地面に転がる扉を踏み越えた次の瞬間、背後で轟音が響いた。
まあ、地下室であれだけ弾丸をばら撒いたのだから当然の結果だろう。
土煙が周囲に広がる。
月霊髄液の壁を盾に直撃は避けたが決して少なくない量がは壁を回り込み、こちらに届いた。
「けほけほ」
左手の先から擦れたような咳が聞こえたと思うとさっきまで半ば引きずっていたそれを肩に担ぎ直される。
すると肩口で切り揃えられた藍色の髪が視界の端に踊った。
「姐さん。何でその子連れて来たの?ちびっ子には興味は無いんじゃないの?」
「私に興味は無い。しかし、あの男は相当執着していたようだ。」
少女を抱える左手に自身の右手を掛けてそう言った。
右手には薄っすらと血管が浮き上がり、ミシミシと音を立てている。
その様子はまるで路上で公演を行うパントマイムのようだった。
「いくら、容量オーバーとはいえ肉体の制御を持って行かれるとはな。生前ならありえなかったんだが、サーヴァントという存在ゆえか?」
「うーん。勿体無いけどその子をサクっとやっちゃう?」
純白のメスを弄びながらまるで窓の開閉の許可を貰うかのように尋ねた。
それに対して彼女は呆れたようにため息を吐いた。
「止めておけ。下手に刺激すると万に一つの可能性でお前を殺してしまうかもしれない。そうでなくとも他の参加者に付け入る隙を与えるのは避けるべきだ。」
「りょーかい。で、次はどうするの?」
その言葉に振り返りもせずに酷く面倒そうな声で彼女が答えた。
「教会に行く。これを引き取って貰わねばな。」
そんな会話の最中も身動ぎ一つしない少女抱えて、二人は集まり始めた野次馬を背に路地裏へ消えて行った。
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「何だと!間桐の家が倒壊!?」
遠坂時臣は教会からの報告に思わず声を荒げた。
しょうがない事だろう。
間桐のマスターでは無く、家なのだ。
『ええ。間桐の屋敷があった場所には今では瓦礫しかありません』
「そんな。……住人はどうなった?」
声の震えを抑え切れたか解らなかった。
いや、ここで桜の名前を出さなかっただけでも十分努力の限りを尽くした。
そう思った。
『間桐の屋敷跡からは間桐鶴野氏が重傷で発見されました。間桐臓硯、間桐雁夜の両名は発見されておりません』
そうではない。
思わずそう叫びたくなった。
しかし、そんな事は出来なかった。
間桐の家との盟約で桜に対しての干渉は禁止されているのだ。
『そして、間桐桜の行方ですが。彼女は教会に居ます。』
「なんだって?」
教会に?
どういう事だ?
『教会に未登録の参加者がサーヴァントを連れてやって来て、我々に引き渡して去りました。恐らくは残ったキャスター組だと思われますが』
「意図がわからないな」
間桐の屋敷に居る筈の桜が連れていたのならキャスター組は襲撃者当人の筈だ。
恐らくはマスター以外も殺害したのに桜だけ助けるとは行動に一貫性が無いと言わざる負えない。
『……師よ。』
「どうした?綺礼。」
『いえ、間桐桜の処遇はどう致しますか?』
「そうだな。間桐の翁の生死が分からない事にはどうしようもない。戦争中は教会で預かってくれ。」
『了解しました。父にもそう伝えておきます』
「では、頼んだよ。」
そう言って魔術による通信を切った。
そして、そのまま考え込む。
(しかし、もしも間桐の翁が亡くなっていた場合は次代に任せるというのは難しいか?)
アインツベルン、遠坂、そして、間桐。
この三つの家は御三家と呼ばれる聖杯戦争を作り上げた家々だ。
器に関してはアインツベルン、土地やシステムは遠坂と分担して聖杯戦争は行われているのだ。
魔術師の家は秘密主義であり、間桐の担当してい令呪や素材安定のための呪いの部分を他の家で補うことも出来ない。
間桐の家に跡継ぎは居ない。
いや、桜が居るが彼女よりも年上で間違いなく天才の凛でさえ本格的な魔術の修行はまだなのだ。
つまり、その部分に異常が起こった場合の対処が不可能なのだ
今回が駄目でもまた次代に託すという手は使えない。
それならば。
「私の代で終わらせれば良い話だ。」
今回の聖杯戦争で最も有利な立ち位置に立つはずの彼は絶対の自信を持って呟いた。
幼い我が子の現状を知らずに。