ヒーローシンドローム   作:迷人(takto

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英雄

きらめく太陽、雲一つない青空のもと、活気のある声が街のいたるところから上がる。

ほんの数時間前まで平和だった街中。

しかしそこに、突如として鳴り響く轟音、それに伴う人々の悲鳴。

それらが入り交じるなか、音の中心に立ち尽くす一つの影。

逃げ遅れた人達がそれを見てあげる言葉はひとつ。

「ば、化物!」

人としての面影はあるものの、もはやその生き物に理性のようなものは存在していなかった。ただ衝動のままに破壊を繰り返す。その行動に意味は無い。

その化物の目の前で、一人の少女が立ち止まり泣きじゃくっている。必死になって逃げている途中に両親とはぐれてしまったのであろう。

化物にとって、その少女は自分の行く手にある障害物以外の何物でもない。今すぐにその耳障りな声を止めてやる、そう腕を振り下ろした。

地面にたたきつけられる拳。それは地面にひび割れを起こし、小さなクレーターを形成する。

この状態を見れば、それがどれだけの破壊力を持っているかということがひと目で分かる。

きっとこの拳の下には、無残に叩き潰された少女だったものがあるはずだ。破壊を楽しむ化物にとって、それを見るということは快感だった。

化物はそれを確認するためにゆっくりと拳を退ける。

しかし、そこには何もなかった。

潰された肉も、飛び散るはずの血も、何も。

何処に言ったのか、化物はゆっくり自分の周りを見回した。ビルの崩れた小高い瓦礫の上に、何かの影を見つける。

目を凝らして見えたものは、先ほどの少女と、それを抱きかかえる人影だった。

その人影は少女を地面に下ろすと、化物に向かってゆっくりと歩みを進めていった。

よく見るとその人は、身長が160cm半ばで体格は細身、頭部には何か仮面のようなものをつけていて、男であるか女であるかもわからなかった。

だが化物にとってそんなものはどうでも良かった。自分の獲物を横からさらった目の前の人間をただ許せなかったからだ。怒りを露わにしながらその拳をその仮面の人に向かってぶつけようと振りかぶる。強いのは自分だ、自分の邪魔をするものはすべて潰れてしまえ。直撃する直前、化物は自分の勝利を確信した。しかし、完全に伸ばされた拳の先には何の手応えもなかった。虚しく空を切る音だけが周囲に響き渡る。

目の前から二度も物が消えたことに驚きが隠せない化物は、慌てて周りを見回す。

「何処を見ている?」

背後から聞こえた声を追い振り返ると、先程まで正面に居た仮面の人影が何食わぬ顔で立っていた。一瞬で背後に回りこまれた、それに恐怖を感じた化物はがむしゃらに拳を振るい続けた。しかしその拳は一向に当たることはなく、気づけばまたその姿を見失っていた。

自分の周囲にそれらしいものもなく、いつ現れるか分からない相手に恐怖と不安を覚えビクビクと体を震わせる。すると、自分の顔を照らしていた太陽の光が急に遮られたことに気がついた。

先程まで全くの快晴であったはずなのにと上空を見上げる、そしてわかった。

光を遮っていたものの正体が先ほどの仮面の人影であったということが。

仮面の人影は片足をピンと伸ばしながら化物に向かって一気に急降下する。

顔面を蒼白させた化物は逃げねばならないとかけ出すが、既に遅く、次の瞬間にその蹴りは、化物の頭部をしっかりととらえていた。

そして、ドン、と音を立てながら一撃で地面へと倒れこむ化物。仮面の人は地面にそっと着地し、横たわった化物を見据えた。既に沈黙する化物、その体は次第に変化していった。

バケモノであったそれは、細身の少年に姿を変えた。

先程まで筋肉隆々としていた肉体が嘘であるかのように。

気を失ったままの少年を近くの壁に寄せ、仮面の人は物陰に隠れていた少女に近づく。

「もうすぐ助けが来る、おとなしくしているんだぞ?」

少女に語りかけると、先ほどの泣き顔がウソのような満面の笑みを浮かべ、

「助けてくれて、ありがとう!」

その言葉を聞いて仮面の人はビクッと体を震わせ、少女に一礼すると走ってどこかに行ってしまった。仮面の人の言ったとおり、数分後に救助隊が現れ、少女と少年を確保した。

隊員の一人が、立ち尽くしていた少女に話しかける。

「大丈夫だったかい?」

それを聞いた少女は、先ほど仮面の人に向けたのと同じくらいの笑顔を見せながら応える。

「うん!お面を被った大人の人に助けてもらったの!」

隊員は心あたりがあるのか、彼について少女に話す。

「彼はね、悪い病気にかかった人を倒して、みんなを守ってくれる“ヒーロー”だよ。」

「ひーろー?知ってる!テレビで見たことあるもの!」

おそらくテレビ番組のヒーローもののことを言っているのであろう、少女はそれを聞いてその瞳をキラキラと輝かせる。

少女は仮面の人が去っていった方向を見ながら続ける。

「その人、お礼を言ったらすぐどっかに行っちゃったの。」

隊員は苦笑いをしながら。

「う~ん、多分照れくさかったんじゃないかな?お嬢ちゃんみたいな子に感謝されてね。」

そうなの?と少女は尋ねると隊員は頷く。

「また、会えるかなぁ?」

少女はしばらく、仮面の人が去った方向を見続けた。

 

 

 

同時刻、人気のない廃ビルの中で、先ほどの仮面の人が地面に座り込み、自ら纏っていた装飾を外していた。少しずつ顕になっていく体、最後に仮面を外すと、そのなかから若い男が顔を出す。見た目は他の人間と何も変わらない。

彼はすべての装飾をバッグにしまい込むと、一息つきながらつぶやく。

「怪我人は出ちまったみたいだけど、誰も死ななくてよかったな・・・そんなことになったら俺がヤバイし・・・。あの子は無事に保護されただろうか。」

走り去る合間に救助隊に連絡を入れていたため、おそらくは大丈夫であろうとは思うが。

その後助けた少女の言葉を思い出し更につぶやいた。

「ありがとう、ね。別に俺は、好きで人助けなんてやってるわけじゃないんだよ・・・。」

そう吐き捨てると、まとめた荷物を背負い、廃ビルを去った。

何も無くなった虚しい空間だけが残された。

 

 

『怪物症候群』

突然の変異により人が異形へ姿を変える原因は不明の症状。

発症者の負の感情を増幅させ、人を襲い、ものを壊す化物となる。

発症から段階を重ね、レベル3と呼ばれる状態になると自動的に死を迎えてしまう。

そして、その怪物症候群には、対をなす症状が存在する。

『ヒーロー症候群』

怪物症候群同様に突然変異によって常人離れした力を得るというもの。

姿形は変わらない。

この症状にかかった人は人助けをせずには居られなくなり、人を守れなければ死亡すると言われている。

 

この双方の病を治すには、ヒーロー症候群にかかった人間が怪物症候群にかかった人間を倒さなければならない。

怪物症候群は倒されることで浄化され、ヒーロー症候群は倒していくことで完治する。

 

これは、謎の病気にかかってしまった主人公が、自分の病を治しながら、悪の手から人々を守る物語である。

 

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