鎮守府矢印羅針盤   作:蒼鋏

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始まりの季節 (2)

「それで、由良は夕立ちゃんのことどう思っているの?」

「可愛いと思うわよ。妹がもう一人増えた感じよね」

 突然の私の質問にも、彼女はすまし顔で答える。

「えぇ、本当に?」

「他に何があるって言うのよ?」

「例えば、恋人とか」

「あなたと五月雨ちゃんみたいな?」

「いや、私達の事を引き合いに出さなくていいから……」

 思わぬカウンターをくらって、私は自分の顔が赤くなるのを自覚する

「何よ。別に恥ずかしがることないじゃない。ちゃんと上手くいっているのでしょ?」

「はい」

「なら堂々としなさい。あなたの方が年上なのだから、ちゃんとリードしてあげないと、ね」

「仰る通りで……。って今はそのことは置いといて」

 確かにその節は色々とお世話になりましたけど。話題にしたいのは、そのことではないのだ。

「私の目からすると、あなたたち凄くお似合いのカップルに見えるわよ」

「そうかしら?」

 私の言葉にも、彼女は首をかしげるばかり。

「それに、今度一緒にデートにも行くんでしょ?」

「デートって、ただお買い物にいくだけよ。彼女のリボンを選んであげるだけ」

「他の予定は?」

「時間次第では、どこかでランチをするかもね」

「それだけ?」

「それだけ」

 確かにそれは、デートと断言するにはちょっと足りないのかもしれない。

「だいたい、何であなたはそんなに私と夕立をくっつけたがるの?」

「まあ、いくつか理由はあるのだけど」

「言ってごらんなさい」

「さっきも言ったけど、由良と夕立ちゃんはすごく相性が良さそうに見えるのよ。それに、前回私が色々手伝ってもらったから、今度は私が何かできないかなと、思いまして」

「別にそんなこと気にしなくてもいいのに。私も楽しかったのだから」

 由良が優しくこちらに微笑む。

 そう。私夕張は現在、五月雨ことさみちゃんと正式にお付き合いしている。

 私が彼女に告白したのだけど、その時、色恋沙汰に不慣れな私に色々アドバイスをくれたのが、他でもない由良なのだ。

 もし彼女がいなかったら、私は今こんな幸せな生活を送っていなかっただろう。

 だから、今度はこちらが恩返しをしたい。ちょっと押しつけがましいかもしれないけど、それが私の純粋な気持ちだった。

「まあ、気持ちは嬉しいのだけど。私にはまだ、その手のことは早いと思うわ」

「どうして?」

「エネルギーが足りないからかしらね」

 そう言うと、彼女は視線を私から逸らす。

「私があの時夕張の告白を手伝ったのは、あなたが凄く輝いて見えたからよ。必死にもがいて、苦しそうで、でもそれでも前に進もうとしたあなたの姿に惹かれたから」

 へー。あの時の私はそんな風に見えていたんだ。

自分では、なんて不格好なんだろうと思っていたのだけどね。

「その時思ったのよ。私はこんなに人を引き付ける程のエネルギーを持ったことが、今までないなって」

 それは私も感じていた。

 彼女には熱が足りないのだ。それは彼女の能力も関係している。

 私から見て、由良は聡い子だと思う。物事全体を俯瞰的に見て、的確に事に当たることができる。

 それは深海棲艦との戦闘でもそうだ。どんな事態になっても、彼女は冷静さを失わず、指示を出すことができる。

 だからこそ、感情は優先されない。

 理性が無意識にストップをかけてしまっている。それゆえに熱は生まれない。

「そんなエネルギーがどうやったら体の底から湧いてくるのか、今はまだ分からないわ。だから、それを理解してからでも、遅くないかなって、ね」

「頭でっかちね」

「仕方ないわ。今までそうやってきたのだから」

 そう答える彼女は、少しだけ寂しそうで。

 だから、夕立ちゃんには期待しているのだ。

 彼女は良くも悪くも型にはまっていない。

 あの子なら、由良に何かしらの変化をもたらすのではないか。

 由良の凝り固まった理性を壊してくれるのではないのかって。

 他人任せというのは少し癪だけど。

「とりあえず、何かあったら相談してよね」

「はいはい。分かっているわよ」

 いつも頼ってばかりの私が言っても、説得力がないかな。

 まあそれでも、もし頼られる時が来たら、全力で答えよう。

 それが、私が一番の友達にできる、唯一のことだから。

 




 これで一話は終わりです。
 次回は由良視点のお話になります。
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