ハイスクールD×D イマジナリーフレンド 作:SINSOU
突然の乱入者にその場にいた全てが動きを止めた。
その場にいた全てが、たった一人の少女に目を奪われていた。たった一人の少女から目が離せなかった。
その少女は学園校舎の玄関口に立っていた。その少女は駒王学園の制服を着ていた。その少女は黒い髪を肩にかかるほどに伸ばしていた。その少女はただの一般人だ。ただの人間で、駒王学園の女子生徒でしかなかった。
それは酷く場違いで、理屈すら通らず、それこそ舞台の端役でしかない存在だった。
今この場にいる存在は、悪魔、天使、堕天使、人間の魔法使い、そして・・・ただの人間が一人。
少女以外の超越した人外たちからすれば、彼女は取るに足らない存在だ。吹けば飛ぶような矮小な存在だ。仮に彼らが悪意を持って少女に襲い掛かれば、たちまち少女はただの肉塊になるだろう。それほどまでに少女と人外たちとの差は明らかだった。なのに周りは彼女から目を離せなかった。
少女の名は夢殿ことな。
駒王町に住んでいる、ただの駒王学園2年生だ。先生や生徒たちに沢山の頼みごとをされ、それを引き受けてしまうお人好し。学園内を走り回る姿は有名だ。基本、彼女が怒った姿を見た人はいない。ゆえに、誰もが彼女を頼ってしまう。いわば、縁の下の力持ちのような存在だ。
身体的特徴を上げるとすれば、そのすらっとした、なだらかな体型。その姿にコンプレックスを抱き、巨乳滅ぶべしと心の中で呪い、胸に効果があると聞き、苦手な牛乳をがぶ飲みした経緯がある。もちろん、その後は腹痛に苛まれた。
学力に関しては、本人は学ぶことに意欲的で、様々な本を読んでいる。それゆえか、教科書に載っていないような知識を披露し、同級生を驚かせもした。それだけだ。
そう、夢殿ことなはあくまでも一般人であり人間だ。人間でしかない。
それ故に、平凡を形作ったただの少女が纏う異様さに、誰も彼もがことなを見つめていた。
ことなは黒い靄を纏っていた。彼女の周りを黒い靄が蠢いていた。
まるでことなを護るかのように彼女の周りを漂い、呼吸をするかのように鳴動していた。
夢殿ことなの表情は読むことができない。彼女は首を下げ、前髪が彼女の顔を覆っているからだ。また周りに漂う靄も相まって、彼女の表情は、彼女の顔が判断できない。
「こと・・・な?」
ことなの立っている場所からほんの数メートル離れているリアスの口が開いた。だが、ことなからの反応はない。リアスは、目の先にいることなの姿に、どうしようもない不安を感じていた。目の前の少女からにじみ出ている異質さに、リアスはさきほどの会議のことを思い出す。自分には見えなかったが、あの時アザゼルと対峙したことなの姿と、今の彼女の印象は同じだ。いや、むしろ今の方が酷い。会議の時は、一見何もないように見えて異質さを感じた。だが今は、異質さが見えているというのに、ことなの印象は全く変わっていない。ただの人間だ。
ゆえに、異様なのだ。
リアスは目の前のことなに向かって走り出したかった。自身の眷属である木場や小猫はどうしたのだと、なぜ二人はここにいないのと問いただしたかった。ことなの肩を揺さぶり、しっかりしなさいと声を荒げたかった。
でも、リアスの両足は動かない、動かせない。まるで自身の足が石膏になってしまったかのように、見えない糸で地面に縫い付けられたかのように、動かない。
リアス以外も同様で、その身を動かすこともせず、ただことなを見ている。だが、その視線はまるで・・・。
『一つ、聞いてもいいですか?』
夢殿ことなが言葉を発した。その声は酷く平坦で、感情を感じることができず。まるで単なる音のような声だった。
『先ほど、私はある言葉を耳にしました。それはとてもとても看過できるような言葉ではありませんでした。その言葉は今でも私の頭の中にこびりつき、へばりつき、がんがんと頭の中で反射し続けています。ええ、決して聞き間違いではないと思います』
ドクンと、靄が鳴動した。
『はっきり言います。その言葉は軽はずみで言っていい言葉ではないんです。それの言葉は私にとって、決して、決して軽く流していい言葉ではないんです。だから私は問いただしたいんです。どうしてその言葉を言ったのか?どうしてその言葉を口にしたのか、発したのか。それを聞くためにこの場に来てしまいました』
鼓動が早くなる。
『ええ、怖いです。私の目の前に繰り広げられていることに、私は怖いです。嫌です。はっきりって意味が解りません。いったいこれは何の冗談なのかと言いたい気分です。でも、いくら目を閉じても、耳を塞いでも、それでも感じてしまうんです。どいつもこいつも殺し合いやがって、はっきり言って迷惑です。そもそもなんでこんな場所でおっぱじめるんですか。なんでこんな町でやっているんですか。ああ、許せない許せないユルサナイユルサナイ・・・』
ことなの体が震えるが、それを抑え込むように彼女は自身の体をきつく抱きしめる。
『ごめんなさい、話がそれてしまいました。ですから、私はこの場にいる皆さんにお聞きしたいんです』
鼓動が止まる。
『この街の人間を殺す、この言葉を発した人は誰ですか?』
『人間の悪意こそが、この世で一番の邪悪だと思うわ』