真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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オレ達のフロンティア。

 ライチさんに愚痴を聞かされる時間は、ハルジオンの「時間よ」という冷淡な一声で幕を下ろした。その時、猛禽類のように鋭い目でライチさんを牽制している様は、力関係を如実に表していたといっても差し支えないだろう。なお、睨まれた本人はハルジオンから滲み出る怒気と威圧感で涙目になっていた。

 

 

 こちらとしても、これ以上はハルジオンの地雷を踏みたくはないので、連絡先の交換もククイ博士を通してくれと適当にはぐらかし、断っておく。個人的にも、また同じような愚痴を聞きたくはないので至って当然の処置であった。婿探しは他を当たってくれ。

 

 

 名残惜しそうなライチさんと別れた後は、気持ちを切り替えて、ハノハノビーチにてハルジオンとのデート後半戦に挑む。

 

 

 煌めく水平線を眺めながら砂浜を歩き、ヒウンアイスを食べる。デートの内容は散歩といっても間違いないようなものだが、ハルジオンからすれば満足のいくものであったみたいで、ライチさんといた時の不機嫌さはすっかり失せていた。

 

 

「ケンのくせに、中々やるじゃない」

 

 

 このこのー、とじゃれついてくる邪神は、上機嫌なのを隠そうともしないのであった。ハルジオンのくせに、中々可愛いところもあるじゃないか。

 

 

 言わずもがな、ハルジオンに抱く第一印象はというと、手持ちの中で最悪だった。

 

 

 子供のように気紛れで残忍な性格、この世界でのエスパータイプが持つ理不尽な当たり判定、それでいて範囲が広く強力無比な技……どれを取っても厄介極まりなく、さらに生命力を自在に増やすことのできるというフレーバーテキストまでもが活きてきている。

 

 

 正直な話、外来種のUBより質が悪い。以上の理由から、一番手なずけておくべきポケモンがハルジオンだった。

 

 

 それを、こうもアッサリとやってのけてしまって少し拍子抜けしてしまったくらいだが、幸運だったと思っておこう。

 

 

 そんなこんなで、他愛もない話をしながら海岸の最果てに着く頃には、ヒウンアイスも食べきり、夕日は既に水平線へ沈もうとしていた。

 

 

「暗くなる前に、一度行っておきたい場所があるんだけど……いいか?」

 

 

「えー、もうちょっと一緒に遊ぼうよー」

 

 

「駄々をこねるんじゃありません」

 

 

 これは、ポケモンたちの餌に関わるところなのだ。フレンドリィショップにはポケモンフーズというものがあったが、それは一般的なポケモン向けであり、電気コードや黄金の鉄の塊なんかは何を食べるか分かったものではないため、現状ではポケマメでしかエネルギーを賄えない。

 

 

 丁度いいので、ポケマメを取りに行くのも兼ねて聖地巡礼しようと思っていたのだ。

 

 

「ポケ豆を取りに行きたいんだが……目的地が、少し離れた孤島にあるんだよ」

 

 

「……虹マメもある?」

 

 

「それはお前の頑張り次第だ」

 

 

「よーし、頑張るよー!」

 

 

 邪神様からのお許しも出たので、とりあえずはボールに戻し、少し奥にあるライチさんとバトルした人気の無い砂浜に移動する。

 

 

「セレス、出番だ」

 

 

「フーゥ??」

 

 

 バトルじゃないの? と言いたげな声と共に、セレスがボールから出てきた。

 

 

「昨日と同じように、俺を乗せて飛んでくれ………って気が早いなぁ」

 

 

「フフーン」

 

 

 返事をもらう前に、十二単に押し込められてしまった。張り切りすぎは逆に不安を覚えるのだが、大丈夫だろうか。主に自分の身が危ない。

 

 

「まずは上昇してくれ。目的地は……方角言っても分かんないだろうし、見た目を教えるから」

 

 

「ふぅン」

 

 

本当に分かっているかは定かではないが、信じる他はない。この世界に来て通算二回目である地獄のフライトが始まった……かのように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 結論から言うと、空の旅は快適だった。

 

 

 上昇する時も加速が控えめになっており、比較的ゆっくりとした移動を心掛けているようで、気分としては快速列車に乗っているような感じだった。もしかして、前回行った飛行実験のことを気にしていたのだろうか。

 

 

 昨日の時点で場所を把握していたのと、目印が分かりやすいのもあり、目的の無人島は直ぐに見つかった。着地を命じると、これもまたゆっくりと行われる。前のような派手さはなく、スリルもない。安全装置のないジェットコースターに乗っている身としては、何ともありがたいことだった。

 

 

 着地したのは、大きな豆の木が生えている島だ。辺りにはポケマメがたくさん散らばっており、それを目当てに近場の野生ポケモンも集まっている。人の姿はどこにもなく、少し安心した。

 

 

 ここは、ポケリゾートと呼ばれる群島の内の一つである。

 

 

 目的はただ一つ、ポケマメの在庫を増やすこと。ライチさんに話を聞いたところ、アーカラ島で一番栄えてそうなカンタイシティにも売っている店はなく、その話から、おそらくカフェでのみ手に入れられるものだと推測したのだが、流石に何回もおじさんからカツアゲするのは忍びない。

 

 

 そこで、余った時間を使い現地調達をしようと思い付いたのだ。幸いにもポケマメケースはあり、労働力も申し分ない。

 

 

「というわけだ。たくさんポケマメを拾ってきてくれ」

 

 

 小さいものを拾うような、細かい作業が苦手なニシキとセレスはお留守だが、ほか四匹……シーザーは爪で拾えるかどうか怪しいが、シルキーとエルモ、ハルジオンに頑張ってもらう。

 

 

「……ケンは一緒に拾わないの?」

 

 

「ポケマメを集計する役目があるからな。セレスを目印にして集まってきてくれ」

 

 

 こういう時に、10mもあるセレスの巨体は重宝する。例え何も無いだだっ広い島でも、その巨体は目印になる……上から視線を感じるが無視して、ポケモン達に散策するよう指示を出す。

 

 

 この島、田舎にあるようなショッピングモールの敷地ほどはあり、下画面でしか見ていなかったのもあって存外に広く感じる。ポケモン達は散り散りに動いているようで、シルキーは一番小さいのもあってか、もう見失ってしまった。

 

 

「ニシキには、豆の木を揺らしてもらいたいんだけど、いけるか?」

 

 

「ガオゥ!」

 

 

 楽勝だ、と言わんばかりの遠吠えに頼もしさを感じる。ニシキは返事をするとすぐに行ってしまった……上からの視線を感じる。

 

 

「セレス……お前には、俺を野生のポケモンから守る、つまりボディガードという重要な役目があるってことを忘れるなよ?」

 

 

「クゥうん!」

 

 

 ちょろい。

 

 

 十メートル級巨人の威圧感が凄すぎて、野生のポケモンなど百メートル周辺には一匹も見当たらないのをセレスは見えていないようだ。木を揺らす役目を与えるにも、そのままへし折りそうで怖い。案山子が一番の適役である。

 

 

 だが、セレスは真面目にボディガードをやるつもりなのか、先程よりも距離を詰めている。というより触れるくらいまで接近してて潰されないか不安だ。もしかして、野生のポケモンよりコイツの方が危ないのかもしれない。

 

 

 改めて、ポケモンたちの作業の進行度合いを見てみる。シーザーは苦戦しているようだが、着実にポケマメを集めつつあるみたいだ。キープできる量が限られてくるだろうし、一番早く帰ってくるのはシーザーになるだろう。シルキーは視界から消えたっきりであり、ハルジオンもいつの間にかどこにもいない。大きさでも一番目立つエルモは、自慢の腕?で地面に落ちているポケマメを根こそぎ取り尽くしていた。

 

 

 これはエルモが優勝だな……と思っていた時期が、私にもありました。

 

 

 数十分後、シーザーが帰ってくるのと同じくらい早くハルジオンが帰ってきた…………色とりどりの、大量のポケマメと共に。

 

 

「えへへー、取りすぎちゃったかな?」

 

 

 取りすぎなんてレベルじゃない。シーザーの100倍くらいは持ってきてるんじゃないかってくらい大量だ……これ、ケースに入るのか?

 

 

「いったい、どんな裏技を使ったんだ?」

 

 

「えっとー、まずは木を元気にして、いっぱいポケ豆を作らせてね……」

 

 

「その手があったか」

 

 

 生命力を爆上げする魔法の粉を使って、生産量をガンガン上げたようだ。邪神のくせにやってる事が豊穣神で草も生えない。ふと、同じような方法で木の実を量産できる……とも考えたが、カプ・ブルルにブチ切れられそうな気がしたのでそっと頭の片隅に閉じ込めた。

 

 

 次に帰ってきたのはシルキー。いきなり目の前に現れたかと思ったら、ぴょんぴょんと飛び跳ねはじめ……布の中から完全にキャパオーバーと言いきれるくらいのポケマメが出てきた。四次元ポケットかな?

 

 

 

 最後にエルモが元気よく発光しながら、その大腕に収まりきれないくらいの量を抱えて帰ってきたが、ハルジオンとシルキーの集めたポケ豆を見ると途端に萎びてしまった。分かりやすい。

 

 

「みんな、よく頑張ってくれたな……少し、いやかなり頑張りすぎだ、これどうやって持ち帰ればいいんだ……」

 

 

「ここで食べていけばいいんじゃない?」

 

 

「一人あたりのノルマが300個くらいになるけどいいのか?」

 

 

ちなみに、普通のポケモンなら五個でお腹いっぱいになるみたいだ。とどのつまり、不可能である。

 

 

「仕方ない……オッサンに押し付けるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ポケリゾートには管理人がいる。名前は「モーン」といって、記憶喪失だったり、同じ名前のウルトラホールを発見した人物がいたり、リーリエと同じ金髪翠眼だったりする、非常に謎に包まれた人物だ。ゲームではポケリゾートの真ん中にあるイカダに住んでおり、ポケマメと引換に、無人島の各地にある施設のグレードアップをしてくれる。

 

 

「君は……それに、こ、このポケマメはいったい……」

 

 

 色違いのギャラドスに乗った人間が突然家に押しかけてポケマメを千個くらい持ってきた、といったような反応をするモーンさん。

 

 

「お近づきのしるしです。どうぞお納めください」

 

 

 遠回しに孵化施設と努力値施設カンストさせろと圧をかけ、ポケマメを押し付けた。向こうは全く気付いていないようだが仕方ない。

 

 

「とても助かるけど……もしかして、一緒にポケリゾートを盛り上げてくれるのかい!?」

 

 

「え、いいんですか?」

 

 

 正直な話、ここにはまた来たい。食糧事情が乏しいのもあるが……ここは、天然のポケモンボックスといっても過言ではない。何かの理由でパーティを変更せざるを得ない場面になった時、ここを利用できると非常に便利だ。ポケモンセンターのパソコンは、身分が定かではない今の段階ではあまり使わない方がいいだろう。

 

 

 UBと邪神は、置いておくと環境破壊に繋がるのでNG。

 

 

「もちろんさ! 二人で最高の楽園を作り上げよう!」

 

 

 二人は、熱い抱擁を交わした!

 

 

 それを見たハルジオンは、イライラしている!

 

 

「……早く帰りましょ。誰がここにポケマメ運んだか分かってるんでしょうね!」

 

 

 ハルジオンのサイコキネシス!

 

 

「なんでそんなに怒ってるの……ってサイキネは止めてえええええ!!」

 

 

「ははは、キミも大変そうだね」

 

 

 何が大変そうだねだテメエぶちのめすぞ。完全に他人事のようなモーンさんに若干の苛立ちを覚えたが、全身を握り潰されるような感覚が神経を襲い、そんな感情も消えてなくなった。家から強制的にフェードアウトされ、海に叩き落とされる。

 

 

 おれがなにをしたっていうんだ。

 

 

 帰りは怪しまれるので、そのままニシキに乗って帰った……が、途中で暗礁にぶつかり、結局セレスに乗って帰ったのだった。心なしか嬉しそうにしているのを見ると不安しかない。

 

 

 

 


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