真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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島クイーンさんおっすおっす。

 今、非常に面倒なことになっている。

 

 

「シーザー、逆鱗」

 

 

 命令を聞き届けた直後、シーザーが一気にルガルガンとの間合いを詰めた。竜の本能に身を任せ、大きく振るわれた剛腕を、ルガルガンは両腕でしっかりガードする。

 

 

「カウンター!」

 

 

 攻撃をギリギリで耐えたルガルガン、返しで繰り出した起死回生の右ストレートが、二倍以上の体格差のあるシーザーを弾き飛ばした。

 

 

 カウンター……受けた物理技の二倍のダメージを相手にぶつける技だ。ジャンケンのように同時に技を繰り出す性質上、読み合いの発生するゲームの世界では使い勝手の悪い技だった。しかし一度相手の技を見てから繰り出せるこの世界では、話は180度変わってくる。向こう有利の後出しジャンケンのようで悪質極まりない。

 

 

 やはり、フィールドが砂浜だったことを加味しても、カウンターを発動させ辛い地震を撃たせておくべきだったか。

 

 

 そんな後悔は先に立たず、シーザーはそのまま戦闘不能。だが相手のルガルガンもシーザーの特性、鮫肌によって傷付き倒れる。

 

 

「あら、珍しい。あんたのガブリアス鮫肌なのね」

 

 

「そこまで珍しいんですか?」

 

 

 ふと出た言葉だったが、思い返すと答えは一択、珍しいに決まっている。この地方で夢特性を持つポケモンは、仲間を呼ぶことで出てくるポケモンのみだ。

 

 

 ちなみに夢特性とは、最初はポケモンドリームワールドが主な入手方法であったため、ドリームと掛けているのか「夢特性」と呼ばれる特性のことで、昨今のポケモンに元々与えられた特性とは別の特性のことだ。

 

 

 確率としては、全体で見ると10%にも満たない割合で存在する珍しいポケモンなのだろう……レート界隈では、ガブリアスは普通の特性のほうが10%にも満たないのだが。

 

 

 対戦相手……島クイーンのライチさんは、ダイノーズを繰り出した。いつ見ても、ライチさんのポケモンに可愛さが見いだせない。女子力アピールのためにも、せめてサニーゴを持ってくるべきだろう。

 

 

「さあ、次のポケモンを出しな!」

 

 

 確実に怪しまれるLv100のポケモンは出せないので、カグヤとエルモは論外、ハルジオンは自分が決めた島クイーンに興味があるのか傍観中だ。ダイノーズは防御面が硬く、攻撃が中堅止まりのシルキーでは相性が悪い。となると、ニシキにメガシンカしてもらうべきか。

 

 

 こうなったのは数分前、ハノハノビーチに到着してからのことだ。ハルジオンと散歩しようかとビーチに足を踏み入れたタイミングで声をかけられ、そのまま人気のない場所まで連れてこられた。シチュエーション的にはナンパそのものだったため、少し期待したのも着いて行った要因の一つだ。

 

 

 そして、突然のバトルである。脳筋かよ。

 

 

「ニシキ、メガシンカだ」

 

 

 ボールから出すと即座にメガリングに手を添える。ニシキのエラ部分にイヤリングのようについているメガストーンが反応し、身体が光輝く、ゲームでは見慣れた紅のメガギャラドスが現れた。

 

 

「竜の舞」

 

 

「10万ボルトで邪魔するのよ!」

 

 

 力強くグルグルと旋回し舞うニシキに、10万ボルトがヒットする。水タイプと悪タイプのニシキに電気技の10万ボルトは効果抜群だ。しかし、ダイノーズの火力程度ではニシキにダメージを蓄積出来ないのは明白だった。

 

 

「滝登り」

 

 

「電磁浮遊でかわして!」

 

 

 文字通り自らを鼓舞したニシキが、水流を纏いダイノーズへと突き進む。ダイノーズは避けようと動いたが、ダイノーズの素早さは低くニシキの素早さは高い上、竜舞の効果で1.5倍の速度となっている。回避出来るはずもなく、ダイノーズは直撃し大ダメージを負った。

 

 

 どうやらこの世界だと素早さは、回避率にも直結する重要なファクターのようだ。また一つ勉強になった。ゲームの素早さは先行を決めるだけである……その先行を取ることが重要であるが。

 

 

「追撃しろ!」

 

 

 例えHPが残りわずかでも、攻撃しなければ倒れることはない。フラフラで攻撃を避ける素振りさえしないダイノーズに対する罪悪感を、正論と声量で捩じ伏せた。勿論、ダイノーズは倒れる。

 

 

「もう一度、竜の舞」

 

 

 とっさの思い付きが功を奏したのか、ビーストブーストよろしく、ポケモンの交代間際に能力値を上げておく。ライチさんの驚いた顔が見えた。

 

 

 昔、ずっと考えていたことがあった。相手が悩んでいる時間でどれだけ積めるのか……そんな事を考えるのは、いつも負け試合の時ばかりであるが。

 

 

 ポケモンを戻し、次は何のポケモンを出すのか悩む時間でさえ、公式のルールに縛られないこの世界だと積みの起点になるのではないかと思ったが、大当たりだ。

 

 

 補足しておくと「積む」とは、補助技のうちステータスを向上させる技を撃つことを指しており、ニシキの竜舞やシーザー、シルキーの剣舞等が該当する。「起点」とは、安全に積むことの出来る環境を指す。

 

 

 ニシキの竜舞を見て焦ったのだろう、ライチは素早く次のポケモンを繰り出した。

 

 

「ゴローニャ、雷パンチ!」

 

 

 ボールから飛び出て間もないというのに、既にゴローニャは攻撃の体勢を整えていた。流石は島クイーンのポケモン。だが、二舞したメガギャラを止められるポケモンなど、岩タイプが主流なライチさんの手持ちには存在しない。ポリ2でも持ってくるんだな。

 

 

「滝登り」

 

 

 ゴローニャが拳を突き出すより速く、ニシキはゴローニャを吹き飛ばした。特性の型破りにより、ゴローニャの特性である頑丈は無効化される。つまり、もう起き上がることはない。

 

 

「ニシキ、もう一回竜の舞……もう貴女に勝ち目はないですよ、それでも続けますか?」

 

 

 場に残っているのは、三積みされたほぼ無傷のメガギャラドス。対するライチさんの手持ちポケモンは、ゲーム内でのパーティを鑑みて対抗できるポケモンはもういない。

 

 

「……そうだね。この勝負、潔く負けを認めるよ」

 

 

 初めてのバトルは、ライチさんの降伏で幕を下ろした。ルガルガンのカウンターに出鼻をくじかれたものの、こちらに有利な戦いを進められた試合であった。いずれはライチさんとバトルすることになるとは思っていたのだが、こんなに早いのは予想外である。

 

 

「しかし、メガシンカ……それも色違いのギャラドス。カプ・テテフに見初められるだけのことはあるね」

 

 

「ははは、お世辞がお上手ですね。そんな話をするために会いに来たわけじゃないんでしょう?」

 

 

 決して見初められた訳ではない、決してだ。

 

 

 別の街に住んでいる島クイーンがここまで早く接触を試みた所を見るに、何かしらの情報源があるはず。可能性が一番高いのはライチさんの知り合いであるククイ博士か……この世界にいるカプ・テテフからだろう。ハルジオンとの噂が広まってから予想はしていたが、こんなに早くライチさんが訪れるとは。

 

 

「察しが良くて助かるよ……そのカプ・テテフは一体どうしたんだい?」

 

 

 その言葉はおそらく、勝利を褒め称えているかは知らないが頬擦りと撫で撫でを繰り返している邪神に向けられているようだ。勝った本人より喜んでいる始末。

 

 

「もどれ、ハルジオン、ニシキ」

 

 

 嘘を吐けば、必ずどこかで矛盾が出る。その出処を予め封じた。それに、ポケモンたちに真実を話すのはタイミング的に不味いのだ。主人ではないと知って、謀反でも起こされたらたまったものではない。

 

 

「そうですね、話す前に、まずは秘密を守る約束をして欲しいのですが……私が約束を破ったと判断した場合、アーカラ島に武力による制裁を加えます。判断基準も制裁の内容も私が決めます」

 

 

「ほう、随分とバトルに自信があるみたいだね……ポケモンのスペックに頼りすぎで、バトルはそこまで上手じゃないみたいだけど?」

 

 

 全くもってその通りだ。色々シミュレーションしたところで、具体的な指示を出せなかったり、攻撃を回避する指示も出せなかったり等、当たり前であるがまだまだ未熟な面もある。だが、そのスペックこそが最強なのだ。

 

 

「おいで、セレス」

 

 

 ウルトラボールが開くと、その巨体が姿を現した。砂浜でさえも着地の衝撃を抑えられず、少し地面を揺らし、砂埃がたつ。

 

 

「な、なんだいこのポケモンは……」

 

 

「貴方なら理解できるでしょうが、このポケモンは街一つなら焼き尽くす程のスペックを持っています。私たちは、別の世界にあるアローラから来ました。私の所持しているカプ・テテフは、本来向こうの世界にいた個体です……自分で言うのも何ですが、こう考えれば、カプ・テテフが二匹存在するのも辻褄が合いませんか?」

 

 

 説得力を与えるには、実物を見せてやればいい。インパクトのある見た目をしているセレスは、この役目を担うのに最適だった。別の世界というのも、ウルトラスペース出身のセレスだと辻褄が合う。勿論ボロが出る前にすぐに引っ込めた。

 

 

「別に信じてもらえなくても良いのですが……実際、カプ・テテフと交流がある島クイーンの貴女なら分かりますよね。カプ・テテフの違いなんて一目瞭然なはずだ」

 

 

「…………わかった、あんたの話を信じるよ。そういや名前を聞いてなかったね、なんていうんだい?」

 

 

「ケンです……色々と事情がありまして、記憶を少々失っているのですが、その辺の事情はククイ博士に話を伺ったほうがいいのかもしれませんね。彼はおそらく、私が別の世界から来たことに勘づいてます」

 

 

 勘づいているもなにも、空間研究所でフォールについて説明を受けたのだから気付いているのは当然だろう。

 

 

 今のところククイ博士にはフォールであること、ホウエン地方にいたこと、記憶が曖昧であること、この三つを伝えている。

 

 

 ライチさんにはフォール……別世界の人間であること、記憶が曖昧であることを伝えた。だがハルジオンを所持しているため、アローラ地方に関わりがあるとは少なからず思われているだろう。

 

 

 そもそも、ハルジオンの騒動があったためククイ博士にバレるのも時間の問題だ。記憶が曖昧な部分として覚えていないことにするか、あるいは……嘘を吐いているのをバラすか。

 

 

 今は記憶が曖昧という理由でも通じそうではあるし、問題ないように思える。リーリエには話してしまったが、後々、必ずバレるだろう。別にバレてもいいのだが、今度は国際警察や研究団体がフォールとウルトラビーストをセットで捕獲しようと面倒なことになりそうだ。

 

 

 となると、嘘を吐いたと告白するのは心象が悪くなりそうではあるし、やはり記憶が曖昧でゴリ押すか。

 

 

「ふーん、ククイがね……わかった。今度ククイのとこに顔を見せにいくことにするよ。ただ、あんたのカプ・テテフのことなんだけど、あんまり外に出して欲しくないんだ。カプ・テテフの評判はカプ神の中でも最悪でね……もう昔の話なのに、みんな怖がってる。それにこの世界のカプ・テテフも、あんたのカプ・テテフにはあんまり良い気はしてないみたい」

 

 

 それもそうだ、自分と瓜二つの存在がいるなんて気分が悪いだろう。島の連中は、もう嫌というほど反応を見たので大丈夫だ。

 

 

「分かりました。ただ、説得を試みるだけですので効果は期待しないで下さいね」

 

 

「分かってるよ。カプ・テテフは無邪気で我儘だからね」

 

 

 ライチさんが理解のある人で助かった。正直、ハルジオンを抑え込める気がしない。

 

 

「はー、久しぶりに本気でバトルしたよ。どう? なにか食べに行かないかい?」

 

 

「そうですね、カンタイシティで何かオススメのお店があれば、是非ご一緒させていただきますが」

 

 

「よし、決まりだね。それじゃあ一緒に行こうか」

 

 

 そうして、ポケモンセンターに傷付いたポケモンを預けた後、定食屋でご飯を奢ってもらった。

 

 

 ただ、その代償に独り身がつらいだの、島クイーンという称号が結婚の邪魔をしているだのと愚痴を聞かされた……これから、更に四天王という称号が付くので男が寄り付かなくなるというのは、まだ内緒の話だ。

 

 

 


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