真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

43 / 44
長らくお待たせしました。
ダイマックスアドベンチャーで色違いテテフを狙ってますが、一向に出る気配がありません。


カプ・ブルルとの約束。

 心躍るというか、それを超えて心臓が狂喜乱舞というか、逆に心停止一歩手前というか、千差万別の表現方法がある短期飛行であったが、こんな下らない事を考えられるくらいであるから、無事にビーチへと辿り着いたと言ってもいいだろう。

 

 

 控え目に言って死ぬかと思った。

 

 

 以前も同じように砂浜へ連れて行かれた事があったが、これに関しては全くもって慣れることはない。セレスには改善する意思と改善するだけの能力が存在したが、ハルジオンの場合はそれが欠如しているのだから当然だ。これ以上どうしようもなく、また、どうにかしようとも思っていないのだから。

 

 

 あと二言くらいは恨み言を纏めてから、一気に目安箱へダンクシュートを決めたい気分であったが、目の前にそれを許しそうにない存在感を放つポケモンが一匹。

 

 

 カプ・ブルルだ。

 

 

 島の守り神が一体何故こんな辺鄙な砂浜に、という疑問を差し置いて、まず驚いたのは、無人の砂浜だというのにも関わらずビーチチェアにパラソルと、『人間用』の道具が揃えられている点だ。側のラウンドテーブルには山のようにきのみが盛り付けてあり、木製の食器や果物ナイフまで置いている徹底っぷりだ。

 

 

 極め付けには、余りにも『俺に対して』低姿勢が過ぎる。

 

 

 ハルジオンに対してなら分かる。というより、昨日あれだけ平伏していたのだから最早当然と言っても過言では無いだろう。

 

 

 その低姿勢が、人間の俺にも向いているのが可笑しな所だ。なんせ頭を垂れている相手は、気紛れで商業施設と街一つ滅ぼすような存在なのだから。

 

 

 人がヒーヒー言いながら着地して胸の動悸を抑えていた時点で既に顔を伏せ、「お待ちしておりました」等と言う始末。テレパシーを使っているので、俺に向けられたものでもあると思って間違い無いだろう。

 

 

 心当たりはある。横でほっぺすりすりを止めないハルジオンが、何か良からぬ事をブルルに吹き込んだのも原因の一つだろう。そろそろ静電気で麻痺しそうなくらいの勢いなのだが、飽きないのだろうか。

 

 

 守り神相手に接待されるのは心臓に悪いし、対応が面倒だが、ここで対応を間違えると今後の展開がもっと面倒になる。

 

 

 ブルルが完全に折れてしまったら、アローラのパワーバランスがハルジオンに傾き過ぎてしまうのだ。

 

 

 どう見ても完全に邪神へ従属している様子のカプ・ブルルだが、本来であれば戦闘面に関して他のカプ神より有利に立ち回れる。

 

 

 カプ神の最大の強みは、特性で自属性のフィールドの張り替えが出来る点なのだが、素早さが速い順に特性が発動するため、不利に働く筈の鈍足が逆に強みへと変わるのだ。カプ・ブルルは種族値上一番遅いため、殆どの場合フィールドを張り替えせる……性格や育て方で素早さ関係が逆転する等の例外もあるが。

 

 

 レベル差と個体値努力値に差があるハルジオンには流石に勝てないが、タイプ相性を加味すると他二匹のカプはブルルに基本的に不利である。電気タイプの技が半減になりフィールドも張り返されるコケコも、そもそも水タイプという相性上勝ち目が薄いレヒレも、ブルルにとっては絶好のカモだ。ゲーム通りであればだが。

 

 

 島対抗戦が始まろうものなら秒で勝負が決まると思って良い。ただでさえ辛い相手に加えて、最強の邪神(Lv100の育成済み)が相手に回れば、勝ち目はもうゼロだと言っても過言ではないだろう。

 

 

 そんな暴れ馬の手綱を俺が握っているのだ。最高に面倒臭い。こうやって俺に御させようという魂胆が目に見えているが、そうは問屋が卸さない。ブルルが折れたら、アローラは全てハルジオンが治める事になってしまう。

 

 

 絶妙なところで、あの物臭な神には自尊心を保ってもらわなければ。無邪気な神の機嫌を損ねない程度に。

 

 

「ほ、本日はお忙しいところ、お越しいただきありがとうございます」

 

 

 とか考えてたけどもうダメかもしれない。ブルルちゃんプルプル震えてるよお。

 

 

「ふーん、『今回は』テレパシーを使ってるのね。拙過ぎて聞くに堪えないけど、いい心掛けだわ」

 

 

「ひっ、と、とんでもない、事です。きゅ、今日は、偉大なるハルジオン様と、その婿殿に、ささやかながらのおもてなしをさせて頂けたらと思い、お呼びした次第です」

 

 

「へえ、ささやかながらなんだ」

 

 

「失礼しました! 盛大なおもてなしをします!」

 

 

「……ハルジオン。せっかく歓迎してくれてるのに、ちょっと高圧的過ぎないか?」

 

 

 さながら小姑のような重箱の隅の突き具合である。呼び掛けに応じ、あまつさえそれを利用している立場であるにもかかわらず、この振る舞いだ。流石は邪智暴虐の王と言われるだけのことはある。

 

 

 言っているのは俺だけかもしれないが。

 

 

「ケン、甘やかしちゃダメよ。ソイツは基本的に人間を見下しているんだから」

 

 

「それはお前もじゃないのか?」

 

 

 うぐぅ、とバツの悪そうな顔でそっぽを向くハルジオン。思い当たる節は星の数より多そうだ。

 

 

「カプ・ブルル、貴方は立派なウラウラ島の守り神なんです。それなのに、どうして私に謙るんですか? もっと自信を持ってください」

 

 

 透かさずフォローを入れるのを忘れない。

 

 

「む、婿殿……」

 

 

「後、ハルジオンとは結婚していないので婿殿はやめてください。申し遅れましたが、私の名前はケンです。ケンとお呼びください」

 

 

「ちょっと、どうしてケンが下手に出てるのよ。ていうか婿じゃないってどういう事?」

 

 

「そのままの意味なんだが?」

 

 

 寧ろ、もう結婚した気になっていたのか。ポケモンと結婚なんて、そもそも出来るかどうか怪しい話ではあるが、ハルジオンもブルルも別に問題を感じていないような口振りだ。おそらく可能ではあるのだろう。

 

 

 問題を感じていないのは逆に問題だが。

 

 

「周りが夫婦だって認めてるなら、それはもう結婚したのと同義なの! 現に目の前のノロマだって、夫婦だって認めてるじゃない! 事実婚よ事実婚!」

 

 

「横暴が過ぎませんかね……そもそも俺は認めていないし、合意の無い結婚なんて神様が認めるか?」

 

 

「何言ってるの? アタシたち神様なんだけど」

 

 

「そ、そうですね。この島だと、人間はボクらに永遠の愛を誓いますね」

 

 

 そうだった。こいつら神様だった。ていうかボクっ娘だった……いや早まるな、中性的なだけで男かもしれない。

 

 

「つまり、ケンとアタシは既に公認の夫婦ってわけ! 恋人とか番とか、そんなチャチな間柄じゃないって事よ!」

 

 

「一番肝心な新郎の宣誓が無いんですけど……まさか、お前ら俺を嵌めるために呼び出したのか」

 

 

「いえ、ケン殿には目一杯寛いで頂こうかと。何かとお疲れでしょうから」

 

 

 予想外の言葉に涙腺が緩みそうになる。少しカプ・ブルルの株が上がった。

 

 

「ふーん、アタシには何も無いんだ?」

 

 

「い、いやいや、ハルジオン様には頼まれた通り、二人きりになれる場所を提供したではありませんか!!」

 

 

「場所ね。じゃあ、この山の様なきのみはケンへのプレゼントって事ね。この前粉をかけるなって言ったばかりなのに、そんな宣言するなんて良い度胸じゃないの」

 

 

 ひゅっと、息を呑むような悲鳴が聞こえた気がした。

 

 

「アンタも、あの阿婆擦れのように海の藻屑にされたいのかしら?」

 

 

 威圧感に気圧されるが、今ここで引くとブルルが完全に折れてしまう。強気で行かなければ。

 

 

「落ち着け。あいつは別に俺を取って食おうって訳でも無いだろう」

 

 

「……手遅れになってからじゃ遅いの。確かにコイツらは今は何もしてこないし雑魚だけど、甘く見てるワケじゃない。万が一、ケンを庇えないタイミングが生まれるかもしれない」

 

 

「万が一なんて起きないように、波風立てずに生きてるだろうが……」

 

 

 邪神様の隣だと波瀾万丈で、そんな心配りなんてまるで意味が無いが。

 

 

「ケンは分かってない!! アタシたちが助けられないと、海に沈められただけで死んじゃうんだよ!? 逆らう可能性があるなら潰さなきゃダメ!!」

 

 

 海に沈められると死ぬなんて、どの陸上生物でも同じだろう……と思ったが、シルキーやシーザーが溺れる情景が浮かばない。やっぱりポケモンと人間を比較するなんて厳しいものがある。

 

 

「確かにそうだけど、ここで力尽くで屈服させたとしても、俺が本当にピンチになった時に助けてくれるか? 後先考えず、寝返って復讐してくる奴に脅しなんて効かないぞ」

 

 

「…………助けないの?」

 

 

「い、いやボクは助けますよ!! 命に代えても!!」

 

 

「ありがとう、カプ・ブルル。コイツのように助けてくれる存在もいる。まだ遭遇していないレヒレやコケコ、島の重要な人間。そういった連中と助け合えるようコネクションを作っておけば、いざって時に寝首なんて掻かれずに済むだろ」

 

 

 納得がいっていない、とハルジオンは顔というキャンパスで表現する。どれだけ反論したいのだろうか、返しの言葉を産み出すための苦しみを悶えながら味わっているようだ。

 

 

「どうしても仲良くしたくないみたいだな」

 

 

「当たり前でしょ! 弱いし信用できないし気に食わないし」

 

 

「何やったらこんなに嫌われるんだ……お心当たりはありますか?」

 

 

「全く、無いです……」

 

 

 可哀想だ。何もしていないのに、蛇蝎の如き嫌われ様。しかも相手は最強の神だ。GOサインさえ出してしまえば、あの哀れな神の命は今日限りとなるだろう。

 

 

「分かった分かった。じゃあ、こうしよう。今夜以降は緊急性が無い限り、俺とカプ・ブルルは一切顔を合わせないようにしよう。お互いの頼み事はハルジオンを介して行うようにすればいい」

 

 

「それいいね! 採用!」

 

 

 結局のところ、ハルジオンが他のカプ神を嫌う理由は、俺の好意の裏返しだろう。取り合いになった場合が面倒だから、先に潰しておこうとか、そんな脳筋プランだろうなという読みだが、多少は当たっているようだな。

 

 

 ただ、これだけじゃ不十分なので、満足気な邪神に釘を刺す。

 

 

「ただ、後で情報の握り潰しが発覚したら、相応の仕打ちが待っているからな?」

 

 

「……例えば?」

 

 

「一週間くらい口利いてやんない」

 

 

「えー!! なんで!! 酷い!!」

 

 

 ちゃんと重大さを分かってくれているのだろうか。ブルルも不安なのか、こちらを狂人を見るような目で訝しげに見つめてくる。こちらも信用されていないようだ。

 

 

 あまり使いたくない手だったんだが。リーリエを庇護下に入れるためにも仕方ないか。

 

 

「どうしてもハルジオンが頼れそうにない時は、昨日一緒に居たリーリエという女の子を伝ってください。彼女を含め、私達を害さずウラウラ島を治めている間は、私はあなたの味方です」

 

 

「は、はい。わかりました……でも、本当に大丈夫でしょうか……」

 

 

「ああ、ハルジオン相手に無視は一番効果的ですから。多分大丈夫です」

 

 

 あの構ってちゃんには一番堪えるだろう。何度でもボールに戻してやるからな。

 

 

「はぁー。仕方ないけど、少しくらいはアンタが存在する事を許すわ。死ぬ気でケンの役に立ちなさい」

 

 

「は、はひっ!」

 

 

 なんやかんやで、ブルルの生存ルートは確立されたけれども……あの様子じゃ自尊心なんて欠片も残ってないだろうなあ。失敗かなあ。

 

 

「そうだな。ちゃんとウラウラ島を治めてくれないと、ハルジオンを嗾けちゃうかもな」

 

 

「そ、それは勘弁願いたいです。がんばります」

 

 

 そうだな、最初からこのパターンで行けば良かったんだ。

 

 

 ハルジオンという手綱で他のカプ神を従わせる。

 

 

 これで争い事なんて起きないだろう。ある程度の自治権は向こうに委ねられるから、こっちの手間は一切かからない。むしろカプ神を顎で使えるならメリットも大きそうだ。

 

 

 ただ、話の分かるブルルだったから良かったものの、他二匹がそうだとは限らない。別の手段も考えておかなければ。

 

 

「よし。そろそろ面倒な腹の探り合いは辞めて、このビーチを楽しもう……夜だけど」

 

 

 昼のビーチも格別だが、夜なら夜の楽しみ方がある。潮の音を聞きながら、きのみを食べてゆっくり寝る。明日は登山だし、なるべく英気を養わねば。

 

 

「ブルルには、外敵が近寄らないように警護をお願いしようかな。最初のお願い事だけど、やってくれるか?」

 

 

「勿論です! 頑張ります!」

 

 

「よしよし。ハルジオンは……たまには一緒に寝るか」

 

 

「やったー!」

 

 

 ハルジオンには意見を曲げてもらった分、今日くらいは甘やかしてあげようじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。