エセ料理人の革命的生活   作:岸若まみず

1 / 48
第1話 俺と世界

インターネット小説で転生オリ主なんてジャンルが流行っていたのはご存知だろうか。

 

俺の前世では大流行していて、みんなこぞって超ハイスペックなオリ主を二次創作の主人公にして原作世界を引っ掻き回させていた。

 

どうも転生してきたこの世界でも流行っているようだが、俺はまだ小学生でこの世界のアニメや漫画にそこまで詳しいわけじゃないから二次創作というもの自体を楽しめずにいるのだ。

 

「お前もオリ主じゃないのか」って?そんな事は俺にもわからない。

 

どうも俺の知っている日本の1990年代辺りに転生したのだという事はわかった。

 

でも俺が今まで出会った人達には元の世界で知っていたゲームやアニメにいたような人はいないし、魔法も使えなきゃ超能力研究をしている学園都市もないのだ。

 

更に言えば俺は転生者でチート持ちといえども、よくものの話にあるような華のあるチートとは無縁だった。

 

頭の出来は前世と同じぐらい、つまり普通。

 

ルックスは塩顔系で十人並み、ついでに言えば座高が高い。

 

運動神経はクラスで真ん中より少し上ぐらいではあるが、クラスで1番運動が得意な奴だってサッカーのクラブチームの中じゃ補欠らしい。

 

聖剣も呼び出せなきゃ動物と喋れるわけでもなく、もちろん念動力も使えない。

 

そんな俺のチートは料理だった、ザ・地味チートだ。

 

異世界召喚物だと王様に城から追い出されて店を持つために四苦八苦しながら冒険者とかをやるタイプだな。

 

奇想天外な料理のアイデアがどんどん湧いてくるっていう漫画の主人公タイプの力じゃなくて、えげつないぐらい美味いカレーとかラーメンとかを作れるようになるってタイプ。

 

やっぱりちょっと地味だ。

 

でも金持ちのコックとかになれば一生食いっぱぐれる事はないと思うし、自分で自分の飯作っててもなんだかんだ幸せ。

 

俺はこの地味で使い勝手のいいチートを結構気に入っていた。

 

ちなみに名前もつけた。

 

『ゴールデンクィジーン』だ。

 

つまりは黄金比(ゴールデンレイシオ)の料理、金になる料理、純金と見まごうかのような料理、色々とかかっているわけだ。

 

この名前は二度と出てこないだろうから覚えなくてもいい。

 

まぁ名前をつけちゃうぐらい気に入ってるって事だ、俺はラッキーな転生をしたと思う。

 

 

 

そんな地味にチートな俺だが、家族はさらにとんでもなかった。

 

まさにチート全開の超一芸集団の集まりで、最初はこいつら全員頭おかしいって思ったね。

 

まず女子高生の姉は超絶美人の上にプロポーションも完璧。

 

結構でかい事務所に所属してるモデルらしい、電車乗る時に姉のポスターが貼ってあるとドキッとするね。

 

超綺麗だけどいわゆる家事のできない女だというのと、若干厨二病気味で友達が少ないのが欠点だ。

 

次に兄、兄貴はもう成人していて医者になるために医大に通っている。

 

顔は俺に似てて普通、海外なら10歳で大学卒業できるレベルで勉強ができるんだけど、どうにもバカでよく婆ちゃんにゲンコツを落とされてる。

 

最後の兄弟は妹、妹は生まれた時からの超フィジカルエリートで4歳の頃に俺のママチャリのフレームを素手で捻じ曲げた事がある。

 

たまーに俺を起こしに来る時に部屋の扉を粉々に粉砕したりするけど可愛いんだ、だって妹なんだもん。

 

そして父、入婿の父親はなんか凄い仕事をしていて超稼いでるっぽい、会うたびに小遣い10万とかくれる。

 

仕事の事は聞いても教えてくれないから聞かなくなった、たまに俺の飯を食いに来るぐらいでしか家に帰ってこない。

 

あとは母、なんかハリウッド映画の常連として世界中を飛び回るような役者やってる。

 

姉の遺伝子は完全に母から来てるなってぐらい綺麗で、ほとんど会った覚えがない。

 

俺を育てたのは婆ちゃんと兄姉だし、俺も姉も母親の料理を1回も食ったことがない、兄貴は食べたことがあるらしい。

 

最後に婆ちゃんだ。

 

婆ちゃんはなんか有名な芸能人で、昔に映画の主題歌を歌ってグラミー賞を取ったらしい。

 

めちゃくちゃ厳しくて人当たりがマジできっつい。

 

もう完全に老害だなって孫ながら思うんだけど、俺には感じられないカリスマってのがあって国民的人気らしい。

 

 

 

そしてまた俺の話に戻るんだが、俺は今婆ちゃんのマネージャーやら付き人みたいな事をやっている。

 

ちなみにまだ俺は小学6年生だ、しかも小3の頃からマネージャー見習いをやらされている。

 

理由は婆ちゃんが事務所から付けられる付き人やらマネージャーやらに細かいことで説教しまくったり怒りまくったりするせいで、婆ちゃんの付き人がだれもいなくなったからだ。

 

普通なら世間からいい顔されないはずなんだが、なんだか知らんが辞めた奴らがみんな出世するせいで美談っぽくなっているらしい、こないだテレビでやってた。

 

そんなことばっかりしてるからうちの婆ちゃんが増長するんだよ!!

 

 

 

 

 

「はい、はい。その日は15時入りだとちょっとキツいんで30分後ろにずらして頂いて……はい、ありがとうございます。はい、はーい失礼致します」

 

 

 

俺はまた婆ちゃんの楽屋で仕事の電話をしていた、いつまでたっても人気が衰える気配のない婆ちゃんには朝から晩までひっきりなしに電話が来る。

 

仕事の話ばっかりなら俺も良いように調整するんだけど、婆ちゃんの友達からのお誘いの電話なんかも多いから難しい。

 

「年食ってからの友達は大事にするんだぞ」とは前世の爺ちゃんも言ってたから俺だって強く言えず、結果カツカツのスケジュールで車手配して飯作ってと大忙しだ。

 

ちなみにもう学校には2週間ぐらい出ていない。

 

学校の先生なんか婆ちゃんの顔色窺って「いい社会勉強になる、いつでも学校を休めよ」とか言ってニコニコ俺を送り出しやがる。

 

 

 

「勘太郎、お茶入れてくれんかね」

 

「婆ちゃん明日の読読テレビの収録、高木さんと舞台見に行った後な。舞台終わったらすぐ動くからどっかでお茶するなら舞台の前にな」

 

「勘、お茶」

 

 

 

俺を激務に引きずり込んだ婆ちゃんはきちんと畳の上に正座してスペイン語の本を読んでいる。

 

色んな言葉できるようになって外人と友達になりたいんだそうだ、付き人的にはこれ以上友達を作らないでほしいんだが……

 

俺は婆ちゃんの外付け回路としてロシア語を勉強させられている。

 

前に婆ちゃんの事務所の社長に「こんな事付き人の仕事なんすか?」って聞いたら「私の若いころは君よりももっと頑張ったものだ」と言われた、全然信用出来ない。

 

 

 

幼稚園児のころに兄貴の中学の宿題の答えを答えたのが間違いだったかもしれない。

 

俺は転生者だから大学までの勉強ができるんであって、からくりを知らない婆ちゃんはあれ俺のことをできる子か何かと勘違いしたのかも。

 

それでもあまり良くない頭とはいえ前世の大学の第二外国語がロシア語だったからか、今世の俺は柔らかい頭とN○Kロシア語講座の力を借りてちょっとづつロシア語ができるようになっていた……

 

 

 

 

 

『ここが渋谷で……渋谷から南に向かえば六本木って聞いたぞ』

 

『パパ、誰かに聞こう』

 

『俺は英語も日本語も駄目なんだよな、アーニャできる?』

 

『英語ならすこし』

 

 

 

とかいう困った系のロシア語が聞こえたきたのは新宿で信号待ちで止まった車の中。

 

どっかで印刷してきたんだろう東京っぽい地図を持ったガチムチの外人のオッサンと、その娘なのか妹なのか、天使みたいに可愛い銀髪の女の子が顔ひっつけあって地図の上に指を走らせていた。

 

 

 

「止めな」

 

 

 

婆ちゃんがそう言ったかと思うと俺から荷物引ったくって、外人二人組の方を見て「行ってきな」って言う。

 

こうなると梃子でも動かない糞ババアだから、俺は諦めてさっさと車から降りた。

 

 

 

『あー、困って……ますか?』

 

 

 

俺が近づいて話しかけると、オッサンが物凄い勢いでガバッと俺の方を向いた。

 

 

 

『ロシア語わかりますか?』

 

『あー、ちょっぴり』

 

 

 

言いながら手でCの形を作る、ボディーランゲージはしゅごいだいじなのぉ~ってN○Kも言ってたしな。

 

 

 

『六本木行きたい、わかりますか?』

 

『あー、地下鉄、乗ります』

 

 

 

そう言ってメモ帳を破って、駅名と路線名を書く。

 

 

 

『こっち六本木、これ今いる新宿、これが路線です』

 

『ありがとう、六本木のお寿司、知ってますか?』

 

 

 

言いながら、携帯電話を取り出してブラウザで寿司屋のレビューかなんかのサイトを見せてくれた、なんとうちの家族がよく行く店だ。

 

どうやら2人は六本木に行きたいだけじゃなくて寿司屋に行きたいらしい。

 

ここでどっかに車を止めさせた婆ちゃんが合流してきた。

 

 

 

「何だって?」

 

「六本木の寿司屋行きたいんだって、高垣さんとこ」

 

「2人だけかい?」

 

『あなたと彼女だけ?』

 

『そうです』

 

 

 

オッサンは自分と横の天使を指で指して、ピースマークを作った。

 

 

 

「だって」

 

「乗っけてってあげよう」

 

 

 

俺も婆ちゃんがこう言う事はなんとなくわかっていた

 

 

 

『車、乗って行きますか?近いです』

 

『いいの?』

 

 

 

俺が言うと始めて天使が口を開いた、近くで聴くとマジで可憐すぎる声でやばい。

 

この子が日本で声優になったらアニメオタクが今の倍に増えるかもしれんぞ。

 

 

 

『いいのか?』

 

 

 

オッサンも聞くので、いいと答えて手で丸を作る。

 

そのまま皆で車乗って、六本木へ向かった。

 

車の中では婆ちゃんとオッサンの間の通訳をえっちらおっちらこなしながら、時々口を開く天使に和む。

 

寿司屋にはあっという間につき、なぜか婆ちゃんが「あたしらも食べていこう」なんて言い出して俺達も一緒に食べることになった。

 

寿司を食うのは別にいいんだが、「あんたが握った方が美味いよ」なんて言われて客である俺が寿司を握らされるのはどうにも理解できない。

 

そりゃ俺はチートがあるから何でもそつなく料理できるけど、寿司屋のオッサンのプライドも考えろと思う。

 

 

 

「いやー、ほんとに勘は料理が上手いよな。俺なんかもう寿司でもかなわねぇや」

 

「天災的な天才ですね」

 

 

 

なんで店主のオッサンまでカウンターに座ってんだよ!

 

お前はせめて卵焼いたり茶碗蒸し出したりしろよ!

 

寿司屋のオッサンどころかその娘の女子高生、楓ちゃんまで一緒になって俺に寿司を催促してくる始末だ。

 

 

 

『お寿司、おいし~』

 

 

 

ちょっと小さめに握った寿司を一生懸命頬張って笑顔でそう言ってくれる銀髪の天使だけが俺の癒やしだ。

 

いっぱい食べて大きくなるんだぞ。

 

 

 

「まぐはまぐろからお願いしようかしら」

 

 

 

俺と天使の癒し空間をお得意の下手な駄洒落で切り裂くのは、両目の色が違うオッドアイが特徴的な寿司屋の娘だった。

 

 

 

「トロを握るときはトロトロしちゃいけませんよ」

 

 

 

ふわっと広がった灰色のボブカットと左目の下の泣き黒子が色っぽくて可憐なんだけど、中身は小学生の頃から全く変わっていないような気がする。

 

いや、この完璧なルックスに完璧な性格だと近寄りがたいかも、ちょっと気の抜けた感じが楓さんのいい所なのかもしれないな。

 

 

 

「さーもーひとつ、サーモンをくださいな」

 

 

 

俺は彼女の口をぴたりと閉じておくために黙々と寿司を握った。

 

 

 

 

 

『ありがとう本当。国の寿司バーの100倍美味かったよ、板前ボーイ』

 

 

 

みんな満足するまで食べて寿司屋から出るとやけに感動した様子のオッサンからガシっとハグをされた。

 

くっせぇんだよオッサン、ハグなら天使と変わってくれ。

 

もう3、4日観光して回るらしいので、なんかあったら電話しろよと俺個人の電話番号を渡しておいた。

 

赤外線もついてないのかと最新機種のxPhone3GをDisられた気がしたが、赤外線の方がそのうちなくなるんだよ!




天使=アナスタシア
楓ちゃん=高垣楓

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。