エセ料理人の革命的生活   作:岸若まみず

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2025年のエピローグ

「親父、飯の時間だぜ」

 

「おお、もうそんな時間か」

 

「今日のおでんはヤバい匂いしてた、曾祖母ちゃんは『紅白の打ち合わせ』って慌てて出て行っちゃったよ」

 

 

 

二男の杢之助は含み笑いでそう言いながら、鼻をつまんでかけていった。

 

激動の2010年代が終わり、今は2025年。

 

俺と嫁さん達は元気に暮らしていた。

 

俺のインディアン・スカウトは修理完了後のツーリングでオカマを掘られて大破し、今は水没品のV7レーサーをレストア中だ。

 

メガネレンチを工具箱に片付け、俺は居間へと向かう。

 

今日は美波が料理をする日だ。

 

あの頑なに料理を拒んでいた美波も、子供にせがまれて最近は拙いながらも料理をするようになっていた。

 

他の嫁さん達も子供に手料理を食べさせたがるため、基本はローテーションだ。

 

2015年から色々あって嫁さんは1人増えたが、幸いにもみんな仲良くやってくれている。

 

というか美波の手腕が物凄い。

 

まるで人心掌握のプロフェッショナルで、嫁さん達や子供達の仲を仕事で忙しい中きちんと取り仕切っている。

 

一応嫁さんと子供の紹介をしておこうか。

 

 

 

高峯美波。

 

うちの家の正妻で、一児の母だ。

 

大学院を出てからは親の手伝いで色々と忙しいようだ、彼女の家も名家だからな。

 

子供は長男の高峯九郎義経。

 

一度見たものを後から絵にできる天才絵描き少年で、よく母親について入った女湯の様子をスケッチブックに描き出している。

 

 

 

高垣楓。

 

幼馴染で寿司屋の娘、二児の母だ。

 

現在は悠々自適の専業主婦ライフ、だが未だにスタイルはそこらのモデルより断然凄い。

 

子供は長女の高垣美咲。

 

サスペンスドラマを一緒に見ると開始5分で「こいつ犯人」と言い当てる。

 

直感無双だ。

 

ちひろが株の銘柄を美咲に選ばせて楓にぶん殴られていた、俺が競馬の数字選ばせたのはバレてないよな?

 

次に五女の高垣れもん。

 

足めっちゃ早い、小1なのにきらりより早い。

 

小学校の先生に陸上やったほうがいいよってしつこく言われてるらしいけど、本人はアニメが好きらしい。

 

 

 

川島瑞樹。

 

子供の頃から知り合いのお姉さんで、婆ちゃんの薦めがあって結婚した、一児の母だ。

 

現在はフリーでアナウンサー兼歌手をやってる。

 

子供は二男の川島杢之助。

 

勝負事が上手すぎる。

 

ゲームはもちろん喧嘩も負けなし、競艇の予想をさせたら的中的中また的中だ。

 

バレた時は瑞樹にぶん殴られたけどな。

 

ただ口が立たなさすぎて姉や妹たちにいつも泣かされている、不器用な男なのだ。

 

 

 

千川ちひろ。

 

恋愛結婚、ということになる。

 

彼女と俺の馴れ初めが十年前にひん曲げられてドラマ化されたことがあったが、あの後映画化して海外でも映画化された。

 

あの話の何が良かったんだ?

 

現在マッドナルドの副社長で、年間を通じて世界中を飛び回っている。

 

子供は二女の千川香里。

 

本人は天真爛漫な少女なのに、なぜかやることなすこと異常に色っぽく見えるすごい娘だ。

 

男性特攻というとこだろうか……いや、最近は女からもうっとりした目で見られているから将来がちょっと心配だ。

 

 

 

そして向井拓海。

 

色々あって結婚することになった。

 

そこは語ると一万文字分ぐらいの話になるから割愛する。

 

現在もタレント兼声優兼アイドルとして活動中だ。

 

子供は三女と四女の向井亜美と向井真美。

 

2017年に発売された、アイドルマスターの双海亜美真美という双子のキャラクターから取った。

 

向井拓海が声を当てているキャラクターだ。

 

ロリキャラの声を必死に当てる爆乳イケメン女子アイドルというのは話題性抜群で、美城芸能はかなり稼いだようだ。

 

二人共ごく普通というか、まだまだ得意な事が見つかってない感じなのだが。

 

たまに一言も喋らずにお互い意思疎通をしている様子が見受けられる。

 

やっぱり双子って不思議だな。

 

 

 

ちなみに俺や息子達の名前がシワシワネームなのには理由がある。

 

先祖の博徒が願掛けをして大博打にのぞみ、それで勝った金で遊女を水揚げしたのが高峯家の始まりなんだそうだ。

 

その時の願掛けというのが子孫の男の名前を先に決めて奉納してしまうというもので、まだ10人分ぐらいシワシワネームが残っている。

 

頑張ってくれよ九郎義経くん。

 

ちなみにうちの兄貴の名前は菊之助だ。

 

兄貴の息子の名前は弁慶、大変なんだほんと。

 

 

 

 

 

この十年いろいろあった。

 

まずインターネットで『高峯』で検索すると、母親と婆ちゃんの名前よりも俺の名前が先に出てくるようになった。

 

大勝利!と思ってたら、あっという間に酒に抜かされた。

 

今じゃワインの『高峯』は完全に投機の対象だ。

 

日本ワインのムーブメントを作り出した超高級酒としてよくテレビとかに出てる。

 

楓は毎晩がぶがぶ君みたいに飲んでるけどな。

 

 

 

 

 

会社は順調で、サギゲームスは未だに大覇道を続けている。

 

だがもうソーシャルゲームではない。

 

景表法の改正でソーシャルゲームという恐竜は絶滅したのだ。

 

今はゲーム自体はF2Pで、DLC購入と広告費で稼ぐ時代に逆行しているからな。

 

サギゲームスは超金かかったゲームの大会とか、ゴールデンタイムにお硬い有名人をイケメンが接待しながらゲームをやる番組とか、色々啓蒙活動もやってる。

 

 

 

アイドルマスターも大人気だ。

 

アニメも5本ぐらいやって、今じゃシリーズを通すと中の人の数が追いつかないってぐらいまでキャラの人数が増えた。

 

ソシャゲーバブルの終焉でドル箱コンテンツってわけにもいかなくなったが、地固めができてるからファンの熱量は未だ高い。

 

10周年記念作品としてアーケード版がリリースされたが、ネットワーク対戦の血で血を洗う仁義なきオーディションバトルが結構評判だ。

 

勝てないプレイヤーは人とマッチングしないように開店直後とか閉店間際を狙うらしい、大変だな。

 

 

 

 

 

アニメ会社のサンサーラは、あれからずっとガンダムをやってる。

 

シーズン5まで続いたバトルビルドファイターズはもちろん、新基軸も色々と打ち出してまぁまぁの評価をもらっている。

 

最近じゃ初代の映画三部作が再評価されだして、

当時のプラモデルがめちゃくちゃ値上がりしてるそうだ。

 

昔はラーメン取って捨てられる、ビックリマンのチョコぐらいの存在だったのにな。

 

昔からガンダムを見てくれていた島村卯月が当時作ったガンプラを引っさげて「ガンダム好き芸人」の番組に出てたけど、彼女は芸人枠の番組に出ていて良かったんだろうか?

 

荒木比奈監督は時々別の会社で他のアニメを作るんだけど、上手くいかずにガンダムに戻ってくるって事を続けている。

 

多分一生ガンダムからは逃れられんぞ。

 

金も技術も人材力もあるのに、ガンダム以外のオリジナル作品がパッとしないサンサーラだが。

 

社長の俺としてはこれからもまだまだガンダムにしがみついて、しゃぶり尽くす気満々なのであった。

 

 

 

 

 

マッドナルド、この会社についてはあんまり語りたくないが……語ろうか。

 

結局毎月毎月高値を更新し続けたマッドコインは、ある時から本気で社会問題となってしまった。

 

貧困にあえぐ子供の写真なんかとマッドコインを対比させたCMなんかも作られて、悪の枢軸とばかりに叩かれまくった。

 

あんまり嬉しくないことに各国で法律まで変わりそうだったので、適当なところでマッドコインの発行を停止。

 

この騒動は非常に大きく報道されたが、同時に義肢開発への貢献も取り沙汰され。

 

元軍人による国を跨いだ大規模なデモなんかも起こって色々と有耶無耶になった。

 

結局マッドコインは悪いタイミングで世に出てしまったということなんだろう。

 

マッドナルド発足がもっと早ければ、あるいはもっと遅ければ、また違った結末になったはずだ。

 

ちなみに今は『MUD(泥)』に強い義肢メーカーとして、義足のスケーターとかと組んで商売をしてる。

 

スニーカーも売れてるし、アパレルも好調。

 

あんまり公にはしていないが軍需産業にもガッチリ食い込んでる、ぶっちゃけ俺の事業の中で一番儲けを出してるのは変わらずマッドナルドなのだ。

 

レーションも作ってるけど、退役軍人が口を揃えて「この世で一番美味しかったのはマッドナルドのレーションだ!」と言う事態になっているらしい。

 

金出してもっといいもん食えよ!

 

 

 

 

 

飯屋きらりの話は簡単だ。

 

あれから5店舗増えてどこも大盛況。

 

きらりインスパイアと呼ばれる店も全国に色々できたが、なんだかんだと猿真似にも至ってない味ばかり。

 

飯屋きらりの大衆食の帝王としての地位は、もはや揺るぎないものとなっている。

 

文化人の中にも愛好家の集いがあるらしく、ここ十年の間に飯屋きらりを題材にした舞台や小説、映画も作られた。

 

だが店自体は変わらず取材NG。

 

『飯食わぬものは去れ』なのだ。

 

飯屋きらりを開店してから広告費に1円も使ってないのは、きらりホールディングス社長の和久井女史の密かな自慢らしい。

 

開店当時のエクスペンダブルズは結局誰一人欠けることなく、未だにきらりで働いている。

 

みんなそれぞれ店長になったが、ヒモだけは「僕お店潰しちゃうと思うんだよね」と言って本田兄の店にいる。

 

実際任されていたら潰していただろう、そういう男だ。

 

 

 

 

 

弟子みたいな存在だった三船嬢は、今や飯屋きらり全体の味を決める総料理長となっている。

 

そのライバル的存在だった財前時子さんはフレンチのレストランを開店して、大変に繁盛している。

 

一回美波と一緒に行ったが、心底嫌そうな顔をしながら挨拶しに来てくれた。

 

味はまぁまぁだ。

 

もう一人の日野さんは未だにサンサーラで楽しそうに料理を作ってる、実家の事はよかったのだろうか?

 

 

 

 

 

KTR、それは俺の若さゆえの過ち。

 

結果オーライだが苦い思い出だ。

 

全く表に出なくなったので死亡説が流れてしまい。

 

外人からはCDをサンプリングして作ったトラックで『R.I.P. KTR』なんてラップされて、死を悼まれたりしてる。

 

正直死んでしまったことにしといてもらえたほうがいい、もう曲の元ネタもあんまりないしな。

 

俺がKTRである説なんかもちょっとだけ出たんだが、『That's it』の特典映像のあまりのギターの下手さにその説は消えたそうだ。

 

ちょっと釈然としないんだが、まぁいい。

 

 

 

 

 

武内君は結局アイドルには誰一人手を出さず、美城専務と結婚した。

 

いや、事情は察する。

 

幸せになってくれ……未来の美城社長。

 

そしてその嫁さんの美城専務は、今日もきらりに来たそうだ。

 

「ラーメンはやらないのか?」と未だに毎回聞くらしい、もう二児の母なのに全くブレない人なのだった。

 

 

 

 

 

俺がこの世界に生まれてから30年弱。

 

色んなことがあったが、概ね良きことばかりだった。

 

死ぬほど稼いで、死ぬほど使った。

 

世界を変えたと断言できるし。

 

俺自身も前世からだいぶ変わった。

 

そして何より、幸せになれた。

 

今はもうやりたいこともない。

 

料理チートに頼りきった激動の人生だったが、もうそろそろいいじゃあないか。

 

これからはのんびりと子どもたちを育て、祖母と親父に孝行し。

 

趣味のバイクいじりでもやって、穏やかに暮らすことにしよう。

 

そう、この人生の回想を締めくくったところで、俺の部屋のドアがドバーン!と開く。

 

 

 

「社長っ!!」

 

 

 

俺の嫁さんの千川ちひろだった。

 

 

 

「宇宙食の契約が取れました!!」

 

「えっ!?宇宙?」

 

「そうです!次のマッドナルドの進出先はぁ……!!」

 

 

 

ちひろはドヤ顔で大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

「宇宙ですよっ!宇宙っっ!」

 

 

 

どうやら俺のエセ料理人生活には、まだまだ上がりが来ないようである。




なんとかFallout76に間に合いました。

2年間お付き合い頂き、ありがとうございました。

次回作は多分やります。

オリジナルになると思います。

あとがきは個人的なアレなのでそのうち割烹に書きます。

それでは皆様、良い年末を。

ウェストバージニアの森で会いましょう!

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