キングギドラ、アリス、幻想郷   作:マンボー豆腐

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少々グロい


第4話

 

(失敗した)

 

紅魔館が誇る大図書館の床で、パチュリー・ノーレッジは這いつくばっていた。

 

(失敗した)

 

パチュリーは紅魔館の主、レミリア・スカーレットの頼みで、フランの部屋へと二人の魔法使いを誘い込んだ。

 

(失敗した)

 

レミリアの能力も万能ではない。紅魔館側としては、誘い込んだ二人の魔法使いが結果的に死んでも、知ったことではない。

 

(失敗した)

 

だがパチュリー個人は二人を死なせまいと考えていて、事実危なくなれば二人を別の場所へ転移させたり、フランを封じたりといった術式も、用意してあった。

 

それらの保険が、ことごとく使えない。

 

巫女との弾幕ごっこが予想以上に長引いたから。

巫女の実力を甘く見ていたから。

心のどこかで自惚れていた。

自身が未だに喘息持ちだから。

 

様々な理由が頭に浮かぶが、結局のところ意味がない。

 

パチュリー・ノーレッジは、現在、霊夢が止めに撃ち込んだ魔封じの術によって魔力を抑えられ。

身体を思うように動かせず。

 

暫くすれば解除されるから、と言い捨て飛び去る霊夢に、違うそうじゃない、と叫ぼうとし。

慌てた拍子に、発作をも起こしている。

 

一人前の魔法使いを自負するパチュリーは、呼吸に異常をきたしても早々死ぬことはない、問題なのは別のこと。

 

生まれながらにして魔女であるパチュリーも、これではフランから二人を逃がすための魔法が使えないのだ。

事前に仕掛けた魔法を発動するにはたったの一言、鍵となる言葉を紡ぎ、相応の魔力を練り、放出するだけなのにそれができない。

 

唯一、近くにいる部下の小悪魔は意識を失っているので、パチュリー以上に何もできない。

 

フランの部屋を覗き見るため服の下に隠している魔道具は予め込められた魔力で機能しているが、その魔力を抜き取ったところであまりに微弱。

そもそも、体外の魔力を操作することができない。

 

時間があれば、今の状況を打破することができたろう、時間があれば。

 

 

(ごめんなさい、魔理沙さん…ごめんなさい、貴女の子孫も…あなたの、同郷すらも…)

 

パチュリーが、片目に映すフランの部屋では、アリスの背後でフランが握り拳を作っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……あれ?)

 

 

 

 

 

 

「え!?」

 

フランと魔理沙が目を丸くする。

 

「あら」

 

紫も目を見開く。

 

そしてアナタは体液を噴き出した。

 

「!?」

 

短く、低く、地獄の底から響いてくるかのような悲鳴をあげ、胴体から体液を流したアナタに紫は顔をしかめる。

 

《すまないね》

 

アナタの胴体には、小屋ひとつスッポリと収まりそうな大きさの穴が空き、凄まじい勢いで体液が噴出していた。

アナタの大きさ故に大事なく見えてしまうが、見た目以上に、傷は深い。

 

「いえ、かまいませんけれど」

 

あっという間に塞がっていく傷口を、思わず凝視していた紫は、思い出したようにアリスの様子を見た。

 

「それよりも…彼女、どうなっているの?」

 

アリスは、フランの能力によってその身を破壊されてしまった。

 

アリスの、胴体は赤い霧となってしまった。

 

アリスの、両脚は胴体が在ったときと同じく、確りと床に立っている。

 

アリスの、両腕は胴体が在ったときのように、確りとフランの両手を掴んでいる。

 

アリスの、首から上は先程と変わらぬ高さに滞空し、確りとフランを見据えている。

 

アリスの、いつも持ち歩いている魔導書は勝手に宙に浮いて、解放され、頁が次々捲られ、七色に光輝いている。

 

アリスの、上海蓬莱レッドキャップスは自動でフランを串刺しにしてから停止した。

 

フランはつい疑問を口にする。

 

「なんで?全部壊れるはずなのに…」

 

良く見てみれば、アリスの各パーツ間は、とても細い金色の糸で繋がれていた。

紫は呟く。

 

「ギドラ様の魔力…」

 

魔導書から流れ出た七色の魔力が金糸を芯に集まり、朧気ながらアリスの胴体を形成した。

 

が、再生とは言いがたい。

 

ボンヤリとした裸の胴体らしきもの、どまりである。

 

「パチュリーと同じ臭いがしたのに!人間の臭いもしたのに!知らない臭いもしたけれど、妖怪の臭いなんてしなかったのに!」

 

フランと魔理沙は、アリスがきっと妖怪で、能力による再生の途中なのだと解釈する。

 

それを、怒りに顔を歪めるアリスは否定した。

 

「私は妖怪じゃないっ!誰が何と言おうと、アリス・マーガトロイドは人間だった魔法使いだ!!」

 

自らの肉体で作られた血だまりの上に立ち、部屋中に怒声を響かせたアリス。

その気迫にフランは純粋な恐怖を感じ、魔理沙は無意識に後ずさる。

 

「はなして!あなたキライ!」

 

フランはアリスの手を振りほどき、霧となって離れようとした。

そこで初めて、狭い結界にアリスごと閉じ込められていたことを知る。

 

ちなみに魔理沙は、文字通り部屋の隅で蚊帳の外。

 

アリスは、人間ならば即死しかねない妖霧に囲まれても動じる事なく、まず床に落ち赤く染まってしまった人形達を転送した。

何をするのかと紫が目を細めれば、アリスは結界内を瞬時に水で満たし、激流を起こす。

霧となっているフランは、瞬く間に一ヶ所へ集められそうになり。

 

「このっ」

 

次の手を打たれる前に、あまり直接的には力をふるえない霧状態から、元の姿に戻る。

激流に翻弄されながらも、能力で再び破壊するべくアリスの『目』を見ようともがくも。

 

「きゃあ!」

 

突然、水が消失し、床にぶつかる。

しかし流石に吸血鬼、痛みらしい痛みなど感じず、むしろ好機とアリスへ視線をやった。

 

「あぎっ!」

 

同時、フランの目は燃え落ち、この世ならざる可愛らしい顔に真っ黒い穴ふたつ。

レーザーと呼べる光の魔法により生まれて初めて両目を失ったフランは、ひどく狼狽えてしまった。

 

アリスは、ニタリと口角を持ち上げ。

アナタは、その調子だとカラカラ鳴いた。

 

「やだ、やだ、やだぁ!」

 

まるで癇癪を起こした幼子のように、酷く狭い結界内で、フランは有らん限りの力を振るう。

床も壁も調度品も、とっくに瓦礫だ。

それでも部屋が崩壊しないのが紅魔館。

フランも当たり前に傷を再生する。

 

するのだが。

 

 

何度再生しても、その度両目を潰される。

 

せめて正確な位置をと、視覚以外の手段でアリスの姿を捉えようとしても、魔法による妨害で霞がかったように判然としない。

ついでと言わんばかりに、美しい形の鼻も耳も、露出した肌も狙われ溶け落ちる。

 

魔法で凪ぎ払おうと羽を広げれば、遥かに強力かつ相性最悪な魔法をぶつけられ。

振り上げた拳は魔力の糸を絡めフラン自身の力を利用して切断される。

 

瓦礫を投げ付けようとすれば、多重化された槍状の攻撃魔法で、ボロボロの壁に縫い付けられ。

がむしゃらに放出した魔力弾に至っては、出した直後に跳ね返されフランを傷付ける。

 

「痛い、痛いよぅ!」

 

 

とにかくフランは傷付いた。

 

フランは思い出した、壊されるということがどれほど怖くて、辛いのか。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

切り刻まれ、転がされている最中にあって思い出した、今まで壊してしまったモノへの懺悔を、一心不乱に口にする。

 

 

 

「やめろーーっ!!」

 

すっかり戦意を失ったフランに、何ら変わらず苛烈な攻撃を続けるアリス。

そんな光景を前にして、霧雨魔理沙という人間は、黙ってなどいられなかった。

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