エセ料理人の革命的生活   作:岸若まみず

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ちょこっとだけ、前話の続き的なアレです。

シリコンバレーとカナダは特に反応がなかったということで……



あとシンデレラガールズと水曜どうでしょうタグの合わせ技で新作をやってますので良かったら読んでください。

https://syosetu.org/novel/175614/


高橋礼子の覚え書き 裏話

イタリア某所。

 

 

 

最近SURIMIの天ぷらが大流行。

 

うちなんか大した人気もない日本料理店で、近々インドネシア料理にでも鞍替えするかって店員と相談してたぐらいなのにここんとこ毎日満員。

 

こんなカニのニセモンいくら揚げたってちっとも食った気にならねぇってのに、流行りってのはよくわかんないもんね。

 

「はいっ!元祖KANIKAMA天ぷらグレービーソースかけお待ちっ!」

 

「ワオ!これが噂のSURIMIの天ぷらね」

 

「しかしなんで急にこんなに人気になったのかね?」

 

「あなた日本料理店やってるのに知らないの?あの東洋の神秘『KANTARO』の料理なのよ」

 

「『KANTARO』ってあのマッドコインの……?」

 

「そうよ、あのアルファメロメロのファッジ氏が先月落札して食べに行った中で一番感動したのがこのSURIMIの天ぷらだそうよ」

 

「へぇー、なんで蟹を使わなかったのかな」

 

「そこがまた奥ゆかしい日本人らしいじゃない、なんでもファッジ氏は天ぷらを塩で食べたらしいわよ」

 

「塩って、味がしないんじゃないか?」

 

「そこが『KANTARO』の腕なんじゃないの?」

 

「わかんないわね、グレービーソースがかかってたほうが美味しいのに」

 

「いや、これあんまり美味しくないわよ」

 

「うーん……やっぱりインドネシア料理屋に鞍替えするべきなのかしら……」

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

オーストリア某所。

 

 

 

「おいチャラン!またレトルトカレーかよ!控室に匂いが充満するだろ!」

 

「うるさいな、僕が何食べようと自由だろう?」

 

「お前せっかく日本に連れてってもらったってのに京都にもいかなかったらしいじゃんか、どうしちゃったんだよ」

 

「京都なんて行くやつはバカだね、古いだけだよ。僕も行ったことないけど、きらりがないならたいしたことないよ」

 

「おいおい日本っつったら京都富士山文房具だろ?こないだもらったボールペンは最高だったぜ」

 

「だめだめ、日本はきらり金麦カレーライスだよ。君も連れてってやりたいよ」

 

「お前もう日本に住めよ」

 

「ふっふっふ、最近僕がどこに通ってると思う?アニメバーだぞ、地道に日本語を勉強してるんだよ」

 

「おいおいお前急に髪の毛をピンクにしたりしてくるなよ」

 

「おいおい、それじゃ大覇道のKomachiになっちゃうだろ!HAHAHA!!」

 

「もう手遅れか……」

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

ドバイ某所。

 

 

 

「やっぱあの木のUSUとKINEが重要なんだって、全然味が違うじゃないか」

 

「お兄ちゃんそう言いながら毎日一番食べてるじゃない」

 

「お前は食べるのが遅いの」

 

「子供達よ、明日は友人達が来るんだがMOCHIを振る舞ってやってくれるかな」

 

「でもパパ、振る舞うって言ったって……スイッチ入れるだけじゃないか」

 

「果たしてそうかな……?おい!」

 

 

 

石油王の掛け声で、家族の集まる居間に使用人達が大きな段ボール箱を運び込んできた。

 

 

 

「なんだなんだ?なにその箱?」

 

「わかった、ぬいぐるみでしょ!」

 

「ふっふっふ……開けてごらん」

 

「なんだよ一体……っておっ!」

 

「Oh!これはUSUとKINEだね!!」

 

「これで美味いMOCHIを友人達にたらふく食わせてやってくれ、作り方はMrs. CHIHIROに聞いて送ってもらったぞ」

 

「いざ作るとなると、なかなか大変そうだなぁ……」

 

「お兄ちゃん頑張ってね!」

 

「お前も手伝えよ!」

 

「…………」

 

「あれ?KINEはどこに行った?水に漬けないと……」

 

「あれ見て!ママが凄い速さでKINEを素振りしてるよ!」

 

「……明日はなんとかなりそうだな」

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

イギリス某所。

 

 

 

「今週のTV the TV読んだ?」

 

「表紙だけ見たわよ、飛行機から降りてきたモンブラン氏がNIKEじゃなくてNICEのジャージを着てたわね」

 

「日本で『KANTARO』から貰ったらしいわよ、食べすぎてスーツが入らなくなったんですって」

 

「そんなに『KANTARO』の料理は美味しかったのかしら」

 

「そりゃあ額が額ですもの、あのお洒落な人達がわざわざ偽物ブランドのジャージを着て帰ってくるなんて『人生変わりました』って宣言してるようなものじゃない?」

 

「そう言われるとNICEのジャージも悪くないように見えてくるわね」

 

「ドン・キホーテで買ったらしいってインタビューで答えてたけど、どんな店なのかしらね」

 

「中華街みたいに天井から服が吊るしてあるんじゃない?」

 

「日本よ?ロボットアームがリモコンで服を持ってくるのよきっと」

 

「最新のロボットがわざわざNICEやADIOSの服を……?」

 

「プッ!」

 

「ちょっと行ってみたいわね、そのドン・キホーテって店」

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

ニューヨーク某所。

 

 

 

「これも違う、下げて」

 

「とんこつのシチューにパスタを入れたものも違う、か……」

 

「普通のヌードルのスープを濃くしたものも、ゼラチンで固めたものも違うのよねぇ……」

 

「もう1ヶ月もあれを食べてないのよ、手が震えてくるわ……」

 

「だいたいフィルチ、君がいらん嫌味を言うからあちらの態度もああ頑なになったんだ」

 

「そうよ、レシピとは言わないまでもヒントぐらいはくれたかもしれないわ」

 

「だってヌードルの店は日本じゃポピュラーだって聞いてたから、絶対あると思ったのだもの……」

 

「あの『KANTARO』がそんなもの出すわけがないだろう、本物のGOD HANDだぞ」

 

「なんとかもう一回食べに行けないかな……」

 

「金はあっても全員が日本に行けるスケジュールなんかもう開けられないわよ」

 

「お金も駄目よ。今月の入札始まったばかりなのに、私達の時の金額をすでに超えてるわよ」

 

「だいたい美食もドラッグも深入りしすぎるのはよくないわ」

 

「おめぇの囲ってる男娼はどうなんだよ」

 

「ここは建設的な話をする場でしょう!ヌードルの話を進めましょう」

 

「思うに、我々は結局料理に関しては門外娘なわけじゃないか。きちんと料理人を雇って研究させたほうがいいんじゃないか?」

 

「あの一杯のためだけに?」

 

「あの『KANTARO』の秘奥の一杯だぞ、金銭的なリターンすら見込める事だと思うけどね」

 

「アリサの意見に賛成」

 

「私も」

 

「あたしも」

 

「料理人は日本人にしよう、奴らは義理堅ぇ」

 

「恨みも忘れないけどな」

 

「じゃあ、日本のヌードル屋からヘッドハンティングしてきましょう」

 

「異議なし!」

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

香港某所。

 

「じゃあその屋台では最初から鍋貼(焼餃子)しか作ってないのか?」

 

「そうなんだよ、おばさんに聞いたらこっそり『日式餃子だよ』って教えてくれたんだけどさ」

 

「日本でも餃子食べるんだぁ」

 

「専門店もあるんだってよ、餃子の王将っていって、鍋貼とビールと白米しかないんだって」

 

「うぇ〜気持ち悪ぃ〜、白米食うやつはおかずなしかよ」

 

「餃子で飯食うんだって」

 

「意味わかんねぇ〜、やっぱ日本人おかしいよ」

 

「んでその屋台の餃子がうまいんだってこれが」

 

「そりゃ不味いもん売らないだろ」

 

「いやいや、つけダレが橙汁でさ、さっぱりしてていくらでもいけんのよ」

 

「ほんとかよ?」

 

「ほんとほんと、今から行こうや」

 

「あたし仕事中だぞ、お前ちょっと買ってきてくれよ」

 

「金ねぇよ」

 

「たかる気だったのかよ、いいよ後で自分で行くから」

 

「待つから一緒に行こうや、な?」

 

「しょうがねぇ奴だな、で、なんて店なんだよ」

 

「『勘太郎餃子』ってんだよ、変な名前だろ」

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

親父も、その親父も、芋を作ってきた。

 

俺の子供もそうかと思ってたが、俺と妻の間には娘しかできなくてみんな嫁に行っちまった。

 

嫁さんが死んだ頃からだろうか。

 

俺は自分で作っている芋を食わなくなった。

 

街のスーパーにも、都会のデパートにもうちの芋は並んでるが、俺にとっては苦労をかけられるだけの憎いゴツゴツだ。

 

ふかしても、焼いても、煮込んでも美味くねぇ。

 

バカバカしくなって、農場も畳んじまうかなと思ってた時に嫁の母親から日本行きのチケットを渡された。

 

俺は嫁の母親が苦手だ。

 

嫁が単なる幼馴染だった頃からそうだ、逆らえねぇ。

 

なんか俺の芋を有名な料理人に料理してもらえるらしいから行ってこいと送り出された。

 

クソッ、行きたくねぇ。

 

でも子供の頃に死んじまった母親の代わりに世話焼いてもらった記憶が、俺に彼女への反逆を許さねぇ。

 

『あんたの汚したパンツを洗ったのは誰だい?』なんて言われた日にゃあおしまいだ、俺はもうすぐ60なんだぞ。

 

日本について、一泊して、俺の芋で作ったアイントプフが出てきた。

 

こんなもん、と思ってかぶりついた。

 

芋だ。

 

バカみたいに美味い芋。

 

でも、なぜだろうか。

 

少しだけ、母さんが煮てくれた芋と似た味がした。

 

あの頃は今よりもっと芋が嫌いだった。

 

親父に怒られながら嫌々芋を食ってた。

 

母さんはそんな俺を苦笑しながら見つめてたな。

 

嫌々じゃなく、笑顔で食えば良かった。

 

母さんがすぐいなくなるとわかってたら、笑顔で食べられただろうか。

 

無理だったかな。

 

それでも文句を言ったかもしれない。

 

俺のために、世間に物が足りてない中でも色んな芋料理を作ってくれた。

 

あれが母の愛だと思えたのはいつだったかな。

 

いや、今の今までわかってなかったんだ。

 

俺は今、このバカみたいに美味い、母さんの芋料理とは比べる事もおこがましい料理を食ってようやくわかったのかもしれない。

 

食えばよかったな。

 

母さんのまずい芋料理を、腹がはちきれるまで食べれば良かった。

 

 

 

ドイツに戻った俺は、娘の婿を呼び出した。

 

農場を継いでくれと言うつもりだ。

 

迷惑だろうか、迷惑だよな。

 

でも知ったことか、ドイツの男は芋を食って芋に死ぬんだよ。

 

へっ。


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