Muv-Luv ユウヤ・ブリッジスの第二な人生 作:nasigorenn
住めば都の何とやら………もうすっかりこっちに馴染んだ。
そのお陰もあって今の俺は完璧にただの大学生と化してる。いや、勿論前の記憶だって今でも鮮明に思い出せるし、向こうの奴ら事だって心配はしてる。でもなぁ………向こうに戻る手立てだってないし、それにこっちにいる奴らだって大切なんだ。どっちかしか取れないってのは分かってる。だけど戻れない現状俺にとって大切なのはこっちなんだよ。
それに…………やっぱりさ、こっちの唯依に悲しんで欲しくないんだよ。俺がもしいなくなるとしたら、アイツは絶対に泣き出して行くなって言うだろうからなぁ。
まぁ、そんなわけで俺は今の生活を受け入れている。それに考え方を変えればかなり良いと思えるんだよ。よくよく考えてみれば俺のそれまでの人生ロクな事が無かったろ。オヤジの所為で日本嫌いを拗らせて学生時代は虐めばかりだし家に帰ればママが滅茶苦茶心配してくるし、その上祖父からは虐待を受ける。その全てが嫌になって仕方なくて毎日喧嘩に明け暮れる日々。
軍に入れる年齢になると供にママの反対を押し切り強引に軍に入り、そこで自分の価値を示す為に常に気を張り続けながら腕を磨いてきた。その結果がやっぱり部隊内での亀裂となり喧嘩に発展。そんな事を繰り広げながらも確実に手柄を立てていき昇格全てする年月。同じ日本人の血をひくクゼの野郎と犬猿の仲になり、そんな俺達をシャロンが宥め、そしてヴィンセントが俺と一緒に馬鹿をしてくれていた。
後半はまだマシだがこうして振り返れば俺は学生らしい日常ってもんをまったく過ごしてなかったんだ。
だから今、こうして今までのことを取り戻すように楽しい日々を過ごすのは決して間違ってないと、そう思えるんだよ。
惚気とか言うなよ…………だってさ、唯依と一緒に笑い合える日々なんだぜ。そりゃ楽しいに決まってるだろ。
この日、大学の講義が早めに終わった俺はこれから下校する唯依と合流することになっていた。サークル活動もあったんだが今日の活動にドライバーは必要ないらしい。ヴィンセントの奴が目を燃やしてやる気を見せていたよ。マシンの改良に関してドライバーの意見ってのは改良が終わった後の慣らし運転で初めて起用されるもんだからな。改良が終わるまで俺等は暇なんだよ。
そんなわけで暇を持て余していた俺はどうしようかと考えていた所を携帯電話で唯依に呼び出されたのだ。
暇を持て余している身としてはありがたいし、何より唯依からの呼び出しだ。嬉しくないわけがない。
だから俺はその連絡を受け次第にアイツの通ってる高校へと向かうことにした。距離自体そこまで離れてないからな。歩きで向かえば20分程度で付くだろう。
そして歩くこと20分弱…………高校の校門にて唯依が待っているのを見つけた。
「待たせたな、唯依。悪い」
どれだけ待ってたのか分からないが、こいつのことだ。どうせ俺に連絡を入れた時点で既に待ってたんじゃないか? だとしたら結構待たせちまったことになる。
唯依は俺の姿を見ると可愛いくらい顔を輝かせて俺の方に小走りで来た。
「いえ、そんなことないです。私も今来たばかりですから」
「そうか、でも少しは待っただろ。だから悪かったな、待たせちまって」
「大丈夫ですよ、本当に来たばかりですから。それに…………」
そこで唯依は言葉を切ると、顔を赤らめながら少しばかり俯く。
「な、なんかこういうの………デートの待ち合わせみたいじゃないですか」
「そ、そうか………」
改めてそう言われると此方も頬が熱くなってくるのを感じる。気恥ずかしいしもどかしい感じがするけど、そんなことを言う唯依が恥ずかしがっていて可愛いだけに見入っちまう。
そんなもんだからお互いに照れちまって目が合わせずらい状況に。
だがそんなことをしてれば当然周りからの注目を集めちまう。何せここはまだ校門前なんだからなぁ。
『ねぇねぇ、あそこにいるのって確か二年の篁さんじゃないの?』
『何々、もしかしてあそこにいるのが恋人なのかな?』
『大学生かな? しかも日本人じゃないみたい! 更に格好いい!!』
そんな声がヒソヒソと周りから聞こえてくる。それが余計に唯依の顔を真っ赤に染めた。
「と、取り敢えず行きましょうか、ブリッジスさん!」
「あ、あぁ」
きっと恥ずかしかったんだろうなぁ、唯依の奴。耳まで真っ赤にしてたよ。
でもそれで俺の手を掴んで急いで早歩きすると余計に周りからヒソヒソと言われることに気付かないのはこいつがテンパってるからなんだろうなぁ。
でもまぁ………可愛いからいいか、そんな唯依の顔を見れるだけでも役得だしな。
そんなわけで唯依と一緒に帰る事になったのだが、真っ直ぐは帰らずに寄り道することとなったわけだが、唯依にしては珍しくゲームセンターという選択に俺は内心驚いていた。唯依はてっきりこういう場所は宜しくないというかと思ったからなぁ。真面目なこいつにとってこういう所は風紀も乱れた場所だと認識してると思ってたから。
そのことについて聞いてみると唯依はイタズラをする子供みたいな顔で答えた。
「確かに風紀的には良くないですけど時間を守っている分には危ない目には会い辛いですし、何より今はブリッジスさんがいますから。ブリッジスさんならそういうことから絶対に守ってくれますから…………ね」
そう暖かな笑顔を向けながらそういわれてもなぁ………クソ、可愛くてドキドキしちまったよ。しかし、こうも頼られたら男としては応えねぇとなぁ。何、こう見えても元は軍人だ。チンピラ程度に負けるほ柔じゃねぇ。来るなら来て見やがれ。そん時は軍隊仕込みCQCを見せてやる。
そんな事を考えながら唯依とゲーセンの中を回っていく。改めて思うがやっぱり平和なのって凄いな、マジ。あっちじゃこんな娯楽はなかったからなぁ。あっちじゃBETAのせいでそういう発展にはまったく力が込められなくなったからな。酒か煙草か国営放送やら何やらと娯楽があまりなかった。
そういうこともあって俺にとってもゲーセンという場所は知識はあっても初めての場所なんだ。正直ドキドキしてるが餓鬼みたいにハシャいじまうと唯依に笑われちまう。だから『今回は』辞めておこう。一人の時に新ためて遊びに行きたい。
さて、そんなゲーセン初心者の俺達なわけだが何故ここに来たのかと言えば、何でも唯依が欲しいものがあるんだとか。それが景品としてあるらしく、それにチャレンジしたいんだと。
そしてその景品が置かれている筐体の前に付いた俺と唯依。その景品とやらを見た途端、俺は悪寒が走り生理的嫌悪をそれに抱き唯依は何やらハシャいでソレを指さしていた。
「見て下さいブリッジスさん! レーザー級さんですよ、レーザー級さん!」
その景品とやらはオレ達戦術機乗りにとっての天敵であるBETAのレーザー級………のデフォルメぬいぐるみであった。
うん、予想はしてた。相棒がバイクになったりしてたくらいだ。何かしらの形でこのクソ共もナニカになっていると。それがまさかぬいぐるみとはねぇ………キモチワルイ。
そんな事を思いながら唯依に問いかける。
「なぁ、唯依………これ……欲しいのか?」
「はい、何というかキモ可愛いじゃないですか!」
その感性がおかしいのか俺がおかしいのか、正直よくわからない。オレにはどうみてもキモチワルイ目玉野郎にしか見えないんだけどな。
そんなことを気にせず唯依はこの『UFOキャッチャー』とやらに金を入れてチャレンジするのだが……………。
「むぅ~~~~~~~~、難しいです」
かなり失敗しまくっていた。もうそろそろ二千円くらいトぶんじゃないだろうか? これ以上するとこいつの小遣いに問題が出ると思うし何よりも両親にバレたら酷い事になりかねないな…………はぁ、仕方ないか。
俺はそう決めるともう一回金を入れようとしていた唯依の手を止めた。
「ブリッジスさん?」
「これ以上使うと色々とまずいぞ。だから後は俺が手に入れてやる。待ってろ、唯依」
「ブリッジスさん…………」
唯依が何やら熱の籠もった視線を俺に向けて頬を赤らめている。そんな唯依の視線を受けながら俺は金を入れる。そしてオレがやると…………………。
「…………とれた」
何故か一発で取れた。特に難しくなかったぞ? 何で唯依はあんなに手こずってたんだ?
そう思いながら唯依を見ると唯依は何やら悔しそうな羨ましそうな、そんな複雑な顔をしていた。まったくもって不器用なのか器用なのかわからない奴。
そんなことを思いながら俺は手に入った目玉野郎を唯依に渡した。
「ほら、とってやったぞ。まぁ、なんだ…………プレゼントだ」
そう言うと唯依の奴は顔を真っ赤にして俯きながら渡した目玉野郎をギュッと抱きしめた。
「あ、ありがとうございます! これ、絶対に大切にしますね」
ここ一番に可愛い笑顔に俺はクラっときた。やっぱりこいつは可愛い。だからこそ、俺は唯依の胸に押し潰されてるやつに内心語りかける。
(向こうじゃ厄介すぎるクソだったがこっちならまだ多少は役に立つクソだったよ、お前は)
こうして唯依は欲しかったものを手に入れて満面の笑みを浮かべて大層喜び、俺はそんな可愛い唯依を見れて気持ちが充実していた。