キングギドラ、アリス、幻想郷   作:マンボー豆腐

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第8話

 

草木も眠る丑三つ刻、昔の人はそう呼んだ。

別に、先人に倣うわけでないが、幽香は規則正しく睡眠をとるようにしている。

もっとも、人間より遥かに短い時間だが。

 

パステルカラーのパジャマに着替え、意味もなくナイトキャップを被り、枕を抱え赤子のように丸まって眠るその様は、少女然とした可愛らしいものである。

 

「…!」

 

そんな、穏やかな夜、幽香は突如飛び起きた。

 

強力な妖怪の鋭い危機察知能力が、温室がわりの一室に何かが起きたことを捉えたのだ。

一瞬だったが、夥しい量の妖力も感じた。

 

「何が」

 

幽香が部屋に飛び込んで、目にしたのは、まず割れた植木鉢。

それには枯れないバラが植えられていた。

しかしバラは見当たらない。

 

次いで蒸発するように消えていく三人の妖精。

悪戯好きで有名な彼女らだが、幽香の知る限り、自滅するような危険行為はしない。

 

近寄ろうと一歩踏み出すと、小石を踏んだ感触。

つまみ上げてみれば、それは陶器らしき破片。

 

「なんなの…」

 

ともかく、バラはどうなったのかと、感覚を研ぎ澄ませればすぐに気配を掴んだ。

 

外を移動している。

 

吹き飛んでいる窓から身を乗り出すと、人間よりも大きな何かが引きずられたように、向日葵が薙ぎ倒されていた。

 

その跡は森へ続く。

何がどうなっているのか解らないが、とにかく何者かがバラを奪い逃走しているらしい。

 

暫し呆然と外を眺めていた幽香は、やがて思い出したかのように慌てて身支度をし、応急的に窓を塞いだ後、深夜の空へ飛び出した。

 

「どうしてよ」

 

気配の移動速度は増すばかり、進路もあちらこちらへと、定まらない。

気配の位置だって大まかな範囲でしか捉えられない。

 

「どうして、どうして、どうして」

 

幽香は、空を飛ぶのは得意でない。

目標になかなか追い付けない苛立ちが募り、理由はさておき、このような事をした者に怒りがわく。

 

「いつも、そう。誰も彼も、私は何もしていないというのに」

 

思い浮かべたのは過去に襲いかかってきた妖怪達。

つくづく、理不尽だと吐き捨てる。

 

幻想郷の人間は、多くが幽香を恐れているし、妖怪も幽香を凶暴強大な妖怪だと思っていた。 

 

だから何度も何度も何度も、彼女を倒し名を上げようとする妖怪に襲われた。

 

「何故に私を狙うの、何の意味があって嫌がらせをするの」

 

幽香は、命を奪い合う戦いをするのは好まない。

 

そういう時期も確かにあったが、今の幽香は穏やかに暮らしたかった。

 

だというのに、声をかければ凍り付き、ただ歩くだけで牙をむかれる。

 

スペルカードルールが作られて以後、それに適応できない妖怪が、満足の得られる死闘とやらを求めて幽香を訪ねることが増えた。

 

迷惑でしかない、自分勝手な妖怪達は当たり前のように花を踏み越え、何を思い込んだか踏みにじることで挑発する。

 

「もうウンザリだわ。原始的な本能しか頭にない獣の方が、どれだけマシなことか…愚劣な下等妖怪どもめ…」

 

そんな妖怪達を悉く返り討ちにし、しかし尚訪れ続ける妖怪達に悩まされ。

 

後腐れのないよう無慈悲に息の根を止めたり、見せしめになぶってみたりしてみたが、結果、幽香は悪循環に嵌まってしまっている。

 

頭をかきむしりたい衝動にかられ、堪え、意地になって目標を追ううち、目標は止まった。

 

(…なに?)

 

直後、目標を中心に森の木々が次々と枯れていく。

同時に、バラの気配がよりはっきりと掴めるようになっていった。

 

そこで幽香は気付く。

 

 

バラを持ち運んでいる、と思い込んでいた者の気配が、バラの気配と共に濃くなっている。

 

「まさか」

 

別々ではなく、ひとつのものであったのだ。

 

幽香は急いで降下、しかし人の腕より太い、触手じみた蔦が何本も猛然と伸びてきて、それを打ち払っている僅かな時間。

 

完全に混ざりあった気配は、地鳴りを立てながら地中へと潜ってしまった。

 

 

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