なり損なった少年   作:流離う旅人

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新年あけましておめでとうございます。


物語が始まる御話
1.新学期


「ヴィヴィオ、そろそろレイのこと起こして来てー」

「はーい!」

 

朝食を運んでいた私は快く承諾し、料理をテーブルに置くと軽快な足取りで二階へと向かった。

 

私、高町ヴィヴィオにはお兄ちゃんがいる。私とお兄ちゃんは血が繋がっていない。時同じくしてなのはママの養子、養女として引き取られたからだ。

お兄ちゃんは少し意地悪でたまにイタズラをしてくるけど、本当は優しく家族思い。そんなお兄ちゃんが私は大好き。……もちろん、異性として、だ。

 

若干熱くなった顔を押さえ、お兄ちゃんの部屋のドアをノックする。

しかし、反応がない。起きてますかー? と声を掛けても返事は返ってこない。

止むを得ず私はドアノブを回し、部屋に足を踏み入れた。そう、止むを得ずに。

決してお兄ちゃんの寝顔を一目見ようなどとやましいことを考えてなどいない。考えていないったらいないのだ。

 

部屋に入って先ず目に入ったのは制服のままベッドに倒れこむようにお兄ちゃんが寝ていた。

皺にでもなったらなのはママ怒るだろうな、と苦笑する。

そろそろと近付くと規則正しい寝息が聞こえる。この分だとしばらくは起きないだろうーーー。

私は回り込んでお兄ちゃんの寝顔を堪のーーー確認する。

気持ちよさそうに眠るお兄ちゃんを見てるいると自然と頰が緩んでしまう。

それから約数分ほど経ってようやくお兄ちゃんを起こしにかかる。

 

「お兄ちゃん、もう朝だから起きて」

「ん、んぅ……」

 

肩を軽く揺するとお兄ちゃんから吐息が漏れ、また私の顔が熱くなった。

 

「ん、はぁ……おはよ、ヴィヴィオ」

「おはようお兄ちゃん!」

 

上体を起こし欠伸混じりの挨拶に元気いっぱいに返すと薄っすら微笑んだお兄ちゃんが私の頭を優しく撫でてくる。

お兄ちゃんに撫でられるのは大好きだ。こう、なんというか温かいのだ。しばらくしてハッと我に返り、慌てて部屋を後にした。

 

「お、お兄ちゃん! それじゃ私先に降りて待ってるから早く来てね!」

「ん、わかった?」

 

後半、何故か疑問系になっていた気がするが今の私に気に留めている余裕など存在するはずがなく、そのまま落ちるように階段を駆け下りた。

 

 

 

ヴィヴィオが去り、一人部屋に残った俺はまだ眠り足りずに欠伸を噛み殺す。昨日は夜遅くまでフェイトさんから書類整理をしていたのが原因だ。

数瞬、呆けた後ベッドから立ち上がり凝り固まった体を伸ばした。

意識が少しばかり回復して、自分が昨日制服を着たまま眠ってしまっていたことに気付いて顔を青くする。

拙い、と思ったが幸いなことに制服は皺になっていない。

これならなのはさん(・・・・・)に怒られることもないだろう。

みんなを待たせているので足早に部屋を後にすると先ず洗面所に向かう。冷水で顔を洗うと刺すような冷たさで意識がはっきりとした。

最後に軽く身だしなみを整えてから、居間へ足を運んだ。

 

「おはよう、レイ」

 

俺を出迎えたのは優しく温かな声。

声が聞こえた方に視線を向けると栗色の髪を揺らしながら微笑むなのはさんがニコリと微笑んでいた。

 

「おはようございます、なのはさん」

「もう、いっつもママで言ってって言ってるのに」

「うっ、善処します」

 

レイの返答に不満気な表情から一転、先ほどの明るい笑顔に戻った。

 

「昨日は遅くまで起きてフェイトちゃんの書類整理を手伝ってたみたいだけど」

「大丈夫です。そこまで苦でもないので」

「こらっ」

「あうっ」

 

突然、小突かれ小さな悲鳴が漏れた。

怒らせるようなことしたかな、と、戸惑っていると、

 

「苦でもないからって寝不足になったら意味がないんだからね」

「っ、はい」

 

なのはさんは諭すように言う。そして、今朝ヴィヴィオにしたようにソッと頭を撫でてきた。

きっと今の自分の顔は赤くなっている。心なしか少し熱い気がする。

 

「あー! なのはママ狡い!」

「あはは、ごめんごめんヴィヴィオ」

 

頰を膨らませて突撃してきたヴィヴィオを受け止める。

そのまま絶対に離さないと言わんばかりにギュッと抱きつくヴィヴィオに苦笑しながら頭を撫でてやる。

最初は頰を膨らませたままだったが次第に頰を緩め、笑顔になる。

仲の良い、いや、良すぎる兄妹を見ながらなのはも笑顔を浮かべる。

 

「それじゃ、朝ごはんにしよっか」

「はい」

「うん!」

 

 

 

朝食を食べ終え、レイとヴィヴィオは学校に行く準備を済ませる。

なのはさんも準備を済ませ、ヴィヴィオと今晩の進級お祝いの話をしていた。

そう。今日でヴィヴィオは初等科の四年生だ。かくいうレイも中等科三年生に進級した。

時が経つのも早いものでレイとヴィヴィオが大きく関わったJS事件から四年が経った。

 

今、こうしてここに居られるのは四年前に出会ったみんなのお陰だ。

いくら感謝してもしたりないほどにレイは恩を感じていた。

何故なら、空っぽだった自分(・・・・・・・・)にいろんなものを与えてくれたから………

 

「ーーーゃん! お兄ちゃん! ちゃんと聞いてるの?」

「あ、ごめん! 考え事してて聞いてなかった」

「もう! 今日なのはママ早く帰って来れるんだって」

「そうなんですか? まあ、いつもが働き過ぎなわけですけど」

「にゃはは、それを言われると痛いなぁ。今日はヴィヴィオとレイのお祝いだから少し早く帰ろうと思ってね」

「普段からもそうしてください。なのはさんが倒れたら泣きますよ? ヴィヴィオが」

「泣かないよ⁉︎」

「うん、そうだね。ヴィヴィオが泣いちゃうから気をつけなきゃね」

「なのはママまで⁉︎ ヴィヴィオに味方はいなかったよ!」

 

なのはさんとヴィヴィオを弄り、吹き出してしまう。

ウニャーー! と怒るヴィヴィオを宥めながらなのはさんと別れ、学校へと走り出した。

 

「もうやっぱりお兄ちゃんは意地悪だ」

「ごめんごめん。ヴィヴィオをイジると楽しくて……な?」

「同意を求められても答えられないよ⁉︎ もうお兄ちゃんなんて置いてっちゃうんだから!」

「あ、待てよヴィヴィオ!」

 

仲睦まじい兄妹を見て、通行人は微笑ましくその光景を見ていた。

その視線に気付くはずもなレイはヴィヴィオを追いかけた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

学校に到着したレイとヴィヴィオ。

それぞれの校舎に向かおうと足を進めるとヴィヴィオに呼び止められた。

 

「お兄ちゃんも今日は始業式だけだよね」

「そうだな。でも少し友達と駄弁るかな」

「じゃあ、全部終わったら図書館に来てよ。紹介したい子がいるんだ」

「分かったよ。終わり次第に向かうよ」

「うん!」

 

待ってるからねー! と、走り去るヴィヴィオの背中が見えなくなると踵を返し今度こそ校舎に向かった。

 

 

桜が並び立つ道を歩いていく。

この道は何度も通っているが、やはり春が一番綺麗だ。

舞い散る桜を見ていると、突然後ろから肩を組まれた。

嘆息しながら横を見るとそこには見知った顔があった。

 

「いきなりなんだよ、ラウル」

「つれないねぇ、レイは。久しぶりに会う親友だぜ?」

「久しぶりってお前春休みの間だけなんだからせいぜい一週間ぐらいだろ」

 

ニシシと笑うラウル

こいつはラウル・ウィズリー。四年間連続同じクラスの腐れ縁だ。

ラウルのお陰でレイは学校に馴染むことができたので、それなりに恩を感じているし、親友だと思っている。

しかしーーー

 

「早速で悪いけど春休みに出た課題の答え写させてくれ!」

 

手を合わせて拝み出すラウル。

そう、ラウルはバカなのだ。それも超がつく程に。それも自覚があるバカだ。

分かっているなら改善しろ! と、思う人もいるだろうが本人も改善しようとしているが改善の兆しが一向に見えない。

ラウルは顔が整っているし、友達思いのいい奴なのだがバカが全て台無しにしてしまっている。

レイは本日二度目の溜息を吐いた。

 

「分かったから離れろ暑苦しい」

「さっすがレイ、サンキュー」

 

相変わらず能天気というか何というか。まあ、こうでなきゃラウルじゃないな。

レイはポケットから通信端末を取り出し、時間確認。あと十分もすれば始業式が始まる刻限にまで迫っていた。

「あれ、お前自分専用のデバイス持ってないのか?」

「あ、ああ。そういうお前はインテリジェント型だったけ?」

「おう! な、シェンロン(相棒)

『はい。マスター』

 

ラウルは左腕につけたブレスレットに声をかける。

すると、ブレスレットから機械的な声が発せられた。

 

「しっかしシェンロンもこいつがマスターだと苦労するだろ?」

『それをカバーするために私がいるので』

「ホントお前には持っていないぐらいデバイス(良い子)だよ」

 

へっへーん! と、胸を張るラウル。

それがおかしくてレイは失笑する。

そういえば、と、ラウルが言った。

 

「始業式の後暇か?」

「何人かと話したら、図書館に行く予定だけど」

「なら、ちょうど良いな。俺もリオに呼ばれてるんだよ。一緒に行こうぜ」

「別にいいけど何で俺を誘ったんだよ?」

「リオの奴が『レイさんも一緒にね!』って頼んだからだよ」

「リオちゃんが? 何か用でもあったのかな」

「『はーーー』」

 

レイが首を傾げているとラウルとシェンロンが長い溜息を吐いた。

意味が分からず、更に疑問符が浮かぶ。

 

「何だよ、二人して」

「べっつにー何でもないよ」

『レイさんはもう少し女心を学ぶべきだと思います』

「お、おう?」

「そんじゃ、早いとこ体育館に行こうぜー」

 

ラウルの態度とシェンロンの助言に疑問が残るが時間も時間なので大人しくラウルのあとに続いた。

そういえばヴィヴィオの紹介したい子ってリオちゃんのことか?

ヴィヴィオとリオちゃんは面識がなかったはずだからきっとそうだろう。きっとコロナちゃんもいるはずだ。

すでにリオちゃんと知己の仲だと知ったらヴィヴィオは驚くだろうな、と、考えてレイは笑った。

 

 

 

◇◆◇

 

 

校長のありがたい御言葉を聞き流し、迎えた放課後。

レイは校門に背を預け、一人立っていた。

レイが一人なのは現在ラウルが先生にお叱りを受けている最中だからだ。

始業式の最中、ラウルは終始鼻提灯を作りながら眠りこけていた。

距離があったので念話を飛ばして声をかけても反応なし。シェンロンも起こそうとしていたのだが、案の定先生に見つかり衆人環視の中引き摺られていくのを見送りながらレイは三度目の溜息を吐いた。

そして、冒頭に戻る。

 

もうそろそろ行かないとヴィヴィオの機嫌がどんどん悪くなっていくので早く行きたいのだが……というか既に現在進行形でメールがどんどん送られている。もう軽く二桁はいっているし、何より開くのが怖い。

あとで責任と称して買い物に付き合わされている自分の未来を想像して、レイは乾いた笑いを漏らした。

 

「おーい! 悪ィ、思ったより長引いちまって」

「どうせ、説教の時も寝てたんだろ」

「なんで知ってんだよ⁉︎ まさかお前かシェンロン!」

「本当だったのかよ……」

 

カマかけてみたが、まさか本当に寝ていたとは……

しかも真っ先に自分の相棒を疑ったぞこいつ。

 

『マスター、先に申し上げるとレイさんに報告はしていません。レイさんは日頃のマスターの行いから判断されただけだと思われます』

「そうなのか? なんだよ、そんなに俺のこと見てたのかよ。照れるなぁ。でも、ごめん。俺は女の子が好きだからーーー」

「何をどう解釈したかは知らないが俺はノーマルだ」

「え? お前、女の子に興味があったのか?」

「いや、どういう意味ーーー」

『レイさん、ちゃんと女性に関心があったんですね。安心しました』

「え?」

 

ラウルだけなら冗談で流せたが、シェンロンまでそう思っていたとなるといよいよ冗談では済まなくなってしまった。

もしや周りのみんなも言わないだけでそういう風に見てるのか?

と、導き出した答えにレイは泣きたくなった。

本当のところ、周囲の女性の行為に全く気付かない鈍感朴念仁であることが原因で『実は女性に興味もなく男性が好きなのでは?』と、考えられていることをレイは知らない。ーーー恐らくこの先気付くこともないだろう。

慌てだしたレイを見て、二人はそう思った。

 

 

トリップしていたレイをなんとか現実に再起させ、ようやく市立図書館に到着した。

恐る恐る図書館に足を踏み入れ、本棚の陰からそっと中の様子を伺いーーー即座に顔を引っ込めた。

額に冷や汗が浮かぶ。覗かなかったラウルも肌で感じ取ったのか青い顔をしている。

 

レイはすぐにヴィヴィオを見つけた。ーーー黒いオーラをたちのぼらせたヴィヴィオを。

完全に怒っている。とにかくそれだけは理解できた。

 

もう一度覗く。すると、隣にいるコロナちゃんと目が合った。

苦笑いを浮かべるコロナちゃんに助けを求める視線を送る。

レイの思いが伝わったのか、コロナちゃんの小さな唇が動いた。

すかさず読唇術で読み取る。何故、読唇術が使えるのかは今度機会があれば話すので気にしてはいけない。

 

何々?

『これでも宥めてたんですけど、これ以上はもう無理みたいです。ごめんなさい。前、気をつけて下さいね』

どうやらこれ以上の助けは期待できないようだ。

さて、どうやってヴィヴィオに謝ろうかーーーあれ?

今、最後にコロナちゃんが言ったのはどういう意味だ?

 

『前、気をつけて下さいね』

 

前?

視界に映るのは未だ苦笑いを浮かべるコロナちゃんに合掌しているリオちゃんと二人だけ(・・・・)

残酷な現実に体が震える。首が錆びついている錯覚を感じながら、下を見た。

そこにはにっこり笑顔のヴィヴィオがいた。

コロナちゃんに集中し過ぎてヴィヴィオが移動したことに気付かなかったのだ。

 

「や、やぁ、ヴィヴィオ」

「うん、お兄ちゃん。遅れてきたのにこんなところで一体何をしているのかな?」

「いや、これには訳があってだな」

「正座」

「え、ここで?」

「正座」

「ここは周りの目もあるし……」

「正座」

「ーーーはい」

 

もう何を言っても無駄と悟ったレイはその場に正座した。

自分の後ろで爆笑しているラウルをあとで必ずシメる! と心に誓いながら。

 

 

結局、レイが解放されたのはそれから数十分後のことだった。

何でも言うことを聞くという条件を取り付け、ようやく解放されたのだ。

当のレイは力尽き、机に突っ伏しているが。

ヴィヴィオはさっきまでの剣幕が嘘のように穏やかな雰囲気を漂わせている。

嬉しそうにはにかむヴィヴィオを突っ伏したまま横目で確認。

それだけで活力が漲ってくる程にはレイはシスコンだ。

 

ラウルの奴は三人に混ざって談笑している。

レイの予想通り、リオと知己の仲と知ると驚いていた。それよりもラウルとリオが兄妹ということに驚いていたようだが。

 

(平和だな……)

 

頬杖をついてレイは思う。

が、それと同時にこの平和もそんなに長くは続かないんだろうな、とも思った。

この温かい場所を、みんなの笑顔を俺は守りたい。

四年前、機動六課のみんながそうしたように。

だから、今度は俺も守れるように強くなろう。今よりももっと、ずっと。

 

「お兄ちゃんも早くこっちにおいでよ!」

「ん? ああ、分かったよ」

 

思考に沈んでいた意識がヴィヴィオの声で現実に引き戻される。

ヴィヴィオは通信端末を空中に浮遊させていた。毎年恒例の記念写真を撮るために。

いつも記念写真を撮ってはお世話になっている人たちに写真を送っている。

ーーーみんなのおかげで今日も元気です。

これはヴィヴィオなりの感謝の仕方。みんなは感謝なんてされることはしてないとか言いそうだけどな。

 

写真を一斉送信するとヴィヴィオの端末に早速なのはさんからメールが届く。

メールを開くヴィヴィオの表情はどこか期待の色が見えた。

 

「なのはさんは何て?」

「えっとね、早めに帰ってくるとちょっと嬉しいコトがあるかもよ……だって」

「じゃあ、早いとこ本を借りて帰るか?」

「ご心配せずとも誰かさんの遅刻で借りたい本はもう借りてるのです」

「……申し訳ない」

「あはは。もう気にしてないから謝らなくていいよ。それじゃ、リオとコロナ、ラウルさん私とお兄ちゃんはこれで失礼しますね」

「おう! また明日なレイ」

「またね。ヴィヴィオ」

「レイさんもさよなら!」

 

じゃあな、と言ってレイたちは図書館を後にした。

そこから二人はトレーニングがてら小走りで自宅への帰路につく。

 

「お兄ちゃんは今年もルーの家の合宿に行くの?」

 

毎年、元機動六課の面々を交えた合宿をしている。

一年の中で楽しみの行事の一つでもある。

 

「ん? ああ、そうだな。あそこは自然そのものがトレーニングジムみたいなものだし、何やら去年よりもルーテシアがハッチャケて設備がパワーアップしてそうだし」

「ああ、それはあるかも……」

 

苦笑し、紫髪の髪を揺らし意地悪く微笑む友人をヴィヴィオは思い浮かべた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

家に帰宅すると、お菓子を用意しているフェイトさんがいた。

次元船の整備に時間がかかるらしく明日の午後まで休みになったらしく、珍しくこんな時間にいるフェイトに納得する。

 

「二人とも、もう少しでできるから先に着替えておいで」

「はーい!」

「わかりました」

 

二階にある自室に戻り、手早く制服を脱ぎ、クローゼットにしまう。

レイの私服は紺のジーンズに黒いパーカーというラフなスタイルだ。

部屋を出るとちょうど着替え終えたヴィヴィオと鉢合う。

ヒラヒラとしたワンピースを着こなし、天使と見間違うほどの可愛さを内包していた。

 

けれど、お兄ちゃんは目のやりどころに困ります。

確実にワンピースのしたは下着だけ。少し動けば風でワンピースが翻り、中が見えてしまいそうだ。

レイももう中学三年生。そういうことを気にするお年頃なのだ。

こういうことには反応するくせ、女心は分からないというのだから質が悪い。

 

そんなレイの心境を知ってか知らずかヴィヴィオは腕に抱きついた。

ギョッとして、離れさせようとするが嬉しそうにしているヴィヴィオが可愛く、シスコンが発動してしまい、離れさせるという考えはレイの中から消滅した。

 

リビングに戻るとテーブルにはフェイトさん手作りのカップケーキに苺ジャムののったアイスが並んでいた。

フェイトさんは既に椅子に腰掛けていたので俺とヴィヴィオはその対面に座った。てっきりヴィヴィオは久しぶりに会うフェイトさんの隣に座ると思っていたのだが、見当違いだったらしい。

 

お菓子に舌鼓を打ちながら談笑ーーーというより近況報告に近いーーーしている俺たち。

ほとんどフェイトさんは俺とヴィヴィオの話を聞いているだけ。

それでも、フェイトさんは笑顔だ。

俺たちが元気にしている、と分かるだけで喜んでくれている。

こういう姿を見てきているせいかなのはさんよりもお母さんしていると思う。……過保護過ぎるのが玉に瑕だが。

それもあってなのはさんにはあまり言ったことのない「母さん」呼びが無意識に出てしまうことがある。

その度になのはさんに泣きつかれて慰めるのが大変なのは、全部俺が悪いので自業自得だ。

 

(今日、帰ってきたら「母さん」って、言おう、かな)

 

気恥ずかしくなり、紛らわすようにカップケーキを食べるスピードが上がる。

それを二人は不思議そうに見ていた。

 

 

 

「ただいまー!」

 

夕方になり、なのはさんが帰ってきた。

まるで子供が帰ってきたかのような錯覚を覚えるのは俺だけだはないだろう、と、レイは思う。

なのはさんの手には買い物帰りのようで荷物が握られていた。

それを受け取ろうとして、先ずは挨拶を返さなければと思い留まる。

 

「お帰りなさい。なのーーーンンッ、か、母さん……」

「…………」

「…………」

 

普通になのはさん、と言いかけてレイは咳払いをし慣れない「母さん」呼びを敢行した。

静寂が玄関を支配する。

一瞬後ーーー

 

「レイがデレたーーーーー!」

「デレてないですよ⁉︎ って、ちょ、飛び込んでくると危なーーー!」

 

感極まったなのはの手から荷物が滑り落ち、声高に叫びながらレイの胸へと吶喊する。

突然の事態に驚きを隠せないレイだが、しっかりとなのはのことは受け止めていた。

 

「な、なのはさん! 荷物! 荷物落としましたよ!」

「大丈夫! 割れて困るものはないし、今日の分の食材しかないから多少傷んでも美味しく食べられるから! それよりもっと母さんって呼んで」

「あわわわわわわ⁉︎」

 

なのはが抱きつくということは当然、膨よかな胸が当たる訳で。

力いっぱい抱きしめるせいで、レイの胸板に押し付けられ、簡単にその形を変える。

さっきも言ったがレイはもう中学三年生。女性の胸を押し付けられれば意識してしまうのだ。

 

どうしよう、と、頭を悩ませていると急速に背筋が冷えるのを感じた。

この感覚には、覚えがある。ついさっきも味わったものなのだから忘れようもない。

ギギギッと聞こえてきそうなほど固くなった首で振り返る。

 

ーーーそこには、ヴィヴィオが立っていた。

 

ヴィヴィオは笑っている。そこまでは図書館の時と同じだった。

けれど、今回は全くと言っていいほど目が笑っていない。

心なしか光が消えているのは気のせいではないだろう。

 

(あ、終わった……)

 

ヴィヴィオは何も言わず、ゆっくりとした足取りで一歩、また一歩と虚を詰めてくる。指の骨を鳴らしながら……

その音が嫌に耳に残る。

そして、目の前に迫ったヴィヴィオがより一層深く笑ったのを最後にレイの視界は黒く染まった。

 

 

 

 

「はっ⁉︎」

 

レイは勢いよく飛び起きた。

キョロキョロと周りを確認すると、ソファの上に寝かされていたらしい。

 

(えっと、確かなのはさんを出迎えて、それから抱きつかれて……)

 

そこから先の記憶がない。

何故か思い出そうとすると首がジンジンと痛む。

……忘れてるということはきっとどうでもいいことなんだ、うん。

レイは頭を振り、無理矢理納得させる。

 

「あ、起きたみたいだね」

「フェイトさん。あ、今日の晩御飯はビーフシチューですね」

「正解。ふふ、レイもエリオほどじゃないけど食いしん坊だね」

「いや、さすがにエリオのアレと一緒にされるのはどうかと思うんですけど。それにエリオは食いしん坊とかのレベルじゃないですよね」

 

うん、さすがフェイトさん。少しズレてるぜ。

それにフェイトさんは仕事のお金を全くと言っていいほど使っていないからこそエリオに腹を空かさせることがないだけで、一般家庭ならエリオの食費だけで破産するのではなかろうか。

 

「お兄ちゃん! そろそろご飯だから準備手伝ってってなのはママが」

「っ! ん、分かったよ」

 

ヴィヴィオの声を聞いた瞬間、総毛立った。

レイは気のせいだろう、と自己完結し準備の手伝いに向かった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

なのはお手製のビーフシチューを食べ終え、ヴィヴィオがおもむろに立ち上がる。

 

「さて! 今夜も魔法のれんしゅうしとこっーと。お兄ちゃんも来るよね」

「ん、そうだな。それじゃあ、ちょっと出てきますね」

「あ、二人ともちょっと待って」

 

市民公園でいつもの魔法練習に出る前になのはが二人を呼び止めた。

ヴィヴィオは疑問符を浮かべるが、レイは後ろに控えるフェイトが持つ二つの箱を見て、一人納得する。

 

「ヴィヴィオももう四年生だよね」

「そーですが」

「魔法の基礎もだいぶ出来てるから、そろそろ自分の愛機(デバイス)を持ってもいいんじゃないかって」

「ほ、ほんとっっ! あれ? だったら何でお兄ちゃんはデバイス持ってないの」

「それはね。ヴィヴィオがデバイスを持つまで自分も我慢しますって聞かなかったんだよね」

「そうだったの?」

「ん、まあな。俺だけ持ってるのはなんかヴィヴィオだけ仲間はずれみたいで可哀想だと思ったからさ」

 

レイは照れながら軽く頬をかく。

自分のお兄ちゃんの優しさにヴィヴィオは頬が緩んだ。

 

「これが二人のデバイス。今日私がマリーさんから受け取ってきました」

「開けてみて」

「うん!」

 

フェイトさんから受け取り、箱を開ける。

その中央に赤く輝く宝石が据付けられたネックレスが鎮座していた。

手に取り、そっと宝石部分を撫でる。

 

「これが、俺のデバイス……」

「とっ……飛んだよっ⁉︎ 動いたよっっ⁉︎」

 

隣から素っ頓狂な声があがり、目を向けるとうさぎが浮遊していた。

おおっ、さすがマリーさんこってるぜ。

 

「それじゃあ、二人ともマスター認証しよっか」

「なのはママ! アレもできたりするの⁉︎」

「もちろんできるよ」

「あれ?」

 

若干一名首を傾げているが何とかなるだろうと俺とヴィヴィオは庭に出た。

隣ではすでにヴィヴィオがマスター認証を始めている。

それに続き、マスター認証を行なう。

 

手からネックレスが浮かび上がり、足元に魔法陣が展開された。

魔法陣はヴィヴィオと同じ虹色の輝きを宿している。

 

「マスター認証高町レイ。術式は古代ベルカ。個体名称は『フリューゲル』」

『マスター認証完了。個体名称『フリューゲル』登録しました。これからよろしくお願いします、マスター』

「ああ、よろしくフリューゲル」

 

再び手に戻ってきたフリューゲルを受け止めると、チカチカと点滅しながら話しかけてきた。

シェンロンよりも幼い少女のような声が耳朶を叩き、心地いい。

 

「お兄ちゃんも終わった?」

「ん、終わったよ」

「それじゃあ、一緒に!」

「分かったよ」

「セイクリッド・ハート!」

「フリューゲル!」

「「セーーット・アーーーップ!」」

 

魔法陣から魔力が吹き上がり、体を包んでいく。

レイのバリアジャケットは白のジャケットに黒のズボンの簡単な服装だ。

ヴィヴィオはバリアジャケットよりも先ずその体を大きくさせた。

そして、纏うのは四年前のJS事件の際のバリアジャケット。その上からなのはとお揃いの白いジャケットを着ている。

 

「やったあ! ママありがとー!」

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

「あれ? フェイトママ?」

 

なのはの隣では腰を抜かしたフェイトがへたり込んでいた。

その事態になのははしまったと声を漏らす。

 

「な、なのは! ヴィヴィオが、ヴィヴィオが何で聖王モードに⁉︎」

「ごめんねフェイトちゃん。取り敢えず落ち着こ?」

「ちょ、なのはママ、フェイトママに説明してなかったの⁉︎」

「いやー、ついうっかり」

「うっかりじゃないよもうー‼︎」

「なのはさんらしいですね」

「それどういう意味かな⁉︎」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「連続傷害事件?」

『そうなの。被害者は主に格闘系の実力者。そういう人に街頭試合を申し込んでるみたいで』

「あたし知ってるッス! ストリートファイターッス!」

 

静謐としていた空間にウェンディの声が響く。

姉妹はうるさそうに顔を顰める。

 

『ウェンディ正解。そういう人たちの間で話題になっているみたいで。一応みんなも襲われないよう気をつけてね』

「気をつけるよ」

 

ノーヴェが逆ばっかにしてやると物騒なことを言っているが姉妹は敢えて無視した。

 

「ふむ……これが容疑者の写真か」

『ええ。自称『覇王』イングヴァルト』

「それってーーー」

『そう。古代ベルカ、聖王戦争時代の王様の名前。そしてーーー』

 

ギンガの顔に陰りがさす。

その理由を知っている姉妹全員が息を飲んだ。

 

 




現在、『幼馴染は覇王でした。そして俺はーーー』のストーリー、設定の書き直ししてます。
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