真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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年末年始、如何お過ごしでしょうか? ぼくはしごとにいってきます


デートorデッド

 アーカラ島に襲来した未曾有の危機は、一人の少年によって半日で片付けられた。

 

 

 正確に言えば、彼の所持していた島の守り神が全てを蹂躙し尽くしたのだが、国際警察ですらも情報を掴めていなかったポケモンの素性までも『知っている』かのように適切に対処したトレーナーの手腕も間違いなく優秀であり、少年の頼みでなければ守り神は梃子でも動かないので、その表現に大した違いはないだろう。

 

 

 二人のfallによって、アーカラ島の外れに引き寄せられたウルトラビーストたちは全て『処理』された。あの若さで別世界のポケモンとはいえ、眉一つ歪めずに息の根を止めるよう指示を出す姿はハンサムの記憶に新しい。その指示を嬉々として受け入れ、実行する守り神は噂に聞く邪神そのものであると妙な納得さえあったが、いくら成人していてポケモンが強くともトレーナーの方は年端も行かない少年。

 

 

 国際警察としては、神よりも少年のほうが末恐ろしく感じた。今でこそ鳴りを潜めているものの、何かの拍子でウルトラビーストへ向けた力が人間に向くかもしれない。或いは、鍛え上げた神を制御できなくなる可能性もある。リラのように国際警察で管理するにしても、国際警察の存在そのものが消し飛ぶ危険もある程の逸材だ。彼を秘密裏に葬ったとしても、彼のポケモンが黙っていないだろうし、そもそも殺せるかどうかさえ怪しい。セレスと呼んでいたウルトラビーストのような強大なポケモンをあと何体所持しているかすらも分からないのだ、底が全く見えない。

 

 

 ハンサム自身、バトルはあまり好まないため詳しくは無いものの、リラがチャンピオンに匹敵し得る実力を持っているのは知っていた。記憶を無くしたと言えど10年の月日も経てば、類稀なるバトルセンスと神童と謳われる程の頭脳で組織内でも頭角を現し、特殊な部署とはいえ部長となる程の女性だ。少年を試すと言った彼女の目を見た時は、完膚無きまでに叩きのめしてしまうのではないかとさえ思った。

 

 

 実際は、彼の持つポケモンを一匹さえ倒すことができず、あまつさえ交換させ、控えのポケモンを引き摺り出すことも出来なかった。

 

 

 もし彼が、あの力を悪の為に振い始めたらと考えたら気が気では無かった。こちらには止められる力も無く、引き留める魅力も無く、隙を突くための弱みさえ掴めていない。今はリーリエという少女と懇意にしているようだが、出会って一週間程の相手にどれだけ拘束力があるだろうか。

 

 

「今日は本当に助かった……それと、辛い思いをさせたね」

 

 

「私は手を下していませんから、平気ですよ。カプ…ハルジオンも気にしてない様子ですので、貴方も気にしないでください」

 

 

 彼の言葉には、少しだけやるせなさが感じられた。何も思うことが無いわけでもないらしい。確かにウルトラビーストの亡骸を海の底へ沈め終わった後、褒めて褒めてとじゃれつく勢いで襲いかかっていたのを見ている身としては、何とも言えない。

 

 

「おそらく君と、リラくんを追って来たのだろう。確認できたウルトラビーストは全てアーカラ島に集結していたようだ」

 

 

「では、私の仕事はこれで終わりということですね」

 

 

「また問題が発生すれば、助力を受けたいと思っているのだが……勿論、ケンくんの都合が良い時で構わないよ。では、今回の報酬を……」

 

 

「必要ありません」

 

 

 懐から差し出した200万円もの大金を一蹴した。よもや金銭ですら靡かないとは、何を考えているか全く理解できない。

 

 

「その代わり、一つお願いを聞いてもらってもいいですか?」

 

 

「……聞くだけ聞いてみようじゃないか」

 

 

 そんな少年が口にした願いは、私の、いや我々の想定するものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 口約束ではあるが、なんとか一流組織への内定が取れたので今回のデモンストレーション、及び実技試験は大成功と言えるだろう。

 

 

 内定といっても、クチナシさんのようにカプ神を盾にアローラの駐在員としてスローライフをするようなものなので、高給は見込めないが安定は段違いだろう。激務で身体を壊すこともない。

 

 

 リラさんもハンサムさんも、大歓迎だと諸手を挙げて大賛成だったので安心してもいいが……あんなにツンケンされてたリラさんが、どうして賛成票を入れたのか今でも分からない。何が目的かもさっぱり理解できないが、安定した就職先を手にしたのは大きい。

 

 

 ついでに言えば身の安全も保証される。ポケモンバトルの出来がどうだろうと、fallの特性上、手離さざるを得ないだろうし、島の守り神に気に入られている以上、秘密裏に葬り去られる心配も無くなった。また、別の組織に命を狙われそうになれば向こうから知らせてくれるだろう。監視対象にはなるだろうが身の安全は今以上に堅い。

 

 

 あとは目の前にある脅威(じゃしん)をどうにかすれば安泰なのだが、そうは問屋が卸さない。

 

 

 楽しいデートが、また始まろうとしている。

 

 

「ねえねえ、どっちが似合うかな?」

 

 

「うーん、迷うなぁ」

 

 

 目の前で、サニーゴの髪飾りと炎の石のネックレスを付け替え続けるハルジオン。そうだ、既にデートは始まっていたのだ。

 

 

 カンタイシティでバーネット博士と状況を再整理するとのことで、ハンサムさん達と別れた矢先にコニコシティへ連行された。曰く、慰安旅行をすべきだと。

 

 

 それには納得したのだが、どうして俺は休めないのだろうか……フェローチェとマッシブーンの群れを全滅させるのは流石に心へのダメージも大きいというのに、今度は邪神のご機嫌取りか。しょうみしんどい。

 

 

「どうせだし、どっちも買ってあげようか?」

 

 

「それじゃ意味ないの!! 愛しい人に選んでもらった物を、愛しい人に買って欲しいの!!」

 

 

 プンプンと、可愛らしく怒るハルジオン。あれ、ここでサイキネが飛んでくるのがお決まりのパターンでは? 少々拍子抜けしたが大人しいだけマシだろう。

 

 

「んー……じゃあ、サニーゴの髪飾りかな。色もハルジオンに似てて、宝石の散りばめ方もセンスがあるし」

 

 

「お、嬉しい事言ってくれるねぇ」

 

 

 そして、隣りには店の主人であるライチさんもいる。ライチさんにはウルトラビースト狩りをする際、万が一危害が及ばないようにコニコシティ付近でこの世界のカプ・テテフと一緒に警護してくれていたのだった。その後の流れで、デートをするならばと自分が経営するアクセサリーショップへ連れて行かれて今に至る。

 

 

「いや、本当に嬉しそうですね」

 

 

「当たり前よ! カプ・テテフがデートでウチの店に来てくれて、アタシの作ったアクセサリーを身につけてくれるなんて……歴代の島キング、島クイーンの中でも数える程しかいないだろうね」

 

 

 うっとりした表情で、ハルジオンに珊瑚色の髪飾りをつけるライチさん。濃度の違うピンクのコントラストが、様々な青系の鉱石をより際立てるものとなっており、それでいて派手さが抑えめなので目立ち過ぎることもなくハルジオンを引き立てる。

 

 

「うーん。アタシとしてはお団子真珠の髪飾りがカプ・テテフに似合うかと思ってたんだけど、サニーゴの髪飾りも中々ね。流石アタシ」

 

 

「確かに真珠のバレッタもいいかもしれません」

 

 

 口に出したのがマズかったのかもしれない。即座に飾りを付け替えると、どうかな? と聞いてくる。ハルジオンも乗り気な様子で、くるりと回ってドヤ顔をキメた。確かにパール特有の柔らかい白が一層ハルジオンのピンクを際立たせており、素材を際立たせるのが上手だと感心する。

 

 

「どっちも欲しいな……」

 

 

 ねえねえ、と袖を引っ張る邪神。ここで甘やかすのはどうなんだろうかと頭を過ったが、そもそも躾られるような相手でもなく技量もないので機嫌を損ねるよりはマシかと財布を取り出した。

 

 

「お代なんてとんでもない! 宣伝効果だけでもバカにならないからね。その代わり、またアクセサリーを作ったらケンくんに渡してもいいかい?」

 

 

「んー、いいよ!」

 

 

「ハルジオンが言うならいいですよ。ただ、これは私からのプレゼントなので代金はキッチリ払わせていただきますね」

 

 

 合計六桁オーバーの買い物だ。まだまだ懐に余裕はあるのだが、それでも金銭感覚が狂いそうになる。まあ、付き合って三ヶ月の彼女にブランド物のバッグを買うより、費用対効果が高いのは間違いない。

 

 

「オッケー、流石は守り神を誑かせただけの事はある。ちょうど頂いたよ」

 

 

「ありがとね! 宝物にする!」

 

 

 むぎゅっと、ハルジオンが抱きついてきた。心なしか、いつもより締め付けがキツい。鉢巻でも巻いてるのかな? 

 

 

 こんな高いプレゼントも、喜んでもらえなきゃ意味がない。ここまで喜んでもらえるのであれば、打算ありきの行動だとしてもいい気分になるものだ。もう少し付き合ってやるとするか。

 

 

「せっかくだしお披露目しないとな。何か美味しいものでも食べに行くか」

 

 

「それなら、美味しいパンケーキのお店を知ってるよ。付いて来な」

 

 

「パンケーキ食べたーい!」

 

 

 あ、これは今日は一日ライチさんも同行する流れだ。

 

 

 その直感は正しく、パンケーキ屋から灯台巡り、お香選びの後に食堂屋でディナーを頂戴し、ライチさんのお店で別れるまでずっと一緒だった。ただ、ゲームでは知れない色んな細かい部分も詳しく見れたし、シェードジャングルで会えなかったマオとも顔合わせ出来たから、全体的に満足だった。

 

 

 今日は気持ちよく眠れそうだな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、朝だ。

 

 

 これは昼に二人きりになれなかった分、夜に追加デートが入るパターンでは? と思い、身構えていたのだが……拍子抜けを通り越して逆に怖い。なにがあった?

 

 

 布団の中にはハルジオン。あいもかわらず腕を抱き枕にしてグッスリと寝ている。取り敢えず引き剥がし、身支度を整える。引き剥がす手際が段々良くなりつつある事実に向き合い、自身の成長の証だとポジティブに捉えた。

 

 

 エントランスへ出ると、見知った顔が二人。ただ、昨日とは違い空気が張り詰めている。

 

 

「ケンくん、少し話したいことがあるんだ」

 

 

 結果として、嫌な予感は的中していた。

 

 

 

 

 


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