真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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聖地巡礼その二。

 牧場で小休憩を挟んだ後、一時間足らずでオハナタウンへ辿り着いた。街中を一周してみたところミヅキたちの姿は確認できなかったので、既にせせらぎの丘へと向かっているのだろう。

 

 

 この町自体は突出して何かあるわけでもないが……近くには我ら(レート民)の聖地がある。時空を超えて何度も何度もお世話になった身としては、並々ならぬ感慨深さを感じていた。

 

 

「え、預かり屋……ですか?」

 

 

 博識のリーリエ曰く、ポケモンを繁殖させることが目的の施設で、学者などもよく利用しているのだとか。ポケモンは不思議な生き物で、性行為、出産を行わずにタマゴを得ることが可能なのだそうだ。何を言っているのか分からないだろうが、俺にもリーリエにも分からない。

 

 

 水素が燃えると水になる事が科学的に証明されているが、どう頑張っても水素分子が酸素分子と結合する瞬間は見えない。それと同じように、ポケモンが子供を作る瞬間が物理的にブラックボックスと化しているため、子孫を残す原理が分かっても性行為を行っていると言い切ることは不可能、つまり限りなく黒のグレーなので科学的にはそうなっている……となっているようだ。ちなみに、見張り続けるとタマゴを産まないと実験で結果が出ているそうだ。

 

 

 まあどうせ、十中八九やることやってるんだろうな。

 

 

「ただ預かり屋さんにポケモンを預けるだけじゃダメみたいですよ。同じタイプのポケモンを預けてもタマゴが出来なかったり、違うタイプのポケモンを預けてタマゴが出来た例も報告されているそうです」

 

 

「俺が知ってるのは、炎タイプと草タイプを預けて成功した例だな。一応、生息地が異なるポケモンでもタマゴは作れるぞ」

 

 

 だいぶ昔の話だが、ユレイドルに自己再生とミラーコートを遺伝させるため、サニーゴとユレイドルでタマゴを作ったことがあった。サニーゴ自体は弱いのだが、諸刃の頭突きミラーコート自己再生etc……覚える技が軒並み強力である。今は遺伝が簡単になったため忘れられているようなのだが、サニーゴは色々なポケモンに有能な技を遺伝させるため重宝されていた……その件は後にして、まずはポケモンのタマゴが出来る仕組みとは何かという点を知っていなければならない。

 

 

 ポケモンにはタイプとは別に、タマゴグループという隠しステータスが存在する。例えば、同じ怪獣グループのリザードンとフシギバナを預ければ……実用性は別としてだが……雌の方のタマゴが出来る。そこにタイプは関係ない。

 

 

 ちなみにサニーゴのタマゴグループは水中1と水中3。これに該当するポケモンはだいたい100を超えるか超えないか程度存在している。つまり、それだけ多くのポケモンとタマゴを作れるということに他ならない。応用としてサニーゴ、水中1と怪獣、怪獣の順にタマゴを作ることで技を受け渡すことも可能であり、有用性はポケモンの種類が増えるだけ上がっていくのがサニーゴであった。

 

 

 今はそんな面倒なことをせずとも、両親の技を受け継いだりすることで同時遺伝が可能だが、昔は雄からの遺伝限定だったため、サニーゴがいなければ不可能な遺伝経路はざらであったりする。いい時代になったものだ。

 

 

 何が言いたいのかというと、タイプ違いで交配出来るなど、そんなことは一般(はいじん)トレーナーとしては常識である。

 

 

 こちらでは、生態系が異なるポケモン同士の交配は積極的に進められていないみたいだが、ゲームではデータ解析によって発売前から完全網羅されていたりもする。トレーナーにとって遺伝技は重要な戦略の一つであり、場合によっては盤面をひっくり返してしまう可能性もあるため侮れない。

 

 

「そうなんですか!……やっぱり、ケンさんはポケモンに詳しいですね」

 

 

「一応、アローラ最強だったからな」

 

 

 これは過信や傲慢ではなく、客観的に見て事実だ。アローラ地方で登場するポケモンの中に、100レベルのポケモンは存在しない……つまりはそういうことだ。シーザーやニシキならばともかく、ハルジオンやセレス、エルモに勝てるポケモン、トレーナーはアローラに存在しない。

 

 

 更に言えば、エルモは5V、セレスとハルジオンは実質6V……つまり、同族の中でも最高の才能があり、努力値も戦闘に特化するように振られている。並のポケモンはおろか、少しでも育て方が違えば、同じ個体でさえも勝つのは難しいだろう。紛うことなき最強のポケモンなのだ……データ通りであれば、の話だが。

 

 

「わたしと同い年のポケモントレーナーが、ポケモンブリーダーの知識を持っているのは本当に凄いことです。わたしも沢山勉強したんですから」

 

 

「へえ、リーリエは将来ブリーダーに…………いや、ルザミーネさんの後を継ぎたいのか」

 

 

「……やっぱりケンさんには全部お見通しなんですね」

 

 

 全然お見通しではない。ブリーダーと口に出して違和感があったので、その可能性に至っただけだ。しかもラッキーパンチでクリーンヒットしただけなので、軽くこちらも動揺している。

 

 

「かあさまが引退した後、にいさまが財団を継ぐと思うんです。ですから、わたしはそのサポートをしたいのです……そのために、ポケモンの生態もきちんと勉強しなきゃって考えてます」

 

 

「その歳で、そこまで将来について考えているのか……リーリエは凄いよ」

 

 

「えへへ……でも、わたしたちは成人しています。ケンさんは心配ないと思いますが……やっぱり、自分自身の未来は、ちゃんと見定めておいたほうがいいと思うんです」

 

 

 遊びまくっている大学生に酷な事を言うな……少し意地悪しよう。

 

 

「でも、リーリエは長らく家出しているみたいだけど? それは大人としてどうなんだ?」

 

 

「うっ……」

 

 

「まあ、リーリエは大人だからこそ、コスモッグのために自分の意思でルザミーネさんから離れたんだよな。やっぱり偉いよ」

 

 

 こちらも、すかさずカウンターを繰り出す。ただ、だいぶ凹んでいるようなので、きちんとフォローもしておいた。

 

 

「そ、そんなに面と向かって言われるのは、少し恥ずかしいです」

 

 

 頬を赤く染めてはにかむリーリエは、やはり天使だった。心臓射止められて死にそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思った以上に広いな!」

 

 

「……どうしてそんなに嬉しそうなんですか?」

 

 

 今、道の途中にある『預かり屋』に来ている。ゲームと同じように、外にカウガールが立っているのは軽くデジャヴを感じた。

 

 

 預かり屋とは、第六世代以前にあった従来の『育て屋』と違い、ポケモンに経験値が入ることの無い、純粋にポケモンのタマゴを作る施設となっている。人間とポケモンは仲良くやっている筈だが、こんなポケモン版ラブホテルみたいな施設が大手を振って営業中なのはいいのだろうか……その仕様変更はとても有難かったが。

 

 

 まず、経験値が入らないことによりレベルが上がらず、要求される金額が高額にならない。前作から連れてくることの出来た乱数産6Vメタモンを使用すれば必要ないが、基本的に預けるポケモンは使い回していく。Vがない箇所を4Vメタモンで補い、生まれたポケモンと別の4Vメタモンで穴を埋め……と繰り返していくのだ。

 

 

 当然、ポケモンの入れ替えは頻繁に起こるわけで、少ないにせよ一回1000円取られるのは当たり前で、金策が見つかるまでは正直厳しい。自己最高記録は、国際孵化中に育て屋内で100レベルになったゴースを引き取った時の10000円……あれ、思った以上に安い?

 

 

 資金繰りが安定してくると、今度は遺伝技を勝手に忘れたりするのが煩わしくなってくるので、レベルの上がらない預かり屋は嬉しいものだった……どうせ王冠のせいで経験値ボーナスがなくなったんだろうけど。そんな心配も、プレイヤーに全自動育成マシーン(ポケリゾート)を使わせた時点で既に手遅れのような気がしなくもないが。

 

 

「さあ、満足したし行くか」

 

 

「えらく切り替えが早いですね……あんなに楽しみにしていたのに、もう行っちゃうんですか?」

 

 

「預かり屋と蜜月の関係にあったのは"向こう"の世界の話だからな、ここに来たところで何をするという訳でもない」

 

 

 預かり屋にはすごくお世話になった。めざパ、ボックス拡張、ジャッジ、そして厳選……どのサービスを受けるにも、預かり屋がなければ困難を極めただろう。

 

 

 だが、「今は」必要ない。

 

 

「み、蜜月……」

 

 

「おっと勘違いしないでくれよそれは言葉の綾だ断じて不純な関係ではなくもっとビジネスライクな関係そう俺が500円で預けて向こうがタマゴを渡すだけのプラトニックな「ケンさん、ああいうタイプの女の子が趣味なんですね……これはハルジオンさんに相談しないと……」

それだけはやめてください何でもしますから」

 

 

 末恐ろしい女である。クスクスと天使の笑を浮かべながらも、たった一つの失言をこうやって揚げ足取り追い詰めてくるのだ。

 

 

「じゃあ、また一緒にアイスクリームが食べたいです」

 

 

「はいはい」

 

 

 休憩の時に食べたアイスクリームのことを指しているのだろう。モーモーミルクで済ませた身としては、少し気になっていたので丁度いい。一回牧場に戻らなければならないが、帰り道にあると思うのであまり気にならないだろう。

 

 

「はいはいって、ちゃんと覚えててくださいよ?」

 

 

「その点は問題ない。記憶力は良い方だからな」

 

 

 リーリエの発言を忘れるはずがないだろう。一字一句取りこぼさずに聞き取っているつもりだ。ちなみに、先程の頬を膨らませておこリーリエしている顔も永久保存した。

 

 

「まったくもう。こんなに急いで行く必要は……もしかして、今からせせらぎの丘に行くつもりなんですか? 着く頃には夜になってしまいますよ」

 

 

「あ、近くにポケセンあるから問題ない」

 

 

「…………野宿とかハプニングとか、そういう冒険チックなのを期待していたのに……」

 

 

「……そんなこといわれても困る」

 

 

 なるほど、リーリエは冒険してみたかったのか。確かに、近くでミヅキやハウが気ままに冒険しているのを見れば、自分もいつかやってみたいと思うだろう。

 

 

 ちなみに、今回は最初から最後までエスコートしていたので冒険なんて泥臭いことは一切やっていない。野生のポケモンやモブトレーナーは、シーザーの圧力で出現すらしなかった。NPCに一定の判断力があるのもゲームとの変更点なのだろう、もしかすればスカル団もある程度変化しているのかもしれない。

 

 

「せせらぎの丘までは俺が連れてってやるから、帰りはリーリエに任せる。それでいいか?」

 

 

「……それは冒険ではなく復習ではないですか?」

 

 

「……勘のいいガキは嫌いだよ」

 

 

 しまった。リーリエは普通に優等生だった。

 

 

「わかったわかった。次は冒険とやらに付き合ってやるよ……そもそも、『せせらぎの丘に行きたい』としか言わなかったリーリエが悪い」

 

 

「それでは、後日改めてお願いしますね」

 

 

「あっはい」

 

 

 有無を言わさず流されてしまった。まあ、あんな笑顔でお願いしますね、なんて言われたら何も言えなくなるわ。

 

 

 

 

 

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