都として何千年と用いられる可能性もある事、構成員たちを地球勢力と敵対させる可能性がある事などから、閉鎖的である事は望ましくなく、また、棲む者達が誇りとするような偉容(ワンダー)も持たせたい。

 そんな条件を元に宇宙船フォルダを検索すると、幾つか該当しそうな船体や技術データを発見できた。それを頭の中でこねくり回して、完成したデータを脳内シミュレータで運用テスト、そのデータをもとに更なる改良を施して……。

 

「よし、これで行こう!」

 

 そう決断を下して、彼がゼルルゼにデータを投げ渡したのは、それからたっぷり一時間ほど後だった。因みに、都市艦の設計時間と考えると異常なほどに短いが、ブゥアー基準のフルスペックに近い改造伝承族の能力を勘案すれば相当な時間である。

 

「……アマニ、これ、本当に造る気?」

 

「いや、アンタの言う事だから造れるだろうし、性能も高いんだろうけどさ」

 

 その艦は半径一㎞の半球型で、平面部の縁には高さ百mほどの壁が、中心からは半径と同じ高さの塔が突き出していた。

 平面上に都市があり、塔の頂上から外縁迄を力場固定された透明な液体金属の天蓋が、丁度ガチャポンのカプセルの様に覆っている。

 

「都市の天蓋が威圧的だと、中の人が息苦しいだろ? だから、バオンの流体操作と、レインの液体金属固定型船体を組み合わせたんだ。

 出入りする船に都市艦と同期する簡易型の力場発生器と流体操作器を装着する事で、蓋を開けずに出入りできるし、バリアー伝導装甲を兼ねた液体金属固定力場の出力は要塞艦基準だから、星系規模破壊攻撃位なら普通に耐えられる」

 

 周は、上機嫌な様子で水中環境適応型リップタイプ、液体金属船体のリープタイプを挙げ、艦の説明を始めた。内心“透けた天井は心許無く感じられるのでは”と思うゼルルゼだったが、かなり長い付き合いなだけに、ここにコメントを差し挟む愚は心得ている。

 

「機能的には半球部に攻撃機能、塔とその基部に空母機能が集約された大型攻撃空母になる。

 塔とその周辺区画、外周を六分割した区画が、それぞれが独立した恒星間航行能力を持っているので、状況に応じて分離合体して配置を組み替え、間隙を液体金属で繋げると言った運用も可能だ」

 

 そして、彼女のそんな悲しい適応を、彼はアマニと同様に、話を聞いていると判断したようだった。ゼルルゼは、弁舌滑らかに捲し立てる青年のその顔を、眺めてわずかに口元を歪める。餓鬼っぽい…と言うか、見つからにオタクな彼が密かに抱える悩みを知ったなら、きっと今の彼女はただの一言、“お前が、アマニ以外の何者かであるものか”と、斬り捨ていた事だろう。

 

『悪くない船長なんだが、話の長さと船への拘りの強さがな』

 

 左右共に同じく困ったような笑みを浮かべて、ゼルルゼはその話が終わるのを待った。彼女の船長も、無意味にただ自慢話をしている――もちろん、それも密かな楽しみなのだろうが――わけではない。無味乾燥のデータではなく、実際の運用や目指す物のイメージを伝える事で、異なる視点発想からの評価を、特に、工作側、攻略側からのそれを、ゼルルゼ・リップに求めている。だからと、与えられた多量のデータとその運用イメージをすり合わせ、評価し、攻略法を考えていた彼女は、それを聞き逃した。

 

「……と、言う事なんだが、良いんだな?」

 

「へ?」

「へ?」

 

「聞いてなかったのか? ゼルルゼ号の話だよ」

 

 これから制作する基地の話かと思えば、まさかの自分の船体(からだ)の話。キョトンと並ぶ二つの顔に周はその口元に苦笑を浮かべた。

 

「ごめん、基地艦の事考えてた」

 

「一言で言うと、ゼルルゼ号は天蓋に対応してないし異質過ぎて目立つから、ガワ被せて偽装して良いかって話だ」

 

 新規設計艦なら兎も角、最終決戦仕様の真ゼルルゼ号――反乱軍や統一軍に出向中は、偽装に旧型艦を使っていた――に、低スペックの流体制御や液体金属固定力場関連機構を押し込むのは、無駄な上に無理が大きい。元よりゼルルゼ号には火器の類は少なく、通常の戦いには向かない事もある。必要な装備や汎用的な武装を積んだ偽装を、上に被せても構わないかとの問いかけに、彼女は良く考えずに頷いた。

 

「ん、じゃあ、コイツと切り離して……いや、こっちでやった方が早いか?」

 

「わかった手動操作装置を立ち上げるよ」

 

 ゼルルゼが、二つに分かれた身体を爪から切り離し、それぞれの手動制御装置を立ち上げると、

 

You have control(いつでもどうぞ)……」

 

 周が、その二つを同時に掴んだ。

 

「……I have(掌握した).」

 

 双子の天使が肉の大地に突き立つ楔を手放し、滑る様に宙を飛び上がる。そうして向かい合う形で片手を伸ばし、その掌を繋いだ。すると、その周囲に陽炎が揺らめき、それは瞬時に形を成して機械の触手の如くに天使を取り巻き、絡めとる。

 

「ファッ!」

「ファッ!」

 

 幾ら生身の肉で構成された人形であっても、ゼルルゼは船の頭脳体と呼ばれる種のビメイダーだ。船はその体そのものであり、そちらに何かがあれば、それは感覚として彼女にも伝わる。

 その意外な有様と、その視覚的・触覚的衝撃にゼルルゼの二つの体がピンと立ち上がり、全く同時に驚きを上げると、その船体(からだ)を取り巻く機械の触手は、収縮してその体を這いずり、双子の天使を包み込む一つの船体を形作った。

 

「ヒィアン!」

「ヒィアン!」

 

 少女が自分の体を抱きしめ、悲鳴とも拒絶とも嬌声ともつかぬ奇妙な声を漏らす。重ねて言うが、二体の船体は彼女の体だ。船体が受けた刺激は、感覚を人間のそれに変換、頭脳体に共有される。それに対して周が今行った事は、偽装(ふく)を着つけると思っていた少女の体に組み付き、その深い所に自分を押し込んで繋ぐと言う、人間に例えれば何とも言い訳の使用が無い醜行であった。

 

「よし終わっ……」

 

 そうして再び艦橋に視線を戻した青年が見たモノは、その床に座り込み己が体を抱きしめ涙目で震える二つの少女の姿。

 

「……どうし」

 

 その有様に疑問符を浮かべ、そう尋ねかけた青年の余りのデリカシーの少なさに、ゼルルゼがその二つの身体で本気の一撃をくれる気になったのは当然と言って良い。(ましら)の様に――と評するのは女性に対して失礼かもしれないが、蹲っていた二つの一人は、まさにそのように、人間を越えた身体能力で壁となく天井となく足場にすると、周を挟み込んで攻撃を仕掛けた。

 尤も、不老超再生の細胞に未来予知、念動障壁と、彼女の知るアマニにはこの程度の攻撃など欠片も通じる筈もなく、また、長く人間を離れていた為に暴力に鈍感でそう言った機微にも疎い所がある。だからこれは、二人にとっては、凄く怒ってますよと言うデモンストレーションに過ぎなかったのだが、今のその体の主体である周にとっては当然そうではなかった。

 

『危ない!』

 

 そのように感じた彼の、思念(いし)が念動の防壁を形成する。それは、無防備にも飛び込んできたゼルルゼの体を受け止め、小枝でも折り取る様にバラバラに――する前に、気付いて止めたが、その時すでに、彼女は空中に縫い止められていた。

 攻撃姿勢のままに二つの顔を蒼褪めさせる少女と、そんな彼女の姿に蒼褪める青年と……。

 誰からともなく三つの溜息が連なり、丁重に降ろされ、並べられたゼルルゼに、周がその頭を下げる。

 

「正直まだ飲み込めてないんだが、なんかやらかしてたみたいですまん。

 ……だが、正直まだハードとソフトのマッチングが完全じゃないんだ。余りこちらを驚かさないで貰えると助かる」

 

 そう伝えながら記憶を掘り起こすと、どうやら頭脳体化直後の、人間らしい感覚をほとんど失ったポンコツを相手にしていた経験が、彼女達の対応をセメント化させていたらしい。まぁ、相手が不老超再生の細胞組織を持つ超級超能力者だけに致し方なしと言った所だろうか?

 

「いや、こちらこそ、ごめん」

 

「わたしの知ってるアマニのままじゃないって事をすっかり忘れてた」

 そう、頭を下げ返す彼女を身振りで制し、青年はこう言葉をつづけた。

 

「大分迷惑かけてたみたいだが、今の俺は、人間時代に仕込んだ当時の人格データと記憶を元にリブートされているようだ。だから、普通の人間を相手にしている心算で対応してもらえるとありがたい。

 ……それから、その、俺は一体、そんなに怒らせるような何をやらかしたんだ?」

 

 言葉の最後、付け加えられたその問いかけに、ゼルルゼは自分と寄り添い、互いを守り合う様に身体を抱きしめた。その顔が、赤い。アマニの記憶の中には無いその表情。

 

 ――恥じらっている?

 

 そんな風に感じて、周は首をかしげる。彼女が恥ずかしがる様なナニカが、あっただろうか? そう、考えた。しかし、覚えがない。

 何しろ、件のナニカが起きた瞬間の彼は、ゼルルゼの偽装に、合体分離が可能な通常動力艦を建造中だったのだ。覚えがある筈がない。

 

「いや、その……リープタイプ系列の船の頭脳体はな」

 

「船のセンサーが頭脳体とリンクしていて、受けた刺激が人間の、だな」

 

 言わずもがなの内容に怪訝な顔を作った周が、ハッと気づいたように口を大きく開いた。その顔が一気に上気する。

 ダード・ライ・ラグン――種族全てがマッドサイエンティストと噂される知性体“ライ族”の研究者が、リープタイプの番として作った、純戦闘用雄性体ビメイダー。

 彼が物語中に初めて登場したエピソードにおいて、彼の船体との合体を強いられたリプミラ号のコマには、それと重なる様に裸で抱きとめられるリプミラが描かれていなかったか? もしあれがリプミラの受けた感覚の表現だったとして、先の合体をそれに当てはめると……。

 呑み下した苦い空唾に、青年の喉がゴクリと鳴った。

 

「いや、ごめん。本当に……」

 

 朱に染まる顔を掌で抑えて、そんな言葉を絞り出した周に、ゼルルゼの顔もまたその色付きを深める。彼女にしてみれば、部屋飼いのペットの前で着替えだのなんだのしていたら、それが実は、姿を変えられた同族の男と判明、しかも元の姿に戻ったようなものである。

 その上彼女の場合、相手に自分のデータを何から何まで、下手すると本人よりも詳しく把握されている上に、漸くその意味に気付いたその男が、赤面したままこちらに目を合わせられないでいるのだから、それは尚更だ。

 向き合ったまま、互いに視線をそらし、何も言えずに押し黙る事、暫し……。

 

「……その」

 

 はぁと重い息を吐きだし、周は固まったままの彼女の顔にその視線を向けた。

 

「あ、うん」

 

 途中で途切れた言葉と、歯切れの悪い、その答え。

 青年はきまり悪げに、困ったような、歪んだ笑みを浮かべると、なんだな、そんな呟きを、やっとその舌に乗せた。

 そうして一旦舌が動けば、あとは何とか続けられる。始めは小さく、徐々に普通に、口が開いて、声が出た。

 

「なんだな……その、取り敢えず、先に、基地を造りにいかないか?」

 

 

 

 




ゼルルゼ「異種族のオモシロ黒人枠弄られ系船長だと思っていたら、年下の男の子にクラスチェンジしたでござるorz」
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