真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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独白。

 空間研究所での扱いは、リーリエ以上に可哀想な子として、まるで腫れ物を触るかのようなものだった。

 

 

 向こうとしては若干の記憶喪失になり、元の世界に帰ることができない可哀想な子供に映っているのだろう。実際はレポート期限と就活が消えて、割とこれから何するか楽しみな成人男性なので申し訳なさでいっぱいである。

 

 

 バーネット博士……ククイ博士の嫁さんの話は、コスモッグ、フォールと呼ばれる人間の二つについてであった。コスモッグについては、繁殖方法や進化先さえも丸わかりなので、どれも既知の事実として一応の確認くらいである。

 

 

 個人的に気になるのは、どちらに進化するかであるが……祭壇の名前で明らかになるだろう。時間の問題だ。フォールについては、まだウルトラホールが研究足らずというのもあり当たり障りのない部分だけ、つまり原作で分かった内容以下のことしか情報は得られなかった。

 

 

 だが、フォールについての話をした後の周りの反応には少し驚かされた。ミヅキ&ハウの真顔サイコパスコンビも感情の起伏が見え隠れしていて、原作が表情を作れないくらいスペック不足だったんだろうなぁなんて思ってたりしていたが……予想外にリーリエの反応が大きかった。

 

 

 コスモッグについては言わずもがなではあるが、親元に帰れないリーリエ自身の境遇を重ねたのだろうか、突然ポロポロと泣き出してしまったのだ。

 

 

 リーリエには申し訳ないが、親元というか実家から勘当されているため元の世界にも帰る場所はないので心配いらない。確かに、人間関係や漫画やゲームの結末など未練は少しくらいあるのだが、今は将来への不安や人間関係その他様々なプレッシャーから解放されたことの方が大きい。

 

 

 本気で帰ろうと思うのならば、パルキア辺りを捕獲すれば元の世界へ帰ることが出来そうな気もするのだ。悲観的になって塞ぎ込むより、楽観的に見て活動した方が精神的にも楽で身体に良いだろう。

 

 

 こちらからは特に情報提供をすることはなく、身体年齢が下がったのは伏せ、少し記憶が抜け落ちていることだけを伝えた。ボロが出る可能性は大きいが、出たところで問題は無いだろう。「信用出来なかった」でゴリ押し出来そうなくらい周りから腫れ物扱いを受けた身としては、罪悪感が少しばかりはあるが、どこでどんなリークがあるのか分からないため、迂闊に所持しているポケモンについても話せない。

 

 

 UBについてポケモンセンターでは突っ込まれなかったのは、ジョーイさんがおそらく知らない別地方のポケモンであると勘違いしたのだろうと考えている。カプ・テテフを把握出来たのであれば、カグヤとジュモクも把握しているはずだ。

 

 

 もし『本当』にポケモンについて熟知しているのであれば、生態系のタガの外れたUBの存在が異常であるのは理解できるはず。特にククイ博士や、その奥さん……バーネット博士にバレたら面倒なことになる。俺もUBも、ウルトラホールから出てきたという推測で間違いないのだから。

 

 

 空間研究所での話はこれだけ。特に驚きもほとんど無く、天使の新たな一面を垣間見たというくらいしか収穫はない。それでも十分ここへ来た意味はあったのだろう。向こうのみんな、なんかごめんな。

 

 

 ついでに言えば、島巡りはしないことになった。ポジションとしてはリーリエと同じく、ククイ博士の助手二号というわけで、リーリエの旅をサポートする役割になったのである。バンザイ、生きててよかった。みんな、ほんとすまん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「んで、何でこんな状況になってんですかねぇ」

 

 

「君が敬語を崩したの初めてだね」

 

 

 目の前にはイワンコと、どうでもいい事を言うククイ博士。空間研究所を出て直ぐの事であった。丁度いい広場になっているとは思っていたが、ここはバトルに使う訳では無いだろう。近くに研究に使う機材らしきものがあちらこちらに散らばっているのを、ククイ博士は見えないのだろうか、それとも見て見ぬ振りをしているのか。

 

 

「いやいや、ここでポケモンバトルでもするつもりなんですか?」

 

 

「その通り! 君の今の実力を把握しておかないと、リーリエがもしもの時に危ないからね」

 

 

 場所が不適当だが、至極真っ当な意見である。確かに、ククイ博士はどんなポケモンを使うかだとか、バトルでの癖とかで性格まで分かりそうではあるし、何事においてもまず拳で語り合うタイプのように感じる。

 

 

 とどのつまり、ここで負ければリーリエとは離れ離れ……絶対に勝たねば。決意を胸に腰のボールホルダーから、ルアーボールを手に取った。

 

 

「ギャラドス、出番だ。徹底的にやるぞ」

 

 

 顔合わせはしていないし、鳴き声すらも聞いたことはないが……こいつは、誰よりも俺が一番よく知っている。

 

 

「えっ、赤いギャラドス!?」

 

 

「すごい、初めて見ました!」

 

 

「これが……ケンのポケモン」

 

 

 水棲のポケモンながら地面の上でさえ威圧感を放ちつつイワンコと向かい合い、とぐろを巻き咆哮する赤いギャラドス。その姿にククイ博士、リーリエ、ミヅキは驚きの声をあげる。ハウは驚いて言葉も出ないようであった。

 

 

 偶然産まれた、C抜き5V色ギャラドス。性別は雄、性格は陽気、努力値はASぶっぱ余りH、技は竜舞、滝登り、地震、氷の牙、Lv51。

 

 

「ギャラドス……いや、ニシキ。俺のために戦ってくれるか?」

 

 

 NN(ニックネーム)は、ニシキ。メガストーンを持たせている竜舞型のメガギャラドスとして育成した、使い勝手の良いポケモン上位に入るポケモンだ。

 

 

 声に反応して、強面の顔がこちらを向き大きく頷いた。その目は、任せろと言わんばかりでヤル気に満ち満ちている。

 

 

「イワンコ! 体当たりだ!」

 

 

 先手必勝とばかりに、ククイ博士はイワンコに指示を出した。博士のことだ、勝てない戦いだと分かっているのだろうけど、それでも出来ることを全て出し切るつもりなのだろう。

 

 

 ならば、こちらも本気でいくまで。

 

 

「ニシキ、滝登りで迎え撃つぞ!」

 

 

「ガァウ!!」

 

 

 よく訓練されているのか、それとも呼吸が合っているのか、ギャラドスに指示を出した後のタイムラグは殆ど感じられないほどスムーズで、陸上だろうがお構い無しに加速する。

 

 

 身体の小さいイワンコに、巨大なギャラドスが水流を纏い突き上げた。

 

 

 イワンコはたまらず吹き飛ばされ、宙を舞う。それを見事、ククイ博士がキャッチした。

 

 

 ……いつも思っていたが、この人身体能力高すぎでしょ。イワンコも中型犬くらいの大きさあったはずだが、受け止めてもピンピンしている。

 

 

 当然ながら、ククイ博士の腕の中にいるイワンコは気絶しており、どうみても戦闘不能となっていた。おそらくイワンコは、この地域のレベル帯に調整されているのだろう。ガチで来るならルガルガンを使ってくるだろうし、イワンコ相手に勝てるのは当然の理であった。

 

 

「いやー、Z技を使う暇も与えないとは流石だね」

 

 

「自慢のポケモンですから」

 

 

 自慢のポケモン、という発言を聞き得意気な顔をしたニシキ。どうやら、この世界のポケモンは人間の言葉をある程度理解できるようである。アニメの中でもそのような描写であったし、やはりポケモンは不思議な存在だ。

 

 

「ニシキ、バトルしてくれてありがと。もしかして俺が誰か分かるのか?」

 

 

「ガウゥ」

 

 

 当然だ、といった感じでニシキは頷いた。しかしこうも表情豊かに動いてくれると、めちゃくちゃ感動する。やはりポケモンも生き物だと、今更ながら実感した。一度、手持ちのポケモンと対面する機会を作らなければいけないだろう……少しだけ不安な連中もいるが。

 

 

「……ケンさん、なんだか嬉しそう」

 

 

「トレーナーとポケモンは、家族と同じようなものだからね」

 

 

「家族……」

 

 

 リーリエの呟きにククイ博士が反応し、それにポツリと、ミヅキが言葉を零した。

 

 

 残念ながら、そんな綺麗なものでは一切ない。

 

 

 確かに、手塩にかけて育てたポケモンが親近感を持って接してくれるのは嬉しいし、感動する。しかし本当に嬉しいのは、自分のよく知っている『仮想』のポケモンが、世界が、限りなく『現実』に近付いていく感覚だ。

 

 

 ニシキに限らず育てた全てのポケモンは、悪く言えばあくまでコレクションの一つと言っても過言ではない。苦労して入手し手間をかけた数々のポケモンを、身近で眺めることができる事実。それを皆に認められる感覚。リアルの世界では得ることの出来ないそれが、何よりもたまらない、甘美なものであった。

 

 

 はっきり言って非道徳的だ。生き物に向ける感情ではない。

 

 

 だが、誰がそれを責める? 異世界から来た人間の胸の内など、この世界の誰にも理解されない。こうして、笑いながらニシキをハグしている姿を家族のようだと解釈するくらいには、皆同じくらい鈍い。心にあるのは独占欲だというのに。

 

 

 好き嫌いは別として、ポケモンへの認識は相も変わらず、あくまで勝利するための駒でしかない。ポケモンの世界に来たことなど、言ってみればゲームのリアリティが増しただけのようなものである。我ながら順応が早いのも納得だ、この世界の誰よりも、この世界のシステムを理解しているのだから。

 

 

 目の前のニシキを見た。グルルと、喉をさすられると目を細めて鳴く姿はまるで猫のようだ。十分な信頼を得ているのは明らかだった。

 

 ゲームとは何か違う感覚。この感覚に慣れるべきかどうか、まだ判断がついていなかった。


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