エセ料理人の革命的生活   作:岸若まみず

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昨日宮城ライブのLV行ってきました、僕も現地でウェーブしたかった


周囲の反応5 「李衣菜のロック・スタディ」

多田李衣菜(12)

 

去年発売されたKTRのNot Enoughっていう凄いCDがある。

私は普段音楽とか聞かないんだけど、パパのAMGに乗ってるときラジオで流れてきた曲が凄く好きになった。

パパにお願いしたら、マランツだかツマランだかっていうCDプレイヤーごと買ってくれた。

 

毎日毎日そのCDを聴いてると、パパが「これもかっこいいよ」ってディランって人のCDを貸してくれたけど全然だめ。

 

「パパのCDは遅いし、このジャーッジャーッ!って音が入ってないから駄目」

「そうかぁ……でも李衣菜はエレキギターが好きなんだな」

 

パパは次の日「李衣菜、お土産」って言ってエレキギターを買ってきてくれた。

私は嬉しくなってパパに抱きついちゃったけど、手で押さえるところにドラゴンの絵が描いてあってちょっとダサい。

正直パパはロックのセンスがないと思う。

ほんとはリッケンバッカーとかフェンダーが良かったんだけど……

私は初心者だし、とりあえずこのポールリードとかってギターでいっぱい練習しようと思う。

でも練習っていってもピアノのお稽古と違って、エレキギターを教えてくれる先生なんていないし、周りにギターをやっている人もいない。

途方に暮れてたら、ママに「CDの歌手の人に『どうやってギターを練習しましたか?』って聞いてみたらどうかしら」って言われたからお手紙を書いた。

どこに送ったらいいかわからなかったからパパに相談したら「渡しておくよ」って言ってくれて安心した。

パパは頼りになるなぁ。

 

 

 

1週間ぐらいして、パパが返事のお手紙とCDを持って帰ってきてくれた。

手紙には女の人っぽい綺麗な字で「一緒に送ったCDのギターをよく聴いて、一音一音真似して弾いてごらん。CDと同じように弾けるまで頑張るんだ、CDが一番の先生だよ。頑張ってね」と書いてあった。

CDは物凄く速くて、ボーカルの人はだみ声で、ギターの音はシャリシャリいうぐらい前に出てて聴きやすかった。

私は学校から帰ったら毎日CDの真似をしてギターを弾くようになった。

 

3ヶ月ぐらい練習して、もう真似する所がなくなっちゃったってパパに言ったら「録音して先生に聞いてもらおうか」ってカウンタックでスタジオって所まで連れて行ってくれた。

でっかい音でギターが弾けて気持ちよかったな〜。

 

 

 

1週間ぐらいして、またKTRさんからお手紙が届いた。

 

「ギターがとても上手になりましたね。ギターが弾けるならベースも弾けるはず、ギターと同じようにロックにチャレンジしてみましょう」

 

今度のCDはラッパとかシンセサイザーとかが入ってたけど、ベースが凄く複雑で大人のロックって感じだった。

ママが「あらあら、名前が天気予報(ウェザー・リポート)だなんて可愛いわね」って言ってたけど、天気予報もロックなのかな?

パパがケンさんだかスミスさんだかって人から、エレキベースを買ってきてくれた。

重たいよ〜って言うと「ベースは重い方が音がいい事もあるんだよ」だって、ほんとかな?

 

 

 

3ヶ月ぐらい練習して「もう全部弾けるようになっちゃった」って言ったら、パパがコブラでこの前のスタジオに連れて行ってくれた。

スタジオのおじさんがベースを聴いて「中1とは思えない!!」ってびっくりしてた、人にびっくりされるのは楽しいな。

ジャコが好きなの?って聞かれたから「よくわかんない、このCDしか知らない」って言ったら、ダイヤが石とかなんとか言ってた。

大人の言うことは難しくてわかんないよ。

 

 

 

1週間ぐらいして、またまたKTRさんからお手紙が届いた。

 

「上達ぶりに大変驚いています、この分だと李衣菜さんがロックを体得する日も近そうですね。ギターとベースが弾けてドラムが叩けないのでは納まりが悪い、今度はドラムに挑戦してみましょう。ドラムはフレーズを覚えるのよりも同じ速さで叩けるようになるのが大切ですよ。ところでこの間から話題になっている大覇道というゲームはやりましたか?とても面白いですよ」

 

そういえばドラムの事ってあんまり意識したことがなかったかも。

パパがスーパーナチュラルっていうスピーカーから音が出るドラムを買ってきてくれたから、しばらく練習してみようと思う。

ゲームはクラスの男子が騒いでたやつかな?あんまり興味ないや。

 

 

 

3ヶ月ぐらい練習してたら、疲れて叩けなくなるまで叩いてもメトロノームの音とズレることがなくなってきた。

ドラムって覚えるフレーズが少ないから楽だな。

パパが毎日大喜びで分厚いギターを持ってきて、私のドラムに合わせて弾いて歌ってたから、先生にはそれを録音して送った。

パパは「プロの人に聴かれちゃうなんて恥ずかしいな」って照れてたけど、絶対嬉しいんだよ。

 

 

 

1週間ぐらいして、またKTRさんからお手紙が届いた。

 

「驚くほど正確なリズムで叩けるようになりましたね。スネアの粒も揃っていて大変丁寧なドラミングで感心しました。ところでギターと歌の人はプロの人かな?大変味わい深くていいですね、たいへんあじわいぶかくていいです。大事なことなので二回言いました、そのひとにとてもよかったとつたえてください。さて、ギターとベースとドラムを習得した李衣菜さんが次に挑戦してみるべきことはボーカルです。ロックといえば歌、歌が上手ければカラオケでも活躍間違いなしです。先生を紹介しますから、親御さんと相談してみてください」

 

次の日は土曜日だったから、さっそくパパがGT-Rで先生の所まで連れて行ってくれた。

先生は木場さんっていう21歳のかっこいいお姉さんで、最近までデトロイトでスタジオミュージシャンっていうのをしてたんだって。

 

木場さんと一緒に走り込みやストレッチをして、ボイストレーニングのやり方や細かいテクニックを教わった。

木場さんが練習の合間に踊りながら歌うのがカッコいいから、私もステップを真似してたら上手だねって驚かれちゃった。

色んなポップスを一緒に歌ったんだけど、3ヶ月ぐらい練習したら「これ以上やるなら真剣に声楽を学んだ方がいい」って言われて一旦レッスンは終わりになった。

 

今度はKTRさんのCDを私の演奏だけで録音して送った。

パパにも「コーラスとアコギはパパに任せなさい」って言われて。

ほんとはパパは下手だから嫌だったんだけど、大人になって許してあげた。

私ももう中学生なんだしね。

 

 

 

1週間ぐらいして、KTRさんからお手紙が来た。

 

「どうやらロックの技術を体得したようですね。演奏、とてもお上手でした。特にボーカルとコーラスはあじがあってよかったです。しかし、ロックとは時代と共に常に変化するもの。今世界で一番熱いロックとは……そう、何を隠そうアイドルです。今も李衣菜さんと同年代の女の子達が、次のロッククイーンになるために凌ぎを削って練習しています。よろしければ私が書いた紹介状を添付しましたので、親御さんとご相談の上で一度見学だけにでも行ってみてください」

 

アイドルかぁ、このあいだニュースでやってた奴だよね。

赤いドレスを着た私と同い年ぐらいの女の子が、スポットライトに照らされてKTRさんの曲を歌ってたのを覚えてる。

あんな風にキラキラするのが今のロックかぁ……

今までずっと1人でやってきたし、誰かと一緒にやってみるのって凄く楽しそう。

パパに話してみようっと。




AMG = メルセデス・ベンツのスポーツ系サブブランド
マランツ = アメリカのオーディオメーカー
ディラン = ボブ・ディラン、フォークの神様
ポールリード = ポール・リード・スミス、ギターメーカ、ドラゴンは限定生産
カウンタック = ランボルギーニ・カウンタック、スーパーカー
ケンさんだかスミスさんだか = ケン・スミス、エレクトリックベースのハイブランド
コブラ = シェルビー・コブラ、クラシックスポーツカー
ジャコ = ジャコ・パストリアス、ベーシスト
スーパーナチュラル = ローランドのVドラムに採用されている音源
GT-R = 日産のクーペ

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