ガンナーと『バゼットではなかった女』との戦いの後、慎二たちはすぐにフーゴから教えられたホテルに向かった。舞弥が用意していたワゴンカーを飛ばし、新都にある高級ホテルに辿り着く。
ホテルの前で口ひげを生やしたイタリア人男性に出迎えられ、部屋へと案内される。ドアを開けると、フーゴと、ベッドを占領する赤毛の女――本物のバゼット・フラガ・マクレミッツがいた。右手から点滴を受けながら眠りについている。その寝顔は、あまり良いとは言えない。悪夢にうなされているようにしかめられ、唸っている。
慎二は彼女を見つめながら、スタンド【マイキー・ザ・マイクマン】を出現させた。
『レディース・アァァァンド・ジェントルメェェン!! 青コーナー! 素直になれないお年頃! 穂群原学園弓道部副部長! 実は子犬好き! 間桐慎二ィィ!!』
(……また余計なことを言いやがって!)
自分のスタンドに内心で悪態をつきつつ、背後でこちらに向けられるライダーの気配を気にする。だが問題はここからだ。
『赤コーナー! 時計塔の執行者! 行きつけの店は牛丼屋! 特技は人を殴ること! バゼット・フラガァァ・マクレミィィッツ!!』
プロフィールの内容はともかく、これで彼女が本物のバゼットであることは確定した。
(失敗したな。あいつにも【マイキー・ザ・マイクマン】を使っとくんだった)
てっきりガンナーのマスターがバゼットだと思っていたが、明かりも点いていないビルでは、顔は良く見えなかった。髪の色だけで判断してしまった失点を悔やむ慎二。
舞弥は過ぎたことはどうしようもないと切り捨て、今後のために推測を開始する。
「彼女がバゼットで、魔術師であることも確か……そして左手が失われているということは、おそらく令呪を奪われたということ」
「つまり、彼女もまたマスターであったということか。早い段階で彼女は敗れ、しかし殺される前に逃げ延びて、隠れていたところを見つかった。令呪を奪ったと言うことは、彼女のサーヴァントはまだ現界している可能性が高いな」
舞弥の言葉を聞き、キャスターが状況を判断する。
バゼットがサーヴァントを奪われたとするなら、犯人は誰か? 慎二、士郎、凛、舞弥はまず除外される。イリヤは既に最強のサーヴァントがいて、他人のサーヴァントを奪う理由はないので違うだろう。だとすれば、先ほど戦った謎の女マスターか、まだ見ぬランサーのマスターか。
(いや、それだけじゃない……)
慎二はここに来るまで、自動車の中でキャスターからガンナーについて聞いたのだが、その容姿も能力も、アーチャーとランサーの戦いの最中、凛を襲おうとしたサーヴァントのものとは異なっていた。つまり、8人目のサーヴァントということになってしまう。
しかし、それは情報共有をしている舞弥も不思議がる事柄のはずなのに、舞弥はそれを気にした様子がなかった。慎二がそれについて聞くと、
「ああ、確かに8人目のサーヴァントがいることは問題ですが、在り得ることではあります。前回の聖杯戦争では、サーヴァントを召喚するサーヴァントが2体いました。一人はライダー、征服王イスカンダル。もう一人はアサシン、世界王ディオ・ブランドー」
どちらも、生前の部下をサーヴァントとして召喚することができたのだと言う。無論、本来の数を超えるサーヴァントがいること、今後も更に新たなサーヴァントが現れる可能性があることは大変なことである。だが、不思議がるようなことではない。
「そういうこともあると受け入れ、なぜそうなったか、誰がそうしたかを突き止めればいいだけの話です」
流石に、戦場の経験は舞弥に敵わず、慎二は若干面白くなさそうであったが、押し黙った。
「新たな情報を知るには、まず彼女に起きてもらうのが一番早い。だが、かなり体が弱っているようで目が覚めない。医者にも診てもらったが、出血多量、栄養不足、体力低下……普通なら死んでいるって驚いていたよ」
今まだ生きているのが、魔術によるものか、単純にバゼットという女性が規格外の肉体を持っているからなのか、わからないが、今まだ息があるのは僥倖であった。発見されたとき、体は冷え切っていたという。
フーゴの指示で体を温め、点滴で栄養や薬を投与し、輸血も行った。だが、発見した時点で既に消耗しすぎていた。取り返しがつくかわからない――いつ死んでもおかしくないというのが、医者の判断だ。
「我々ではこれ以上の対処はできない。君らには、他にできることはあるか?」
慎二はまず力になれない。魔術は使えないし、ライダーはむしろ生命力を吸い取る側の存在で、治癒することはできない。舞弥も治療のための術や礼装は所持していない。億泰も同様。
ゆえに、役に立つのはただ一人。
「キャスター」
「ああ、やってみよう」
髭の紳士は、眠れる美女に歩み寄ると、失われた左手の傷口に触れ、
「コォォォォォォ……」
特殊な呼吸を開始した。キャスターの手に優しい輝きが生まれ、傷口を通してバゼットの体を伝わっていく。光が伝わることでバゼットの肌に張りが生まれ、血の気の失せた顔色が、良好になっていくのが、見ていてはっきりとわかった。
「本来、波紋法とはこういう使い方をすべきなんだよねぇ」
キャスターは、生前に初めて波紋法と巡り合ったときのことを思い出す。
彼が目にした若き波紋使いは、当時の医学ではもはや断ち切るしかない傷口から腐ってしまった脚を、見る見るうちに再生させたのだ。
彼の生涯を賭けた宿敵――吸血鬼。その逆の力。生命を与え、救う力。
血液から呼吸によって、太陽光と同質の生命エネルギーを汲み取り、増強し、放つ力――『波紋法』。太陽の光と同じ波長の波紋を生み出し、力とする術。
「……これで、大分体力は回復したはずだ。まず命の危険は無くなった。じきに目覚めるよ。多分、明日には」
肌の血行が良くなり、ピンク色になった頬。苦しみ魘されている様子もなくなり、安らかに寝息をついている。キャスターによる治療の効果は目に見えて明らかだった。
「ご苦労でした」
「ふむ……これは使える能力だな」
フーゴはキャスターの能力に感心する。戦闘はどうあがいても傷つき消耗することは避けられない。ゆえに、戦闘は戦士だけでは成り立たない。回復役を始めとするサポートを行える人員は不可欠だ。
「さて、久しぶりだな。あんたとまた共闘することになるとは思わなかったが」
「10年ぶりですね。パンナコッタ・フーゴ……今ではパッショーネの幹部だそうですね。この町の現状を調べ直して、貴方の顔を見たときは少々驚きました」
かつての聖杯戦争のセイバーの陣営にいた舞弥と、バーサーカーの陣営にいたフーゴ。敵対し、最後にはアサシンの陣営と戦うために、流れで協力することになった間柄。あの時別れた後、こうしてまた出会うことになるとは、思っていなかった。
「見ての通り……今は慎二に協力している」
「ええ、深く聞く気はない。間桐ではなく、慎二と組んでいる。それならば、何も問題ありません」
「ああ。こちらも問題はない。お互い、邪魔にならないようにしっかりやろうじゃないか」
舞弥とフーゴは、あくまで慎二を通じての繋がりであり、フーゴは積極的に舞弥を助けることはせず、舞弥はフーゴに協力することもない。下手に目的を告げれば、それが弱みとなって相手に利用されるかもしれないから、自分たちのことは何も喋らない。
フーゴも舞弥も、慎二の味方にはなるが、それ以上の協力はしない。しかし、進んで敵対もしない。その辺りで折り合いをつけようということだ。
片や、犯罪を生業とするギャング。
片や、金で人を殺してきた仕事人。
お互い、信頼されるような立場でないことは百も承知であったから、気を悪くすることはなかった。
それを傍らで見ていた億泰は、『めんどーくせーことやってんな』と思っていたが、リーダーである舞弥の行動に口を挟むことはなく、あまり使うこともない高級ホテルの部屋を、物珍し気に見ているのだった。
「そういうわけで、仲介人は任せるよ慎二」
「パッショーネが掴んでいる情報の提示を求める時は、貴方を介して行います。こちらからパッショーネに接触したいときも使者となってもらうので、よろしく」
「……おい、スムーズに僕をパシリにするんじゃない」
慎二は勝手に仕事を増やす協力者たちに文句を言うが、
「他に人がいないんだ。君を信頼して任せるんだぜ慎二」
「私たちキャスター陣営、そしてフーゴたちパッショーネ。二つの勢力の間を取り持ち、情報操作の手腕によっては双方を手玉にとれる、大変得な立場が手に入ると考えてみては?」
「勝手なこと言いやがって……」
互いに信用も信頼もしないという立場でありながら、フーゴと舞弥は仲良く慎二に自分たちが協力するための潤滑油という役目を押し付けるのだった。
慎二は顔をしかめながらも、頷く。
「まあいいさ。やってやるよ。で、この後のことだけど」
「この本物のバゼットが目覚めれば、かなりのことがわかるだろうが……それまでにやれることが一つ」
フーゴはホテルの備品であるデスクの引き出しを開け、中にあった書類の束を取り出す。
「昨夜、港の防犯カメラに、見覚えのある姿があった」
防犯カメラの画像を引き延ばし、解像度を高める処置を行ってつくった写真には、長い金髪をした、褐色の肌の美青年の顔があった。
「アトラム・ガリアスタ……」
「そう。入って来た船から積み荷を受け取り、そのまま運び去っていった。荷物の中身まではわからない」
荷物はおそらく、聖杯戦争に使う魔術礼装の類であろう。
「船は奴の所有物で、厳重に情報を隠している。調査の手を入れる隙がない」
「……金持ってやがるな」
「表向きの顔は、石油の採掘権を所有する富豪のようだ」
歴史の古い魔術師は概ね大富豪だ。何せ、魔術の研究は金がかかる上に、研究成果は金にならない。金持ちでなければやっていけないのだ。
間桐家も冬木以外にも霊地を所有しており、他の魔術師に貸して収入を得ている。
「この後、荷物を運ぶトラックの進行方向にある防犯カメラを残らず洗わせて、アトラムが潜伏していると思しき場所を、絞り込んである。ここから探してみてくれ。普通ならすぐに調べがつくはずなのに……なぜか見つからない。恐らくは、魔術による隠蔽だろう。意識を向けられないようにしていると考えられる」
フーゴは地図を見せ、他にアトラムの姿を映した防犯カメラの設置場所を示し、それらから判断した、アトラムの拠点があると思われる地域を示す。
「なるほど……では、バゼット君が目覚めるまで、この辺りを調べるとしよう。私や魔術師のマスターには、多少の結界は通じない。億泰くんもスタンド使い故か、精神に作用する暗示は効きづらいしね」
キャスターの提案に、異議は出なかった。
「それと、もう一つ。先ほど、遠坂邸に、遠坂凛と衛宮士郎が連れ立って入っていくのが確認された」
「……なんですって?」
舞弥が子煩悩な母親のように過敏な反応を見せる。遠坂家は最初からマスターになるとわかっている人間の住居である。当然、フーゴたちは慎二に会うより前から、その周辺を監視できるように細工してきた。遠坂邸に繋がる道にある店の防犯カメラを見れるように働きかけ、周辺の家に監視の人員を送り込んだ。
とはいえ、手口のわからない魔術師相手だ。盗聴器を屋敷に仕掛けるような直接的なことはせず、人の出入りを監視する程度にとどめている。しかし成果はあった。
「怪我をした衛宮士郎に、遠坂凛が肩を貸していたようだ」
「……また無茶をしたのですか」
舞弥の不機嫌そうな様子に、億泰が困った顔になる。慎二はため息をつき、
「明日、話を聞いてみてやるよ。一応、危ない真似はするなと釘刺してみるから。無駄だろうけど」
「……お願いします。聞いてはくれないでしょうけれど」
これをもって、その夜は解散となった。
バゼットが起きたら連絡するという約束をフーゴにしてもらい、慎二は間桐の屋敷に戻った。舞弥たちもワゴンカーに乗り込んで去っていった。慎二は舞弥の拠点を聞いたが。舞弥たちは一か所に留まらず、車内を寝床にしているということだった。
舞弥がそのことを慎二に教えたあと、『男と女が狭いとこに寝泊まりしてるからって、別にやましいことはしてねーぜ』と言ったのは、顔を赤らめた億泰である。
◆
遠坂邸。
包帯を巻いてもらった士郎は、凛と向かい合ってソファーに座っていた。
「ねえ、とりあえず休戦しない?」
「え? 俺と遠坂で?」
話しを振って来た凛に、士郎は少し驚く。
「さっき乱入してきたサーヴァント……あれはおかしいわ。今までの戦いで、すでに7体のサーヴァントを私は確認している。なのに、8体目のサーヴァントが現れた。この聖杯戦争、教会が焼かれたことを始め、イレギュラーが起こりすぎている。流石に、もう少し状況を見定めたいの。だから、状況の全貌をつかむために協力しない? どう? 悪い話じゃないでしょう?」
その申し出に、士郎は明るい声で答える。
「ああ、遠坂が力を貸してくれるなら頼もしい」
慎二あたりが見れば、もう少し罠を疑う脳みそは無いのかとこき下ろすところだが、士郎には、凛を疑う気持ちはまるでない。今までの凛の人となりから、彼女がそう言った小賢しい罠を仕掛ける性格ではないと信頼しているのだ。
それにしたって、二つ返事過ぎるところはあるが。
「別に私は衛宮くんに力を貸すわけじゃぁないわ。休戦協定を結んだだけよ。けど、貴方が私を裏切らない限り、私は衛宮くんを助けるから」
「何だ。なら、ずっと一緒じゃないか。よろしくな、遠坂」
士郎があっさりと言って、手を差し出す。
「っ!……フ、フンッ、短い間だろうけどっ、せいぜい役に立ってよねっ?」
凛は、やや動揺し、頬を赤らめながらも、士郎の手に自分の手を重ねた。
ここに、剣と弓、三騎士の内の二つが手を結んだ。
「ところで、慎二の方には話さないのか?」
士郎は、素直ではないが頭を下げれば、割と調子よく力を貸してくれることの多い少年の名前を口にする。
しかし、凛は眉をしかめ、
「……遠坂と間桐は、家の事情でちょっと複雑なのよ。それにあいつとは相性があまり良くないし」
慎二に聞いた話では、遠坂家と間桐家は、御三家として聖杯戦争をつくった同志であり、同時に数百年勝負を続けて来た仇敵でもある。簡単に協力し合うのは、気が進まないのだろうと士郎はそれ以上、とやかく言いはせずにおく。
(仕方ないか)
場合によっては自分が、慎二と凛の間を取り持てないか考えながら、士郎は遠坂凛と共に戦う道を選ぶのだった。
◆
「クハハハハ……慎二め。中々頑張っておるの……」
警察によって、立ち入り禁止にされた、ビルの跡地。瓦礫の山を前に、矮躯の老人が笑う。調査する警官も、野次馬も、通行人も、誰一人その老人の存在に気づくことはない。
「まさか奴と組むような物好きがいたとはのぉ。世の中わからんものじゃ」
それは孫の健闘を褒めたたえるものではなく、涙ぐましい足掻きを嘲笑うものであった。
「しかし……もう参加者のほとんどが、この聖杯戦争のイレギュラーに気づいているじゃろう」
臓硯の手の中の書物。かつて老人の盟友となったサーヴァントが手に入れた魔書。第四次聖杯戦争において、聖杯崩壊の時に浴びた泥の影響で、主無き後もこの世に残った宝具。
名を冠するなら、【
とはいえ、ただ形が残ったのみで、ここ十年の間はただの革製の書物として保管されていたのだが、聖杯戦争の兆しが見え始めたころ、聖杯の影響を受けて力を取り戻していた。
その力は、前回の戦争を蹂躙したサーヴァント、アサシンの生前の部下を召喚すると言うもの。無論、現界のために魔力は欠かせないし、力も正規のサーヴァントに比べれば弱いものであるが、元より彼らの力は『強い弱い』で測れるような容易いものではない。
適材適所――それが上手くはまれば、
それらが、この聖杯戦争には散らばっていた。
「ばれているのなら、そろそろ派手に動こうか。既に二人のディオズ・サーヴァントが敗れたとはいえ……残っているディオズ・サーヴァントは……『五人』」
老人の手の中で、魔導書が怪しく脈動する。脱落した陣営はまだ無いまま、聖杯戦争は更に激しく、破壊を求めて動き出していた。
◆
遠坂邸から、自宅への道を歩く士郎は、背中に突き刺さる気配に振り返り、口を開いた。
「……ここまででいい」
その言葉に答え、空間が揺らいで一人の男が姿を見せる。霊体化していたアーチャーだ。
「ほう? 護衛はいらぬと?」
「そんな殺気だった護衛があるものか」
士郎が不機嫌に言い放つと、アーチャーは煽るように笑みを浮かべ、
「見直したよ。殺気を感じられる程度には心得があるらしい。見送るお前を襲うなという、凛の指示には従うさ」
「……別に、やるって言うんなら、相手になるけどな。たとえ半人前でも、俺は魔術師だ」
吠える士郎であったが、赤い弓兵は鼻で笑う。
「たわけたことを。血の臭いのしない魔術師など、半人前以下だ。成果のために冷血になるのが魔術師という生き物……。凛などは、多少甘いところはあるが、心構えは完成されている。間桐慎二でさえ、覚悟は決めている。お前が一番、半端だ。むしろ、お前だけが半端だと言ってもいい」
「くっ……」
アーチャーの抉るような言葉を、士郎は否定できなかった。直視したいものではなかったが、自覚はあったからだ。士郎には、自身の『核』や『芯』とでも言うべき、揺るぎないものが定まっていない。
「……殺したところで、『どう』ともならん。せいぜい、凛の足を引っ張るなよ」
背を向けて、再び霊体化し消えるアーチャーを見送り、士郎は帰途に戻る。その胸中にはアーチャーの言葉が突き刺さり、包帯の下の傷よりも強く疼いていた。
◆
2月4日。
士郎は疲労と痛みを背負って登校していた。
昨日、帰宅した士郎はセイバーにみっちりと叱られ、戦闘の基礎を叩き込むための訓練を課されることとなった。剣の英雄による、剣の修行。武を学ぶ者が聞けば生唾ゴクリで羨む話である。士郎としても願ったりであるが、当然ながらキツい。
「少しでも……セイバーの力になれるようにしないと」
自分のような未熟者と共に戦ってくれるサーヴァントのためにも、士郎は決意を改めて口にし、自分を叱咤する。
そこに、
「よう、衛宮。朝からまた頭でも痛そうな顔してるなぁ」
慎二がからかいながら近寄って来た。
「ああ……おはよう」
「剣呑なのか呑気なのか……で? 何か成果はあったかい? お前なんかが走り回ったところで、情報一つ手に入らないだろうけど」
慎二にしても、フーゴがいなければ使い魔一つ操れない情報弱者の立場なのだが、自分のことを棚に上げるのは、長年磨いた慎二の得意技である。
「いやその……」
「なんてな。知ってるんだぜ? 昨日、戦ったんだろ?」
慎二の言葉に、士郎は目を丸くしてわかりやすい驚きを表す。
「なんで知ってるんだ?」
「……ま、お前とは違うってことだよ。それに、遠坂とも大分うまくやってるみたいだしぃ。案外、手が早かったんだな。何? 付き合うことにでもなったのか?」
「な! そんなんじゃない。ただ同盟を組んだだけだ!」
士郎の反論に、慎二はニヤリと笑った。
「ああ、わかってたさ。けどお前はマヌケだ。そうか、遠坂と同盟……なるほど」
「あっ……慎二、引っかけたのか!?」
士郎は自分の口を手で押さえるが、今更遅い。
「引っかかる方が悪いのさ。そうかそうか……戦闘の情報をくれるなら、こっちの持ってる情報をくれてやってもいいぜ? 同盟相手の許可が必要だって言うなら、昼まで待っても構わない」
「……わかった。相談してみる」
完全に慎二のペースに呑まれた士郎は、渋い顔で頷く。いきなりばれたことで、凛に怒られるだろうことを思い、気が重くなる。
「……ただ、これは善意で言うんだが、お前に出来ることなんてたかが知れてるんだ。早めに諦めて、手を引くことだね」
悪ぶった口ぶりだが、慎二は慎二なりの親切で言っていることは、士郎にもわかる。けれどそれでも、士郎はその親切心に対し、首を横に振る。
「……たかが知れたことでも、出来ることがあるなら、俺は手を出すよ」
「……ちっ。馬鹿は死ななきゃ治らないって奴か。勝手にしろよ」
苛立たし気に早足で歩き去っていく慎二を見送り、士郎は苦笑する。わざわざ口出しをする、悪友のわかりづらい心配の仕方が、有難いやら可笑しいやら。
と、そこで慎二が振り向き、
「ああ……そうだ。衛宮、桜を家に泊めたらしいな」
「えっ? あ、ああ、夜道は物騒だし、特に今は……け、けど別にやましいことは」
「……どこぞのスタンド使いみたいなこと言わなくてもいい。別にやましいことしたって構わないんだぜ? それより……これからもあいつは、お前ん家に泊まらせるからな」
「えっ……?」
後輩が、この戦場と化した夜の町を歩くことは士郎も反対である。ゆえに慎二の言うことに反対はしない。
「けど何で急に……」
「ふん……トロい奴がいない方が、動きやすいからな」
慎二がそういうふうに言うことは、わかっていた。だから士郎は苦笑し、友人の頼みを引き受ける。
「そういうことにしておくよ」
「……それに、このままだと桜の奴、持ってかれそうだからな」
「?」
そっと呟かれた慎二の声は、士郎に届くことはなかった。
◆
冬の弱い日の光が、降り注ぐ公園。
「よっす。こないだも言ったけど、ちっさいなぁ。ちゃんと飯食ってんのか? 美味いイタリア料理屋、紹介してやってもいいぜぇ?」
アトラム探しのため、町を巡っていた億泰は、見覚えのある顔を見かけて、声をかけた。
「……貴方」
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。ほんの短い間だけ同じ場所で過ごしただけの相手。
幼い姿に、かつて億泰自身が宿した『暗い熱』を籠らせて、彼女は立っていた。
……To Be Continued