エセ料理人の革命的生活   作:岸若まみず

11 / 48
2017/4/1
大幅に改訂しました


第7話 もぎ取れパズ○ラマネー

支援物資の件で美城のオッサンから貰った金と、海運会社の株が爆上がりしてくれたおかげで、ここしばらくの散財で地を這う有様だった俺の預金も無事にV字回復することができた。

海運会社の方は俺の都合で散々振り回してしまったので、手放す前に挨拶がてら慰労会を開く事にした。

すでに世の中は自粛ムード1色になっていたので、表向きには全社会議ということにして社員達を集め。

手早くこれからの経営戦略の話や新しい役員陣営を発表、そのまま希望者は残って懇親会という形でブッフェ形式のパーティーをすることにした。

報道関係者以外なら家族でも友達でも誰でも連れてきていいと通達したので、四十人と少しの社員の三倍ほど人がいて、なかなかに賑やかだ。

料理はきらりスタッフの仕込んだカレーと俺が仕込んだ汁物、あとは楓の実家の寿司屋から職人を一人借りてきてカウンターで寿司を握ってもらった。

俺は鉄板焼きの設備を持ち込んでひたすら料理。

お好み焼き、もんじゃ、ステーキ、海鮮、焼きそばと手を変え品を変え材料のある限り作り続ける。

社員達も概ね満足していたようで、タイトなスーツがはちきれんばかりに食べまくった女性社員なんかもいて配膳に駆り出したきらりのスタッフ達も大忙しのようだった。

 

『勘太郎、久しぶり』

 

鉄板の上で白煙を上げるサイコロステーキチャーハンに自作のXO醤をかけ回す俺に、綺麗なロシア語で声がかかった。

顔を上げると、昔に渋谷で会ったロシアの天使、アナスタシアがニコニコ笑顔で立っていた。

 

『おーっ!!久しぶりアナスタシア。今日はなんでここに?』

『先月からママがこの会社で働いてるの。今日はパパも来てるよ、後で挨拶するって』

『そうなのか、じゃあこれからは日本にいるの?』

『そうだよ、どこか遊びに連れてってくれる?』

『東京で良かったら喜んで案内するよ』

『勘太郎、メールでお店やるって言ってたけどいつの間にかママのボスにもなってたんだね』

『それも今日で終わりさ、これからは料理屋をほどほどに経営して平穏に暮らすよ』

 

その後は社員たちの料理を作りながら、隣で嬉しそうに喋るアーニャを餌付けして有意義な時間を過ごし。

社員達が腹一杯になったところでワゴン一杯の手作りスイーツを出したら、女性社員達から怨嗟の声が上がったのであった。

 

今日は東京を案内すると約束したアナスタシアを連れ、美波と一緒に建設途中のスカイツリーを見に来ていた。

 

『おっきくて無骨な塔だね、これはなんのために作るの?』

「おおきい塔だね、なんのために作ってるの?と言ってる」

「これは電波塔になるのよ、完成したらまた一緒に見に来ようね」

『これはテレビ塔になんだって、完成したらまた見に来ようか?ってさ』

『いい、東京タワーの方が綺麗だと思う』

「東京タワーの方が好きだって」

「じゃあ東京タワーが見えるところでごはんを食べましょうか」

 

なんだか知らんが美波がやたらとアーニャを気に入って話しかけまくっていて、通訳の俺は大忙しだ。

楓はゼミの発表会が近いとかで仲間と集まって勉強しているらしい、頭のいい学校は忙しくて大変そうだ。

 

『勘太郎のお店行ってみたい』

「きらりに行ってみたいんだって」

「うーん……アーニャちゃんの教育にどうかしら?」

 

顎に手を置き眉をひそめて考え込んでいる。

お前はアーニャの母ちゃんかよ!

美波はあんまりきらりの客層が好きじゃないらしい、みんなやたらと目が血走ってるし、やたらとうるさいし、やたらと語りたがるからだそうだ。

まぁ良家のお嬢さんだからな。

店に出す前に一通り試食を頼んだメニューは美味しいって言ってたけど、あんまり店には寄り付かない。

美波の弟は逆にきらりが大好きだ、和久井店長情報によると毎週末に来てるらしいからな。

結局きらりはまた今度ということで、赤羽橋のイタ飯屋に行って帰った。

味は普通で値段は強気だったが、店から見える東京タワーにアーニャがご機嫌だったから、まぁ良しとしよう。

 

 

 

会社手放して身軽になった俺だが、久しぶりに学校に行ったら超絶面倒な事になっていた。

会社の事とか店の事とか、話す理由もないし話したらやばいことになるしで誰にも言ってなかったんだが。

情報が漏れるのは世の常で、噂が広まるのがカップラーメンの調理時間より早い時代だ。

即効で漏れて色々面白おかしく盛られた上に、アホ教師が俺が震災の折に救援物資を届けた話を美談として各クラスに触れ回ったらしい。

おかげで完全に動物園のパンダ状態で、元気有り余る中学生達から精神攻撃を食らいまくった上に完全にハブにされた。

教師のことは教育委員会にクレームを入れてやったが、逆に『うちの仕切りで講演をやれ、ボランティアで』って言われて諦めた。

 

二度目の人生だし、別に高校なんか行っても行かなくてもなんの問題ないって事もわかってたので。

周りが受験で忙しそうにしてる中、俺は毎日引きこもって本読んだりゲームしたり映画見たりして気ままに過ごしていた。

そうして二週間ほど過ごし、晩飯を食べたあと怠惰な姿勢でスマホを弄っていた俺はある事に気づいてしまった。

そう、今は2011年。

日本のゲームの形を決定的に変えてしまった風雲児、パ○ドラのリリース前年なのだ。

 

慌ててPCを立ち上げ、ガン○ーの株を買おうとした所でふと考えた。

俺の持つ膨大な資産を投入してアプリを作れば、あの巨大なソシャゲーマネーを横から根こそぎぶんどれるかもしれないという事をだ……

 

 

 

次の週、俺は東京のゲーム会社を格安で買収した。

元はカプコ○の下請けの下請けをしていた会社だったが、iOSの独自アプリ開発に舵をとったところでスタッフが一気に大量離脱して立ち行かなくなったらしい。

残ったのは更新したばかりの開発機材と四十代の社員四名だけだ。

俺はアプリ開発に意欲のあるプログラマーを超高待遇で50人ほど雇いまくって、パズ○ラもどきの開発を始めた。

とにかく待遇を良くしたのでアプリ開発の経験者が揃い、パズド○もどきはたったの1ヶ月で形になった。

 

なるべく家に帰らせたくなかったので朝昼晩と俺が料理をして、好きなおかずを投票で決めたりしてまず社員の胃袋をガッチリ掴んだ。

掴みすぎて入社してから2ヶ月で5キロ太った奴もいて、急遽会社の中にトレーニングルームを作ることになったりもした。

この時点では利益なんか1円も出ていないのだが、前の海運会社でもかなり儲けた事もあってうちの嫁さんたちはあまり心配していないのがありがたかった。

去年はみるみるうちに桁が減っていく預金通帳を見て精神的に不安定になったりもしていたからな。

一応税金分は残してあるんだが、それでも動く額が額だ、俺だって前世の記憶がなきゃ絶対につぎ込めないだろう。

 

よっぽど募集要項が魅力的だったのか、開発を始めてから2ヶ月もする頃には人材がガンガン集まってくるようになった。

そうなると俺も欲が出てきて、総合プロデューサーを立てて同じキャラクターや世界観を使って別のゲームも同時開発する事にした。

どうせこっから先はソシャゲーバブルだし、イケイケで行っても大丈夫だろう。

 

キャラクターやストーリーは誰でも楽しめるようにちゃんぽんになった。

まずキャラクターは独自性を廃した、偉人、擬人化、コラボの鉄板コースだ。

織田信長やスターリンを萌えキャラにしたり、タイガー戦車が女兵士になったり、流行ってるアニメの登場人物がお助けキャラとして登場する。

それらのユニットを編成して戦い、どこかで聞いたような世界の危機を廃して平和を取り戻す。

そういうまるで新鮮味のない設定のゲームを、5つの形で作った。

 

パズルでRPGをするゲーム。

正統派RPGスタイルのゲーム。

引っ張って操作する協力アクションゲーム。

リズムゲーム。

タワーディフェンス型のゲーム。

 

そしてこの5本全てでキャラデータを共有し、どのゲームでも同じキャラを育成できるようにしたのだ。

ガチャに対する圧倒的なお得さ、キャラを粗製乱造せずにすむ事、そしてゲームへの飽きにくさといった機能をすべて兼ね備えた画期的なシステムだ。

そして全てのゲームに位置情報サービスを組み込み、特定の場所に立ち寄る事によってキャラクターをゲットする事のできるシナリオをダウンロードできるようにした。

詰め込みすぎでバグが凄い事になってデバッガーとプログラマー達が泣きながら仕事していた。

残業のたびに豪華な夜食を作りまくってやったので、開発終期には営業の若い衆までがデバッグと称して会社に入り浸るようになっていたが。

 

開発は怒涛の早さで進み、会社の窓から見える銀杏の葉が綺麗に黄色くなる頃にはほとんど完成に近づいていた。

凝り性の総合プロデューサーに好き放題やらせていたせいか、作ったものを全部実装してみると1つのアプリが3ギガほどになってしまった。

容量16GBのスマホが普通の時代にそぐわないものになってしまったので、これの軽量化にまた時間を取られた。

それでもなんとか年末までに一人の離脱者も出さずに予定の80%の要素を実装し。

雪がふり始める頃にはおおよその完成にこぎつける事ができたのであった……

 

 

 

リリース予定の2012年1月1日に間に合ったので、全社員を集めて祝賀会兼忘年会をやった。

リリース前の事前登録者も物珍しさからか一万人を越えたのもあり、社員達も一安心できたようで酔いに酔っていた。

これまで低予算でしかゲームの開発をしたことがなかった30歳のプログラマーがプロジェクターに流れるうちのゲームのTVCMを見ながら「金があるっていいなぁ……」としみじみ呟いていた。

 

プロジェクターで映し出された画面ではイケメンの俳優が操作するスマホの中でハゲたガチムチのオッサンが「世界を救うのは君か?」と聞くのに、俳優の部屋のドアから登場キャラたちが「俺だ!」「私よ!」「いや俺が」と次々に入ってくるというよくわからないCMが流れている。

寸劇が終わり、画面の中央に『大覇道』とどデカくタイトルが浮かび上がると周りからは大きな拍手が起こり、俺は総合プロデューサーと頷きあいながらグラスを打ち合わせたのだった。

 

 

 

そして年は明け、俺はゲームどころじゃない状況に陥っていた。

 

「肝硬変かぁ」

「そうだよ、いくら酒やめろって言ったって聞きゃしないんだ。あんたなんとかおしよ」

 

今日はゲームのリリースイベントに行って、一日中声優のトークショーやタレントのゲームプレイの生配信を楽しむ予定だったんだが。

朝から婆さんに「人の生き死にのことだよ」なんて言われて無理やり車に乗せられて赤坂くんだりまで連れて来られていた。

 

「そんな酒の味も知らんようなガキに何ができる」

 

顔中に黄疸が浮いた爺さんが俺を睨みつけて、懐からスキットルを取り出してうちの婆さんにひったくられていた。

 

「酒より美味いもんをたらふく食わせてくれるっていうからわざわざ会ってやったんだ、お前みたいな若造なんかに……」

 

爺さんはステンレスのスキットルでうちの婆さんにぶん殴られていた。

妙に時代めいた屋敷の中の、やたらと高性能なシステムキッチンでとりあえず有り合わせの材料でコンソメスープを作ってやる。

酒ジジイはしかめっ面で鍋一杯のスープを飲み干して「まずいっ!!」と騒いでいたが、ご家族の方からはしきりに感謝の意を伝えられた。

どうもあの酒ジジイ、ここ2週間ほど酒以外一切口にしてなかったらしい。

 

「あんた、酒飲んだら孫は連れてこないよ」

 

と婆さんが言うと、そっぽを向きながら「もうこんでええわい!下手くそが!」と喚いていた。

あくる日の朝、俺は酒ジジイの主治医から肝臓にいい食材をリストアップしてもらっていた。

とにかくさっさと終わらせたかったので健康食品でも漢方でも何でも混ぜられるだけ混ぜて中華粥にした。

普通なら味がぶっ壊れて食えたもんじゃないはずだが、俺にかかればどんな組み合わせでも死ぬほど美味い料理にできる。

酒ジジイは「まずいっ!!」と言いながら鍋一杯の中華粥をかっこんでいた。

胃腸が丈夫な爺さんだな。

次の日からは面倒になってしまい、家で仕込んだクラムチャウダーとかちゃんことかを朝一で家に持っていくことにした。

爺さんが酒飲んでないかだけアルコールチェッカーで調べてさっさとお暇する。

うるさい爺さんだからな、いちいち相手していられないよ。

ご家族からの電話によると毎日食べすぎるぐらい食べているらしいし、大丈夫だろう。

ただ主治医によると食べ過ぎも問題だとの事なので、次からは小鍋で作ることにした。

 

結局のところ、肝硬変そのものへの治療法はない。

ただアルコールを飲ませない事が大切なので、アルコールの代わりに俺の料理に依存させているような状態だった。

爺さんの主治医は爺さんの回復に目を剥いていたが、体が少し回復したからってアルコール依存まで回復するわけではない。

俺はひとしきり頭を悩ませた後、お昼にやっていたドキュメンタリー仕立てのTVCMを見て妙案を思いついたのだった。

 

 

 

フリーズドライの野菜を片っ端から買ってきて、ミキサーにかけて粉末にしていく。

その粉末を混ぜ合わせ、味見しては作り直し、少しづつ少しづつ味を整えていく。

そう、俺が作っているのは青汁だ。

俺は脳内麻薬がドバドバ出る常習性のあるヤバい青汁を作り出して、アルコールの代わりに依存させようと画策していた。

俺の中のチートが「やれる」と囁いていた。

水を加えるとまた味が変わるため、電子計量器を片手に毎日毎日苦い粉末と戦った。

試飲のしすぎで俺の血液はサラサラになり。

なぜか痩せて腹筋が割れ、珍しく楓が大興奮していた。

途中でさすがに個人でやるのは限界があると悟って、楓の友達の千川さんの伝手で大学の研究所を紹介してもらった。

諸々の作業には俺のチートと研究機関の力があっても、試作品が完成するまでに3ヶ月の時間を要した。

試作品が出来る頃には美波はすでに高校生になっていた。

 

 

 

正月からサービスを開始したソーシャルゲーム『大覇道』は、順調にダウンロード数と課金額を伸ばしていた。

ありがたいことに美波の通う名門女子高でも流行ってるらしく、ゲームが苦手な美波も周りに合わせてやっているらしい。

普段は何でもできる美波が「勘君、これやって」とパズルゲームの『パズル アンド 大覇道』の高難易度ステージを持ってくるのが面白くて可愛かった。

きらりに顔を出したら、あの和久井女史までもがうちのゲームをプレイしていて「色んな猫ちゃんがいるんですよ」と楽しそうに話していた。

どうやら猫の軍隊を作っているらしい。

動物担当の社員が必死になって猫の品種ごとにキャラを20も30も作っていて「猫なんか一種類でいいんじゃないかな」と思っていたんだが、何でも刺さる人はいるもんだな。

 

うちの会社の収入源であるガチャも、正月、節分、バレンタイン、ひな祭り等のイベントを経て、今はGPS機能を使った大規模レイドイベントまで実装されているらしい。

俺はずっと野菜食ってたからよく知らないが、評判は上々だ。

湯水のごとくじゃぶじゃぶ回す奴らが日本中にいくらでもいるようで、スタッフが引くぐらい回されているらしい。

 

3ヶ月経った今、うちの後追いのゲームが発表されまくっているそうだが、クオリティを上げて物量で殴るうちのパワーにどこも太刀打ちできていないとか。

金の方も税理士の先生から慌てた様子で電話が来たぐらいには儲かっている。

「儲かったら儲かっただけ夏のボーナスに回ってくるつもりでいろ」と言っておいたので、社内の熱気は天井知らずに上がっていたのだった。

 

俺はというと、熱気に浮かれる社員達に試作品のヤバい青汁を飲ませまくっていた。

 

「うえっ!なんすかこれ!?羊のゲロ?」

「一言で言い表せない味だけど、バケツ一杯飲みたいです」

「うま……うま……うまもういっぱ……」

 

駆け付け三杯飲ませた社員の発言三連発だが、概ね全員こんな感じで好評だった。

ただ今の状態では少々下垂体が刺激されすぎな気がするので、プロテイン味の素スタック程度の効きにして味をもっと向上させることにした。

中身は九割野菜だし、健康には問題ないだろう。




ハゲたガチムチのオッサン = 大覇道……ダイ・ハード……ブルース・ウィリス

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。