なり損なった少年   作:流離う旅人

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2.覇王

デバイスを貰った次の日、レイとヴィヴィオは聖王教会に足を運んでいた。ここで眠っているイクスのお見舞いだ。

あらかじめ訪問する旨は伝えてあるので支障なく門をくぐる。

そこにはすでに修道服に身を包んだセインが待機していた。その隣にはノーヴェさんもいる。

この後のことを考えればノーヴェさんがいるのも当然か。

 

「来たね。それじゃ、早速イクスのとこに行こっか」

「エスコートよろしく、セイン」

「ノーヴェさん、こんにちわ」

「おう。ーーーレイ、ヴィヴィオがイクスと話している間に教えておきたいことがある」

 

ノーヴェが小声でヴィヴィオには聞こえないように言った。

レイは黙って首肯する。

 

「お兄ちゃーん! ノーヴェ! 置いてくよー!」

「今、行くよ!」

 

ヴィヴィオには悟られぬように二人はヴィヴィオたちの後を追った。

 

 

 

所変わって、イクスが眠る個室。

ベッドに横たわるイクス。

眠りについてから一年が経過しているというのにイクスは一向に目覚める気配がない。

イクスの手を取り、近況報告を始めるヴィヴィオを尻目にレイはノーヴェの話に耳を傾ける。

 

「話ってのは最近巷で騒ぎになってる傷害事件だ」

「傷害事件? ああ、気をつけろってことですか」

「それもあるが、暴れまわってる奴のことが重要だ。そいつは『覇王』イングヴァルトを名乗ってるそうだ」

「ッ! ……なるほど、そういう事ですか」

「特にお前に関係があるから、一応頭に入れとけ」

「はい」

 

(『覇王』、か)

 

レイは内心で独りごちた。

普通ならば、何故そんなことをするのか、と思うところだろう。

だが、レイには分かる。分かってしまう。

きっと、その容疑者も自分と同じく頭に刻み込まれている。ーーー彼の記憶を(、、、、、)

自分と同じく胸に宿している。ーーー彼の想いを(、、、、、)

 

だから、ストリートファイター紛いな行動に出たのも納得できた。

この記憶を見てしまえば、普通に鍛えているだけえは全然足りないと感じてしまう。

覇王流(カイザーアーツ)』を最強と証明することができないから。

 

ストリートファイター紛いな行動に走る理由は分かる。心情も理解できるし、同情もする。

ーーーだからといって許されることではない。

この記憶と想いに思い悩むのは分かる。けれど、これは過去のこと。

今を生きる人たちに迷惑をかけていい理由にはならない。

何よりも、こんな方法で強くなるはずがない。

 

もし、俺の手が届く範囲の人たちに手を出してみろ。その時はーーー

 

(ーーー容赦しない)

 

レイは拳を強く握った。

 

 

 

ヴィヴィオの近況報告が終わり、レイもイクスに軽く近況報告をすると個室を後にした。

そして、一行はそのまま庭に備え付けられたテーブルで優雅にティータイムに興じているナカジマ姉妹の元に立ち寄る。

 

「みんな、ごきげんよう」

「これは陛下」

「陛下。イクス様のお見舞いはもう?」

「うん。いっぱい話してきたよ」

 

相変わらず双子のヴィヴィオへの陛下呼びは変わらなく、レイは苦笑する。

ノーヴェは置いておいた荷物を肩に掛け、姉妹とこの後の予定を話していた。

オットーがバスケット一杯に入った手作りクッキーをヴィヴィオに手渡しているのを確認していると、

 

レイ陛下(、、、、)もこの後は陛下と共に練習に行かれるのですか?」

「あの、ディード? ヴィヴィオはともかく俺のことを陛下だなんて呼ばなくていいって言ってるだろ

「いえ、そういう訳にはいきません」

 

そう。この双子はヴィヴィオだけでは飽き足らず、俺にまで陛下呼びしてくるのだ。

頭を押さえながら盛大な溜息を吐く。

レイはディードの目を見据え、哀しそうに笑った。

 

「分かってるだろ。ーーー俺はなり損ないだ(、、、、、、、、)。決してそんな敬称で呼ばれるような奴じゃない」

「それでもですよ」

「……はぁ、もう好きにしてくれ」

「ええ。好きにさせてもらいます」

 

俺自身を軽蔑する言葉を引き合いに出してもディードは俺の目を見据えて、間髪入れずに即答する。

馬鹿らしくなり、小さな溜息を吐くと俺は説得することを諦めた。

 

「それじゃ、そろそろアタシらは行くから」

「またね、二人ともー!」

 

レイ、ヴィヴィオ、ノーヴェ、そこにウエンディを加えた四人はコロナとリオと待ち合わせ場所の中央市街地へ向かった。

 

 

「あとで自分のことを悪く言ったお兄ちゃんにはお仕置きしないとね……」

 

道中、恐ろしい囁きが後ろを歩いているかわいい義妹(いもうと)から聞こえたのは幻聴だ、と、レイは天に祈った。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

数十分後、四人は中央市街地に到着。

駅を出るとすぐの柱の下にコロナとリオの姿があり、二人を見つけたヴィヴィオは一目散に駆け出した。

レイたちも少し遅れて三人の輪に合流する。

ラウルが居ないのは恐らく待ちきれずに先に行ったのだと結論づけた。

リオちゃんにも問いただしたところ、案の定だったことにレイは呆れてしまった。

 

リオだけノーヴェさんとウエンディと初対面なので自己紹介を済ませてから、公民館に移動する。

公民館には徒手格闘技術(ストライクアーツ)の練習場があるからだ。

三人はストライクアーツを日々練習している。かくいう俺とラウル、ノーヴェさんもストライクアーツをしている。

小学生のやるようなことではないのだが、何をするにせよそれは本人の自由。

三人はストライクアーツの楽しさを知っている。

なら、それだけで十分だ。

 

公民館に入ると、レイとヴィヴィオたちは男女別の更衣室に別れた。

レイは男子用更衣室に入る。

ちょうど帰りの男性と出くわし、会釈すると向こうも笑顔で返してくれた。

中では三人の男性が着替えていた。そのうち一人は見知った顔のような気がするが敢えてスルーする。

空いているロッカーの一つを陣取り、荷物を詰め、黙々と着替えていく。

 

「って、おいおいおいおい⁉︎ 今のは普通に声ぐらいかかるだろうが」

「更衣室では静かにしやがれ、ドアホ」

 

スルーされたことに痺れを切らしたラウルの方から突っかかってくる。

耳元で怒鳴り散らすものだからキーンとした痛みが鼓膜に走る。

頼むから公共の施設では静かにしてくれ。

 

『こんにちは。昨日よりレイ(マスター)の相棒になりましたフリューゲルです』

『よろしくお願いします、フリューゲル。私はシェンロン。レイさんに絡んでいるのが私のラウル(マスター)です。これから長い付き合いになると思いますので今後とも親交を深めていきましょう』

『はい、シェンロン。早速ですが、私が来る以前のマスターのことを教えて頂けますか?』

『勿論構いません。情報の共有はとても大事なことですから』

 

レイとラウルのことなど無視してお互いの相棒(デバイス)はフヨフヨと浮遊しながら自己紹介をしていた。

どうやらフリューゲルは俺のことを知ろうとしてくれてるらしい。

それがちょっと嬉しくて背中がこそばゆくなった。

 

シェンロンが知っているのは小学六年の頃から今日までの四年間だけ。

それ以前の記録はない。

それ以前の話しとなると知っているのは四年前のJS事件に関わった人に限られる。

……いつかは、話さなければならないだろう。このラウル(バカ)と今まで知り合ってきたみんなに。

 

暗くなっていた俺の気を察したのかラウルが背中を叩いた。

ラウルはニカッと笑っている。

こいつはバカのくせに誰かが暗くなれば人一倍早く今みたいに励ましてくれる。

 

(……そういうところに俺は助けられてるよ)

 

レイは苦笑して、止めていた手を動かした。

 

 

練習場に入ると大勢の人が、男女問わずトレーニングに勤しんでいる。

ノーヴェさんたちを探すとすでに練習を始めていて、ちょうど打ち込みの練習をしていた。

やはりラウルに絡まれていた分遅れてしまったらしい。

レイはノーヴェに視線だけを向け、こっちも練習をしている旨を伝える。

察したノーヴェは首肯する。

 

「おい、ラウル。俺たちも練習するぞ」

「おうよ! 早く体動かしたくてウズウズしてたとこだ」

「違いない」

 

柔軟もせずに始めようとしたラウルの脳天に手刀を落とし、強制的に動きを止める。

頭を押さえ、抗議の目を向けてくるがレイは気にせずに柔軟を始める。

不満そうな顔をしながらラウルも柔軟を始めた。

 

体を解し、軽く伸びをする。

最近はフェイトさんの書類整理やいま練習して(、、、、、、)いる魔法(、、、、)のこともあり、部屋に籠もり気味だったため、体は多少鈍っているはず。

今は無理せずに体を徐々に戻していこう。

無理に戻そうと練習量を増やしても体を壊すだけだからな。

 

グローブをはめ直し、拳を開閉させ、手に馴染ませる。

……うん。いい感じだ。

レイも先ずは打ち込みから始める。

基礎は大事だ。基礎を疎かにすれば応用させることは出来ない。

これは格闘だけではなく、物事全てに共通する。勉強然り、料理然りだ。

 

ジャブから始まり、右ストレート。

フック、エルボー、アッパー、とラッシュを続けていく。

途中から脚も交えて、蹴りを放つ。

ブォンという空を切る音が耳朶を打ち、体に響く。

今のレイにはそれがとても心地良い音色に聞こえていた。

だから、徐々にラッシュのスピードが上がっていることにレイは気付かなかった。

無理をせず、と、最初に言っていたのはレイなのだが、今はもう頭に全くない。

最後に脚を踏み込み、勢いの乗った右ストレートを前方に放つと押し出された空気が衝撃波となり吹き抜けた。

残心から態勢を解き、一つ深呼吸をして、レイは小さくガッツポーズした。

 

「よしッ」

「何が、よしだバカ」

「ってぇ、何するんですかノーヴェさん」

「いきなり飛ばし過ぎのバカに説教だよバカ」

「あ、そ、それは俺が悪いですけど二回もバカって言わなくてもーーー」

「うるせぇ、うるせぇ。バカだからバカっつてんだよ」

「クッ、正論だから何も言い返せない……」

 

いつの間にか背後に来ていたノーヴェはレイに拳骨を落とした。

殴られたのはレイに原因があるので仕方ないが、あまりバカバカ言われるのは好ましくない。

バカはラウルの代名詞。

そのラウル(バカ)が隣で此方を指さして腹を抱えながら爆笑している。

ーーーよし、絶対一発殴る。

と、説教を聞きながら、ノーヴェに気付かれないように怒気を滾らせた。

 

 

 

 

「レイさーん! あっちでヴィヴィオたちが組手するみたいですよ」

「ん、伝えに来てくれてありがとうコロナちゃん」

「えへへ」

「お兄もーーーって、また何かしたのお兄?」

 

コロナちゃんとリオちゃんがトテトテと小走りでやって来たので何事か、と、思えばヴィヴィオとノーヴェさんの組手が始まることを伝えに来てくれた。

いつものくせでコロナちゃんを撫でると、嬉しそうに声を漏らす。

リオちゃんは床に腹を押さえて蹲るラウルを見て、呆れていた。

ラウルにはしっかりと腹パンをぶち込みましたが何か?

 

回復しきらないラウルを引きずりながら、二人の元に急ぐ。

後ろからグェ、ガッ、と、呻き声が聞こえるが無視を決め込む。

すでに二人を中心に人集りが出来ていた。

二人の組手は他とは一味違ったものがあるので自然と周りの目が集まるのだ。

 

シーンと静まりかえる練習場。

その中で向き合うノーヴェとヴィヴィオ。ヴィヴィオはすでに大人モードに変身している。

両者、動かず。お互いに相手の動きを注視している。

 

先に動いたのはノーヴェだった。

頭部を狙った左上段蹴りをヴィヴィオは反射で防ぐ。

ノーヴェは勢いを殺さずに前進。アッパーを繰り出した。

これも上半身を反らして躱すヴィヴィオだが、ワンテンポ遅れ、ノーヴェの拳が顎先を掠めていく。

負けじとヴィヴィオもお返しとばかりに右ストレートを放つが両腕をクロスしガードされる。

尚もヴィヴィオの猛攻は続く。だが、全てノーヴェに捌かれてしまう。

ぶつかり合う二人の拳圧、蹴圧が此方まで伝わって来る。

隣ではウェンディを含んだ二人娘の歓声が上がる。心なしか目をキラキラと輝いている。

 

「すげぇな」

「ん、やっと復活したのか」

「いや、お前鳩尾に腹パン入れられたんだぞ? なのにすぐ復活できるわけねぇだろ」

「狙ったからな」

「こいつ鬼だ⁉︎」

 

のそりと起き上がったラウルは呟いた。

ラウルをバカにしながらもレイは二人から目を離さない。

それはラウルも然りだ。

 

「当然のことだけどさ。やっぱり上手いな」

「ああ。やっぱり場数を踏んできた人には敵わないな」

「それでも俺は、俺たち(、、、)は勝つけどな!」

「……違いない」

 

ラウルの言葉にレイは首肯した。

ノーヴェのように場数を踏んできた強者が相手では確実に苦戦を強いられる。

けれど、戦い方を工夫すれば勝つとまではいかなくてもいい線はいけるだろう。ーーーいい線にいくだけで、勝てる訳ではないが。

 

俺もラウルは、それを知っている。

もう四年も前の話だ。俺たちはインターミドルに出場し、負けた。

勝てなかった。一撃の重さが違った。ーーー悔しかった。

だから、もう負けたくない。その一心で己を奮い立たせた。

何よりも再び立ち上がる助けになったのは自分を打ち負かした人だった。

 

『想いのこもったいい拳だった。またここで闘おう』

 

試合に負けた敗者である自分に声をかけ、また()ろうと言ってくれた。

それだけで十分だった。自分は認めてもらえたんだと、絶対にまたここに来るんだと誓ったんだ。

 

「レイ、俺たちも組手しようぜ。体を動かしてないとどうにかなっちまいそうだ」

「そうだな。付き合うぜ」

 

と、レイたちが話していると、

 

「ったく、何なんだよあの二人。そんなに目立ちたいのかねぇ?」

「さぁ? 女は女らしくしてればいいんだよ。街でキャーキャー言ったりしてさ」

「ああ、全くだ。ここは女が来るとかじゃありませ〜ん! ってな」

 

偶然、近くに居合わせていた男二人ーーー恐らく高校生ーーーが組手を続ける二人を見て、哄笑していた。

そいつらは俺とラウルが更衣室で着替えている際にいた二人だった。

男二人の態度がレイとラウルの琴線に触れた。

急速に気温が冷えていくのを感じたコロナたちは発生源である隣の二人を見る。

レイとラウルは笑っていた。

笑って、いるのだが二人の後ろにコロナたちは居るはずのない鬼と龍を幻視し、身を寄せ合い、震え出した。

 

「……ラウル」

「オーケー任せろ」

「「ーーーぶっ潰す」」

 

レイはパキ、ゴキと手の骨を鳴らし、ラウルは手に拳を打ちつける。

二人の組手が終わったのを見計らい、レイたちは去ろうとしている男二人に声を掛けた。

 

「ちょっとお兄さんたち」

「あ? 何の用だよガキ」

「俺たちと組手しようぜ、兄ちゃんたち」

「はぁ? 何で俺たちがやらなきゃーーーああ、お前らあの二人の連れか。何だよ、自分のお友達馬鹿にされたことに腹でも立てたのか? それは御門違いだぜ」

「そーそ、俺たちは本当のこと言ってるだけなんだからさ。こんな所に居ないで街で遊んでる方がお似合いですよーてな。ギャハハハハ!」

 

瞬間、哄笑する男の頰を拳が掠めた。

皮膚が薄く裂け、血が頬を滴る様を見て、男二人は表情を青くし、いま正に拳を打ち出したレイを見る。

レイの表情は飽くまでも笑顔だが、纏う雰囲気は冷たく鋭い。

ラウルに至っては敵意剥き出しで猛犬のように唸りを上げている。

 

徒手格闘技術(ストライクアーツ)に男も女も関係ないよ。みんなでやるから格闘技は面白いんだ」

「そんなことも分かんねぇ奴らがあの二人を馬鹿にしてんじゃねえ」

「「……ッ」」

 

レイたちの気迫に男二人は一歩後ずさった。

それを見逃さなかったレイは挑発し、煽りかける。

 

「あれ? さっきまでの威勢はどうしたんですかね。それとも何ですか? まさか年下二人にビビってるわけじゃないですよね」

「おいおい、やめてやれよレイ。女性の格闘家全員を敵に回すような発言をしておいてたかだか中坊にビビる奴らなんて居るわけねぇよ」

「ーーー上等だ」

クソガキ(テメェ)らをしっかりと躾けてやるから覚悟しろよ」

 

男二人は怒気を孕んだ瞳で睨みつけてくる。

だが、勘違いするなよ。怒ってるのはこっちも同じなんだから。

 

 

 

「おい、ウェンディ(バカ)。どうしてあんな事になってんのか説明しろ」

「呼び方がおかしい気がするんッスけど……二人の前にいる高校生がノーヴェたちのこと馬鹿にする発言をしてて、それを聞いた二人がキレたみたいッス」

「あー、納得した。じゃあ、好きにさせとくぞ」

「止めなくていいんッスか?」

「あたしらのためにやってくれてんならいいよ。しょーもねぇ理由だったらぶっ飛ばしてでも止まるけど」

 

あ、ぶっ飛ばして止めるつもりだったんだこの人。ウェンディがノーヴェの恐ろしさを改めて実感した瞬間だった。

それに見てみろよ、と、ノーヴェの指す方を見ると、

 

「やっちゃえ、お兄ちゃーん!」

「レイさん頑張ってください!」

「ぶっ潰せーお兄!」

 

(あー、これは止められないッスね)

 

と、応援する三人娘を見て、ウェンディは苦笑いを浮かべた。

 

 

「お前ら本当に俺らと組手する気か?」

 

瞑目して呼吸を整えるレイに男は声をかける。

レイは目を開けることなく男に返事を返す。

 

「どういう意味ですか?」

「お前ら、俺たちに勝つ気でいるのかって聞いてんだよ」

「当たり前でしょう。闘るからには勝ちますよ」

「止めておけよ。お前らは俺たちに勝てっこねぇさ」

「それはやってみなきゃ分からないことです」

「分かるさ。俺たちはお前らよりも二年は年上。経験の差ってヤツさ」

 

もう一人の男もレイたちを見てニヤニヤと笑っている。

明らかに此方を舐めているのは明白。

レイたちは特に気にすることもなく何食わぬ顔だ。

それが気に入らない男二人はニヤニヤとした笑みを消し、憎々しげに顔を歪めた。

黙らせようと口を開きかけるレイだが、意外にも今回はラウルが先に口を開いた。

 

「たかが二年早く生まれたぐらいでピーピーうるせぇんだよ」

「あ?」

「御託はいいからさ。ーーーさっさとかかってこいよ」

「その面ボコボコに腹上がらせて泣いて土下座させてやるよ!」

 

先に仕掛けてきた男を横からラウルが蹴り飛ばし、吹き飛ばされた男を追っていく。

そして、レイは目の前にいる男に集中する。

走り距離を詰め、ラッシュを仕掛けてくる男の攻撃をレイは避けようとせずに敢えて受けた。

男はそれを勘違いして、余裕たっぷりに卑しく笑った。

 

「どうしたどうした! さっきまでの威勢はどうした! 俺たちに勝つんだろ? このザマで勝とうだなんてほざいてんじゃねえ!」

「ーーー軽いな」

「は?」

 

レイは男の拳の引きに合わせて一歩を踏み出し、左の拳を数ミリの間隔で避けて懐に潜り込み、強烈なアッパーで顎を打ち上げた。

時間にして一秒という刹那の拳撃。

男は何が起こったのか分からぬまま意識を手放した。

 

「あんたの拳には何の想いも覚悟も感じられなかった。あんたの拳は軽すぎる。徒手格闘技術(ストライクアーツ)に何の想いも抱いていない奴が、本気で徒手格闘技術(ストライクアーツ)をしている人のことを馬鹿にしてんじゃねぇよ」

 

聞こえてるわけないか、と、呟いたレイは隣に目を向けると倒れ伏した男の前でピースするラウルがいた。

レイとラウルはどちらからともなく近付き、静かに拳を合わせた。

 

 

 

「やり過ぎだバカども!」

 

レイとラウルは正座をしてノーヴェの説教を受けていた。

流石に相手の意識を飛ばしたのは拙かったかな、と、後悔しても時すでに遅し。

気絶して倒れていた男二人は周りの人たちが係員に突き出されていた。

周りの人たちの怒りを相当買っていたようで、笑って感謝されたのには苦笑するしかなかった。

二人は、はぁ、と同時に溜息を吐いた。

 

「聞いてるのか‼︎」

「「はい!」」

 

 

俺たちが解放されたのはそれから十分も後だった。

もう遅い時間ということもあり、俺たちは着替えを済ませ、帰宅することになった。

 

「最後の最後で酷い目にあっちまったな」

「まあ、自業自得だからしょうがない。次は気をつけようぜ」

「だなー」

「あはは、次がある前提なんですね二人とも」

「この世に“絶対”はないからね。次に備えるのは当たり前ということさ、コロナちゃん」

「そういうものですか?」

「そういうものだよ」

 

コロナちゃんの頭を一撫ですると、羨ましそうにしているうちの義妹とリオちゃんの頭を撫でてやる。

満足気に微笑む三人を見ているととても和む。実はレイの密かな癒しだったりする。

 

「悪ィけど、チビ達送ってってくれるか?」

「了解っす」

「何かあるんですか?」

「救助隊の装備調整だよ。じゃ、またな」

 

おつかれさまでしたー! と、ノーヴェと別れ、俺たちはそれぞれの帰路に着く。

 

ラウル達は二人で先に帰っていったので、四人で談笑しながら自宅への道を半分過ぎた辺りでレイは後方に微力な魔力を感知した。

これはノーヴェが歩いていった方向からだ。

レイはその魔力を(、、、、、)知っている(、、、、、)

ノーヴェの話を聞いて容疑者が誰か予想はしていたが、今感じた魔力でそれは確信へと姿を変えた。

 

「ごめんウェンディ、ヴィヴィオたちと先に帰ってて!」

「ちょ、レイはどうするんすか⁉︎」

「お兄ちゃん⁉︎」

「ごめん! すぐ帰るって言っておいてくれ!」

 

脚を魔力で身体強化し、レイは魔力を感知した場所へと駆け出した。

残された三人はあっという間に背中を小さくしていくレイを呆然と見ていた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

ーーーレイが駆け出す少し前に時間は遡る。

装備調整のために救助隊本部へと向かっていたノーヴェは上から呼び止める声に反応し、瞬時に上を見上げた。

 

「ストライクアーツ有段者、ノーヴェ・ナカジマさんとお見受けします」

 

街灯の上に立っていたのは戦闘服(バトルドレス)を纏い、此方を見下ろす少女。

身バレを防ぐためかバイザーで顔を隠している。

ノーヴェはこの少女がストリートファイター紛いをしている容疑者だと判断した。

目の前に立たれ、ノーヴェは少女が自称『覇王』を名乗っているのは嘘っぱちでないと理解する。

纏う雰囲気がレイに似ているのだ(、、、、、、、、、)

 

「貴方にいくつか伺いたい事と確かめさせて頂きたい事があります」

 

少女は凛とした声音で、そう言った。

 




戦闘描写はやっぱり難しい……
ラウルの戦闘はまた今度ということで。
書き方などにアドバイスを頂けたら幸いです。
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