キングギドラ、アリス、幻想郷   作:マンボー豆腐

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第10話

 

 

 

幻想郷に朝日が昇る。

 

白んでいた夜空は完全に陽光に照らされ、触手を振るうビオランテと、見下ろすアナタ、飛び掛かるガイガンがまるで宗教絵画のように照らし出された。

 

紫も霊夢も幽香も、眺めていた有力者たちも、その一瞬を美しいと感じた。

見入るほどではないにせよ。

 

しかしアリスは、それどころではない。

 

魔法によって視界を補強し、朝の眩しさにくらむことなく、しっかりとビオランテを見据える。

 

仲間の位置や行動を含め、周囲も警戒しなくてはならない。

 

いつどんな攻撃が来ても対処できるよう、瞬間的に加速できる飛行魔法や、物理魔法両方に対応した防御魔法なども展開し続け。

 

ガイガンへアリスの意思を伝達する、魔力を利用した通信チャンネルは、今の周囲の環境や、他者との干渉、防諜などに注意しつつ適切な出力を維持。

 

今動かしているのは一体だけだが、内部構造は複雑で、生体部品に流れる魔力と機械部品に流れる魔力のバランスを適時調整する必要がある。

 

また人類の兵器と同じく敵味方の識別、攻撃防御双方での照準、目標の未来位置予測、行動パターン選択などを行うためにビオランテや味方目標などを指定。

 

紫の結界に接触しないよう、範囲指定と識別のために結界の魔法的特徴の伝達もする。

 

等々、完全な自律とは程遠いガイガンを、操るために必要な様々な事をこなしていた。

 

完璧な人形が作れたのならば、どれほど楽をできることか…アリスは、人形を操る度に、思うのだった。

 

 

「ゆけっ、ガイガン!」

 

ガイガンがビオランテに、強固な鉤状の両腕を突き刺し、そのまま密着。

 

(刺さった!)

 

腹部に走る回転鋸が唸りをあげ、ビオランテの表面を削り、抉る。

黄緑色の樹液が吹き出ると、ガイガンは鋭い突起になっているつま先で思いきり蹴りつけ、その反動のまま飛び退いた。

 

樹液はとても熱く、また生身の一般人であれば死に至る程の酸性であることが、浴びたガイガンからの情報で判明した。

 

とはいえガイガンには何らダメージ無く、この場の面子は物ともしない程度ではあるが、アリスは一応他の者にも伝えつつ、ガイガンによる攻撃を続ける。

 

抉られた部分を修復しようと、蠢く傷口めがけて、赤いレーザー光線が照射。

ガイガンの、ゴーグルのように形成されたモノアイの直ぐ上にある、魔界製光学兵器の発射口から放たれたのだ。

 

水分を多量に含むビオランテだが、傷口から水蒸気と共に炎が上がる。

 

ビオランテの悲鳴は、しかしアナタの一撃で遮られた。

 

絡み付こうとする触手で止まることなく、ビオランテを上から踏みつけたのだ。

アナタの全体重と、加速までついたそれにビオランテは、あちこち綻びて体液を漏らしながらも激しくしなり、耐える。

 

反撃に触手が、アリス、ガイガン、アナタそして紫達へ向かう。

 

幽香は、無言で極太の光線でもって、牙を剥いた触手を迎え撃った。

命中と同時に爆発し、弾けとんだ触手の破片から、金色の粒子が僅かに引き抜かれ、紫の手元に開いたスキマへと集められていく。

 

ガイガンが手刀のように凪ぎ払い、衝撃で先端が潰れた数本の触手からも。

 

それを横目に、アナタはアリスへ向かっていた触手へ猛然と迫り、首のひとつで噛みちぎる。

自身に噛みついていた触手は、その動きの勢いで牙が折れた。

 

小癪だと言わんばかりに、鳴き声をあげるアナタはビオランテの頂に咲く花、その中心部を狙って蹴りあげ。

 

すかさず逆方向からガイガンが殴り、アナタが上空へ退いたと同時、花の中心部へとレーザー攻撃。

 

受けた部分が燃え上がるなかで、ビオランテは痛々しく鳴いた。

 

幽香は顔をしかめる。

だが心変わりなどない。

 

《意外に頑丈だな》

 

 

しかしビオランテは変わり始めている。

ビオランテは、その巨体に反して柔軟に幹をしならせ、レーザーの照射位置をずらしたり、触手を複数重ね合わせ防壁にするなど、受ける一方であった攻撃を防ぎ始めたのである。

 

このまま、呑気にやっていては捗らないと考えたアナタは、アリスに伝えた。

 

《アリス、私がおさえるから、最大火力》

 

アナタは自身に背後から向かってくる槍のような触手を、尻尾で弾きながら言う。

 

「先生ごと?」

 

アリスは、捕食せんと迫る触手をガイガンに叩き落とさせながら、眉をひそめた。

 

《まさか、躊躇うのかい?》

 

「だって」

 

《アリス、まったくきみは、何年学んできたんだい。どうして、こんな時に躊躇ったりするんだい》

 

アナタは枯れ木ばかりの地面に降り立ち、無遠慮に枯れた森を掻き分け踏み倒して、ビオランテに接近。

 

槍状の触手を時に噛みちぎり、時に弾き、時に無視した。

ビオランテは、魔法で補強されたアナタの鱗を突破することができなかった。

 

「…ごめんなさい」

 

アリスが、ガイガンの光学兵器のモードを切り替え、少し距離をとらせる。

 

(わかってるわ先生、わかってる。先生はそんな程度じゃ、びくともしない。けど先生…)

 

アナタは、地面から突き出る幾つもの鋭い触手…岩をも貫くそれを端から踏み潰す。

 

霊夢は内心、盛大に舌打ちした。

 

(…なんて、重い…)

 

紫と霊夢が維持している結界は、当然ながら地面の中にも及んでいる。

 

地中深くの、膨大な質量の土壌、一粒一粒の合間を縫うようにして張り巡らされた結界には、ビオランテが地中に逃げようと足掻いているため、相応の負荷がかかっていた。

アナタが地面を踏み締めることで、更に、である。

 

霊夢は、一筋の汗を拭うと、ちらり紫に視線をやった。

 

結界の維持に加え、複雑さという面では上をゆくかもしれない作業をこなし、しかも対ビオランテだけでなく幻想郷の他の事にも気をやらねばならないというのに。

 

紫は至って平然としていた。

無言でこそあるが、眉間に皺のひとつもよせず、微笑みをたたえている。

 

絶対に口にすることはしないが…流石だと、正直思っていた。

 

《アリス、準備は良いかい?》

 

「あと三秒」

 

アナタはビオランテに激突。

同時に、翼や首で抱き込む。

悲鳴とともに、すべての触手がアナタへ向かうが、広い翼に阻まれ、牙は文字通り歯が立たず、鱗一枚つらぬくことも叶わない。

ビオランテは、なす術なく幹を捻られ、ガイガンと正対。

アナタの首のひとつにより傷だらけの花弁は無理矢理広げられ、何かを察知したビオランテがガイガンへ触手を伸ばそうとしたが。

 

カラカラと鳴きながら、首のひとつから、地面から突き出たばかりの触手めがけて。

 

落雷のような、金色の光線が放たれた。

 

「引力光線!」

 

それは爆発的に地面を吹き上げた。

それは枯れた木々や岩を粉微塵にした。

それは伸ばされつつある触手に直撃した。

それは触手を貫通し八つ裂きにして地面にまで至った。

 

久し振りに見たそれに、アリスが喜色ばみ、他の者はその威力に驚いた。

 

どうして最初から使わなかったのかと問い質したくなった霊夢だが、実際、理由にも察しがついていた。

 

ビオランテは魔力を奪い、糧にできる。

引力光線には、多分にアナタの魔力が含まれている。

 

防御魔法などは、それに使用している魔力を敵に奪われないようにできる。

気を引き締めた戦闘中なら、なおのこと。

 

しかし体の機能の一部を用いて吐き出す引力光線は、そういった事までは難しい。

噴射されるガスのように、吐き出した瞬間から、含まれている魔力も散り始めるからだ。

 

だからアナタは、ビオランテに密着し、魔力の吸収を魔法で確実に妨害できるまで、使うことを控えていたのだ。

 

《さあ、アリス》

 

ガイガンは、光学兵器を最大限の威力で使う時、動きを止める必要がある。

元々、こんな物に搭載する予定は無かったものだから、仕方ない。

 

アナタの援護があるため、全くの無防備になってしまう事を恐れず、アリスはガイガンに命じた。

 

「発射!!」

 

体を大きく仰け反らせ、一際長い咆哮をあげてから。

 

ガイガンは光の速度よりも遥かに遅い弾速の、真っ赤なビームを発射。

 

それはビオランテの前で砕けるように散じた。

それは直後に広範囲を爆炎で呑み込んだ。

それは凄まじい熱量だった。

それは周囲の木々を薙ぎ倒した。

それはビオランテの全身に重大なダメージを与えた。

それはビオランテの全身を発火させた。

それはアナタには全く効果が無かった。

 

ビオランテは、燃え上がるなかで悲痛な声をあげた。

 

その様子を眺めていた紫達は、しかしまだまだ気を抜かない。

 

 

 

だが、見ているのは紫達だけではない。

幻想郷の有力者たちが、半ば見世物として楽しんでいる。

 

 

一例をあげれば、深紅の不夜城の主、レミリア・スカーレット。

 

彼女はまるで外見相応の、無邪気な少女のように、椅子から半身のりだし、叫んだ。

 

「やったか!?」

 

ちなみに、他の場所でも、複数人が近しいタイミングで、似たような言葉を発した。

 

 

 

言葉には不思議な力があるといわれているが、果たしてこれらの言葉が原因かどうか、わからない。

 

(…あっ、なんかコレ絶対だめな気がする…)

 

ただ、博麗の巫女の予感は、見事に的中した。

 

霊夢の勘は、自他共に認めるほど、よく当たるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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