Muv-Luv ユウヤ・ブリッジスの第二な人生 作:nasigorenn
今目の前にあることがまったく理解出来ない。
何で俺がこんなところにいて、どうして中尉は俺に対しいつもとまったく違う対応をしているのか?
分からないことだらけで頭がパンクしそうだ。
とりあえず今まで覚えていることを整理してみよう。
1、俺の名前はユウヤ・ブリッジス。アメリカ陸軍・戦技研部隊所属で国連軍アルゴス試験小隊に転属されてきた。階級は少尉。
2、俺の任務は「XFJ計画」の試験機であるXFJ-01a「不知火・弐型」の完成。
3、基地をテロリスト共に襲撃され、そいつらの所為でBETAが更に襲ってきて、それで俺は……………。
「あれ? 覚えてない。いや、死ぬ間際までは何とか覚えてる」
そう、最後に盛大に自爆してやろうとしてスイッチを押したのは覚えてる。
でもその先からがおかしい。あの距離で自爆して助かるはずがないのに、どうして俺はこうしていられるんだ? そもそも、さっき『中尉』はなんて言った?
『ここは日本で私、『篁 唯依』の実家です』
日本? 一体俺はいつ日本に移動したんだ?
どう考えてもおかしい。死んだはずなのにこうして生きていて、しかも一度も来たことのない日本にいる。
駄目だ、頭が痛くなってきた。
そう思ってると中尉………いや、本人曰く階級なんて気にしてないのか普通に名前で呼んだ方がよさそうだな。唯依が何やら心配そうな目で見てきた。
あまり心配させるもの悪いし、とりあえず起きるか。
動けば少しでもこの奇妙な状況も少しは動くだろ。
そのために………これは所謂『布団』って奴か? 以前日本について調べた際に出てきた寝具の知識で確認し、それを身体から退かす。
すると突然悲鳴が上がった。
「キャッ!? ぶ、ブリッジスさん、何で寝巻を着ていないんですか!!」
悲鳴の発生源を見ると、何やら唯依が顔を真っ赤にして両手で目を覆っていた。
そう言われて気が付いたんだが、今の俺の格好は上半身裸に下がトランクスという格好だ。別に驚いたりするようなことじゃないと思うんだが?
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「どうしたじゃないですよ! ちゃんと寝巻を着て下さい!」
何故か唯依はさっきと同じく目を両手で隠したままそう言うが、よくよく見たら指の隙間から瞳が見えている上にやけに俺を見ていた。
何がしたいのやら?
とりあえずこのままにして置くのもなんだし、言われた通り着替えるか。
「まぁ、とりあえず着替える」
「そ、そうして下さい!」
唯依は俺にそう言うなり凄い勢いでこの部屋から出て行った。
その様子を見つつ気がついたが、この部屋は所謂『和室』というものじゃないか?
確か日本のある古くから続く伝統的な部屋だと記憶している。
XFJ-01a「不知火・弐型」の完成のために剣術について調べた際にそういった知識も学んだ。だからなんとなくだがわかる。床にあるのは畳で、先程結衣が開けて行った鍵の無い木と紙で出来たドアが障子。うん、記録にあった通りだ。
そんな部屋を改めて見回し、やっと部屋の全貌が知れた。
畳の和室に布団、そして少し離れた所に簡易型のデスクがあり、後はクローゼットか? まず一通りは揃っているみたいだ。
なのでクローゼットから適当に服を取り出すんだが、どれもこれも普通の服だ。
いや、普通の服があることは問題じゃない。気になったのは、その中に国連軍士官の制服もアメリカ陸軍の制服もなかったことだ。
アレらは一応ちゃんと管理していたはずなんだけどなぁ。そして更に気付いたが、BDUもフライトジャケットも何もない。軍隊に所属している人間なら必ず持っているはずのものが一切ないのだ。
だからこそ、余計に混乱しそうになる。
だが、このままでは何もわからないままだ。今の俺には圧倒的に情報が足りなさすぎる。今の置かれている状況を打開するには、情報収集が最優先だ。
だから服を着て唯依に話を聞かなきゃな。
と思って手にとったシャツを見たんだが、その途端に俺の顔が固まった。
「何だ、このシャツは?」
真っ白いTシャツなんだが、そこに書かれているのが今までの俺だったら間違いなく神経を逆撫でされるような言葉だった。
『I love 日本♡』
今ではそこまで酷い拒絶感はないが、それでもこのあからさまなのは馬鹿にしているとしか思えない。
だが、それ以外を探すのも時間的に限界かもしれない。
そう思うと俺は仕方なくそのTシャツを来て襖を横に移動させ、そして部屋の外に出た。
その先にあったのは木で作られた廊下。外側には確かにガラスによる窓が付いているが、それでも俺はこれが木で出来たものだと思った。
その廊下を歩いていき、人の気配がする方へと向かう。
しばらくすると和室から普通の部屋になったのかドアが見えてきた。
そのドアに軽くノックをしつつ扉を開けると、これまたおかしなものを見た。
「あら、やっと起きたのね、ユウヤさん」
俺に向かってそう言ってきたのは、唯依に似た黒い髪をした女の人だ。
着物を着ていて上品な感じだ。見た限りだが、唯依の姉か何かか?
そう思ってついつい目を向けてしまっていると、今度はテーブルにいる男が朗らかに笑ってきた。
「おはよう、ユウヤ君。よく眠れたかい?」
男の方は何と言うか、凄く朗らかな感じだ。
常に笑顔が絶えないって感じで俺に微笑む。なんだか妙な感じがしてきた。
その所為なのか妙な緊張を感じていると、奥のキッチンから唯依が出てきた。
手にはトレ―があり、その上には何やら料理が置かれている。
「あ、やっと来たんですか、ブリッジスさん。もう~、待ってたんですよ」
頬を膨らませながらそう言う唯依。
その幼さを感じさせる様子が知っているはずの唯依なのに新鮮に感じてしまう。
そんな唯依の様子を見て、先程挨拶してきた女性が朗らかに笑う。
「あらあら、唯依ったらすっかりユウヤ君に懐いてるわね、出会った最初は寧ろ怖がってたのに」
その言葉に唯依が顔を真っ赤にして慌てて反論する。
「もう、お母さん、何言ってるの!」
何、お母さんだと? つまりこの人が唯依の母親ってことなのか? どう見ても唯依の姉にしか見えない。日本人ってのはあまり見た目が変わらない人種なのか?
そんなことを考えていると今度は男の方から声が掛かる。
「唯依、お母さんに図星を指されたからといって慌ててはいけないよ。それにそれはユウヤ君の朝ご飯だろ? 冷めないうちに彼に渡さないといけないんじゃないかい?」
そう言われ唯依は慌てて俺の方にそのトレ―を運び始める。
「お父さん、一々そういうこと言わないで!」
「そうは言っても、言わなかったらお母さんにくっついたままだったろ」
「むぅ~~~~~~」
その会話から男が唯依の父親だということが分かった。
これが唯依の両親か……………。
まさか唯依の親に会えるとは思わなかった。余計に頭は混乱するが、それでも悪い気はしない。
それに何よりも、唯依が持ってるトレ―の中身から発せられる香りに俺の腹が鳴った。
今初めて気付いたが、どうやら俺は空腹らしい。
だからまず、俺がすることは少しでも朝食取ることのようだ。
「ブリッジスさん、どうぞ」
「あ、あぁ」
受け取ったトレ―の中にはトーストとコーヒー、それにスクランブルエッグが乗っていた。
その朝食を持って唯依の父親と同じようにテーブルの席に着く。
そして皆が揃ったところで唯依が両手を合わせた。
「それでは、いただきます」
その言葉に両親も同じように両手を合わせて同じ言葉を言う。
俺もそれを真似して同じように言葉を言った。
「いただきます」
そして最初に口に入れたスクランブルエッグの味はとても優しく、困惑している俺を癒してくれるような味だった。
とりあえず分かったことは、ここが唯依の家で親がいるってことだ。