「おお。ついに完成したぞ」
「何が出来たの?おじいちゃん」
目を開けると、ヨーロッパ系の顔のおじいさんと、彼に目元がよく似たお姉さんが俺を覗き込んでいた。え、何?どちら様??何でおじいさんは魔法使いのコスプレしてるの?お姉さんも帯剣してるし。あと顔が近いよ!
「自動学習型の口紅だ。持ち主の魅力・魔力に応じて機能を進化させる事が出来るんだよ」
「自動学習型?」
自動学習型は置いといて……。口紅?俺は只の高校生なんだけど、夢か何かのドッキリだよな??普通に学校行こうとしてたんだけど、いつの間に寝ちゃったんだろう?
「試作品として3つ程作ってみたからの、試しに使って見てくれんか?黒と銀とピンクと、ケースの色は違うものの、肝心の性能は均一化しておる」
おじいさんはドヤ顔のまま、俺達をコロコロと転がしている。雑に扱われている割に痛くないって事は俺、本当に口紅に?
「じゃあ私はピンクのケースにしようかな。試し塗りしてもいい?」
「いいぞ。婆さんのは黒いケースのだからな。余りはお友達にプレゼントしなさい。定期的に感想を聞かせてほしいと伝えておくれ」
「うん、わかった」
お姉さんは、ピンクのケースを手にとって、手鏡を見ながら唇に塗りつけた。
……なんか塗ってる時に女の子の『ちょっと待って、嘘でしょ!?』って声とか、くぐもった悲鳴が聞こえたんだけど。俺と同じ、口紅になっちゃった子もいるってことか?嫌な予感がするんだけど……。俺のケースの色は黒と銀の二択って事だよな。ファーストキスが既婚者で、しかもおばあさんなのは嫌だ。くそぅ、ひよってないでカナにちゅーしておけば良かった!銀のケースでありますようにっ!
「ねーねーおじいちゃん。この子、あんまり色がつかないよ?色つきリップみたい」
「おお、エセルと婆さんの口が荒れんようにと調整したら、薄くなってしまっての。進化を期待しておくれ」
「流石おじいちゃんっ。期待してるね。口紅ありがと!それじゃあ午後からの訓練に行ってきます!」
エセルさんは俺と、さっきまで悲鳴を上げていた口紅を腰に着けているポーチの内に突っ込むと、勢い良く礼をした。振動がこっちにまで伝わってきた。俺は銀色だったのか。
「気を付けてのぅ」
「はーい!」
走るの速いな。揺れるううぅ……。
「うふふん、おじいちゃんに良いもの貰っちゃった~。銀色の子は誰にあげようかな~?ミリィにしよっかなっ」
『ううぅ、ちゅーしちゃった……』
『え、やっぱり口と口って感覚なの?』
『顔面と口って感じだった……』
『……それはキツいな。まあエセルさんいい人そうだし、雑に扱われる事はあんまりないんじゃないかな?』
『ポーチのなかが整理されてないのに?』
『なんかごめん……』
とりあえずミリィちゃんって娘が可愛いかったら良いな~と、ギュウギュウに詰め込まれたポーチの内で、エセルさんの鼻歌と口紅仲間の桜ちゃん(先程命名)のしょんぼりした声を聞きながら、そう思っていた。