ポケットモンスター -N's story- 作:ロールキャベツ
――イッシュ地方。青い空に白い雲が浮かんでいる。
穏やかな風に乗りながらマメパトの群れが飛んでいる。その群れの一番後方を飛んでいた一匹が何かに気付き、下降した。他のものたちは気付かずに、そのまま飛び去ってしまう。
そのマメパトが降りた場所は、16番道路にある〝迷いの森〟。さほど入り組んでもいないのに、森の中に入ると迷ってしまうと言われる不思議な森である。
しかし、マメパトは構わずに森の奥まで飛んだ。まるでその森を熟知しているかのように。はっきりと、目的地がわかっているかのように。地面には餌になりそうな虫ポケモンがいたが、それらには目もくれないで素通りした。
進む先を右に、左にと転換しながら、道のない道を進む。ときどき、生い茂る木の葉の陰から差し込む光がからだを照らす。
人気のない森の奥まで来ると突然、視界が広くなった。木々に囲まれて緑の芝生が一面に広がっている広場には、一本の大木とその隣に一軒のログハウスが建っている。その家の開け放たれている窓辺へ、マメパトは降りた。
部屋の中には椅子に座って読書をしている一人の青年がいた。緑色の長髪が白い肌によく合っている。本に夢中なのか、彼は窓辺のマメパトにまったく気が付いていないようだ。
マメパトがひと声鳴くと、彼ははっとして顔を上げた。そして窓辺の訪問者に焦点が合わさると、本に栞を挟んで机の上に置き、マメパトに近づいた。
「やあ、また来たのか。ちょっと待ってて」
青年は近くに置いてある缶を引き寄せると、その中からポケモンフーズを取って窓辺に乗せた。それをマメパトは勢いよく食べ始める。どうやらこのマメパトは、この青年の元によく餌をもらいに来るらしい。青年は微笑みながらその姿を見ていた。
視線を空に移す。気持ちの良いほどの快晴だ。
「――よし」
青年は机上のウエストポーチを腰に巻き、白黒のキャップを目深に被ると広場に出た。この広場とログハウスを囲むように木々が立っており、空を遮るものは一切ない。
彼はその広場の中央に立ち、目を閉じた。一息吸って、吐く。そよ風が運んでくる木や花の匂いが体内を駆け巡る。まるで自然と一体になったようで、この地で起きているあらゆる出来事を感じているかのようだ。
ゆっくりとした動作で左手を口元に運ぶと、指笛を吹いた。凛として優しい一筋の音が辺りに響き渡る。
ほどなくして、何かが空を飛んでいる音が聞こえてきた。燃えながら空を切っているかのようである。その瞬間、青年の頭上をものすごい速さで巨大な物体が通過した。それは空中で一回転すると速度を落として、ゆっくりと地に降りた。
舞い降りたのは、全身が真っ白な羽毛で覆われたドラゴン、はくようポケモンのレシラム。炎を自在に操ることができ、その熱で世界中の大気を動かすことができると言われている、このイッシュ地方の伝説のポケモンである。青年はとある事件をきっかけにこのポケモンを手に入れたのだ。
青年が近づくと、レシラムは主人に頭を垂れた。彼はその頭を優しく両腕で包み込む。レシラムの気持ちを受け取るように。
「突然だけど、出発を今日にしよう。今日のような穏やかな日に旅立ちたいんだ」
青年がそう言うと、レシラムは地に伏せた。微笑みを浮かべ、美しい白い羽毛をなでながら彼はその背中に乗った。
「ひとまず、ヒウンシティの付近まで頼むよ」
レシラムはからだを起こし、その鋭く青い瞳を空に向けた。膝を曲げてからだを落とし、飛び立つ準備に入る。松明のように広がる尻尾に力を集中させ、炎を発生させる。赤い炎が膨れ上がったその瞬間、純白の竜と青年は大空へと飛翔した。
マメパトは、彼らが見えなくなるまで、雲が悠々と浮かぶ広い空を見つめていた。