「軍師どの!軍師どのぉぉぉぉ!!」
ドタドタと回廊を爆走しているのは瑛官吏。国試を第七位で突破した能吏なのだが、どこか抜けていて、それでいて憎めない人。
それがヒスイの評価である。あの真っ黒くろすけオジサマに言ったところ、
「お嬢にしちゃ、高評価だな」と珍しいものでも見たように言われてしまった。
「わぁ、お疲れ様です?」
「何故に疑問形なのです軍師どのぉ。」
「えー面白かったから?」
「ううう、州牧が何処にいらっしゃるかご存じですか?」
明日までの書類が丸々二山残っているのです!!と縋りつかれた。もはや涙目である。
哀れ、瑛官吏。
「えー…さっきふらりと窓から出ていった様なので、あと二刻は戻らないんじゃ無いですかね。」
言えば言うほど瑛官吏の顔が白くなっていく。白を通り越して青、から紫色に変わってきた。
「今日が私の命日となるのですね…」
ふふふふふ、と不気味に笑いながらふらふらと彼は暗がりへと消えていった。
哀れ、瑛官吏。(二回目)
(そういや、州府に私がいても何も言われた事、ないな。)
国試は女人禁制。故に、私は資蔭制で入った。資蔭は性別を明記していない。その穴をついた。御史台は貴族派の旺季様派だから、黙認してもらっている。
彼らは私をきちんと見て測ってくれる。
故に、私は私として、自分の居るべきところに立っていられるのだ。
(それにしても、陵王様はどこに行かれたのか…皆死にそうな顔してるのに。)
「……あ。」
何処にいるか、わかった。
全く、あの人は自由過ぎて困る。やる時はやるが、逆に言えば、あの人が本気になるのは有事の際のみ。
「まぁ、だからこそ皆、なんだかんだ言いつつ、着いて行くのでしょうねぇ……」
さて、いざ往かん。藍家へ。
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「失礼致しますよーっと」
ガタガタと半蔀をあげてするりと邸へ潜り込む。
真っ先に目に入ったのはみっつの鮮やかな藍。どうやら潜り込んで早々に、御当主様に捕まるそうだった。
「全く、君も大人しく門から入って来たらどう?」
「君のご主人様なら、ついさっき出ていったよ?」
「うちのお酒さんざかかっ食らってね?」
じっとりとした三対の目がとても痛い。
……………痛い。
「いや、あの、本当に……申し訳無い………」
「ほんとにね。で、何しに来たの?」
「あぁ…うちの州牧来てないかな~と、思いまして。もう出ていったんですね?」
「そうだよ。今の君みたいに、窓から出てった。」
「ああああ……すいませんでした…」
この三つ子をからかえるうちの上司凄い。私には荷が思い…
「それで、あの、何か聞いてませんか…何処に行く、とか……」
「知るわけないだろ?」
「どうせまた花街か、甘味処だよ。」
ねぇ。
と、顔を見合わせて言う三つ子達。どうやら本当に知らないらしい。
………そして、陵王様がさんざか迷惑をかけ(本人は遊んでいるつもりだろうが)スタコラサッサと逃げたという事も、わかった。
私もはやくお暇(もとい逃亡)しよう。
辛い。
「それでは、私はこれで……」
今度ちゃんと菓子折持ってお詫びに来るんで!!と、さっき開けっ放しにしていた窓からさっさと飛び出す。
時間は有限なのだ。うん。無駄にすべきでは無い。逃げたとかじゃ、無い。断じて無い。