真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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こんにちはアローラ。

 不本意ながら若返ってしまった21歳は、軽く現実逃避をしつつもアローラの大地を踏みしめていた……といっても、道の殆どはコンクリートだった。

 

 

 これから、アーカラ島の空間研究所にでも連れていかれるのだろうか。解剖とかされるのやだなぁ。なんて有りもしなさそうな事を考えるのは、南国特有のこの暑さのせいだろう。日差しが強いなんてレベルじゃねえぞこれ、反射熱と合わさって最強に見える。

 

 

 カントー出身のミヅキちゃんなら、この気持ち分かってくれるだろうか、なんて思ってたけど……島を一周して適応してるみたいです。ピンピンしてます。モクローとじゃれている姿が微笑ましい。子供って元気だよなあと、心は若返っていないことを再認識した。

 

 

 そろそろ休憩したほうがいいのではと、脳と膝が悲鳴をあげはじめた頃。ようやく辿り着いた。

 

 

 波止場では、シナリオで飽きるほど見た顔の男女がこちらを伺っているのが見える。

 

 

 男のほうはハウ。ほんわか愛されキャラで、島キングの孫だったはず。ただ、主人公と同じくシリアスな場面でもニコニコとした表情を崩すことは殆ど無いため、一部の人々から主人公共々サイコパス扱いされている不憫な子だ。

 

 

 女のほうはリーリエ。かわいい。天使。

 

 

 リーリエについて多くを語るのは、野暮というものである。

 

 

「その人、誰ですか?」

 

 

 天使にその人呼ばわりされた事に若干傷つきつつも、いい笑顔を意識して返事を返す。

 

 

「俺はケン。訳あってククイ博士と一緒に、アーカラ島の研究施設に行くことになってる。短い間だけどよろしくね」

 

 

「よろしくー」

 

 

 リーリエの天使っぷりと同様に、ハウの間延びした声も健在であった。おそらく最後までこの調子なのだろうか、島キングの孫というプレッシャーなど何も感じないといった風だ。

 

 

「それじゃあ、このクルージングに乗ってくれ」

 

 

 案内されたのは、原作でも見たとおりである数人用サイズの古びた一槽の船であった。帆には何回も補強された後があり、船体も少しばかり時の流れを感じるような汚れ方をしていた。

 

 

「あの……博士、これは流石に……」

 

 

「ちょっと……」

 

 

「ボロいよねー」

 

 

 やめてさしあげろ。ククイ博士だって研究費を削減しないとやってけないのだろう、察せよキッズ。

 

 

「これはビンテージ風ってわけで、決してボロくはないんだぞ!」

 

 

 はいはい、そーいうのいいから。といった感じで、皆は船に乗り込んでいく。この子達無駄に大人びてる感じするし、ククイ博士もそこそこ大変そうだ。

 

 

 船室は何人も入るスペースがないため、操縦者のククイ博士以外は外に出ることになった。今思えばククイ博士、船の操縦も出来るのかハイスペックすぎ。

 

 

 と考えたが、とあるスーパーニビ人は陸空海なんでもござれの運転テクニックを持ってたしなぁ。それにアローラみたいな離島地域だと、船の免許は車の免許くらい重要そうだし当たり前かと、独りでに納得した。

 

 

 乗り込む配置としては、俺とハウの男二人と、天使とその従者で左右に分かれることにした。ミヅキちゃんがこれから、天使様をお守りする立派な戦闘代理人に育っていきそう。こうやって分かれる辺り、才能の片鱗が見え隠れしている。

 

 

「ねえ、ケンってポケモン持ってないの?」

 

 

 エンジンのけたたましい音で掻き消されそうなギリギリの声量で、向こう側に座っているミヅキが声をかけてきた。ギリギリ聞こえないふりが出来そうだったので、首を動かさず水平線を見続けるフリをした。

 

 

「あー、それおれも気になるー」

 

 

 ちっ、ハウも聞こえていたか。

 

 

 何のポケモンを持っているのかなんて、俺が一番知りたい。ホウエンから来たっていう説明をした手前、ホウエン地方のポケモンが出せないとアウト。アローラのポケモンでもアウト。

 

 

 どうしようかと考えた結果、一つの妙案を思いついた。

 

 

「俺のポケモン、大きすぎて船から落っこちてしまうかもしれないぞ?」

 

 

ハウとミヅキの目が輝き、リーリエは少しばかり顔を強ばらせた。

 

 

「えー! そんなに強いポケモン持ってるの!」

 

 

「いいなー、あたしなんてモクローとゴンベだけ……」

 

 

「すごく、気になります……でも、今ポケモンを出されたら、わたしたちはダダリンのように、海の藻屑と化してしまいますよね……」

 

 

 よし、時間は稼げた。アーカラ島に着いたら真っ先にポケセン行こう。おそらく、どんなポケモンがいても預かってくれるはずだ。たとえ、伝説のポケモンでも幻のポケモンでもマスボ入りのポケモンでも、ジョーイさんはいつも通りの対応をしてくれるのだから。

 

 

 そもそも、船に乗る前に思いつけばよかったものを……いや、追い詰められたから思考が早めに回転しただけか。

 

 

「どんなポケモンか教えてよー」

 

 

「アーカラ島に着いたらのお楽しみだ。おそらくポケモンも疲れてると思うし、ポケモンセンターに行ってからな」

 

 

 くどいハウに必ず見せると念を押したが、預けられる所を見られても大丈夫なのだろうか。スクリーンにがっつりポケモン写っちゃってた気がするが……まあいいか。

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 あれから、そんなに時間も掛からずに無事アーカラ島に辿り着いた。

 

 これから少しの間自由行動をとることにしたらしく、集合場所を一時間後の空間研究所前に定めた。ククイ博士は事前の打ち合わせもあるのかもしれない。

 

 

 解散して、真っ先にポケモンセンターへと向かう。場所はストーリークリアして間もないためか覚えており、割とスムーズに行けた。道は変わっていないが、ゲームにはなかった住宅地やちょっとした店、建物が並んでいて、道では様々な人種の人々、様々な種族のポケモンが思い思いに動いている。

 

 

 ここは、この世界は『ゲーム』とは違って、生命がある。これは忘れてはならないようだ。特に、俺のような廃人一歩手前だった人間は。

 

 

 赤い屋根がトレードマークというのは、この世界でも随分と目立つわけで、目的地はすぐに見つかった。ポケモンセンターは地域にひとつずつあり、人々とポケモン達のコミュニティとなっているという話を聞いたことがあった。もちろん、ゲームかアニメの設定でだが。

 

 

 ここも例に漏れず、色々なポケモンたちがいて、カフェやバトルで息抜きをしていた。その光景に、幼い頃少しだけ描いた情景が重なる。

 

 

 純粋な気持ちでポケモンを見ていたのは、どれほど昔だっただろうか。初恋の子と、毎日ポケモンをやっていた頃が懐かしい。

 

 

 自動ドアの向こう側には、見慣れたような、初めて見るような光景が広がっていた。中央にジョーイさん、右側にフレンドリーショップ、左側にカフェ。頭で分かっていても、何度画面の向こう側から覗いてみていても、デジャヴなどない。新鮮な気持ちでここに立っていた。

 

 

 迷わず、まっすぐに歩く。以前から決められていたかのように道筋は自然と出来上がっていた。

 

 

「なにかご用でしょうか?」

 

 

 ジョーイさんが、営業スマイルで話しかけてきた。こうしてカウンターに近付くだけで話しかけてくれるのは、初めて利用する人だったり人見知りの子供だったりに対して好印象だ。ゲームの世界だとAを押さなければ自動ドアすら入れない。

 

 

 ほんと、なんでそんな仕様にしたかなぁ。

 

 

「すみません、ポケモン達を休ませて欲しいんですが……」

 

 

「ポケモンの回復ですね、おまかせください。それでは、モンスターボールをお借りしてもよろしいですか?」

 

 

 後ろに背負ったリュックから、ボールを六つ取り出した。バッグの中身をあらかじめ少しは確認してみたが、確実にウルトラボールだと分かるのが三つほどあった。だが、天下のポケモンセンターである。きちんと対処してくれる筈だ……例えそれが世界に存在しないボールでも、その中身が幻はおろか未発見のポケモンでも。

 

 

「……あの、これはモンスターボールですか?」

 

 

 嫌な予感はビンビンしている。

 

 

「一応モンスターボールです。もしかして、預かれませんか?」

 

 

「いえ、仕組みはモンスターボールと変わらないみたいですから大丈夫ですよ。お預かりしますね」

 

 

 そして、ジョーイさんは奥の機械にボールを並べた。上の大きなディスプレイに表示され、次々に明らかになる俺のポケモン達、ガブ、ジュモク、カグヤ、ギャラ、ミミッキュ、そしてテテフ。

 

 

 あー、これ最初に組んだバトルチームじゃん。懐かしい。

 

 

 なんて、思い出に浸っている暇はなさそうだ。ジョーイさんが、まるで親の敵でも見るかのようにこちらを見ている。気がつけば、周囲はざわめき、囲うようにしてこちらを見ている。

 

 

「どうして、島の守り神のカプ・テテフを持ってるんですか?」

 

 

 そんなの、誰よりも俺が知りたい。

 


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