エセ料理人の革命的生活   作:岸若まみず

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おまたせしました


第25話 決勝戦

アスファルトに車がめり込むぐらい暑かった8月は終わり、幾分か過ごしやすい2015年9月がやってきた。

 

「小売するには量産能力に不安がある」と会議で結論が出たガンダムのプラモデル付き袋麺、通称ガンダムラーメン。

 

ほとんどこれを売るためだけに立ち上げられたプレミアムサンサーラというウェブサイトで限定販売されたのだが、秒速で売り切れてしまっていた。

 

日本国内からしか買えず、さらに同一の住所からは3つまでしか買えないという制限付きでこの騒ぎである。

 

今の状態で小売開始をしていたらクレームの嵐だったと、企画担当者は静かに胸をなでおろしていた。

 

 

 

さて、ところ変わってさいたまはスーパーアリーナ。

 

その会場で、そのガンダムラーメンを今まさに食べている者達がいた。

 

 

 

「今日この時のために!私達が生まれてきたと言っても過言ではないでしょう!!」

 

 

 

肩掛けの拡声器を通した島村卯月の爆音演説が控え室のドアを超えて廊下にまで響き渡る中、POS25の幾人かの少女達は『お土産に』と貰ったガンダムラーメンを早速調理して車座になって食べていた。

 

 

 

「緊張で昨日からなんにも入らねぇと思ってたけど、やっぱこのラーメンは別だな。いくらでも食えるぜ」

 

「もりくぼも、このラーメンならジェットコースターの直後でも食べられますけど……」

 

「なんかやばいもの入ってるのかなとも思ったんだけど、しゃちょー曰く○平ちゃんとあんま成分変わんないらしいよ」

 

「なんでんなこと知ってんだよ?」

 

「LINEして聞いた」

 

「おっ、お前っ!そんな気軽にLINEしていいのか!?」

 

「あたし高校の入学祝いも貰っちゃったしぃ?妹みたいなもんだし、ねぇ?」

 

「ねぇじゃねぇ!」

 

「杏も貰ったよ、高校の入学祝い。アップルのギフトカードだった」

 

「ええっ!?あたし図書カード……そっちのが良かったなぁ」

 

「貰い物に文句言うなよ!」

 

 

 

この日集った6組のアイドルの中で、朝からラーメンを食べていたのはこの数名だけだったという。

 

 

 

 

 

 

『レディースアンドジェントルメン!!さあ、盛り上がっていくわよ!!』

 

 

 

ステージ中央に立つ川島瑞樹がそう叫ぶと、会場の四方八方から大声援が返ってくる。

 

ここはさいたまスーパーアリーナ。

 

2012年にプロジェクトアイドルマスターが始まってからの3年、その総決算の場だ。

 

 

 

『日本一のアイドルを知りたいかーっ!』

 

 

 

新田美波の煽りに『おおおおお!!』と地鳴りのような歓声が返る。

 

この日集まった37000人が一体となって凄まじい熱量を発していた。

 

 

 

『みんなスマホは持った?投票できなくなっちゃうから、絶対になくしちゃだめよ』

 

 

 

この日観客達には、入場の際に首からかけるタイプのスマホホルダーが配布されていた。

 

サギゲームスがこの決勝戦ライブの投票を全てゲーム内で行うと決めたのだ。

 

会場内には撮影録音禁止の案内が出され、SNSなどでオフィシャル以外の写真や映像が流れた場合は顧問弁護士が対応すると公式にアナウンスされている。

 

観客はほぼ満員、カメラの数も前代未聞、このイベントのために携帯電話基地局のアンテナまで増えた、まさにサギゲームスの全力をかけた総力戦であった。

 

 

 

『早速だけど、お姫様達にご入場頂こうかしら』

 

『一組目、961プロダクション【プロジェクトフェアリー】の登場です!』

 

 

 

荘厳なエピック音楽をバックに登場したのは961プロの3人組だ。

 

四条貴音、一ノ瀬志希、速水奏の3人のメンバー全てがクール、全てがミステリアス。

 

艷やかな髪に結いつけられた黄金のティアラ以外は全て漆黒のゴシックドレスを纏った彼女達の存在感に、会場の37000人は言葉をなくしていた。

 

3人が完全に揃った動きでカーテシーを行うと、まるで呪いが解かれたかのように客席から歓声が爆発した。

 

 

 

『続いて二組目、765プロダクション【765エンジェル】の登場です!』

 

 

 

バツン!と照明が切り替わり、先程とは別の入口から軽やかな行進曲を背負って少女達が登場した。

 

ピンクのドレスを着て、めいめいが楽器を持って行進するその足取りに乱れはない。

 

メンバーは赤いストラトキャスターを持った佐久間まゆ。

金のデュオソニックを持った五十嵐響子。

ペダルとロックノッカーを持った関裕美。

そしてブビンガスルーネック5弦のワーウィックサムベースを持った水木ゆかり。

4人のメンバーが持つ独特な存在感に会場の37000人は言葉をなくしていた。

 

ステージに揃った4人が完全に揃った動きでカーテシーを行うと、まるで呪いが解かれたかのように客席から歓声が爆発した。

 

 

 

『続きまして三組目、346プロダクション【Project Krone】の登場です!』

 

 

 

先程とはまた別の入口から、まず最初に宮本フレデリカが登場した。

 

純白のドレスに白銀のティアラ、そしてガラスのハイヒール。

 

まさに魔女の魔法にかけられたシンデレラそのものだ。

 

会場中が息を呑む中、一人花道を歩くシンデレラの後ろから次々と同じ装いの女達が現れ、あっという間に完全に歩調を合わせたシンデレラの一個小隊が出来上がった。

 

眩すぎる彼女達の存在感に、会場の37000人は言葉をなくしていた。

 

ステージについた全員が完全に揃った動きでカーテシーを行うと、まるで呪いが解かれたかのように客席から歓声が爆発した。

 

 

 

『四組目、961プロダクション【詩花】の登場です!』

 

 

 

その少女は空からやってきた。

 

天井から吊られた黄金の三日月に座った、黄金の衣装の少女。

 

何かを口ずさみながら楽しげにステージに舞い降りたその姿はまさに天使のようだ。

 

淡く儚げで、どこまでも透明な彼女の存在感に、会場の37000人は言葉をなくしていた。

 

薄緑色の髪をなびかせた彼女が優雅にカーテシーを行うと、まるで呪いが解かれたかのように客席から歓声が爆発した。

 

 

 

『五組目、346プロダクション【パワー オブ スマイル25】の登場です!』

 

 

 

ギラギラ、物理的に。

 

眩しい、なぜなら光っているから。

 

体中にLEDを装備した、異色のドレスを身に纏ったシンデレラ達が現れた。

 

靴も、ドレスも、ティアラも、全てが光り輝いてアリーナの闇を切り裂いている。

 

7色にグラデーションを繰り返すそのドレスを纏う少女達も多種多様な面構えだ。

 

大きな娘、小さな娘、元ヤン、アジテーター、猫耳、ぽっちゃり、かぶとむし好き、かわいい娘、霊感少女、きのこ、厨二病、バイカー、ロックンローラー。

 

一人のファンも取り逃がさないとばかりに集められた属性の坩堝、そのカオスに

会場の37000人は言葉をなくしていた。

 

25人の先頭に立った少女が優雅にカーテシーを行うと、まるで呪いが解かれたかのように客席から歓声が爆発した。

 

 

 

『最後に、大阪は道頓堀商工会議所後援【なにわロケット】の登場です!』

 

 

 

会場の音響システムが音割れするんじゃないかと思うぐらいの大音量で六甲おろしが流れ、紅白ストライプのドレスに身を包んだ少女が現れた。

 

と同時に他の入口からドーナツのきぐるみを着た少女が現れ。

 

さらに別の入口からは全身アニマルプリントのドレスを着た銀の短髪の少女が大きく手を振りながら入場してきた。

 

3人で中央のステージまでやってくるとめいめいバラバラのポーズを取り『なにわロケーット!』と叫ぶ。

 

会場は緩やかな困惑に包まれていた。

 

 

 

公演は1グループにつき30分ごとで行われた。

 

順番は公正を期して、事前に抽選機を使って決められたものである。

 

1組目は最後に登場したなにわロケット。

 

このグループは30分の出番のうちの半分以上を喋っていた。

 

トラディショナルなしゃべくり漫才のようなトークは客からは大ウケで、歌でももちろん大盛り上がりだ。

 

そうして浮足立った客席に喝を入れるかのように、どこまでもシリアスに登場したのは2組目のProject Krone。

 

アイドルとしてのポテンシャルも、楽曲の質も、一挙手一投足に渡るまで完璧に研ぎ澄まされたその完成度も、他とはレベルが違った。

 

まさに2015年の日本アイドル界における最適解、誰も文句のつけようもないドリームチームだ。

 

Project Kroneの圧倒的なパフォーマンスで夢心地になった観客を迎えたのは、3組目の765エンジェル。

 

ディストーションのかかった真紅のギターをかき鳴らしながら、高らかに恋心を歌い上げる佐久間まゆの歌声に観客達は酔いしれた。

 

彼女の出世曲である『魔法を信じるかい?』では客席から大きな歌声が上がり、さながらロックフェスのようだ。

 

そうして沸き上がった観客の前に現れたのが、パワーオブスマイル25だった。

 

 

 

全員のLED内臓のドレスが真っ白に発光し、その中から一人だけ光ることをやめた少女がステージの前に出てくる。

 

そうしてピンと立てた人差し指を高らかに掲げ、満面の笑みで『パワーオブスマイル!』と言ったのはリーダーの本田未央だ。

 

そのまま雪崩込んだ『Yes! Party Time!!』に合わせて、少女達は全方位に向けて釣瓶撃ちにアピールを繰り広げていく。

 

投げキッス、ターン、笑顔、お辞儀、セクシーポーズ、一つ一つを取ってみればなんてことのないアピールが途切れる事なく30分の間延々と続く。

 

アピールする者だけドレスの光の色を変えていく構成から、これが即興で行われているわけではない事がわかる。

 

数を撃つしかなかったのだ

 

曲も、完成度も、ダンスも、何一つ他のアイドルたちには敵わない。

 

ただ彼女達は一人一人の個性の煌めきを弾丸にして、愚直に撃ち続ける事だけで勝負をかけたのだった。

 

25人分の魅力、25人分の個性、25人分の努力、25人分の人生、25人分の青春。

 

観客に誰の何が刺さったのか、伝わったのかはわからない。

 

勝ったのはパワーオブスマイルだった。

 




二十五人に勝てるわけないだろ!



書き直しまくりましたが力及ばずでした。

各アイドルの活躍を描くとどうしても冗長かつつまらなくなってしまうので、いっそバッサリと切りました。
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