キングギドラ、アリス、幻想郷   作:マンボー豆腐

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第2話

 

魔法使いの朝は早い。

アリスの一日は、湯あみから始まる。

 

膨大な知識を有するアナタの指定した、多種多様な植物を使った薬湯で肢体を清めるアリスは、最近アナタからの視線を恥ずかしいと感じるようになってきた。

 

(…いや、ま、先生に他意がないのは明らかだし。まあ、うん、今さらだし…)

 

が、見ていることを隠していないとはいえ、アナタからの視線に気付けるということは優秀であるという証である。

 

まんざらでもない、しかし人間少女の名残は反発している。

アリスは人間よりも遥かに長生きでありながら、まだまだ難しいお年頃であった。

 

四六時中、心を覗く趣味がないアナタは、そんな事とは露知らず、アリスの体に異常は無いかと丹念に観察している。

アナタ達が幻想郷で暮らしはじめてから、まだ幾日。

アリスが適応しきれたのかどうか、まだまだ油断はできないと考えて。

 

所詮、アナタは獣であった。

 

身を清め、清潔な衣類に身を包んだアリスは朝食の準備に取り掛かる。

幻想郷は夏。

暑さなど大して気にならないとはいえ、相応に若干薄着のアリスは、生地の薄さに釣られて気分まで軽やかだ。

 

「しっら、ない、わ。そんな、まほ~う~」

 

昔、魔界で流行った歌を口ずさみながら素早く調理したアリスは、人形のように美麗な外見に違わず上品に平らげた。

 

アリスは魔法使いにしては珍しく、人間らしい食事や、規則正しい生活を心掛けている。

それは、アナタの知り合いの教育によるものである。

 

それは、魔法的にどうこうよりも、ある種の老婆心であり、アリスはそれを正しく受け取っていた。

 

《さて、始めよう》

 

「はい、先生」

 

片付けも朝の家事も終え、本格的に魔法的鍛練が始まる。

 

アリス宅の周囲は、裏手こそ鬱蒼とした森に面しているが、他は何軒も家屋を建てられる程に、大きくひらけている。

その、庭というよりは広場と言って差し支えない場所で、アナタは実体化する。

 

おおよそ7万トンはあるアナタの体重に、背の低い草と毒々しいキノコが繁る地面は、大きく沈む。

 

本来ならば立つことも危うい、しかしそこは宇宙怪獣。

アナタは何の苦もなく、不安定な地面を踏み締めた。

 

砂埃が舞うが、今日は朝から曇っているため、洗濯物は魔法を使って部屋干ししている。

アリスに怒られる心配は無い。

 

「何度見ても、すごい迫力だなあ」

 

誇らしげに両翼を広げ、カラカラカラと鳴くアナタ。

なにせ翼長、150メートルを越える。

近隣とトラブルにならぬようにと、他者の認識を阻害する魔法を使っているからこそ、魔法の森にすむ他の魔法使い達からの苦情がないのだ。

 

怖くて言えない、ともいう。

 

《さあさ、それが新作かい?》

 

アナタは、アリスの傍らに浮いている人形に眼を凝らす。

 

「はい」

 

アリスは自分よりも大きな戦闘用の人形を不可視の魔力の糸で操って、アナタへ。

西洋の甲冑を思わせるそれは、一瞬間で距離を詰め、長槍を突き立てた。

 

アナタの黄金色の鱗は、しかし傷のひとつも無い。

穂先は触れてすらいない。

幾重にも重ねた防御魔法の盾を、全て貫くには至らなかった。

 

《単純な攻撃であれば、今のところ一番だね》

 

「そうね、そんな馬鹿げた量の多重魔法でもなければ良い線いったかしらね」

 

長槍には複数の魔法が付与されているのだが、どれも打ち消されてしまう。

 

 

《ははは。魔法使いたるもの、常に上を見なくてはね》

 

そもそも魔法使いと言えるのか怪しいアナタだが、それでも少々魔力を追加すると、貫かれていた穴が塞がり。

同時、長槍は呆気なく砕かれた。

 

《他はどうかな》

 

気落ちすることもなく、アリスは人形を操る。

反った片刃の剣を抜いた人形はアナタの足元から、背面と見せ掛け翼へ。

達人の如き鋭さでもって、斬撃。

 

弾かれた勢いのままに背面へ。

鱗の隙間を狙って猛然と刺突、今度は深く食い込む前に抜き、同じ場所へ斬りかかる。

 

《あまり良くない》

 

切っ先が届く寸前で軟化した盾に、人形の剣は予想以上に食い込んでしまう。

 

その勢いを制御しきれず、ほんの僅か体勢を崩した人形は、盾から触手へと変化した魔力の塊にからめとられた。

 

《関節の部品の精度が、前より粗いかな。きみの魔力が伝わりきっていないように思う》

 

アナタは防御魔法としての性質を与えた魔力を、すっかり拘束と解析のために使っていた。

隅から隅まで人形を調べたアナタが、気付いた点をアリスに伝えていると。

 

「あややっ!」

 

《おや》

 

 チッ

 

古めかしいデザインのカメラを構えた鴉天狗、射命丸文が急降下。

 

「おはようございます、毎度お馴染み射命丸文です!お写真よろしいですか?」

 

《いいよ》

 

「随分と働き者ね、文」

 

「それはもう、あなた方の記事は人気がありますからねえ…特に、魔法の森や人里で」

 

「そうなの?」

 

「幻想郷に来たばかりの、力ある妖怪は多くが異変を起こします。ですが、来て早々に人里でショッピングと洒落こむようなハイカラさんは、なかなか珍しいのですよ」

 

「私、都会派魔法使いだもの」

 

「都会に憧れ上京してきたおのぼりさんというわけですか」

 

眉根を寄せるアリスと、ヘラヘラ笑う文は、存外相性が良かったりするのでは、などと考えるアナタは、ふと思い出す。

まだ、お試しにと渡された新聞の感想を言ってなかった。

 

《はっはっはっ。ところで文》

 

「はい、なんでしょう」

 

《文の新聞を読んだが、あれは読み応えあるね。私達のような新参者でもわかりやすい》

 

「それはそれは。報道者冥利に尽きる御言葉ありがとうございます」

 

業務的な笑みを浮かべる文の目が、鋭く光る。

流石に、何をするでもなく察することができた。

 

「他の天狗は、お二人への対応を決めかねていますが。あなた様のお望みとあらば、我ら天狗以外のあることないこと…この射命丸文がお届けいたしますよ?」

 

情報提供も、情報工作も、独断でできる範囲ならば協力すると、言外に申し出る文。

 

《それはありがたい。必要な時は、頼らせてもらうよ》

 

できれば友好的でありたいという思惑が一致した文は、アナタと二、三言交わした後去っていった。

 

「ねえ先生」

 

《うん?》

 

「この間もそうだったけど、あの鴉天狗とは随分仲良しよね」

 

《ああ、そういえば言ってなかった》

 

カラカラカラと鳴きながら、アナタは昔を懐かしむ。

 

《文とは、ずっと前に会ったことがあるんだよ》

 

「そうなんだ。どれくらい前の事?」

 

《えっと、この地が幻想郷と呼ばれるようになる前だ》

 

「…あの鴉天狗、とってもお歳をめしているのね。失礼しちゃった」

 

《はっはっはっ。文はむしろ、アリスのように接してほしいんだと思うよ》

 

カラカラカラと鳴きながら、それぞれの首を振り回すアナタ。

人間でいえば、笑い転げている。

 

「あらあら、随分と楽しそう。私もまぜてくださらない?」

 

不意に聞こえた声に、アリスは身構えながら振り替える。

 

《おや、紫。こんな朝早くから、どうしたのかな》

 

扇で口許を隠した紫が、宙に佇んでいた。

 

「単刀直入に訊ねます。この異変の原因、知りたくは無いかしら」

 

アナタは意味がわからなかった。

 

「異変?どういう事なの?」

 

アナタが何か言う前に、アリスが紫に聞き返す。

 

「悪いのだけれど、茶番に興じれるほど、のんびりはしていられないわ。ギドラ様、いかがです?」

 

冗談では無いと悟ったアナタは、一生懸命思考を巡らし、ハッとした。

 

《異変というのは》

 

幻想郷という場所は、不思議に溢れた箱庭だ。

文だって平然と飛んでいたし、だから、こんな現象は良くあることなのかもしれないと思っていた。

 

今日の天気は、くもり。

ところによって、妖気混じりの霧が出る模様です。

洗濯物を乾かす際は、魔法を使うとよいでしょう。

なんて、軽く考えていた。

 

《この、紅い霧の事かな?》

 

アナタとアリスは幻想郷に来て間もない、新参者である。

 

わかっているくせにと、ちょっぴりイラつく紫の言う異変を、アナタ達は今更認識した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫から話を聞いた後、アリスは直ぐ様紅魔館へと向かった。

紫からの頼まれ事を果たすべく。

アナタの期待にこたえようと。

 

別に、朝の鍛練の邪魔をされた鬱憤を晴らせるから嬉々として向かった、わけでない。

決して。

 

 

「現在、この異変を解決するために、博麗の巫女が紅魔館へと向かっています」

 

アナタは、良い経験になるだろうからと、待機する紫の傍から見守る事にした。

 

「ですが先程説明しました通り、触発された未熟な人間がひとり、同じく紅魔館へと向かっておりまして。彼女、霧雨魔理沙は、親が人里の有力者。勘当されているとはいえ、もし妖怪に殺されたとあっては面倒に…」

 

アリスは、臆することなく飛び立っていった。

死んでしまったらすみません、と言い残して。

 

《だから私達に、フランドール・スカーレットの相手を頼んだのか》

 

「ええ。紅魔館の者は殆どが、幻想郷のルールに理解を示し、受け入れたのですが、妹君は…ダメでした」

 

《フムン、そのフランさんの能力を考えると、確かに霧雨さんが危ないな》

 

「ええ、ええ。博麗の巫女だけならば、さほど問題はありません。しかし霧雨魔理沙は、血生臭い殺し合いに脆すぎます」

 

《それにしても弾幕ごっこか、素晴らしい方法を考えたね》

 

「あら、意外ですわ。てっきり、生温いとでも評するかと思っておりましたのに」

 

アナタの乾いた鳴き声が、紫の能力で作り出した異空間に響く。

 

《昔と比べて、随分と落ち着いたんだ、私は》

 

崩壊させた文明や、絶滅まで追い込んだ種族がよみがえる。

アナタは露骨に話題を変えた。

 

《しかし、その霧雨魔理沙の親というのは、そんなに重要なのか》

 

紫も扇で口許を隠しながら、乗る。

 

「人里では人間による自警団が活動している、というのは以前にお話しましたが…その自警団に、とある半妖の作る武器を供給しているのが、彼女の親なのです」

 

《ああ…それは、もしもの時が面倒だ》

 

アナタは、ストリと納得した。

だから、自分達の実力をはかりながら、守るのかと。

 

 

 

 

 

 

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