エセ料理人の革命的生活   作:岸若まみず

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あっさりお茶漬け風味で


第24話 カツに対して唐揚げの量が少ない

幸福な時間は蛇のように過ぎ去る。

 

そんな変な書き出しの食レポが外国の有名な雑誌に掲載されたのは8月半ばの霧雨の日だった。

 

微に入り細を穿つようにして書かれた料理の評論は耳目を集め、海外セレブ達に高峯勘太郎という名前を知らしめた。

 

らしい。

 

俺はマッドコインをバカみたいな値段で落札して取材陣引き連れてきた生っ白い有名らしい料理評論家の兄ちゃんに、フレンチのフルコースを食わしただけだ。

 

最初はカメラに向かってデカい態度で「バカ高い金に似合うだけのインチキならいいがな」とか言ってたらしいが。

 

最後の方はおかわり連発して、満腹になって食えなかった料理に泣きながら土下座していた。

 

「俺は食に敬意を払いたいんだ」って言ってたらしいけど、正直ドン引きだ。

 

俺も悪乗りして「忍者の秘薬」とか言って昔作った謎のスパイス甘味編をティラミスにふりかけたりしてたけどさぁ。

 

今海外版のウィキペディアでは、俺は忍者の末裔として書かれているらしい。

 

来月分のマッドコインはすでに発行されて入札が始まっているが、えげつないぐらい加熱してるそうだ。

 

B○Cで言ってた。

 

 

 

そんな事はさておき、8月は俺の携わる色々な事業が先に進んだ。

 

わかりやすく説明していこう。

 

まず『アイドルマスター MY GENERATION』の出演者が決まった。

 

当人達の間では様々なドラマがあったんだろうが、概ね順当な感じだ。

 

美城から二枠、765から一枠、961から二枠、あとよく知らない事務所のアイドルが一枠だ。

 

予想通りすぎて癒着を疑われかねないが、資本に余裕があってきちんとイベントに向けて調整できたユニットが残ったというところだろう。

 

 

 

そして次に、都市型レジャー施設の大覇道グルメダンジョンがオープンした。

 

アニメが放映中なおかげか入場規制するぐらい人が入ってるらしい。

 

都心にあるおかげで、何かのついでに寄ってみるって人がかなり多かったのも大きい。

 

もちろんエントランスでゲームの限定クエストだけやって帰る人もいるけどな。

 

評判は今の所よし。

 

警備員が制服で巡回してたら「世界観にそぐわない」ってクレームが入ったぐらいか。

 

親子やカップルで1つの紙に色々書き込みながらアトラクションをクリアしていく形式は結構ウケた。

 

子供が考えなしに落書きしてぐちゃぐちゃになってしまったりもするが、それもいい思い出だろう。

 

意外とクエスト用紙を額装するサービスよりも、巻物に加工するサービスの方が好評で長蛇の列ができたそうだ。

 

肝心のグルメの方は、まぁほどほど。

 

冒険者ギルドの隣にある軽食スタンドは家族サービスのおっさん達が集まってきてしまい、冒険者酒場というよりは山賊の砦のようになっているらしい。

 

最上階の大食堂はさながらスーパーのフードコートで、お子様達が元気に走り回っているらしい。

 

人気なのは森林エリアのカフェと鉱山エリアのラーメン屋。

 

特にラーメン屋はド、ドチャ盛り……?トロピカル?なんていう難解な名前の店が入って、すでにリピーターが大勢ついているらしい。

 

やるじゃん。

 

コンパニオン達が客に群がられる問題は、コンパニオン達と客の間に仕切りをつけることで解決した。

 

ぶっちゃけ施設の裏を走ってる従業員用通路に上半身が出せる穴を開けただけだ。

 

安上がりな解決方法だけど、色々な調整に時間がかかってオープン寸前まで業者が入っていた。

 

近隣の学校や施設なんかからの来訪も次々決まっていて、会社の社会貢献としても結構ありなのかな。

 

なかなかの滑り出しといえるだろう。

 

 

 

それともう一つ、飯屋きらりの話だ。

 

うちの妹の高峯きらりが『アイドルマスター MY GENERATION』の予選を突破したということでフェアが始まった。

 

その名も『たらふく食ってデカくなれ!きらり丼スペシャル夏祭り』だ。

 

俺が考えたんじゃないのに、ちょっと妹と嫁さん達に怒られた。

 

きらり丼とは。

 

にんにくと生姜で甘辛く味付けした豚ロース肉を、俺の特製スパイスを混ぜたプロテインを衣にトンカツにし。

 

それを俺特製辛口スパイスを混ぜたプロテインを衣に揚げたガッツリ唐揚げと一緒にご飯に乗せて、出汁と卵で閉じたものだ。

 

カリカリじゅくじゅくトロトロでうまい。

 

ただ、飯屋きらり屈指の狂気の高カロリーメニューとなったので、ごはんは無料で豆腐にできるようになっている。

 

ちなみにご飯は大盛り無料だ、誰もしないだろうけど。

 

 

 

「ちょっとご飯足して」

 

 

 

大盛りにすると1キロにも達するご飯を食べきって、更におかわりを要求する女がいた。

 

渋谷凛だ。

 

フェアの期間中、3日と開けずに通ってきているらしい。

 

相変わらず料理に駄目出しをしてきていて「カツに対して唐揚げの量が少ない」とありがたいご指導を頂戴している。

 

お前唐揚げおかずにカツ食ってんのかよ。

 

ご奉仕価格で750円のメニューなんだから多少は大目に見てください。

 

なんだかんだ近所の部活高校生や大学生なんかには大人気で、嵐のようにやってきては米を食い尽くして帰っていくそうだ。

 

たらふく食って大きく……大きくなってくれ。

 

 

 

そういえばきらりは今夏、ふじりなちゃん含めると5人ほどバイトが入ってきたらしい。

 

和久井女史は本格的にきらり2号店の開店を視野に入れているらしい。

 

「いい加減2号店を作らないと近隣住民に店を焼かれる」とこれまでもたびたび言っていた。

 

俺は2号店の料理長には佐藤を押しておいた。

 

地味に俺のレシピの再現率が一番高いのは佐藤だからな、うちの店はカレーさえブレずに再現できていれば潰れる事はあるまい。

 




次から話動かします

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