大地の本を持つ者   作:飛翔するシカバネ

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Lv.8 最強の一角

放たれたグランバイソンはデモルトに絡みつき、頭蓋を砕こうと口を大きく開ける。

 

しかし、狂戦士(バーサーカー)と謳われた魔物。

 

グランバイソンを力で振りほどき、破壊する。

 

やはり一撃で終わるほど容易くも無いか。

 

ん?ああ、カエルとお姫様か。

決心してくれてすまないがいいとこ取りしてしまったかな。

戦いが終わったら遊べばいいんじゃないかな?

ここでなるべく減って欲しくないからな。

 

視線をデモルトの本の持ち主の男に移すと涙を流していた。

 

 

「お前……何してくれやがんだ?俺は何でも一生懸命やるって事をしなかった男だ。そんな俺が初めて一生懸命やろうと思えることに出会ったんだぜ。月の石を使ってでかい事をしようって思ってな…」

 

男は落ちてきた月の石の欠片を手に持ち、少し体力を回復させている。

あれだけ体に当たれば心の力も大分回復するだろう。

 

「もういいや、何もかもぶっ壊れちまえ」

 

諦めず、今度は魔物の力を使えば力による支配が可能だった。

1000年前の魔物が帰らずとも、戦いは終了する。

それは決定事項だ。

しょせん、一生懸命やってこなかった男だ。

 

月の石を使っても高が知れているもの。

「危険なんて知るか。こいつらぶっ飛ばせりゃなんでもいいや……『ギルガドム・バルスルク』!!!」

 

呪文が唱えられるとデモルトに変化が訪れる。

 

目は血走り、筋肉の量が増え、体は黒い鎧に包まれる。

 

唯一の弱点とされる首の後ろも硬い装甲に覆われた。

 

「ハッハァ!いい感じになったじゃねぇか!!さあやれ!デモルト!!奴らを残さず消し飛ばせ!!」

 

「……クソ人間が誰に向かって命令してやがる?」

「え?」

 

呪文が読める俺の能力はこの数日のバトルで進化した。

呪文を聞くとなんとなく分かっていた呪文が完全に翻訳されるようになったのだ。

 

ギルガドム・バルスルク

 

意味は全開放。

力の解放だけでなく、主人にかけられた首輪からの解放を含む。

 

狂戦士の本領は全てから解放されたここからが本番だ。

 

つまり、本の持ち主が辿る運命に栄光は訪れなくなる。

 

 

デモルトはほうけてる男をつまみ上げ、口に放り込む。

 

「クソ人間は俺の腹の中で心の力だけ出し続けてろ」

 

これで本の持ち主を狙うという戦法が取れなくなった。

元より何かを守るという戦いは不得手なのだ。

 

「オ…オオッ、オオオオ!!

ルォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

デモルトは飛び上がり、天井を突き破る。

 

「天井、壁…鬱陶しい。何だ貴様ら?何故俺の縄張りに入ってやがるーーー!!?」

 

そのまま急降下して襲いかかってくる。

 

そしてこの攻撃から耐えれる盾を我らは持っていない。

 

だから、少し下がる。

 

最強の盾を持つ魔物の後ろに。

 

 

「すまないが任せる」

 

「え!?」

 

「恵!構えて」

 

「え、ええ!『マ・セシルド』!!」

 

しかし、一撃で破壊されてしまう。

 

通常攻撃で粉砕されてしまうとはやはりとてつもないな。

連発されればいつかは喰らうだろう。

 

「恵ーーー!!!まだまだよー!!」

 

「ええ!!『マ・セシルド』ー!!!」

 

2回目の攻撃を完全に受けきる。

 

「集中よ!マ・セシルドの力を最大限まで高めるの!おかしな奴が乱入してきたけど、ここまで来て負けてたまるもんですか!私達が意地を見せなくてどうするの!盾が壊れたらはりなおす!何度でも!!!」

 

かっこいいけど、おかしな奴らは私たちのことですかね?

 

「やーいデモルトー!僕の方がお前よりでっかいぞー」

 

「『ディカポルク』!!!」

 

キャンチョメが体が巨大化したかのような虚像を見せる。

当たっている感触が無いのだから早目に気づくと思うが、いい時間稼ぎだ。

 

殆ど力が残っていないだろうが使える手札は多い。

 

「清麿…ゆくぞ!皆の声が私の中に入ってくる。みんなの頑張りが私の中の何かを揺さぶっているのだ。みんなの頑張りに答えねばならぬと私の中にある「何か」を熱くさせておる」

 

その気持ちに呼応するかのように本が光り輝く。

新たな呪文が現れたのだ。

 

「第七の術…ザグルゼム」

 

「ほう、蓄電と呼応か」

 

「!?アンタ何を?」

 

つい、呪文を聞いて効果を読み上げてしまった。

しかし、それが1番スムーズな決着だ。

 

「事実は小説よりも奇なり。詳細は省くがザグルゼムの効果だよ。そして今の単語で君は能力に気づけるはずだ。私達はアシストに回るかな。私の見立てでは3発も当てれば十分だと思うよ」

 

「!?」

 

「さて、エシュロス不敬を正そうか。『グランセン』!!!」

 

岩の大砲が作られ、放たれる。

 

デモルトは拳で、岩を砕くが何かと数が多い。

 

こちらに我武者羅に近づいてくる。

 

「『クレイド』!」

 

デモルトの足元が泥状になり、足を取られる。

グランセンにより前をあまり見ずに走ったところに足を取られたのだ。

デモルトは転ぶ。

 

「まるで頭を垂れているようだな、デモルト」

 

エシュロスは絶好調のようだ。

 

「『ザグルゼム』!」

 

後方から電気の玉が飛んで来て、デモルトに当たる。

 

「理解できたかい?」

 

「アンタの言いたいことはな。終わったら全部話して貰うぞ」

 

「全部は確約できないがいいよ。『ギガノ・クレイドル』!」

 

クレイドの上位互換であるギガノ・クレイドル。

 

効果は更に広範囲に粘性の高い泥がまとわりつくというもの。

まとわりつくスピードもクレイドに勝る。

 

直ぐに全身を絡めとる。

 

しかし、弱点というか利点というかこの呪文固まる。

そしてそのスピードも早い。

早く纏わないと動かせなくなる。

硬さはコンクリートより少し硬い程度か。

 

余談だがエシュロスにはその操作性を練習してもらった。

今では土像を素早く作れるようになった。

 

そして柔軟ならともかく、硬質化したらデモルトも力で破壊できる。

 

しかし、その一瞬があればいい。

 

「『ザグルゼム』!!」

 

2回目の蓄電。

 

それにしても清麿くんは本当に頭がいいなぁ。

本当に中学生?

将来うちに就職してくれないかなぁ。

してくれないだろうなぁ、考古学とかに進むだろうし。

 

「なにかヤバい気配がするなぁ。それは二度と喰らわんぞ」

 

流石に警戒し始めたか。

 

「『ギガノ・クレイドル』!」

 

空に飛び上がり、泥を避けるデモルト。

スピードは早いが空にまで伸ばせる程でもない。

 

「アンタ、他に無いのかよ!」

 

「残念ながら。全体的に対象が地面にいるのが前提の技が多くてね」

 

「清麿!ならばウマゴンに乗ってアイツに近づくのだ!」

 

「一撃死の状態でそれは危険じゃないか。盾もパンチひとつで破壊されてるからなぁ」

 

「ウヌゥ!だったら…」

 

「あいつの動きを止めればいいんだな。ならばここはオレたちに任せな。いくぜ、レイラ」

「え?」

 

「ようやくお目覚めかな?」

 

「『ミベルナ・マ・ミグロン』!!!」

 

三日月の形をしたオブジェクトの様なものが空中に大量に現れる。

 

月の石が破壊されたことにより意識を失っていたアルベールが目を覚ました。

 

威力は無くとも搦手なら最強の一角だろう。

 

(ベー)(エー)(エイチ)12(エル)15(オー)18(アル)23番(ダブ)!!!」

 

回転(ロール)!!」

 

 

三日月がデモルトの拳を避け、回転する。

 

並列的に思考処理を行う事で発動する呪文。

 

操られていれば完全に発動できない、レイラの最強呪文。

 

こうも大きい敵なら簡単に絡め取られる。

 

攻撃(ファイア)!!」

 

三日月が爆発を起こす。

小規模な爆発だが体制を崩す、力の流れを逸らすには十分な威力だ。

 

連結(コネクト)!!」

三日月事が光の線で繋ぎ合う。

 

「&収穫(ハーベスト)!!」

 

三日月が回転し、動きを封じられたデモルトが倒される。

 

「さあ!」

 

「ああ、『ザグルゼム』!!」

 

「う…オオオオオ!!」

 

体を捻らせ、頭に向けられたザグルゼムを避けようとする。

 

回転(ロール)!!」

 

しかし、三日月が回転しながら眼前へと来る。

 

攻撃(ファイア)!!」

 

小規模爆発で顔を戻される。

 

「これで十分だろう」

 

デモルトの体が電気に包まれている。

 

効果が分からずとも予想はできるだろう。

 

トドメの一撃を喰らえば不味い、と。

 

「『ギガノ・クレイドル』」

 

その考えにたどり着いたデモルトは空に逃げようとしたがそれを逃がす俺ではない。

 

「さあ、ガッシュ!決めなさい。みんなの頑張りを勝利に繋げるの!!」

 

「『バオウ・ザケルガ』!!!!」

 

「うう、オオオオオ!ちくしょォォオオオオ!!!!」

 

 

デモルトはバオウの電撃により噛み砕かれた。

 

体力が回復するまで動く事はできないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

動けず、横になっているデモルト。

 

その傍らには黒の本のペアを除く、この戦いに参加した全員が揃っていた。

 

「や、めろ。もう、本当に…動けな…」

 

「『ラオウ・ディバウレン』!!!」

 

ウォンレイの技である虎を具現化したかのような突き。

 

腹に食らったデモルトは堪らず、本の持ち主を吐き出してしまう。

 

本は俺の手元に落ちてきた。

 

「デモルトの本を燃やそう。魔界へ帰すんだ」

 

清麿くんは俺に声を掛けてくる。

しかし、俺は動かない。

 

疑問に思う清麿くんの後ろから声がする。

 

「こりゃ!起きるんじゃクソッタレめ!」

 

デモルトの本の持ち主に掴みかかり、頭突きを食らわすおじいさん。

アグレッシブだな。

 

目を覚ます男。

 

囲まれた自分、ボロボロのデモルト、本も奪われている。

 

「ゆ、許してくれ、もうしねぇから。アンタ達に関わらねえからよーーー!!!」

 

走ってどこかへ逃げていってしまった。

 

「雑魚が」

 

エシュロス……割と呪文使ったけど空気になってたな。

 

 

「秋山さん…でしたよね。何故本を燃やさないんですか?」

 

「……Dr.ナゾナゾ、もしかして条件のことを話してないのですか?」

 

黙っているナゾナゾ博士。

まあ、そうだろうと思ったさ。

問題も解けていないことだろうし。

 

「彼とは幾つかの条件で協力を要請した。1つは単独行動の許可。2つ目は月の石の回収。最後に1000年前の魔物を1人手に開け渡すというもの」

 

「「「!?」」」

 

「フォルゴレ!どういうこと!?」

 

「彼はデモルトの身柄を貰いたいという事だ。しかし…」

 

疑問と敵意と謎の視線に包まれる。

 

最初から分かっていたことだ。

 

「秋山さん…そいつは危険な魔物だ。それにアンタじゃ…」

 

「なあ、デモルト。お前も暴れ足りないだろう?人間に従うなんて嫌だろうがこのまま帰るのま癪に触るんじゃないか?俺の手駒となれ。そうすれば俺はお前を助けよう」

 

「し、従う!だからっ……」

 

「そうだな、今のところは燃やさん。あちらさんが何か条件をつけてくるなら燃やすかもな」

 

「そんな!?俺は従うと……」

 

「お前は1度俺たちに刃向かったんだ。選択肢なんて無いだろう。なあに、あちらは多分飲む気は無いだろうしな」

 

 

改めて、清麿くん達を見る。

 

「という訳でデモルトの身柄は預からせてもらう。奪いたいなら来ればいい。もう殆ど心の力は残っていないだろうがね」

 

こちらは未だ余りある。

それにまだ上級呪文を一切使ってない。

ギガノ程度はこちらの持ち手にすれば下の方だ。

 

「……条件はなんだ?」

 

そう、それしかなくなる。

自分たちを追い詰めた怪物をここで送り返すなら確実な方法だ。

 

「レイラを寄越せ」

 

「断る」

 

アルベールくんに断られた。

 

自身のパートナーを寄越せと言われたのだ彼の怒りももっともだ。

 

「では、交渉決裂だ」

 

俺はポケットに入っている携帯から連絡をする。

直ぐにヘリが駆けつけるだろう。

 

「少し待ってくれ!レイラを渡すのは反対だが、なぜ欲しがるのか理由を聞かせてくれ!!アンタじゃレイラがいても意味なんて無いだろう?」

 

「……そうだな。答え合わせも兼ねて力を見せようか」

 

そう言って俺はデモルトの本を開く。

 

うわっ見事に攻撃系ばっか…

攻撃じゃないって言ったらこれくらいか。

 

「『リゴン・ゼモルク』!」

 

デモルトの腕に着いている爪のような装甲が取れ、ヌンチャクの様なものに変形する。

清麿くん達は見たことがあるだろう。

 

 

理解出来ているのはナゾナゾ博士と清麿くんぐらいかな。

 

「俺はどの本の呪文を読む事のできる才能を持っている。そして……『クレイバ』!!」

 

もう片方の手で本を開き、今度はエシュロスの呪文を唱える。

土が浮かび上がり、浮遊する盾を形成する。

 

理解してもらったところでデモルトの本は閉じる。

念の為エシュロスの方は発動を続ける。

 

「何故こんな力を持っているとか聞かないでくれよ。俺も知らないんだから。ただ、この戦いには有用な力だって事だ」

 

「だから…レイラを…」

 

「まあ、2個一緒に使うのは疲れるからアルベールくんにも手伝って欲しいがね」

 

「?」

 

「その場合はデモルトは魔界には帰さないけど、今後の協力関係を無条件で築こうじゃないか」

バラバラとヘリの音がする。

 

近場の街で待機させていたうちのヘリだ。

それも私設部隊を動員した。

お金があると色々できるね。

 

デモルトをヘリ6機使って浮かび上がらせる。

既に交渉は決裂している。

連れて行ってもなんら問題ない。

 

それに本はまだここにある。

いくらでも交渉はできるさ。

 

普段はもっぱら紛争地域や災害地域に派遣している秋山製薬の精鋭医師とそれを護衛する部隊だ。

 

無条件の協力関係を築けばこの治療も受けられる。

これからも怪我があれば魔物の戦い中なら無料で受けられる。

そういう契約をしようじゃないか。

 

「気に入らないかな?」

 

「ああ、気に入らないな」

 

この子は本当に中学生か疑ったが、こういう融通の聞かなさは中学生だな。

損得勘定ではなく、感情を優先する。

 

頭が言い分それがどれほど破格な条件とわかっていても断ってしまう。

 

「どうしてそこまで強さを求めるんだ…」

 

アンタなら強い力があるだろう。

 

そんな事を言いたいのだろう。

だが…

 

「普通に戦えるなら問題は無いがズルをした連中がいるんでな。そのせいでなりふり構ってられん」

 

「ズル?」

 

「強い連中は気づき始めているさ。それにあと数ヶ月もすれば世界に出回るだろう」

 

「なんの話しだ!?」

 

「?」

 

何の話か全然分からないだろうな。

 

「この単語の正体が分かればまた話そう。今度は先に答えを聞くような事が無いと嬉しいですよ。Dr.ナゾナゾ。それと答えが分かるまでレイラは返さない方がいい。ちょっとしたアドバイスだ」

 

それだけ言うと俺達はヘリに乗り込み、帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

清麿たちはヘリに乗り込んでいた。

協力関係は築けた訳では無いが今回は無償で手当と送り付けてくれるらしい。

 

「清麿…あの者たちは…」

 

「………ナゾナゾ博士」

 

「まさかあんな能力を持っていたとは……それに()()()()()

 

「すまない、レイラ。もう少しだけ人間界にいてくれないか?」

 

「それはいいわ。魔界に帰るのはもう怖くないけど少し人間界を見て回りたかったのよ。それにアルベールとももう少し喋って見たかったし」

 

「学校に通いながらになるけど、大丈夫か?」

 

「当然よ。あなたは操られていた分も勉強しなくちゃね」

 

 

あの後、ブラゴたちも無事に敵を倒したと言っていた。

今回の1000年前の魔物達との戦いは幕を閉じたと言っていいだろう。

 

しかし、秋山進一が残した()()()()()という言葉。

そしてズルをした者。

 

まだまだ問題を解くには足りない。

 

 

清麿たちはまだ知らない。

 

ファウードが魔物たちだけでなく、人間界も巻き込む大事件になることを。

 

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