エセ料理人の革命的生活   作:岸若まみず

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IF短編です

作中では2015年夏頃、アイドルマスター MY GENERATION 決勝戦の直前からの話になります。


社長やってる会社でイジめられて追放されたから(されてない)、別会社立ち上げてざまぁする 前編

2015年7月、アイス食いすぎ、腹壊した夏真っ盛り。

 

ただでさえ暑くて、不潔で、何もかもがうっとおしくてたまらないこの季節。

 

蝉の声もうるさくて気が狂いそうだ。

 

そしてサギゲームスとサンサーラの役員たちは、外の蝉よりもさらにやかましく俺の机の前で口角泡を飛ばして喚いていた。

 

 

 

「社長っ!これは通せません」

 

「サンサーラとしてもこれは無理です!」

 

「なんでだよ、宣伝性抜群だろ」

 

 

 

発端は俺が予算を通せと言った1つの企画だった。

 

その名も『実物大ガンダム建造計画』。

 

その名の通り、お台場に場所を借りて実物大のガンダムを飾るというものだ。

 

 

 

「こんなものに使う予算はありませんよ!!アイドルマスターの決勝にいくらお金使ってると思ってるんですか!!」

 

「サンサーラもです!機動戦士ガンダムは終わったんです!これからはビルドバトルファイターズの時代なんですよ!工場のライン増やしたばっかりでお金ないんですから!」

 

「いいからやれよ」

 

「やりませんよ!奥様を呼んで説教してもらいますよ?」

 

「そうです!」

 

「嫁が怖くて会社はやれないね」

 

 

 

と言ったものの、実際呼ばれると困る。

 

 

 

「勘君、駄目だよ。どっちの会社もいま内部留保ほとんどないんだから。勘君のお金かかりそうな業務命令は無視していいって、私から言っておいたからね」

 

 

 

こうなってしまうと俺に勝ち目はない。

 

税理士免許持ちのスーパー才女の美波に真夏の社長室で滾々と理詰めで説教をされ、俺は半泣きでサギゲームスを飛び出した。

 

お前ら潰してやるからな!覚えとけよ!

 

 

 

 

 

といっても、俺に実務力がないのは周知の事実だ。

 

ちひろがマッドナルドにかかりきりな今なら、俺を単体で放置しても別に問題ないと判断したんだろうが……まだまだ甘いぞ。

 

俺は以前からコンタクトを取っていた、ロボットオタクの池袋博士の私設研究所へと足を運んだ。

 

彼女は機動戦士ガンダムⅠからのガンダムファンで、最先端の工学に携わる本物の天才科学者なのだ。

 

普段は産業用ロボットの設計をやっているらしい。

 

 

 

「で、アイデアはあるのか?」

 

 

 

飛び級しまくりで御歳14歳の池袋博士が、自作のウサギメカにコーヒーを入れさせながら聞いた。

 

この研究所は涼しくていいな。

 

アイデアはもちろんある。

 

といっても池袋博士とその人脈頼りなアイデアだが。

 

 

 

「VRってあるでしょ?あれでロボットバトルがやりたい。巨大ロボットの借りは巨大ロボットで返す」

 

「そりゃ技術としてあるにはあるが、自分がロボットになって戦うのか?」

 

「そーゆーこと。VRトラッキングブースを作って、ゲームセンターに置くんだよ。そしてeSportsとして大流行させて、俺を追い出したサギゲームスとサンサーラに復讐してやるんだ!」

 

「ゲームセンターか……まぁVRヘッドセットは普及していないしな。トラッキングにはある程度の部屋のスペースも必要だから、日本では今後の普及も怪しいだろう」

 

「そこで池袋博士にそこらへんの設備を作ってもらいたいんだよ、予算は気にしなくていい」

 

「『予算は気にしなくていい』か。一度は聞いてみたいと思っていた言葉だが、本当に大丈夫なのか?」

 

「俺の個人資産が何百億あると思ってる?それにこの間作った酒がある、いざとなればそれを売るだけだ」

 

「なるほど、君もまた天才なのだったな」

 

 

 

池袋博士はそう言って、今日初めて年相応の屈託のない笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

1週間後、池袋博士に呼び出された俺は、勝手に借りた美波のローライダーでいそいそと研究所へと馳せ参じた。

 

 

 

「紹介しよう、彼女がソフトを担当するチーム『八神研究所』の長、八神マキノだ」

 

「八神マキノよ、よろしく。こんなに若いメンツで大仕事なんてなかなかできないから楽しみだわ」

 

「高峯勘太郎です、思う存分やってください」

 

 

 

俺と八神女史はがっちりと握手を交わした。

 

聞くところによると彼女の率いるゲーム制作チームは平均年齢17歳の超精鋭揃いらしい、アニメみたいな話だな。

 

今度サンサーラでネタにできないかメモっておこう。

 

 

 

「それで、企画書を読んだんだけど……巨大ロボットが格闘するの?」

 

「そうそう、4勢力のスーパーロボットが街をなぎ倒したり火山を蹴飛ばしたりの大乱闘を……」

 

「これ、人間の格闘ゲームや体験型FPSを作ったほうが簡単に儲かると思うんだけど?」

 

「ああ、それでもロボットがいい」

 

「そう、何か意味があるのね」

 

 

 

本当は意趣返し以上の意味なんかないが、それは黙っておこう。

 

とにかく、天才池袋博士と謎の女八神マキノ、ついでに金持ちの俺が集まって、企画はギュンギュンと音を立てて回り始めたのだった。

 

 

 

 

 

8月の始め、家の近所のドトールで涼んでいた俺のスマホに池袋博士からの呼び出しがあった。

 

VR機材が一応形になったから見に来いという話だったが、早すぎないか?

 

正直俺も金だけ払って半分満足してしまっていたが、もっと何年とか先になるものだと思っていた。

 

これじゃ夏休みの宿題じゃないか。

 

 

 

「これが待望のVR体験マシーン『VR U-SA-(うーさー)』だ」

 

 

 

日本製なのにUSAの、何やら大仰な機械がそこにあった。

 

高くそびえるクレーンのようなものからはハーネスとヘルメットがぶら下がり、その下にはベルトコンベアみたいなマシーンが敷かれている。

 

 

 

「このハーネスで宙に浮かび、全周囲型ランニングマシンを蹴ってVR空間を移動するわけだ」

 

「ほぉーっ」

 

「下半身は腰と膝と足首でトラッキングを行っているから、よく滑るベーゴマの台みたいなのと靴下でも代用可能だ」

 

「さすがは池袋博士」

 

「そうだろうそうだろう。まだソフトウェアが開発段階だから、私はこれを叩き台にして小型化していくぞ」

 

「おおっ!よろしくおねがいします」

 

 

 

へへーっと頭を下げる俺に池袋博士は色々と機械の説明をしてくれたが、正直ちんぷんかんぷんだった。

 

ちひろがいれば彼女に全部任せておけるのだが……

 

自分の実務能力のなさが憎いぜ。

 

まあ機械の事は専門家に任せる、俺は機械を入れるゲームセンターなんかの事を考えないとな。

 

サギゲームスやサンサーラの人材が使えず、最強の万能選手であるチヒえもんも忙しすぎてとても頼れない現在。

 

普通ならにっちもさっちもいかない状況なわけだが、俺にはまだまだコネがあった。

 

そう、経済界に顔の効く金持ちの親父と、芸能界の重鎮と言ってもいい存在である祖母のコネだ。

 

まさに最終兵器、何でも出てくる使い減りしない家族コネクションだ。

 

そんな打ち出の小槌を振って出てきたのは、2人の女性だった。

 

 

 

「鷹富士茄子です〜。運には自信がありますよ」

 

「依田芳乃、人を見る目には自信があるのでしてーお腹が空きましたー」

 

 

 

ちょっと不安なのが揃ってしまった。

 

だがとりあえずは、俺を含めたこの3人でやっていこうじゃないか。

 

俺は彼女達に手料理を振る舞いながら、VRの凄さ、ロボットの熱さ、今後の展望などを話したのだが、こう……なんか……

 

 

 

「ゲームですか〜、やったことありません〜」

 

「美味しいのでしてー声なき声に呼ばれてやってきてー良かったのでしてー」

 

 

 

大丈夫なのか!?この人材で!

 

誰も俺の話まともに聞いてないんだけど!

 

 

 

 

 

杞憂だった。

 

あの2人はあんまり仕事できるって感じじゃなかったんだけど、その後の募集ですごい人材がどんどん来てくれた。

 

面接官を買って出てくれた芳乃ちゃんが凄いのか、うちの業務が魅力的すぎるのか……

 

 

 

「この人はだめなのでしてーこの人は採用でしてーお煎餅をもってくるのでしてー」

 

 

 

って適当にエントリーシートを処理してたからほんとのほんとに不安だったんだけど、彼女が自慢する人を見る目に間違いはなかったようだ。

 

よくわからんがとにかくラッキーだ!

 

それどころかゲーム制作チームの方も手がノッてるのかどんどん開発が進み、8月も終わらぬうちに早速デモプレイまでこぎつけた。

 

よくわからんがとにかくラッキーだ!

 

池袋博士も閃きが捗りすぎたのか、研究室いっぱいに広がっていたVRの機械がいきなり公衆電話サイズにまで小型化されてしまった。

 

こ、これだと下手したら普通のゲーセンにも置けてしまうぞ〜!

 

よくわからんがとにかくラッキー……

 

でいいんだよな!?

 

まだ動き出してから1ヶ月ぐらいしか経ってないぞ。

 

サギゲームスのときはもっと大人数でゆっくりじっくり時間をかけたのに……

 

反動で来月無一文になるとかないよな?

 

小市民だからツキすぎると怖いんだ。

 

 

 

「社長ーでもぷれいがいるらしいのでしてー」

 

「でもぷれい?ああ、宣材用か……せっかくの全身装着型VRなんだから、プロの綺麗どころに頼んでみるか」

 

 

 

せっかくゲーム画面とプレイヤーの動きがぴったり一致するっていう画期的なシステムなんだから、生身の方も見栄えした方がいいだろう。

 

俺はさっそく武内君に電話をかけてみた。

 

 

 

『お断りします。わざと言ってるんですか?アイドルマスターの決勝は来月なんですよ!大手はどこの事務所も機能停止してますよ!』

 

「一人でいいんだけど、ゲームできる子でさぁ」

 

『ゲームセンターでスカウトしてきたらどうですか』

 

 

 

フンッ!という武内君の苛立ちの声と共に電話は切られてしまった。

 

そういえばアイドルマスターの決勝は来月だったか……

 

あの企画はもう勝手に動いてるから完全に忘れてたぞ。

 

 

 

「スカウトかぁ〜」

 

「社長ー、人探しならここがいいのでしてー」

 

 

 

芳乃ちゃんが会社支給のipadのマップで指し示したのは、オタクの街秋葉原だった。

 

 

 

 

 

久々にやってきた秋葉原は外国人で溢れていた。

 

謎の言語が飛び交う交差点を抜け、ガチャガチャの機械をいちいちチェックしながらぶらぶら歩く。

 

最近ちょっとなかったなこんな時間。

 

ツーダウンの自販機で買った謎のカフェオレを飲みながら、酸っぱい匂いのする夏の秋葉原をぐるぐる回っていると、前世で極貧大学生だった頃の事を思い出す。

 

ラーメン屋まで来たのに券売機でちょっとだけ金足りなくて、自販機の下を必死で覗き込んだりしたなぁ。

 

ちょうど昼時だ、せっかくだから今日はラーメンにしよう。

 

前世の俺の供養だ、店で一番高いメニューを食べてやるか。

 

意気揚々と食券を買う俺に、地面の方からじとっとした視線が突き刺さった。

 

どピンクの髪に青のインナーカラーをキメた変な服の爆乳女が、食券機の影から俺の手元を睨みつけていた……




SEKIROの進み次第ですけど、続きはたぶん明日提出します

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