キングギドラ、アリス、幻想郷   作:マンボー豆腐

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第6話

 

 

アナタと紫の前には、少々猟奇的な光景。

 

見ようによっては、素晴らしく芸術的でもある。

 

大量の血液、塵のように細かくされた肉や骨や服、頭などの原形を留めた部位、そして汚物。

 

さらに細かく分類することもできると紫は言うが、アナタはこのくらいで良いと言った。

 

「…本当に、助けなくて良かったのですね?」

 

『勿論、最初に決めたろう、文句は無い。アリスは迂闊すぎた。むしろ、手間をかけさせてすまないね』

 

「いいえ、協力していただいたのは、こちらですもの」

 

『そう言ってくれると助かるよ』

 

言いながら、アナタは魔導書とアリスの全てを、一口に飲みこんだ。

 

『おお、不味い不味い』

 

相手は恐るべき吸血鬼。

 

アリスが殺される可能性は高い。

 

依頼を受ける際、アナタはアリスを見殺しにすることや、死体の回収など、殺された場合の要望をした。

 

紫としては予想外だったが、アリスが失敗した時の引き継ぎや、被る損害への補償や賠償などを求めないなどなど、アナタが紫に都合の良い約束を次々交わすものだから、怪しいと思いながらも後戻りできなくなったのだ。

 

別にアリスを殺したいとかじゃ、ないからね…そんな台詞を言われたところで、紫は不安しか無かった。

 

アリスも、見放されたともとれるアナタの物言いに、なんら不満そうな素振りをみせず、紫の不信感に拍車をかけている。

 

『いや、今回の件はコチラにとっても都合がよかったよ。特に、アリスが死んだことはね』

 

やっぱり殺したかったんじゃない…出かかった台詞をぐっとこらえる。

 

「腑に落ちませんわね。可愛い生徒なのでしょう?」

 

『だからこそだよ。死んだ経験は得難い、きっと役に立つ。死ぬほど危険な状況から学べる事は多い』

 

アリスは魔法使いの道を歩んでいる。

 

日々の研究には危険が付き物だし、実践しなければならない事も増え続け、それら多大な労力の成果を狙う敵も増す。

 

自然、多くの魔法使いはリスクを極力避けるようになり、他人と関わろうとはしなくなる。

 

だがアリスは違い、得られる成果を優先する傾向があった。

 

素晴らしい才能を凄まじい研鑽で形にした先達ばかりを見てきた、才能に恵まれていないアリスなりの、努力の仕方。

 

それを支えるアナタは怪獣だ、人間とも妖怪とも、死生感が違うのだ。

 

アナタは、アリスに教える立場の一人として、今回の死を素直に喜ぶ。

 

これが例えば、なぶり殺しであったなら、話は変わってくるのだが。

 

『もっとも、死なずに済むのが一番良いのだけど』

 

「フムン、そういう事でしたの」

 

『納得したのかい」

 

「ええ」

 

表面的にはそう振る舞う紫は、アナタに微笑みかけながら、部下の八雲籃との会話を進めている。

 

アナタには見せていない、レミリア・スカーレットと博麗霊夢の勝負も余さず見ていた。

 

霊夢に敗れた紅魔館の主と事後処理を話し合う段になり、紫はアナタとも話し合うため後日会う約束を取り付け、別れた。

 

 

アリスの家の庭に送り届けられたアナタは、さっそく体内でアリスの蘇生を始める。

 

とはいえ、見た目には何ら動きがないので、ただ休んでいるようにしか見えないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色とりどりの、グローバルな花畑が地平の彼方まで続いている。

 

見渡す限り、建築物は白い壁の立派な洋館のみ。

 

地平線を隠す針葉樹林や、雪をいただく遥かな山並みとあいまって、幻想的だ。

 

アリスは、この景色をとても懐かしく感じる。

 

「あら。おまえ、また来たの」

 

振り返ると、若く美しい女性が日傘をさして微笑んでいた。

 

背後から声をかけてきた、萌える新緑のような心地好い髪色の女性と、アリスは何度も会っている。

 

彼女は、幽香。

 

姓は、無い。

 

 

「いらっしゃい、せっかくだからお話しましょうよ」

 

アリスは幽香に手をひかれて、館に招かれた。

 

たしか夢幻館といったか…と、アリスは記憶を掘り出す。

 

夢幻館は広い、紅魔館と比べ外見的には小さいのだが、中はよっぽど混沌としている。

 

壁と天井の区別は曖昧で、階段は上階行きか下階行きかのぼりきるまで分からず、足元には時たま沢山の眼があらわれる、いやらしい。

 

そんな、悪い夢の中に迷いこんだかのような内部は、まさに名前の通りだと感じる。

 

屋敷の主が、直々に手をとり案内するからだろう、館で奉公している者達の嫉妬らしき視線を感じながら歩いていたアリスだが、気が付けばテラスで席につき、幽香が湯呑みに緑茶を注いでいた。

 

狐につままれた気分だが、途切れ途切れに夢を見たときのような感覚でもある。

 

とにかくそういう場所なのだろうと、深く考えないようにした。

 

「新茶よ~、とっても美味しいお茶なんだから」

 

眼下の広大な、西洋的情緒を感じさせる景色には、ひどく似合わない。

 

しかし茶は美味しい。

 

アリスは素直に喜んだ。

 

「それにしても、久しぶりね。今も住処は魔界なの?」

 

最近、幻想郷という場所に引っ越した事を告げると、幽香は両手をあげ万歳三唱。

 

「ぃやった~。そっかそっか、あそこか~」

 

訳が分からずキョトンとするアリスへ、幽香は満面の笑みでお願いがあると言い出した。

 

「あのね、幻想郷には、わたしの分身ちゃんが住んでるのよ。その子に渡したい物があるんだ!」

 

その分身ちゃんなる少女の特徴は、天狗の新聞に書かれていた妖怪と合致。

 

今さらではあるが名前にも気付いたアリスは興味がわいた。

 

「頼まれてくれる?ありがとう、ありがとう!」

 

幽香が何処からともなくとりだし、テーブルに置いたのは鉢に植えられた、蕾の先が既に真っ赤な、小さい薔薇。

 

「これはね、うんと特別なバラなの。気になる?気になっちゃう?」

 

頷くアリス。

 

懐かしそうに、そして寂しそうに、幽香は語る。

 

「あれは、とにかく随分昔の事。当時、まだ若かったわたしは、恋をしたの」

 

アリスは目を丸くした。

 

幽香は、意外かしらと首をかしげる。

 

「…でも、それは横恋慕ってやつでね。彼と彼女の両方とも仲の良かったわたしは、辛かったけど、割り込もうとは思えなかったわ」

 

バラを優しく撫でながら、幽香は茶を啜る。

 

今一つ絵にならないと思いながら、アリスは続きを促した。

 

「二人は、とっても幸せそうで、見てるこっちが笑っちゃうくらいに仲が良かったの。わたしが妖怪だと知っているのに、わたしとも本当仲良くしてくれた。でも…二人は、所詮人間だった」

 

幽香の瞳が、悲しく揺れた。

 

「人間だったから、あんまりにあっけなく、彼女は死んでしまったの。彼を残して、若くして。わたしも、当然彼もひどくうちひしがれたわ」

 

アリスは喉を潤すことも忘れ、幽香を見つめる。

 

始めてみたのだ、普段太陽の如く明るい幽香の、どうしようもない表情は。

 

「わたしは妖怪で、時間が解決してくれると思っていた。けど彼は諦めきれなくて、御願いされたわ、どうか彼女を…」

 

幽香は何かを誤魔化すように、グイと湯呑みを煽った。

 

「わたしは、彼の望みを叶えてあげたかった。でも所詮は妖怪、あれこれ試してみたけれど…結局、できたのはこのバラ。優しい彼は受け取ってくれたけど、納得はいかなかったみたいね、当然だわ」

 

アリスはバラをまじまじと見た。

 

花の専門家ではないので当たり前だが、ただバラとしか解らない。

 

「…このバラは、彼女の一部が宿っているのよ」

 

だから枯れない、そう言われたアリスだが、やはりバラはバラだった。

 

「そして、彼が死んだ後、わたしは彼の一部も宿して自己満足を得たのだけどね。まいったことに、わたしの乙女な恋心はどうにも納得できなかったのよ…だから、拗ねて分裂しちゃった」

 

いたずらっぽく舌を出し、おどけてみせる幽香に、アリスはクスリと笑った。

 

幻想郷の多くから、腫れ物扱いされている底知れない妖怪の、なんと詩的な事か。

 

「あの子ったら、きっと今でも引き摺っているんだわ。そんな気がするの。わたしも、可哀想だと思って預かっていたのだけれどね…良い機会だわ、いい加減あの子も大人にならなくっちゃ」

 

御願いされたバラを手に取り、色んな角度から観察してみるアリスを、幽香は微笑ましく眺める。

 

「…ねえ、おまえはどうなの?少しは大人になれたのかしら」

 

アリスは苦い顔でバラを置き、茶を啜って誤魔化した。

 

幽香は露骨に溜め息。

 

「まあ、仕方ないといえば、そうよ。おまえ…いえ、おまえたちが形成しているアリス・マーガトロイドは、それなりに難儀な事情があるのだもの。ゆっくり頑張りなさいな」

 

気まずく、目をそらす。

 

その先には、遥か古代の地球に繁栄していた植物が、青い薔薇と仲良く空を仰いでいた。

 

「わたしも、時間が掛かったわ」

 

氷河期はもう懲り懲りよ、そういって苦笑いする幽香が、いつ頃大人になれたのか、アリスは聞くに聞けないままである。

 

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