夜世界   作:夏星

1 / 1
感想などお気軽にどうぞ!
初作品ですがよろしくお願いします。


最悪の始まり

白く無機質な壁の会議室。

 

 

 自分こと、七草 優《ななくさ ゆう》は作家人生の終わりを感じていた。

 

 

 

「……君さぁ……やる気あんの?」

 

 

 

 自分を見据える冷たい編集長の目。

 

 

 

「でっでも、ホラ! これなんかオリジナリティがあって!」

 

 

 

 慌てて原稿用紙を片手に弁明してみる。

 

 

 

「今時そんな小説どこにでも転がってんの。何なら君よりいい新人さん、いっぱいいるよ?」

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 叱られた男子中学生のごとく意気消沈する自分。

 

 

 

 

「異世界モノねぇ……うん、つまんないわ。君、才能無いんじゃないの?」

 

 

 

 

「……すみません……」

 

 

 

 

編集長が目に薄く笑みをたたえて言った。

 

 

 

 

顔は全く笑っていない。 

 

 

 

 

「辞めたら? とは言わないけどさぁ……。次面白いの書けなかったら、解雇だから」

 

 

 

 

「……そ、そんな無茶な……!」

 

 

 

 

それは困る。

 

 

 

 

この仕事を解雇されたら、自分は食っていけなくなってしまう。

 

 

 

 

だが編集長は、この話は終わりとでも言うように立ち上がってしまった。

 

 

 

 

「ま、精々頑張ってね。我々としては、君がダメでも代わりはいくらでもいるってことだからさ」

 

 

 

 

そして「ガハハハ」と豪快な笑い声と共に部屋を出て行ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

「糞ッ!!」

 

 

 

 

 

雨の降る帰り道。

 

 

 

 

近くの電柱に思い切り蹴りを入れ、叫んだ。

 

 

 

 

 

足元には新しくできたばかりの原稿が、水に濡れ黒く変色している。

 

 

 

 

 

「糞ッ糞ッ糞ッ!」

 

 

 

 

 

叫びながら、黒くなってしまった原稿をひたすら足で踏みつけた。

 

 

 

 

 

通りすがりの人が何人か、驚いたようにこちらを振り返る。

 

 

 

 

 

傘も無いせいで全身ずぶ濡れだ。

 

 

 

 

 

今の自分はきっと、ただの変な人にしか見えないだろう。

 

 

 

 

だが、構うものか。

 

 

 

 

ひたすら泥にまみれた原稿をぐちゃぐちゃにしてから、自分はようやく動きを止めた。

 

 

 

 

 

……自信作だったのに。

 

 

 

 

自分の頭の中には先ほどの会話がぐるぐると渦巻いていた。

 

 

 

 

『代わりはいくらでもいるってことだからさ』

 

 

 

 

『君、才能無いんじゃないの?』

 

 

 

 

『今時そんな小説どこにでも転がってんの』

 

 

 

 

『解雇だから』

 

 

 

 

 

「……じゃあ……どうしろってんだよ……!」

 

 

 

 

思わず、雫が滴る頭を押さえて呻いた。

 

 

 

 

 

「俺には……これしか無いのに……」

 

 

 

 

 

小さくそう呟いてから、俺は何事も無かったかのようにその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

もう、あの黒い原稿を見たくなかったからだ。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

少年が立ち去った後、血まみれの黒ずくめの女が、荒い息と共に一人ニヤリと微笑み言った。

 

 

 

 

 

「見つけた……私の眷属……もう……逃がしはしない……!」

 

 

 

 

 

そして、黒い原稿用紙を掴むと、それを手の中で消滅させた。

 

 

 

 

「上々……。今日は調子が良さそうだ……」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。