冬。一年で最も寒く、最も静かな時期。
ゆっくり、そして淡々と時間が過ぎていく。
(そろそろかな?)
小雪の舞う外を眺めながら、私は先程まで読んでいた本を閉じる。
私の座る炬燵机の上には本以外に、籠に盛られたみかんが置いてある。
その一つに手を伸ばすと、私はゆっくりと皮を剥き始める。
潰さないように、白い筋も一本一本取っていく。
本当は取らない方が栄養的にはいいと、何かの本に書いてあったけど、あの子は苦手らしいからしょうがない。
そういえば彼女は好き嫌いが激しかった。今度、その辺りも矯正させないとね。
そんなことを考えていたら、いつの間にか私は蜜柑の皮を剥き終えていた。
そしてそれと同時に、
「ただいまっぽーい!」
元気なあの子が帰ってきた。
「お帰り夕立」
「外は寒かったっぽい。こたつ!こたつ!」
彼女はそのままコタツにダイブする。私の右隣。そこが彼女の指定席だ。
「ふひー。温かいっぽい」
机に頬を擦りつけて幸せそうな顔をする。
「はい、蜜柑」
「ありがとうっぽい」
彼女の大きく開いた口に、私は蜜柑を一欠片放り込む。
「甘いっぽい」
「よかった」
再び開けられた彼女の口に、優しく蜜柑を入れる。
最近毎日やっているこの行為。好きなんだけど毎回思う事がある。
(何か餌付けしているみたいだわ)
それだと夕立がペットみたいだ。そう思った私は、彼女の髪の跳ねて獣耳みたいになっている部分に触れてみる。
この髪のおかげで彼女は余計動物みたいに見える。
「んー、どうしたの?」
「別に、夕立は可愛いなって」
「そう?由良にそう言われると、とっても嬉しいっぽい!」
そのまま髪を撫でながら、夕立の口に蜜柑を運ぶ。
彼女は気持ちよさそうに目を細めて、残りの蜜柑を味わうのだった。
「今日はどうだったの?」
蜜柑を食べ終えた後、私は夕立に今日の事を尋ねてみた。
「夕立、今日もたくさん頑張ったぽい。演習でMVPだった」
「さすがね」
この鎮守府の中でも、夕立の練度はとても高い部類に入る。
特に駆逐艦の中で彼女より練度の高い艦娘なんて、片手で数えられるほどだ。
そのため、軽巡や重巡を差し置いてMVPを獲得してしまうことも珍しくない。
(普段はこんなにぽやーってしているのにね)
まあそのギャップが彼女の魅力の一つではあるんだけど。
「でも今日とても寒かったから、いつもより動きが鈍くなっちゃって、個人的には不満だったっぽい」
「あなた寒いの苦手だもんね」
「うん。雪は好きなんだけど」
夕立が窓の外に視線を移す。
私もつられてそちらに目をやる。
「さっきより強くなっているわね」
「明日になったら積もってるっぽい?」
「そうね。このままずっと振り続ければね」
もし積もったら、夕立が雪の上ではしゃぐ姿が容易に目に浮かぶ。その時ははしゃぎ過ぎて怪我しないように、私もついていかないと。
「ゆ~きやぽいぽい、あられやぽいぽい」
急に夕立が歌い出した。彼女は機嫌がいいとこうやって歌を口ずさむ。たまに私にも一緒に歌おうと誘ったりもする。
「ふってもふってもぽいぽいつもる」
というかぽいぽい積もるってってどんな状況だろう?彼女らしいけど。
「それだと、あなたがたくさん降ってくるみたいね」
「夕立が?小さい夕立がたくさん降ってくるっぽい?」
ミニ夕立か。少し想像してみる。
(……ちょっと可愛いかも)
「ねぇ由良」
「何?」
「もし、小っちゃい夕立が降ってきたら、可愛がってくれる?」
「うーん、どうかな?」
「えーどうして?」
あ、少し不満げな顔になった。そんな顔も可愛いけど。
「だって、今の目の前にいるあなたを可愛がるので手一杯だから」
そう言うと、むくれた顔の夕立が瞬時に笑顔になる。
「えへへ、由良大好き!」
そう言うと、彼女は炬燵から出て私に抱き着く。
こういう直接的な行動は彼女らしい。
「どういたしまして」
そうお礼を言って、私は暫く彼女の好きにさせる。
しばらく私に体を擦りつけてじゃれていた夕立だが、少しずつその動きが鈍っていく。
(これは多分)
「夕立、眠いの?」
「うん。ちょっと頭がぼーっとしてきたっぽい」
時計を見ると、まだ晩御飯まで少し時間がある。
「少し休みなさい。ご飯の時間になったら起こしてあげるから」
「そうするっぽい。おやすみー……」
私の膝の上に夕立が頭をのせると、すぐに穏やかな寝息が聞こえ始めた。
一応下半身は炬燵に入ってるものの、このままだと風邪をひきそうなので、羽織っていたカーディガンを彼女の背中にかけてあげる。
再び部屋に静寂が訪れる。
でも先程の静寂とは違う。彼女の小さな寝息が、私の耳に心地よく入ってくる。
たったそれだけの変化で、自然と私は笑顔になる。
「ゆーきやぽいぽい」
ふと、夕立が歌っていたあの曲が、私の口からこぼれる。
「霰やぽいぽい」
やっぱりぽいぽいって何か変。
「降っても降ってもぽいぽい積もる」
こうやって歌ってると、夕立に対する子守唄みたいだ。
「犬は喜び庭駆け回り」
彼女の背中を軽く叩く。まるで母親になったみたい。
……そんな年齢でもないのに。
「ぽーいは炬燵で丸くなる」
あら、自然にぽいって言っちゃった。でも彼女って猫より犬よね。
そんなことを考えながらも、私は口ずさむのを止めない。
「ゆーきやぽいぽい」
明日本当に雪が積もったらどうしよう。
「あられやぽいぽい」
たまには童心に帰って、雪だるまでも作ってみようかしら?
「降っても降ってもぽいぽい積もる」
夕立は喜びそうね。楽しくなりそうだわ。
その後ご飯の時間が来るまで、私は意外と気に入ってしまった歌を口ずさみながら、明日のことに思いを馳せるのだった。
白露型って改二になったら髪の毛が動物耳になりますけど、もし春雨が改二になった場合、帽子があるのでどうなるのでしょうね?
中破になったら見えるようになったりするのでしょうか。
次回はゆうさみの予定です。