てきとー試し書き   作:十八

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下克上ニンジャアクション系モンハンファンタジー(予定)。


天地を掴むその両足に 冒頭部

 ふと気が付くと夕暮れ時、祭囃子の中にいた。

 足下には石畳、周囲には一方へと歩む沢山の人々、遠くから花火の上がる音。

 周囲を見回すと、どうやら両脇を沢山の露天に囲まれた、神社の参道か何かを歩いているらしい。

 行く人ばかりで戻る者がいないのは、先に別の道があるからだろうか?

 奇妙なことに、連れだって歩く者たちは一組もなく、皆何かを探すように傍らの露天を眺めながら、ゆっくりと歩み、流れていく。

 

 ここは何処だったか、何故ここにいるのだろう?

 

 考えても、頭に霧がかかったようで答えは見つからず、けれども不安はなく薄明かりの中穏やかで――ふと、胎内巡りという言葉が頭に浮かんだ。

 それは、日本の仏教寺院の幾つかに存在する、輪廻転生の流れに見立て装飾した洞を巡る事で儀式的に生まれ直すと言う、一種のアトラクションである。

 その気付きに足を止め、周囲を眺めてみれば、周りを歩く者たちは皆一人、けれどもその顔は穏やかで、その瞳にはなにかの期待と微かな不安とを宿しているかのように見えた。

 そんな光景に、そうか、皆生まれ直すために一人で歩いているのか、だから戻る者はいないのだなと、奇妙な納得が心を満たして、何故だかとても嬉しくなった。

 そうしてなにか、ここを通った証がほしくなり、道々の店へと目を向ける。

 その喧噪にも関わらず、それらの店は客も店主も物静かで、何かピカピカしたコインをやりとりしているようだった。

 ああ、そういえばそんなものもあったかと、ポケットの中に手延ばす。

 そうしてつまみ出したものは、一枚の銀色のコイン。

 それは、暖かな灯明を受けピカピカと輝いて、片面にはスポーツウェアらしき服を着た若い男の胸像が、もう片方には生没年と思われる年号と、読めない文字で記された文章の一節が刻まれていた。

 見ていると何故か胸が痛くなるそれを、しっかりと手に握り込んで、建ち並ぶ露店を眺める。

 店員たちは皆、身体のラインを隠す揃いの服に、鉱物や動植物を象った面を被っていて、ここからでは性別や歳格好は見て取れず、彼らの座る毛氈の上にも商品らしきモノはなにも見あたらない。

 

 ……これではどの店に並んで良いのかわからない。

 

 困り果てて見回すと、人に溢れたこの参道に、ぽっかり空いた空隙が見て取れた。

 怪訝に思って近づくと、そこは一つだけ一人も客のいない露店の前。

 小柄な、鳥を象った仮面の店員が、他と同じく空っぽの毛氈の真ん中で、しょんぼらと俯いているのが見えた。

 

「……すいません、この露店は何を扱っているのですか?」

 

 たまらずそう声をかけると、小さな――本当に小柄だ。下手をするとまだ小学生くらいの子供かもしれない――店員がこちらに向かって頭を上げる。

 

「あ、はい、ここでは大地の杖の加護を授けております」

 

 そう答えた声もまた、外見の印象を裏切らない稚さ。

 仮面でくぐもり、男女の別も付かないが、もしかすると、外していても区別の付かないような年なのかもしれない、そう思った。

 

「籠、ですか?」

 

 そう返し、もう一度露店を見回すが、やはり商品らしきモノは見あたらない。

 

「いえ、籠ではなく加護ですよ」

 

 なるほど、神社のお守りのようなものか?

 家内安全とか、学業成就とか、この店の列は、それぞれ異なる加護を、参拝客に授けるものらしい。

 

「その、大地の杖というのは?」

 

「大地の杖の加護を得た者は、たとえどんな場所でも足を踏み外すことも、滑らせることなもく、常に盤石たる大地の支えを受けることができます」

 

「……それはまた、素晴らしい加護ですね」

 

 盛りすぎな感のある御利益だが、内容自体は素晴らしいものだと、素直に思った。

 けれども、その前の一瞬の沈黙と続く言葉とを、店主は逆の意味に捉えたらしい。

 

「ええ、そうですよね、地味ですよね……。

 あの、人気のある軍神や武神の加護がもう少し先にありますから、そちらに行かれたらいかがですか?」

 

「いえ、そう言う意味じゃなくてですね、こんなに凄い加護なのに、どうして他に客がいないのかなと……」

 

「気を使わなくても良いですよ。

 時折お客さんみたいな人が迷いこみますが、結局最後は、他に行ってしまいますから」

 

「いえ、本心ですよ?

 というか、アスリートとかはみんな欲しがるでしょう、これ?」

 

 何をやっているのだ――内心そう思いつつ、こればかりは本心からの釈明を続けると、ややあって店主は、また奇妙なことを言い出した。

 

「……だって、魔物と戦う役には立ちませんよ?」

 

 魔物、とはなんだろう?

 怪訝に思いつつ、一般論で言葉を続ける。

 

「魔物がどうとかは知りませんけど、常に足下がしっかりして最高のパフォーマンスを得られるって、これどんな戦いでも凄いことだと思いますよ? それとも、何か他に難点でもあるんですか?」

 

 問い返され、理解できないという風に首を捻る店主に、溜息を吐いて例を挙げた。

 

「実は地面がしっかりしてないと働かないとか、土じゃなきゃ駄目だから町の中では意味がないとか?」

 

「いえ、地面じゃなくても大丈夫ですし、たとえば元から姿勢が崩れている時とかでも、ちゃんと支えてくれますよ?」

 

「じゃあ、逆に支えられると都合が悪い時でも支えてしまうとか?」

 

「意志に反しては働きませんし、足にかかる衝撃は加護の方でも受け止めます。まず限界まで足を支えてかかる力を吸収した後、徐々に弱まって最後に、という形になると思います」

 

 ……盛りすぎだと思った御利益だが、どうやらまだ序の口だったらしい。

 聞けば聞くほど有用なその内容に、徐々に眉間に力が籠もり、皺が寄っていくのがわかった。

 

「柔らかい雪原とか泥沼だとどうなるんですか?

 足が沈んでから効果を発揮するのか、泥やフワフワな雪の上に立てるのかという事ですが」

 

「その、どっちもできます、けど、上に立つと普通より消耗が激しいので……」

 

「手は?加護が働くのは両足だけですか?

 後は例えば、木登りをしている時とか、船や吊り橋の上とかだと……」

 

「……逆立ちとかなら、たぶん大丈夫、でも、梯子とかだとなれないうちは……。

 足は、その、かかればだいたい働きますけど、その、やっぱり消耗が……」

 

 聞いた限りをまとめると、どうやらこの加護、力の続く限り、地に接した部分を支えてその反動を抑えるというもので、『地』は地面に限らず、基本的は足に働くが、これも慣れで変えられるらしい。

 質問を連ねると、うぅ…、だんだん小さくなる店主の口から、涙混じりの呻きが漏れた、が……。

 

「ああ、うん、なるほど……って、 何ですかそれ、むっちゃ使えるじゃないですかっ!

 つーか、そんなん有ったら俺が欲しいわっ!!」

 

 だがそんな有様に気づいたのは、余りにてんこ盛りなその内容にこらえきれずにそう叫んだ、その後の事だった。  

 

「ご、ごめんなさい! 地味でごめんなさいっ!」

 

 そんな叫びを投げ返し、空っぽの毛氈の上、店主が頭を抑えうずくまる。

 酷く怯えたその様に、昇った血の気が音を立てて引いていく。

 

「あ、いや、逆ですよ、逆!

 何で、そんな凄い加護なのに、誰も欲しがらないんだって話で!」

 

「うぅう、だから、ゴメンなさいって……」

 

 あわててそう宥めるけれど、どうにも店主にはこちらの言葉が届いていないようだった。

 ごめんなさいを繰り返す子に、困って周囲を見渡すが、一体どういう理由なのか、行き交う人々も周囲の露店の店主も、こちらを無視し、気にする様子を見せない。

 ああと息を吐いて、毛氈の上に膝を突き、小さな店主のその肩に、優しく両手を乗せた。

 びくり、身を震わせた子供に、怒ってないから大丈夫と、何度も何度も言い聞かせる。

 そうしてようやく顔を上げた――鳥面だが――店主に、平謝りで謝り通しどうにか落ち着かせると、ほっと溜息……。

 

「……ここのお客さんって、ほんっとうに見る目が無かったんですね」

 

 あきれてそう呟くと、目の前の人は気弱げに、いいえと首を横に振る。

 

「けど、魔物を倒せる力じゃありませんし……」

 

 この人のコンプレックスの源はこれなのだろうか?

 弱い、力が無いを連発する売り子に、そんな事はないと答えた。

 

「……と言うかこの加護、説明聞いた限りだと、空気とか水も踏んで歩けませんか?」

 

「え……いいえ、流石にそこまでは無理ですよぉ。

 あ、成長させればできるかもしれませんけど……」

 

 知らない要素がまた増えて、今度は追いつめぬようにと聞き出すと、どうやら加護とは、そのものだけでは大した力をもたない、ただのきっかけであるらしい。

 使う程にその人に馴染み、成長に併せて力を伸ばして、徐々に違うモノへと変化していくのだと。

 

「つまり、例えば剣神の加護なら、最初はみんな、何となく威力が上がったり、振りが早くなったりする程度なのが、使う人の意思や能力で変化して、切れ味が鋭くなったり、貫通力が上がっていったり、攻撃範囲が延びたりしていく……と」

 

 そのようにして姿を変えた、自分の加護を以て偉業を成し、認められると加護は派生し、増えていくそうだ。

 例えば、武神、剣神、軍神の三種は、すべて戦神の加護から派生したモノで、そして、大地の杖の加護は、戦う力が尊ばれる世界に於いては捨ておかれ、そのまま朽ちて消えて行くのだろうと、店主は寂しげに呟いた。

 そんな様を直ぐ側で見下ろして、溜息を吐く。

 気づいてからずっと、何か、胸の隅にこびり付くような、ボタンを掛け違っているような違和感があった。

 定まった胸の内、警告めいた、一度踏み出せばもう止まらない、そんな奇妙な予感が沸き上がる。

 けれどもそれ以上に、目の前で小さくなっているモノは見過ごせないーーそう感じて、俯く鳥面に銀のコインを差し出した。

 

「じゃあ、俺が『大地の杖』の凄さを知らしめてやるよ」

 

 驚き、顔を上げる店主に、気恥ずかしくなり頭を掻く。

 

「あ、もしかして、これだと足りなかったりするのか?」

 

 照れ隠しでそう続けると、店主は差し出されたそれに呆然と目を落とした、そんな風に見えた。

 それから首を横に振り、けれども差し出した手を握らせて、こちらに引き戻す。

 そうしてその手を掴んだままに、ありがとうと、そう告げた。

 

 ――そして、目を覚ます。

 

 

                   ◆◆◆

 

 六国からなる帝国の、その最辺境、地の果て、“化外の森”を切り開いた最新の開拓村で、その日、初めての命が産声を上げた。

 小さな村の中心広場、そこに面した小さな庵に、おわぁおわぁと元気な声が鳴り響き、それを聞きつけた男共が、口々に大きな歓声を張り上げる。

 

「やれやれ、こちとら疲れてるってのに、がさつな男共だよ」

 

 扉を挟んだその騒音に露骨に眉をしかめて見せて、産婆なのだろう恰幅の良い婦人が、寝台に横たわる少女の額を手拭いで軽く拭った。

 全身、玉のような汗。

 疲れて気を失ったか、目を閉じ荒い息を吐く彼女に、産婆はよく頑張ったと声をかけて全身を軽く拭うと、その傍ら、湯に洗われ布に包まれた赤くしわくちゃな嬰児を片手で抱き上げる。

 そうして彼女は、みっちりと肉の詰まったその掌を赤子の額に添え……

 

「……こりゃまた驚いた。随分とまぁ、強い加護を授かったものだ」

 

 ……元より丸い目を、更に皿にして、思わずといった風にそんな呟きを漏らした。

 そのままその口の中、二言、三言ともごもごと――すると抱いた赤子の額に、薄く一筋の光が走り、次いでその軌跡が象る形に、産婆は眉を怪訝に顰める。

 

「ふむ、これまた珍しい、始めて見る加護だね。

 とりあえずは、あの馬鹿お望みの戦神の系譜ではなさそうだが、

 だ、い、だいち、の、つ、え?――大地の杖か」

 

 そう象りを読みとくと、落胆の声が聞こえるようだね、彼女はそう微かに呟いて、傍らの少女を一瞥、赤子を抱えたまま部屋の外への扉を開いた。

 




木の梢の一番上の葉っぱの上に一本足で立って腕組む系主人公(予定)

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