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コミカルな星が、カラフルな光が、アリスの結界へ降り注ぐ。
「こんにゃろう!」
人より太い光線が、あざやかに放たれる。
ファンシーな見た目からは想像もつかない威力でもって、アリスの結界は綻びた。
フランとアリスが派手に暴れていたせいもあるが、とにかく生じた綻びに、アリスはつい自嘲した。
結界の限界に気が付かず、外部からの単純な魔法で壊された自分こそ、よほど未熟ではないか、と。
「ぬがああああっ!」
愚直な程まっすぐに、自分を信じて魔力を纏い、突貫し。
無理矢理結界を突破してきた魔理沙は、客観的に見たらバカらしく映るかもしれない。
「すごい」
だがアリスには、とても輝いて見えた。
自分には無い情熱を感じた。
とても未熟とバカにはできない、人間の魔法使いがそこにいた。
「しっかりしろ、フラン」
「…まりさ?」
「そうだぜフラン、私は魔理沙だ」
攻撃が止み、再生したフランは光を無くした瞳に、魔理沙の背を見る。
「…霧雨さん、どういうつもり?」
「決まってんだろ?やり過ぎなんだ、アンタ」
魔理沙はミニ八卦炉をアリスに向けた。
頬に汗が流れる、いつアリスが殺しにかかってくるのかと。
悪くすれば、フランに殺される可能性だってある。
「というかまず、なんだ、アンタ体を再生したりとか、できるのか?まだ死んでないんだよな?」
「心配いらないわ、何とかなる。死んだと言えば、そうよ」
「だったら、もう…」
「私だから何とかなるけど。問答無用で殺しにかかるような奴よ?」
フランはビクリと震えた。
「だからって、同じ目にあわせようってのは違うだろ。それに、こう言っちゃなんだが、アンタはまだ生きてる…よな?」
「そうね、だからノーカウント?」
「アンタが来る前に話したから解る。フランはまだ子供なんだ、遊びと殺しの区別が曖昧だったんだ」
ピクリとアリスの眉が跳ねた。
「だから赦してやれとでも?」
「違う、教えてやらなくちゃいけないんだ。おいフラン!」
「えっ?」
「さっき、ごめんなさいって言ってたよな」
「あっ、あの、はい」
「なんで、謝ろうと思ったんだ?」
「…あの、その…」
「怒らないから、言ってみ」
魔理沙の優しい声色に、フランはしどろもどろ応える。
「…だ、だってね…フランね…とってもひどい、こと、しちゃってたから、その…」
「うん」
「おっ…お母さん、フランがされてヤなこと、まわりにしたら、だめだよって…フランやく、約束、ずっとずっと忘れちゃって…だから……」
「そっか。お母さんと、約束してたのか」
「…うん」
「なら、これからは、お母さんとの約束を守るんだぞ?」
「…うん!まもる、まもるからぁ!」
大声で泣き出したフランを背に、魔理沙はアリスに話しかける。
「なあ、アンタは確かに殺されかけたけどさ…」
「実際、殺されたわ」
「…フランはここの主の妹だ、何百年と生きる吸血鬼の一派だぜ」
「知ってる」
「あー、幻想郷の大妖怪たちは、スペルカードルールを無視して暴れる奴は八つ裂きにするんだ、自分達の住処を壊すことに繋がるからな。このままじゃ、アンタ、酷いことになる」
「そう」
顔色ひとつ変えないアリスの態度に、魔理沙はどうしようもなく膝が震える。
自覚はあるのだ、緊張のあまり上手く言えていない、自分でも何を言いたいのか…。
アリスが耳を傾けてくれているのが奇跡だと思う。
「だから、その…あー、お願いだ、考え直してくれ。だってそうだろう、私は外の世界を知らないけど、みんな居場所を無くしてここに来たんだろ?なのに好き勝手暴れて壊しちまったら、意味無いじゃないか」
アリスは、大きな溜め息をつく。
肺すらないのに喋ったり、胴体が再生したわけでもないのにどうやっているのか、魔理沙には解らない。
「霧雨さんは、とってもとっても、勘違いをしているわ」
「…なんだって」
「私は、殺す気なんて無いのよ。ただ、その…正直、落とし処というか…止め時が、わからなくって」
「えぇ…」
「だって仕方ないじゃない、いきなりあんな風にされたのよ、誰だって怒るわよ!」
「そりゃそうだけど…」
「それにね、霧雨さん。私、貴女と戦うわけにはいかないのよ」
アリスは、両手を広げ、肩をすくめた。
「…」
「鳩が豆鉄砲食らったような顔、というやつかしら」
「いやその…まあ、いっか。とにかく、続けないんだな?」
「約束するわ」
アリスの言葉と共に、魔導書はとじられた。
相変わらず宙に浮いてはいるが、発光などはおさまっている。
それを見た魔理沙は、警戒心こそ残しているものの、ミニ八卦炉を懐にしまう。
「それにしても。霧雨さんは、無茶をするね」
「バカとか言うなよ」
「バカとまでは言わないわ」
口を尖らせる魔理沙に、アリスは笑った。
「なんだよ、バカにすんな」
「いいえ、ごめんなさい。ただ、想像よりもよっぽど人間らしいんだもん」
「…アンタは、少し人間らしさに欠けてるぜ」
「それはそうよ、だって私、都会派魔法使い」
「魔法使いに都会も田舎もあるかよ」
クスクスと笑うアリスを、どこか悲しい目で魔理沙が睨む。
「…わっかんねーな、アンタ」
「へ?」
「あんな目にあって、すっげぇおっかなくなったのに、殺す気は無かったって言うし…体も、そのままなのに、平気で笑って。アンタ、何を考えてんだ?」
「それを語るには、早すぎると思わない?人間の魔法使いさん」
魔理沙は不敵にニヤリと笑う。
確かに、目の前の魔法使いは異常だし、背後でへたりこんだままのフランも恐ろしい。
しかし、魔理沙とて幻想郷の住人だ、似たような理解しがたい存在が沢山いるのだ。
チャンスだと、魔理沙は感じる。
ひとまずの危機は脱した。
次は、自らを高めるためでもある、関係の構築。
魔法使いは他者との関わりを、あまり持とうとしないがアリスは違うかもしれない、と。
人間などでは想像もつかない程の喧嘩をしても、最後には酒の席を囲む程度には落ち着ける。
それが、魔理沙が幼い日から夢見ている幻想郷の理想。
兄のように慕う半人半妖が、父と近況を語り合い、人間が恐れ戦く大妖怪と、母が菓子の好みをぶつけ合う。
アリスともフランとも、そんな風になりたいと魔理沙はねがっている。
普通に考えればありえない、しかしここは普通でない。
魔理沙の思考は、本人が気付かぬうちに常人の感性から離れていた。
「そうだな、都会派魔法使いさん。私は、霧雨魔理沙、魔理沙でいいぜ」
「私は、アリス・マーガトロイド、アリスでいいわ」
「それじゃあ、アリス。1枚だ」
魔理沙は、魔法によって様々な物を収納できる帽子の中から、スペルカードを取り出す。
「何を考えているの?」
「決まってる、とりあえず遊んでみるのさ…あたしがガキの頃、みんなこうやって仲良くなったんだぜ。アリスちゃん、あそびましょってな」
「…そっか。そういえば、そうだった。知らない子でも、遊ぶうちに仲良くなる事があるものね」
「ああ、そんなもんだ」
「まあ、私も、魔理沙と戦うわけにはいかないけれど。遊ぶなとは、言われてないのよ」
アリスが片手を明後日の方へ向けると、掌に小さな魔方陣が現れた。
それは光と共に一枚のスペルカードとなる。
「フラン」
魔理沙は振り返った。
泣きつかれて、座り込み、静かに事を見守っているフランへ笑いかける。
「よく見てろよ、今から私とアリスが、とびっきり楽しい遊びを披露してやるぜ」
「うん」
「でも魔理沙、ここは確かに地下室にしては広いけど、飛び回れるほどではないと思う」
「関係ないさ。狭いなら、こうしよう」
魔理沙は、たまらなく嬉しそうにカードを掲げた。
「正面切ってのぶつかり合いだ!」
アリスも、純粋な笑顔で応える。
「まあ、そうなるわね」
合図でもって弾幕ごっこは始められた。
致命傷には至らない光弾が花を咲かせ、ぶつかり合い、砕け散る。
色とりどりの輝きが、視界いっぱい躍り狂う。
「…きれい…」
フランは自分の前に毅然と立ち、自身の感性を信じて夢と希望に溢れた美麗な弾幕を放つ魔理沙をみながら、ポツリと口にした。
『見事なものだ』
神秘的かつ綺麗な光景を、ごまんと見てきたアナタも、素直にそう感じる。
だが、その幻想的な遊びは、あっという間だった。
見とれていたフランが、ふと気が付けば、床に大の字で寝転がるアリス。
「負けちゃった」
『アリス、聞こえるね?』
(先生、ごめんなさい、私…)
『良いんだ、目的は達したよ。もうじき限界だ、話は後でゆっくりするとしよう』
魔理沙はアリスに歩み寄り、手をさしのべる。
「また遊ぼうぜ、アリス」
「機会があればね」
その手にひかれ、体を起こしたアリスは、フランに目をやる。
「あなたも、フランドール」
フランは俯いた。
「私、もう怒ってないの。だから、次あった時は、血生臭い事じゃなしに弾幕ごっこをしましょうね」
フランは何も答えない。
魔理沙は、アリスに一言礼を告げてから、フランの手を引っ張った。
「ほら、フラン、元気出そうぜ。せっかくなんだ、遊ぼうぜ」
「でも、わたし、やり方がわからない」
「大丈夫、私が教えてやるさ。行こうぜ、こんな煤けたとこじゃ気が滅入る一方だ。外で弾幕ごっこの練習だ」
気まずそうに横目でアリスを見ながらも、魔理沙に手をひかれたフランは部屋を駆け出した。
手をふり見送ったアリスは、大きな溜め息ひとつの後に、意識を失う。
『紫』
仮に形成されていた胴体が消え、床にバラバラと転がるアリスや、独りでに封がなされた魔導書などを、紫は残さず一瞬で回収した。